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暗い部屋にあかりが射し、男が二人入ってくる。屋敷の召使いだ。
「……見つかってしまったか」
「貴様等、ここで何をしている……!! 兵士を呼べッ!!」
「待って、お父様には内緒にして」
「自業自得だろう! どこの娘かは知らないが、公爵家の屋敷でコソコソと!」
「父の名はイデュオス・ヴェルバッカ。お父様に黙って着いてきてしまったの。そうしたら、素敵な殿方がいたものだから」
する、とタイで結ばれた両手をキリエの首に回す。顔が近くなり、キリエが硬直した。
「ヴェ、ヴェルバッカだと?」
「客人の娘と言うことか、どうする? まずは公爵様に報告した方がいいのでは?」
令嬢の顔も知らないうえ、この状況に対応も出来ぬらしい。
キリエが睨み付けながら言う。
「俺に幼女をどうにかする趣味は――」
声を潜めて答える。
「黙れ、奴等はおそらく下働きの者だ、公爵家の身内の下で働く執事達の顔はまだ知らないだろう。お前の役はそれだ」
「役?」
「俺は幼いくせに大人ぶるビッチの役をしよう」
「どんな役なんだそれは」
男達が倉庫の中に入ってきて、髪を引っ張った。
「何をコソコソと話している!!」
「手を離しなさい。ご令嬢に失礼でしょう。見ない顔ですね、下働きの者ですか? 名前は?」
「な、何だ貴様は」
手を離し、相手が後ずさる。もう一人の男が耳打ちした。
「ご令嬢の言葉を思い出してみろ、彼女が連れ込んだではないか? この方はこの屋敷の方では?」
「まさか、そんなわけ……なら如何して倉庫に令嬢と二人きりなんかになる。仕事を放棄して、女と何をしようとしていたというのだ。しかも相手は子供……許されることではない」
ふむ、一筋縄では行かぬようだ。
「ね~え~お兄さん、もっと気持ちいいことしてぇ~」
足で尻を抱き込んで登って腰を揺する。
「……倉庫を見せて欲しいと言う話だったでしょう」
「え~お兄さん冷たぁ~い」
よじよじと登ってバチコンっと目配せして決めてみたが、The出来る執事☆の表情をつくったキリエの眉がピクピクと動いている。どうした、俺のビッチに魅了されてしまったか。
「さ、そろそろ帰りましょう。ヴェルバッカ男爵もお待ちでしょう」
「え~いいよぉ、お父様達のお話つまんないんだもん、アタシぃ、お兄さんと一緒にいる。ねえ、お兄さぁんいいでしょぉ、結婚して~」
「あははは、光栄です。しかし、私はこのお屋敷に仕える身、婚約は出来ないのです」
「お兄さんのドケチぃ。……分かった、じゃあ今回は諦めてあげるぅ」
「では戻りましょう」
「いやよ」
「……は?」
オイ、血管が浮いているぞ。何を怒っているのだ、演技は完璧だろう。
「お兄さんがちゅーしてくれたら言うこと聞いてあげる~」
「…………お、お客様、困ります」
口元がひきつっているぞ、さっきまでの演技はどうした。どこのウエイトレスだ貴様は。
「何ぃ、出来ないって言うの? アタシはお客様よ、お客様は神様でしょぉ」
キリエの眼光が一瞬鋭い刃で刺してきた。しまった! これではクレーマーである! つられた!
「……はやく」
「…………分かりました。言うことを聞いてくださいますね?」
「えーどしよっかなぁ」
「聞いてくださいますよねえ?」
「は、はひ」
令嬢に向ける笑顔か!? ほら、男二人も引いてしまっていではないか!!
キリエの顔が近付いて、頬にキスを落とす。
「ええ、唇にぃ~」
「言うことを聞くと言ってくださったではないですか」
「だって唇じゃないも~ん」
まさか本当にキスしてくるとは思わなかったな。なかなか大胆な演技だ。
「……お嬢様、困らせないでいただきたい」
「……もういい。お兄さんノリわるぅい。一人で帰って」
「は?」
「アタシぃ、お兄さんよりぃ、あのお兄さんがいい~」
男二人のうち、若い方の男に指を指す。
「え、俺?」
「あ、でもそっちのお兄さんも逞しくて素敵ぃ」
「わ、私もですか?」
今度は短髪のガタイのいい男に指を指す。
「お兄さん達、このお兄さんの代わりにアタシと遊んで♡」
ちゅっと投げキスをすれば、男二人が硬直した。ん? メドゥーサの魔法か?
「…………わ、分かりました。屋敷の中のご案内は我々がしましょう」
もう一人の男がキリエに耳打ちした。
「こちらのご令嬢は私達下働きに任せて、貴方様はどうぞ、お仕事にお戻りください」
「あ、ああ。頼む」
ちら、とキリエがこちらを見たので、目配せする。キッと睨まれたが、意図は伝わっていると信じたい。
キリエが倉庫を出ていけば、男二人はそうこの扉を閉めて、俺の両脇に並んだ。何だ? 侍らせていいのか?
「何をしましょうか?」
「ご案内ですよ。気持ちいい所の、でしたっけ?」
貴様等俺の完璧なビッチに殺られてしまったのか!
両サイドからガシッと両脇を拘束され、ん? とガタイのいい方の男が言う。
「随分なご趣味をされているようで」
拘束された手を見られてしまったようだった。流石は犯罪に手を出した公爵家の召使い達である。思考回路がおかしい。
両脇の拘束を解き、両手を掴み上げて、木箱の上に座らされる。
……な、何をする気だ。
随分と、ヤバい状況である。指が拘束されたままでは魔法も発動出来ぬ。己の魂の美しさを舐め腐っていた、悪役令嬢はモブさえも引き付けてしまうのか……!
「……見つかってしまったか」
「貴様等、ここで何をしている……!! 兵士を呼べッ!!」
「待って、お父様には内緒にして」
「自業自得だろう! どこの娘かは知らないが、公爵家の屋敷でコソコソと!」
「父の名はイデュオス・ヴェルバッカ。お父様に黙って着いてきてしまったの。そうしたら、素敵な殿方がいたものだから」
する、とタイで結ばれた両手をキリエの首に回す。顔が近くなり、キリエが硬直した。
「ヴェ、ヴェルバッカだと?」
「客人の娘と言うことか、どうする? まずは公爵様に報告した方がいいのでは?」
令嬢の顔も知らないうえ、この状況に対応も出来ぬらしい。
キリエが睨み付けながら言う。
「俺に幼女をどうにかする趣味は――」
声を潜めて答える。
「黙れ、奴等はおそらく下働きの者だ、公爵家の身内の下で働く執事達の顔はまだ知らないだろう。お前の役はそれだ」
「役?」
「俺は幼いくせに大人ぶるビッチの役をしよう」
「どんな役なんだそれは」
男達が倉庫の中に入ってきて、髪を引っ張った。
「何をコソコソと話している!!」
「手を離しなさい。ご令嬢に失礼でしょう。見ない顔ですね、下働きの者ですか? 名前は?」
「な、何だ貴様は」
手を離し、相手が後ずさる。もう一人の男が耳打ちした。
「ご令嬢の言葉を思い出してみろ、彼女が連れ込んだではないか? この方はこの屋敷の方では?」
「まさか、そんなわけ……なら如何して倉庫に令嬢と二人きりなんかになる。仕事を放棄して、女と何をしようとしていたというのだ。しかも相手は子供……許されることではない」
ふむ、一筋縄では行かぬようだ。
「ね~え~お兄さん、もっと気持ちいいことしてぇ~」
足で尻を抱き込んで登って腰を揺する。
「……倉庫を見せて欲しいと言う話だったでしょう」
「え~お兄さん冷たぁ~い」
よじよじと登ってバチコンっと目配せして決めてみたが、The出来る執事☆の表情をつくったキリエの眉がピクピクと動いている。どうした、俺のビッチに魅了されてしまったか。
「さ、そろそろ帰りましょう。ヴェルバッカ男爵もお待ちでしょう」
「え~いいよぉ、お父様達のお話つまんないんだもん、アタシぃ、お兄さんと一緒にいる。ねえ、お兄さぁんいいでしょぉ、結婚して~」
「あははは、光栄です。しかし、私はこのお屋敷に仕える身、婚約は出来ないのです」
「お兄さんのドケチぃ。……分かった、じゃあ今回は諦めてあげるぅ」
「では戻りましょう」
「いやよ」
「……は?」
オイ、血管が浮いているぞ。何を怒っているのだ、演技は完璧だろう。
「お兄さんがちゅーしてくれたら言うこと聞いてあげる~」
「…………お、お客様、困ります」
口元がひきつっているぞ、さっきまでの演技はどうした。どこのウエイトレスだ貴様は。
「何ぃ、出来ないって言うの? アタシはお客様よ、お客様は神様でしょぉ」
キリエの眼光が一瞬鋭い刃で刺してきた。しまった! これではクレーマーである! つられた!
「……はやく」
「…………分かりました。言うことを聞いてくださいますね?」
「えーどしよっかなぁ」
「聞いてくださいますよねえ?」
「は、はひ」
令嬢に向ける笑顔か!? ほら、男二人も引いてしまっていではないか!!
キリエの顔が近付いて、頬にキスを落とす。
「ええ、唇にぃ~」
「言うことを聞くと言ってくださったではないですか」
「だって唇じゃないも~ん」
まさか本当にキスしてくるとは思わなかったな。なかなか大胆な演技だ。
「……お嬢様、困らせないでいただきたい」
「……もういい。お兄さんノリわるぅい。一人で帰って」
「は?」
「アタシぃ、お兄さんよりぃ、あのお兄さんがいい~」
男二人のうち、若い方の男に指を指す。
「え、俺?」
「あ、でもそっちのお兄さんも逞しくて素敵ぃ」
「わ、私もですか?」
今度は短髪のガタイのいい男に指を指す。
「お兄さん達、このお兄さんの代わりにアタシと遊んで♡」
ちゅっと投げキスをすれば、男二人が硬直した。ん? メドゥーサの魔法か?
「…………わ、分かりました。屋敷の中のご案内は我々がしましょう」
もう一人の男がキリエに耳打ちした。
「こちらのご令嬢は私達下働きに任せて、貴方様はどうぞ、お仕事にお戻りください」
「あ、ああ。頼む」
ちら、とキリエがこちらを見たので、目配せする。キッと睨まれたが、意図は伝わっていると信じたい。
キリエが倉庫を出ていけば、男二人はそうこの扉を閉めて、俺の両脇に並んだ。何だ? 侍らせていいのか?
「何をしましょうか?」
「ご案内ですよ。気持ちいい所の、でしたっけ?」
貴様等俺の完璧なビッチに殺られてしまったのか!
両サイドからガシッと両脇を拘束され、ん? とガタイのいい方の男が言う。
「随分なご趣味をされているようで」
拘束された手を見られてしまったようだった。流石は犯罪に手を出した公爵家の召使い達である。思考回路がおかしい。
両脇の拘束を解き、両手を掴み上げて、木箱の上に座らされる。
……な、何をする気だ。
随分と、ヤバい状況である。指が拘束されたままでは魔法も発動出来ぬ。己の魂の美しさを舐め腐っていた、悪役令嬢はモブさえも引き付けてしまうのか……!
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