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バシリアス ※BL
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咲路は茄遊矢に外の話をよく聞いていた。そして、外への強い憧れを持つようになっていた。咲路は羅聖に会いに行く。その際、茄遊矢が自分に気づかず、泣きながら隣を走り抜けていったのを見た。咲路は茄遊矢を呼び止めようとしたが、差し伸ばした手を下ろした。眉を吊り上げて、羅聖の元へやって来たのだ。
「茄遊矢に何を言ったんだ」
やって来て直ぐそう言ってくる兄の様子に、羅聖は酷く驚いた。警戒心が解けたどころの話ではない、咲路はかなり彼に心を許しているようだった。
「兄さんには関係ない」
「関係なくはないだろ、一緒に暮らしてるんだし」
咲路は頑固だから真実を知るまで引き下がらないだろう。羅聖は仕方がないと話す。
「フった」
「ん?」
「好きだと言われてフった」
「す、すき?」
「俺を愛しているらしい」
「なああ!? お前も茄遊矢も男だろ! いつも思ってたが何してんだ気色ワリィ」
「…………」
羅聖は黙り込み、殺気を露わにする。
「何キレてんだ……? まさかお前……!!」
「冗談じゃない。俺が兄さん以外の人を愛する訳がないだろ」
「いや……そんな事言われても困るんだけど」
羅聖は眉間に皺を寄せ、「要件はなんだ」と咲路に尋ねる。
「茄遊矢と外に行ってきてもいいか?」
「外?」
「そう、壁の外」
言った瞬間、羅聖の顔が強張った。怒ると言うよりはショックを受けているような顔だった。
「行かせるわけないに決まってるだろ……」
「茄遊矢も外に出たがってる。頼むよ」
「嫌だと言っている」
「羅聖?」
咲路が首を傾げて彼の様子を窺うと、羅聖は目を吊り上げ、歯を食いしばり、鬼のような険しい表情をしていた。
「兄さんがそんな事を言う筈がない」
「羅聖……」
「お前は兄さんじゃない!!」
「…………っ」
「出ていけ。研究の邪魔だ」
羅聖はそう言って背を向ける。
咲路が出口の扉を開くと、そこには茄遊矢が立っていた。
「ごめんなさい。聞くつもりはなくて……」
「どこから聞いてた?」
「羅聖さんが怒鳴ったあたりからです」
「……そうか」
咲路は茄遊矢の存在を羅聖に気づかれる前に、彼の腰を掴み速足でその場を離れた。
屋敷の外に出て、森の隣にある小さな丘にやって来る。茄遊矢と咲路はそこへ腰を下ろし、咲路が話し始めた。
「俺は羅聖の兄である事を忘れているんだ。俺達を基準に作られたβασιλιάς(バシリアス)は俺達に浸透しやすかった。俺は慢性の記憶障害に掛かった」
「記憶障害……?」
「三〇〇年程生きてきて、昔羅聖と過ごしていた日々を忘れてしまったんだ」
茄遊矢は不思議に思う、その表情を見て咲路は彼を訝しげに見つめた。
「俺もそうだけど、歳を重ねれば誰だって忘れてしまいます。自分も子供の頃の記憶は曖昧です」
「…………俺は病気じゃないのか」
「貴方達は普通の人間ですよ」
「普通の、人間……」
咲路は茄遊矢に心を許していた、しかし、羅聖に惹かれる茄遊矢を気味が悪いと思っていた。今隣にいる茄遊矢にはそんな気持ちは感じられない。むしろ好意的にとらえている。隣の横顔を見れば、心臓は速く脈打ち、近くにある手を指先の感覚で感じ取れば、頬を赤く染めた。
羅聖に病気だと言われ、病気だと思い込んできた。長年生き続ける自分達は人間ではないと思い続けてきた。
茄遊矢はそれをあっさりと打ち払った。咲路は自覚する。隣にいる存在の心地よさと、自分の中に渦巻く焦りに。茄遊矢は羅聖に惹かれている、それがどうしようもなく嫌な理由は、自分が茄遊矢に惹かれていたからだと。
そして、外へ憧れたのも、茄遊矢のせいなのだとも。
「昔羅聖に聞いた話――……昔話に、少し付き合ってくれるか?」
「え、あ。はい。もちろん付き合いますよ」
咲路は自分に何の警戒心もなく無邪気に向けられる茄遊矢の笑顔に救われていた。咲路は微笑んで空に浮かび始めた月を眺めながら話し始めた。
「茄遊矢に何を言ったんだ」
やって来て直ぐそう言ってくる兄の様子に、羅聖は酷く驚いた。警戒心が解けたどころの話ではない、咲路はかなり彼に心を許しているようだった。
「兄さんには関係ない」
「関係なくはないだろ、一緒に暮らしてるんだし」
咲路は頑固だから真実を知るまで引き下がらないだろう。羅聖は仕方がないと話す。
「フった」
「ん?」
「好きだと言われてフった」
「す、すき?」
「俺を愛しているらしい」
「なああ!? お前も茄遊矢も男だろ! いつも思ってたが何してんだ気色ワリィ」
「…………」
羅聖は黙り込み、殺気を露わにする。
「何キレてんだ……? まさかお前……!!」
「冗談じゃない。俺が兄さん以外の人を愛する訳がないだろ」
「いや……そんな事言われても困るんだけど」
羅聖は眉間に皺を寄せ、「要件はなんだ」と咲路に尋ねる。
「茄遊矢と外に行ってきてもいいか?」
「外?」
「そう、壁の外」
言った瞬間、羅聖の顔が強張った。怒ると言うよりはショックを受けているような顔だった。
「行かせるわけないに決まってるだろ……」
「茄遊矢も外に出たがってる。頼むよ」
「嫌だと言っている」
「羅聖?」
咲路が首を傾げて彼の様子を窺うと、羅聖は目を吊り上げ、歯を食いしばり、鬼のような険しい表情をしていた。
「兄さんがそんな事を言う筈がない」
「羅聖……」
「お前は兄さんじゃない!!」
「…………っ」
「出ていけ。研究の邪魔だ」
羅聖はそう言って背を向ける。
咲路が出口の扉を開くと、そこには茄遊矢が立っていた。
「ごめんなさい。聞くつもりはなくて……」
「どこから聞いてた?」
「羅聖さんが怒鳴ったあたりからです」
「……そうか」
咲路は茄遊矢の存在を羅聖に気づかれる前に、彼の腰を掴み速足でその場を離れた。
屋敷の外に出て、森の隣にある小さな丘にやって来る。茄遊矢と咲路はそこへ腰を下ろし、咲路が話し始めた。
「俺は羅聖の兄である事を忘れているんだ。俺達を基準に作られたβασιλιάς(バシリアス)は俺達に浸透しやすかった。俺は慢性の記憶障害に掛かった」
「記憶障害……?」
「三〇〇年程生きてきて、昔羅聖と過ごしていた日々を忘れてしまったんだ」
茄遊矢は不思議に思う、その表情を見て咲路は彼を訝しげに見つめた。
「俺もそうだけど、歳を重ねれば誰だって忘れてしまいます。自分も子供の頃の記憶は曖昧です」
「…………俺は病気じゃないのか」
「貴方達は普通の人間ですよ」
「普通の、人間……」
咲路は茄遊矢に心を許していた、しかし、羅聖に惹かれる茄遊矢を気味が悪いと思っていた。今隣にいる茄遊矢にはそんな気持ちは感じられない。むしろ好意的にとらえている。隣の横顔を見れば、心臓は速く脈打ち、近くにある手を指先の感覚で感じ取れば、頬を赤く染めた。
羅聖に病気だと言われ、病気だと思い込んできた。長年生き続ける自分達は人間ではないと思い続けてきた。
茄遊矢はそれをあっさりと打ち払った。咲路は自覚する。隣にいる存在の心地よさと、自分の中に渦巻く焦りに。茄遊矢は羅聖に惹かれている、それがどうしようもなく嫌な理由は、自分が茄遊矢に惹かれていたからだと。
そして、外へ憧れたのも、茄遊矢のせいなのだとも。
「昔羅聖に聞いた話――……昔話に、少し付き合ってくれるか?」
「え、あ。はい。もちろん付き合いますよ」
咲路は自分に何の警戒心もなく無邪気に向けられる茄遊矢の笑顔に救われていた。咲路は微笑んで空に浮かび始めた月を眺めながら話し始めた。
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