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キリエはそんな筈がないと分かっているらしく、堂々としている。しかし、メドゥーサの後にロニが続けた言葉を聞くまでだが。
「刃物があれば、首に出来ます。なくてもいいです」
「事故ですわ、よくあることです。よくこの屋敷に訪問されたり壁の外でうろちょろしている輩に手が滑って刃物が当たってしまうことがあるのです。刃物がなくてもよろしいのよぉ?」
「そうですね、うっかりもぎ取ったりうっかり魔法で飛ばしてしまったりしますが、その時は壁の外に並べて弔っています。探しに来た人のために身体はバラバラにして楽しめるようにしています」
「刺客ってそんな風に排除されてたのか?」
「排除ではありませんよ、坊っちゃま。掃除です」
「掃除? あれは我々召使いにとっての娯楽では?」
「そうか。それはいい。みんな転生したのだな、羨ましい。頼もしいな我がヴェルバッカ家の召使い達は。俺のことも転生させてくれたらいいのに」
「やりませんよ」
「いつでもお手伝いします」
「ロオ!」
こんなに素晴らしい話を聞いたのに、キリエは気絶しかかっている。
「ロオは自分の仕事をしに帰ってもらって結構です。旦那様もお待ちでしょう」
「分かりました。坊っちゃま、失礼致します」
「ああ」
どうやらロニはキリエのおかげで通常運転に戻ったらしい。良かった良かった。
「キリエ、講義はどうだったのだ? どんな話をした?」
「いえ、それが……よく覚えてなくて」
「居眠りでもしていたのか? ダメだぞ。まあ、睡魔は無敵だから致し方ない」
「そうではなくてですね、シレイス様に生贄のことを問いただしていたあたりから記憶がなくて、目が覚めた時には講義は終了していたんです」
「なるほど、石化されたか」
「石化?」
「メドゥーサだからな!」
「メデューサのことですか? え、シレイス様はメデューサなんですか!?」
「そうだ! 内緒だぞ。この屋敷の外には出してはならない情報だ、メドゥーサが危険な目に合ってしまうからな」
「分かりました」
「何が分かったんですか、子供の話ですよ、信じないでください」
「そうか、メドゥーサ、隠しておきたいのだな。分かった」
「だから何が分かったんです? とにかく、シル様は今から昼餉です。キリエさん、これからはシル様に何かあれば傍付きである貴方の責任です。絶対に目を離さないでください」
「はい。私はこれでもセーザ様の傍付きであった身です。体調管理はもちろん怪我などの危険がありそうなところには近づかせません。食事も私が毒味してから食べていただきます、刺客の警戒も怠りません」
「それは無駄なのでしなくても結構です」
「は?」
「シル様のことはキリバイエ様が体調管理も怪我も毒による自殺も出来ないように対策していますから」
小さな怪我なら付くぞ。でもあの事件以来治るのが早くなった気がするな。……メドゥーサもキリエも話に夢中のようだな。
「し、しかし…………ん? 自殺?」
「そうです、シル様は目を離したらすぐ――坊っちゃま!?」
くっ、バレてしまったか、話し込んでいればいいものを! しかしもう遅いぞメドゥーサ! 石化も間に合わぬだろう!
「ではなメドゥーサ! 俺はこの檻から飛び出して新しい世界への扉を開きに行くのだ!」
「お待ちくださああああああい!!」
全速力で走れば廊下はヒビ割れ屋敷が崩壊しかけてしまうので、軽めに走る。しかしそれでも常人の数百倍は速いのだ、雷だな、俺は雷の力を手に入れている。転生も近いぞ!
「な、なな、何なんですか、あれは……! こ、子供、いえ、人の走る速さではありませんよ……!?」
「坊っちゃまを追いかけますよ!」
「え、でももう」
「ああああああ! 見失った! 面倒なことにいいい! キリエさん、手分けして探しますよ! 坊っちゃまのすることは全部問題です! まず止めてください!」
「ぜ、全部問題?」
「本来ならばこれは貴方の責任です、今回はまだ研修中なので私に責任がありますが、とにかく! セーザ様の傍付きや他のお屋敷のご令嬢を相手するのとは訳が違うのです!! ここでは坊っちゃまに何かさせることこそが1番の大問題なのです!! この屋敷で傍付きと言えば、監視役なのです!!」
「監視役!?」
「捜索開始です、見つけ次第、何を使ってもいいです、どんなことをしてでも動きを止めてお部屋へ閉じ込めてください!」
「えええええ!? どんなことをしてもって、閉じ込めるって、いいんですか!?」
「いつもそうしてます」
「そうしてるんですか!?」
「とにかく探す!」
「は、はい」
こうして何が何やらわからないまま、キリエは俺を探すことになった。
「刃物があれば、首に出来ます。なくてもいいです」
「事故ですわ、よくあることです。よくこの屋敷に訪問されたり壁の外でうろちょろしている輩に手が滑って刃物が当たってしまうことがあるのです。刃物がなくてもよろしいのよぉ?」
「そうですね、うっかりもぎ取ったりうっかり魔法で飛ばしてしまったりしますが、その時は壁の外に並べて弔っています。探しに来た人のために身体はバラバラにして楽しめるようにしています」
「刺客ってそんな風に排除されてたのか?」
「排除ではありませんよ、坊っちゃま。掃除です」
「掃除? あれは我々召使いにとっての娯楽では?」
「そうか。それはいい。みんな転生したのだな、羨ましい。頼もしいな我がヴェルバッカ家の召使い達は。俺のことも転生させてくれたらいいのに」
「やりませんよ」
「いつでもお手伝いします」
「ロオ!」
こんなに素晴らしい話を聞いたのに、キリエは気絶しかかっている。
「ロオは自分の仕事をしに帰ってもらって結構です。旦那様もお待ちでしょう」
「分かりました。坊っちゃま、失礼致します」
「ああ」
どうやらロニはキリエのおかげで通常運転に戻ったらしい。良かった良かった。
「キリエ、講義はどうだったのだ? どんな話をした?」
「いえ、それが……よく覚えてなくて」
「居眠りでもしていたのか? ダメだぞ。まあ、睡魔は無敵だから致し方ない」
「そうではなくてですね、シレイス様に生贄のことを問いただしていたあたりから記憶がなくて、目が覚めた時には講義は終了していたんです」
「なるほど、石化されたか」
「石化?」
「メドゥーサだからな!」
「メデューサのことですか? え、シレイス様はメデューサなんですか!?」
「そうだ! 内緒だぞ。この屋敷の外には出してはならない情報だ、メドゥーサが危険な目に合ってしまうからな」
「分かりました」
「何が分かったんですか、子供の話ですよ、信じないでください」
「そうか、メドゥーサ、隠しておきたいのだな。分かった」
「だから何が分かったんです? とにかく、シル様は今から昼餉です。キリエさん、これからはシル様に何かあれば傍付きである貴方の責任です。絶対に目を離さないでください」
「はい。私はこれでもセーザ様の傍付きであった身です。体調管理はもちろん怪我などの危険がありそうなところには近づかせません。食事も私が毒味してから食べていただきます、刺客の警戒も怠りません」
「それは無駄なのでしなくても結構です」
「は?」
「シル様のことはキリバイエ様が体調管理も怪我も毒による自殺も出来ないように対策していますから」
小さな怪我なら付くぞ。でもあの事件以来治るのが早くなった気がするな。……メドゥーサもキリエも話に夢中のようだな。
「し、しかし…………ん? 自殺?」
「そうです、シル様は目を離したらすぐ――坊っちゃま!?」
くっ、バレてしまったか、話し込んでいればいいものを! しかしもう遅いぞメドゥーサ! 石化も間に合わぬだろう!
「ではなメドゥーサ! 俺はこの檻から飛び出して新しい世界への扉を開きに行くのだ!」
「お待ちくださああああああい!!」
全速力で走れば廊下はヒビ割れ屋敷が崩壊しかけてしまうので、軽めに走る。しかしそれでも常人の数百倍は速いのだ、雷だな、俺は雷の力を手に入れている。転生も近いぞ!
「な、なな、何なんですか、あれは……! こ、子供、いえ、人の走る速さではありませんよ……!?」
「坊っちゃまを追いかけますよ!」
「え、でももう」
「ああああああ! 見失った! 面倒なことにいいい! キリエさん、手分けして探しますよ! 坊っちゃまのすることは全部問題です! まず止めてください!」
「ぜ、全部問題?」
「本来ならばこれは貴方の責任です、今回はまだ研修中なので私に責任がありますが、とにかく! セーザ様の傍付きや他のお屋敷のご令嬢を相手するのとは訳が違うのです!! ここでは坊っちゃまに何かさせることこそが1番の大問題なのです!! この屋敷で傍付きと言えば、監視役なのです!!」
「監視役!?」
「捜索開始です、見つけ次第、何を使ってもいいです、どんなことをしてでも動きを止めてお部屋へ閉じ込めてください!」
「えええええ!? どんなことをしてもって、閉じ込めるって、いいんですか!?」
「いつもそうしてます」
「そうしてるんですか!?」
「とにかく探す!」
「は、はい」
こうして何が何やらわからないまま、キリエは俺を探すことになった。
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