悪役令嬢や主人公に転生できなかったのでもっかい転生しようと思います。

隍沸喰(隍沸かゆ)

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 暖炉の前でメイド達の用意したクッキーを食べたり、ちょこちょこっと魔法や勉学を教えてやったりしたが、セーザにはちんぷんかんぷんだったようだ。うぬぅ、教えると言うのは難しいな。
「よし、勉強はもういい!」
「シルって頭いいんだな……」
「暖炉に入ろう」
「ぎゃああああああ!? 危ないってば! 燃えちゃうだろ!?」
「おお。煙突に続いているようだ、登ろう、登って落ちてみよう」
「さっき落ちたばかりだろ!」
「うぬぅ、仕方がない。燃えるのは苦しそうだし、避けてきたが。致し方ない」
「何が仕方ないのかな!?」
 暖炉の火にくべられようとしていたら、バタンガチャン、とメドゥーサによって柵を取り付けられてしまった。
「な、何だこれは。何でこんな主婦にも優しい便利機能がある」
「主婦に優しい訳ではありませんが、冬に暖炉を使うようになれば坊っちゃまが火に近付くだろうと言うことで、キリバイエ様がご用意いたしました」
「く、やはり彼奴か……!」
 身体も暖まっただろうと、火も消されてしまった。
「庭で焚き火しない?」
「……シルを迎えるのは大変そうだな」
「迎える? どこに」
「あ、いや、ほら! 俺の家にも遊びに来て欲しいなーって!」
 何故だ、メイド達の視線が集中したぞ。何故ニヤニヤしている。
「暇だな。行くか。貴様ん家」
「え。む、無理だよ、船で3日は掛かるんだ」
「何を言っている。転移魔法を使えば良かろう」
「え、転移魔法って。あはは、転移魔法は僕達じゃ使えないよ。宮廷魔術師が沢山集まってやっと出来る魔法なんだ」
「バカを言え。俺一人でも国一つくらい空に浮かばせることが可能だぞ。そうだな、証拠に海を空に上げてやろう」
「え?」
 パチンっと指を鳴らせば、窓の外の海がブロック状になり断面を見せて空に浮かんだ。海はぽっかりと穴を開けて、大渦が発生する。
「おっと。船が危ないな」
 海はまずかったか。
 パチンと指を鳴らして巻き戻す。元どおりになったのでもう一度指を鳴らして、形状維持の為に穴の所だけ時間を止める。誤って落ちないようバリアも貼っておくか。パチンと鳴らすと。シャボン玉のような光が現れ、綺麗に景色に溶け込んでいく。バリアが張られたことが分かった。
「な、何をしたんだ一体」
 セーザはガクガク震えながら、溢れんばかりにブロックの海を凝視している。
「何って。海を空に転移させ、船が危なかったから水と船の時間だけを巻き戻し、渦を巻かぬよう穴の周囲だけ時間を止めたのだ。船が落ちぬようバリアも貼った。そうだ、バリアとて触れれば危険か。風を発生させて置こう」
 パチン、と鳴らせば、何だ何だと近づいていた多くの船が軌道を逸らす。
「まあこんなものだ」
 パチンと指を鳴らせば、パッと空から海が消えて、穴の空いていた場所に綺麗にはまった。全ての魔法を解除して、元どおりである。
「ま、魔法陣も詠唱もなく、魔具も使わずに……シルは魔法も凄いんだな」
 魔法陣とか詠唱とか分かんないし、魔具の使い方だって分からないから、指パチンで簡単に魔法が使える仕様にして貰っている。皆もそうだと思ったが違うらしいな。……そうか、再び世界ごと書き換えることになってしまう。なかなかの無茶振りをしてしまっだようだ。
 因みに海の魔物の災いの正体はこれでもある。例え地上で何が起ころうと、海の魔物の災いだ、と吹聴すればあっという間に海の魔物のせいにされる。便利だ。
「さ。遊びに行くぞ」
「だ、だめ! 部屋綺麗にしたいし、何より、シルの為にお菓子とか沢山用意したいし。ドレスも取り寄せて……いや、その、兎に角また今度にして」
「うぬぅ、分かった。確かに突然訪れては迷惑か」
 メイド達がニヤ付いている。ほほう、すぐ菓子を準備出来た自分達を誇っているのだな。慎みなさい。例え子供でもお客さんなのですよ。
 そうだ。庭を案内するのだったな。
「どこの庭に行きたい?」
「また急だな。……そうだな、シルの一番好きな場所、とか」
「飛び降りることが出来る中庭は好きだが。一番となると違うな」
 俺の好きな場所と言ったら。
「空中庭園だな」
「は?」
「美しい庭なのだ。さらに言えば流石に落ちれば転生出来る筈だ。酸素も放出して窒息転生と言う手もあるな」
「さんそ?」
「酸素を知らないのか? 動物は酸素を必要とし、二酸化炭素を吐くのだぞ。魔獣はどうなのだろうな」
 空中庭園にはドラゴンも飼われている。可愛い奴らだ。
「いや、その、そうじゃなくて。空中庭園って、どう言うこと……?」
「どうとは何だ? ヴェルバッカ家の敷地がまさかこれだけとは思うまい。空だって我々の支配下だ。いつでも地上に落とせる仕様で」
「ち、地上に、おと、落とす」
 開いた口が塞がらないらしい。
「まあ驚くのは無理もない。ヴェルバッカ家は男爵止まりだからな!」
「そうじゃない、そうじゃないけど、召使いさん達が何も突っ込まないのがもっとそうじゃない」
 ぺちゃくちゃ喚いているセーザの手を取って指パチン。一瞬にして、目の前の景色が変わる。
「ようこそ我がヴェルバッカ家に誇る空中庭園へ!」
「ひ、ひえっ! ほ、本当に空の上にある。ま、街が見える!」
「因みに透視化しているから庭園を地上から肉眼で見ることは出来ぬ。魔眼を持ってしても無理だろうな、ここを作った奴は誰にも敵う者がいないのだ」
「ど、どこの国なんだ?」
「ここは第32の空中庭園だからな、雲と同じ速度で移動している。ドラゴンもここでは飼育していないな。以前はエネ諸島の上空だったから多分メルト王国の王都辺りかな。お、城が見えるぞ。やはり王都だ」
「ひえ」
「何だ? 高い所は怖いか?」
「怖いけど、召使いさん達がナチュラルにお茶の準備を始めるのがもっと怖い!」
 空中庭園の中央にある屋敷内から、ガゼボへと俺達の茶を運んでいるようだ。有能だ。
「走りたくならないか?」
「う、うん。急だな。でも確かに、凄い解放感だ。言われてみれば走りたくなる。……ヴェルバッカ家って凄いや!」
 ふふふ。褒められるのは悪くないな。
「そして怖いや……」
 何故震える。やはり高い所は苦手か。
「あそこの木まで競争だ。勝ったものはあの木に飾られる権利を得られる」
「あはは、シルは足速いからな。勝てるかな。木に飾られるってどう言うこと?」
「よく聞いてくれた。この縄で首を括ってぶら下がるのさ!」
「今どこから出した?」
「俺の前世には何次元かだったポケットが有名でな」
「へえ。シルは難しい言葉知ってるよな」
 おお、次元の話はここでは通じぬのか。
「メドゥーサ! スタートの合図を頼む!」
「縄は貸してください」
「バカを言え! これが無くては始まらな――あああああ!? ナワを返したまえ!」
 メドゥーサはナワを返してくれないようだ。仕方がない。ツナを使おう。
「ああっ! まだ持っていたんですか! 全部出して下さい!」
「ああっツナっ! くっ、そう来たらヒモを。ああっヒモ!」
「もしかして名前のつもりですか、もう少しマシな名前を付けてあげてください。相手は縄ですけど」
 むう、こうなったら、ケイトを使うか。木に着いてから出すことにしよう。
「まだ持ってますね?」
「何故分かった!? あああああ、ケイト! イト! シメナワ! ホソイイト! アサヒモ! ケダルマァ!」
「レパートリー少な。もうちょっと頑張ってください」
「最後毛ダルマって。シルは物知りなのか知らないのか分かんないや」
 メドゥーサもセーザも酷いではないか! しっかり可愛がって付けた名前だぞ!
「坊っちゃま、走るのはいいですが落ちないでくださいよ。毎度の如く落ちるのですから。そうして下界に目撃者の記憶を消しに訪れる羽目になるのですから」
「き、記憶を消す……ヴェルバッカの召使いやっぱり怖い」
「おお、確かに面倒だな。森に落ちよう」
「やはり落ちることを狙っていたのですね、お庭遊びは禁止です。屋敷の中へ入って下さい」
「何故だ! 建物の中に入ったら空中庭園に来た意味がない! 俺はセーザと飛び降りる為に来たんだぞ!」
「え!? 俺も!?」
「坊っちゃまは無傷でもセーザ様では跡形もなくなります!」
「ひええ! それも怖いけど無傷で生還するシル怖い!」
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