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第1話 悪役令嬢に転生出来なかったけど、チート兄に狙われるようになりました。

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 どうやら前世の記憶を思い出したようです。
 前世では女子高生であり乙女ゲームを貪り、やがて悪役令嬢転生物を大好物とする読書家になった訳ですが、転生したら絶対乙女ゲーの主人公か悪役令嬢になる筈と死ぬ間際に考えたと言うくらい信じて止まなかったようなのです。なのに。
 どう言う訳か、前世の記憶を手に入れたのは、俺、

 完全にハブにされたモブキャラでした。

 顔も名前も与えられていない手違いのような転生だ。
 俺は悪役令嬢に憧れていたのに!

・第1希望 悪役令嬢
・第2希望 主人公(主人公になってイケメン達を攻略していくのはもちろん酔狂だが悪役令嬢と仲良くなっちゃろ)
・第3希望 動物(動物に転生する系もいいよね! 空飛びたいな空、白鳥になりたい、あ、飛べねえや。)

 この希望で届けた筈だぞ! 何故転生していない!
 兎にも角にもどう書くにも、この転生は望んだものじゃあない。
 よし、一旦リセットしよう。手違いだからな。しゃあないさ。
 もっかい転生しよ、そうしよ。
 顔も名前も与えられていないそこら辺に大勢いるモブだし、1人2人10人100人いなくなったって何千万人のモブが後方でスタンバイしてるさ。
「と言う訳で――」
 窓枠に足を掛ければ、傍にいた召使いが、腰に蛇のように巻き付いてきてグワシッと阻止してくる。
「――お坊ちゃまああああああああぁぁぁッ!? 何故いつもいつも窓から飛び降りようとするのですか!」
「やめなさい、転生への扉がすぐそこに来ているのです。神の思し召しですよ。貴方は神を愚弄するのですか」
「戻ってきてくださいいいッ!!」
「――止めないでくれ、俺は死なねばならぬ運命なんだ、アディオス☆」
 チャッと二本指を揃えてさよならの挨拶をする。
「――ここ1階ですから死ねませんよぉおおおッ!! お巫山戯は程々にして勉強してくださいいい」
「うぬぅ、何故だ。君は女性なのに俺の身体が動かぬ。はっもしや君はメデゥーサ。俺の身体を石にして窓から落とそうとしているのか!! やれ! さあやれ! 一思いに殺るんだ!! さあ! 殺らないと殺られる世界だぞ!!」
「お屋敷の中は平和です!!」
 ――な、なんて言う事だ、お屋敷、だと。ここが。
「小屋ではないか」
「旦那様に聞かれたら怒られますよおおお!!」
「せめて俺は城に住みたい! よし、皇太子に転生しよう! そうしよう! せめてイケメンに!」
 ――飛び降りがダメなら別の方法を試すしかあるまい。
「屋根に登るのは無理そうだな」
 仰向けになり、ぐいいいんと召使いと共同作業で窓から身を乗り出し屋根の上を覗き込めば、美しい空が広がっていた。
「鳩になりたい、よし鳩になろう。さあ手を離せ。例え1階でも頭を撃てば死ねるさ。よし落とせ。一思いに落としなさい。大丈夫、君のせいじゃない。全ての罪は重力にある。最も誰にも捉えることは出来ない殺人鬼だが。致し方ない」
「――もう付いていけません!」
「いいだろう殺したまえ!」
「――だから何故そうなるのですか!!」
「どうして俺には暗殺者が送り込まれて来ないんだ!?」
「――いい事ではないですか!?」
「俺の命を頂戴してくれ、俺の為に用意された悪役令嬢の身体に、この魂を届けてくれ!!」
 大空に向けて大きく手を広げ、小鳥たちよーと歌えば召使いの手が限界だと言わんばかりに離され、身体も外に投げ出され、ゴッと地面に頭を打ち付けた。
「うぬぅ、何故死なぬ。よしもう1回だ。今度は窓枠からバク転してみよう」
「やめてください、もういい加減やめてください、奇行に走るのはもう今日までにして下さい! 毎日毎日毎時間、隙あらば奇行に走るのはやめてください!」
「おお、いい縄だ。何の縄だ、おお、どうやら積荷を縛る為のモノらしいな。なんて頑丈なんだ素晴らしい」
「その素晴らしい縄で首を絞めないでください! いいえそれだけではありません早く家の中に入って来てください! 教授がお見えになる時間帯ではないですか!」
 何を言っているのかこの召使いは。
 庭の木にどう己の身体を飾ろうかと思案していれば、召使いが頭一つ抜けた突飛な話をしてくるではないか。
「いいか、人生には必要なものと不必要なものがある。俺の中で必要なのは第1に悪役令嬢、第2に主人公、第3に鳩だ。ならば不必要なものは何だと思う。第1に希望、第2に努力、第3に勉強だ」
「最悪な3択ではないですか!」
「はっ!! その通りだ、第2に努力を上げた時点で、勉強は要らないではないか。だとすると第3は望まぬ人生だ。よし終わらせよう。手伝いたまえ。手始めにこの縄を思いっきり引いてくれ。俺を支えられた君なら出来る。腕が疼くだろう、腕が鳴るだろう」
 縄をプラプラして催眠術に掛けようとするが召使いはしらけた目をしている。おかしい。何故協力的にならない。
『もう諦めたらどうかな』
「はっ!! 出たな悪魔め!」
 こいつは時々俺の思考回路に入り込んでくる。こう言う時は必ず周囲の人は絵空事を言ってどこかへ行ってしまう。
「あああ教授が来てしまいます、足止めしますから部屋の中に戻っていてください!」
 相変わらず不思議なことを言う召使いだ。外の方が転生しやすいではないか。アホの子は手が焼けるな。
『お前に言われたくはないわ』
「黙れ悪魔め! おのれ! 俺の思考に入ってくるな! 悪霊退散、滅! 塩! 塩! 清めの塩! ハ〇タの塩! 塩おにぎり!」
『ええいうるさいヤツだな、俺は神だと言ってるだろうが。神に思考で塩を撒くな、悪魔と呼びながら何で悪霊退散なんだ。神に突っ込ませるな。おにぎりは供えてくれて良いぞ』
「フン、神だと? バカを言え! 貴様が神なら俺は既に悪役令嬢だ! さあ俺に膝を屈しよ跪拝きはいせよ!」
『本当に諦めが悪いなあ、仕方がない、絶世の美男子にしてやるから頼むから死のうとしないでくれ』
 パチンと指を鳴らされる。くっ、何をした、視界が何かに遮られたぞ。
「俺の前髪に何をした!」
『何もしてねえよ』
 前髪が伸びた気がしたが気のせいか、よし坊主にしよう。
『おいおい、絶世の美男子にしてやるって言ってんのに坊主はないだろ』
 絶世の美など既に持っているわ! 心の中に燐光を降らし咲き乱れる美しき悪役令嬢兼主人公転生モノへの賛美が!
「俺は有り余った美などいらん! 貴様にくれてやる! 悪役令嬢にしろと言ってるだろう!」
『だから出来ないんだって。生まれ変わった後に変更とか稀だからね。確かに手違いで君の希望を聞けずに転生しちゃったけどさぁ。俺この世界の神ってだけだからさ。いわゆるこの世界の観察者? お前みたいな特異点が出たらチョチョイと直すみたいな。仲介の部署が他にあるからそっちに文句言って』
「だから俺はもう一回死んでやり直すと言っとろうが!」
『今から死んだって無理だよ。君に与えられた転生回数は1回だから。普通の人にはないチャンスなんだよ、選ばれた君にしかない転生なんだよ。成長したらイケメンになるようにしたから譲歩して』
「成長したらかよ! 指パチンはなんだったんだよ!」
『でも顔は隠してた方がいいかなぁ、なんてったって絶世の美男子だからね。あらゆる方面からモテモテ色気ムンムンだから』
「くそ要らねえあげる」
『わあ、俺こいつ嫌いだわ』
「俺も貴様なんか嫌いだ。転生したって好きになるか。去れ悪魔め消え去れ! 塩おにぎり!」
『はいはい、また来るよ。つうかおにぎりくれるのかよ』
 いや来んなって。
 さんざんだ。やはり奴は悪魔だな。美などいらんと言っているのに。一体どうしたら悪役令嬢にしてくれるんだ。
 徐々に女体化して父の事業が成功して皇太子落として令嬢の地位を奪うか?
 素晴らしい考えだ、よし、皇太子に会いに行こう。色気で落としてくれる。
「坊っちゃま大変です! ――何故スタートダッシュの準備をされているのですか!? ――いえ、そうではなくて、教授のご機嫌がよろしくないので、お時間を取らせてしまったことをお詫びして日を改めて伺っていただけないかお願いしたら憤って帰ってしまわれました!」
「素晴らしい。君はいい召使いだ。追い返してくれてありがとう」
 褒めてやったと言うのに召使いはへなへなと部屋の中で座り込んで号泣する。
「教授は旦那様が交渉してやっと来て下さった方なのですよ!? 私めが怒らせてしまったんです、そうなったらお屋敷を追い出されるかもしれません、母様や父様に見せる顔がありません。少しでも家族の為になりたいと両親の反対を押し切ってまで来たのにクビだなんて!」
「ううむ。君にやめられては困るな。悪役令嬢に転生するには君の力が必要だ。任せなさい」
 前世の俺が通っていた高校はエリート校。公立の普通科だ。テストの順位は中の下だが問題ない。エリートだからな。
「努力せずとも知識とは実るものだ。そうだ、悪魔」
『はいはい呼んだ~?』
「貴様は俺の頭脳になれ」
『わあ~これまた無茶振り。カンニングの手伝いを神様に頼むとかどういう神経してるのこいつ。自分で勉強しろよ』
「俺は努力はせん」
『てかさー前世での公立の普通科のテストで中の下って。エリートとは呼ばなくないか?』
「呼ぶんだなこれが」
『嘘をつけ』
「おっと、バカにしてはいけないぞ。世の女子高生には魅力が詰まっていてだな」
『お前を馬鹿にしてんだよ。つーかしょうもないことで呼ぶなよ。今俺洗濯干してんだよ。その後風呂だからとーぶん連絡取れないよ。んじゃまた明日~』
 いつから悪魔とメル友になったんだ。
 あの悪魔は使えぬな。ふむ。どうしたものか。取り敢えず皇太子は置いといて教授を捕獲してくるか。
 そうだ、教授を俺の頭脳に転生させよう。そうしよう。
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