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「何をしてるんだあああああああああ!!」
「シルベリウス様、降りて下さい、いや降りろ!!」
「どうしてこんなことになっているんですの!?」
「飛び降りたいってなんだいきなり何が起きてんだっ?」
「何がどうなっているか分からないよ!?」
 上から順にイギウォンド、アルト、ララ、コーダ、ジンゾウラ。君達うるさいぞ。静かに転生させてくれ。
「ああ、この感じ、懐かしい。我が家のバルコニーに格子が付けられてから久しく味わっていなかったこの感覚が素晴らしい」
「どう言う意味だ! とにかく降りろシルベリウス!」
「イギウォンド、邪魔するな、さあその手を離せ、みんな手を離せ」
「バカですか、落ちますよ。いいんですか」
「アルト、君は頭が悪いな。いいに決まっているだろう!」
「良くないに決まってますわ! って、どうして男爵令嬢なんて心配してるんですの、落ちて下さいまし!」
「悪役令嬢の片鱗を見せるなララ! 俺だってすぐに転生してやるんだからな!!」
「言ってる意味が分からないっ? さっきからずっとそうだっ?」
「何も全てを理解しなくていいんだコーダよ。転生と悪役令嬢の素晴らしさはどれだけ言葉を紡ごうが全てを言い表すことはできないだろう」
「もうテンセイとかアクヤクナンチャラとかの話はいいからさ、早く上がって来てくれないかな!」
「嫌に決まっているだろう! ジンゾウラ、お前は転生の素晴らしさを知らないらしいな、悪役なんちゃらとは何だ!! 悪役令嬢だ! 一緒に来い!」
「うわぁぁああ! 死にたくない死にたくないいいいい!!」
 掴んでくるジンゾウラの手をぐいぐい引いていると、イギウォンドが「あ」と声を漏らす。ズルッと押さえ付けられていた身体が自由になり、いざ転生へ……!
「うわあああああああ!!」
「おお、ジンゾウラ、転生の素晴らしさを知ったか! やはり君も転生したかったか!」
「ちがあああああああう!!」
「一緒に転生しよう! 脳を揺さぶるあの感じが堪らんのだ!」
「ひいいいいいい!!」
 地面へぶつかる――悪役令嬢のような岩肌がまるで悪役令嬢の顔のようで美しい――そう思った瞬間、ぶわっと風が下から吹き上げ、俺達の体はゆっくりと地面へ降りる。顔をぶべっとぶつけてから、次の瞬間両手を突っ張って起き上がる。
「なああああぜえええだああああああああああ!?」
「い、生きてる。オレ生きてるよ!」
「大丈夫かお嬢さん! ジンゾウラ様も大丈夫ですか?」
 そう声をかけて来た者に振り返る。臙脂色の髪を持つ美少年だ。
「アド!」
「え? 知り合いだっけ?」
「知り合いではないが知っているぞ。俺はシルベリウス・ヴェルバッカ、シルと呼んでくれ!」
「え、ああ、うん。えっと、よろしくシルお嬢さん!」
「よろしくなアド!」
 にしても転生を邪魔されてしまった。どっかに毒花生えてないかな。
「よし、もう一度行くぞジンゾウラ! アドも来い!」
「絶対に嫌だああああ! もう二度とバルコニーになんか行くもんか!」
「そうだぞ危ないだろ」
「危なくないと意味ないだろう!」
「え、どゆこと?」
 アドが首を傾げると、アルトの声が空から降ってくる。
「アド! 風で受け止めてくれ!」
 空中を落ちながらそんなこと言ってくるアルトをアドは慌てて風魔法を使って降ろす。
「おいおい、お前までどうしたんだよアルト」
「シルベリウス様!」
 アドを無視して、アルトは俺の両手を掴んでくる。
「大丈夫でしたか」
「あ、ああ。うん」
 心配されることは最近減って寂しい思いをしていた。優しいなアルトは。
「それよりアルト、毒とか持ってないか?」
「何故そんなことを聞くんです!?」
「毒を飲みたいんだ、毎日飲んでいる」
「毎日!?」
 驚くアルトにアドが言う。
「ヴェルヴァッカ家は刺客が多く送り込まれていると父上から聞いたことがある、訓練でも積んでるんじゃないか?」
「いや趣味だ」
「「「趣味!?」」」
「毒花も庭で育てて愛ているぞ。生で食べるとまた効き目がよくてなぁあ!」
 体を抱き締めて震えると、3人は口を開け放つ。
「な、何故そんなことをするんだい」
「もちろん! 悪役令嬢になるためだ!」
「シルベリウス様はアクヤク令嬢なのではないのですか?」
「すまないアルト、俺はまだ悪役令嬢ではないのだ。だが君が認めてくれて嬉しかったぞ」
 それを聞いてアドが尋ねてくる。
「認めてくれる? そのあくやく令嬢だと認められたくてシルお嬢さんは飛び降りを? いや意味わかんないけど」
「その通り! 悪役令嬢の器に認められ、悪役令嬢となることが俺の人生最大の夢!! はやく悪役令嬢に転生したいわ、私もよ! あなたの魂が早く欲しいの!」
「そっか。シルお嬢さんは認められたくて頑張ってるんだな。頑張り方が違う気がするけど」
「そんなことはない! 頑張ることこそが素晴らしいことなんだ! 努力すること希望を持つことは他人から与えられても苦しいことだが、自分で手に入れることが出来れば素晴らしい!」
「シルお嬢さん……」
「俺は他人に無理やり何かやらされるのが大嫌いだ!」
 それを聞いてアドがこける。アルトが言った。
「高らかに言うことではないのでは?」
「自由はいいぞ!」
 そう言うと、3人は顔を見合わせる。
「「「自由……」」」
 なんだ、王子と言う立場こそ自由に溢れていそうなくせに。
 それより、とアルトが切り出す。
「おやつを用意させますので客室へ行きましょう。お茶でもいかがですか?」
「おお、いいな! おやつは好きだぞ!」
 アルトは近くにいた使用人にバルコニーにいるイギウォンド、ララ、コーダを客室へ案内するように言う。アルトは俺の手を握り案内し始める。
「何と言うか……楽器が多いな」
 城では生演奏されているわ、ピアノだけでなくパイプオルガンがある部屋がいくつもある。
「クラストラ皇国は音楽を愛する国ですから」
「俺はあまり音楽に関心がないからな。でもセーザのギターは聞いてみたかったな」
「……そうですか」
 来た、この感じ!
「ええい、俺を騙せると思うなよ! セーザに何かあったと知っているなら言え!」
「え、いや、でも」
「言えええええ!!」
 あの悪魔が黙っていると言うことは結構厄介なことなのだろう。
「私もまだ理解に苦しむのです。セーザは昔からよく城に遊びに来てくれていましたから。落ち着いたら、私から話します」
「う、うむ。気になるが無理強いは良くないか」
「ありがとうございます」
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