3 / 299
カナキリ
3
しおりを挟む
能力協会は各国の能力者の保護を行う機密組織である。会員のほとんどが人間だった。しかし、実力のある隊に上へ上へと行けば行くほど、能力者の割合が多くなっていく。
中でもシェハイン協会と呼ばれる組織に関しては別格であった。彼等にはどんな軍隊でも手が出せない。国家にも手が出せないシェハイン協会には、敵に回してはいけない人物がいるからだ。――特殊部隊隊長──威稲樹聖唖。
裏社会で彼は人間最強と呼ばれ、世界中に名を轟かせる人物である。
能力者の多い能力協会でトップを維持し続ける、能力協会最強の名を持つ実力者だ。
超色男の癖その自覚もなく、実力も圧倒的で周りと違う空気を纏っている。人を無視するような奴だが、いかんせん人気者だし、忙しい奴だし、ひとりひとり相手している暇はないのだろう。彼と話したい人は、彼が少人数と行動している時か、彼が一人で行動している時を狙うのがベストだ。話し掛ければ受け答えくらいはしてくれるし、性格もいい方だと思う。
何でもできて、顔も性格も良くて、本物の完璧人間だな──……
「──ぅ、うぐ……女臭い女臭い! また洗わないといけないじゃないか! 洗剤とお水がもったいない! 何なんだ彼等は! わらわらわらわらしてきて!」
────と、幡多は、数年前まで思っていたのだが。
幡多は聖唖の脱ぎ捨てた服を拾い集めて部屋の中央にある大きな机に乗せる。そこは聖唖個人の為の資料室だった。聖唖は机の上に用意されていた資料を手に取れば、すぐに奥の書斎に消えてしまった。幡多は聖唖の後を追い掛けて書斎へ入る。
「聖唖……本当に相変わらずの女嫌いだな……」
聖唖は自分の机に資料を置いてから、壁際のロッカーを開けて衣服を取り出す。
「嫌いな訳じゃないさ、あの匂いが苦手なだけだ。甘ったるくて鼻がひん曲がりそうになる」
「ああ、なるほど……ラ矢は香水なんてつけないもんな」
「ラ矢のいいところのひとつだな」
「俺はラ矢も少しくらい女の子らしくした方がいいと思うけど……」
聖唖は衣服を纏うと、椅子に座って資料を食い入るように眺め始めた。
「眼鏡また変えたのか?」
「女達が触って汚くなったからな」
「お前絶対女嫌いだろ」
聖唖は目が悪い訳ではないが、資料を見る時だけ眼鏡を掛ける。
その眼鏡は双眼鏡のような役割を果たしており、内蔵された機能で写真の細かい部分まで分析して表示してくれる。つまり、高性能虫メガネだ。
――その為、聖唖のように仕事の多い協会の会員──会員は、これを愛用していることが多い。
「また仕事に出るのか? それ、何の資料だよ……?」
「カナキリだ……魔力はかなり高いらしいな……」
「は? そんなこと書いてないじゃないか。どこ見てるんだ」
「ここだ、ここに書いてある」
「んん?」
幡多は聖唖の指し示す箇所を見つめた。どうやら写真だが、何処にもそんなことは書いていない。どうやら聖唖の眼鏡が機能を果たしているようだ。その状態を聖唖が読み上げる。
「全身骨折、出欠多量……肌を埋め尽くすほどの切り傷」
言葉にしなくても写真を見れば惨いことは丸わかりだが、それは黙っておく。幡多は被害者が死んでしまったことを悟った。それを読み取るかのように、聖唖は一言添える。
「この被害者は死んでいないよ」
「はっ!?」
「被害者もカナキリだったらしい。まあ、あと20秒くらいしたらお亡くなりの電話でも来ると思うが?」
幡多は腕時計を確認する。時計の針は、午前11時32分18秒を示している。
「じゃあ38秒に電話来るんだな? 前で待っててやろうか?」
幡多はそうからかって、電話の前に立つ。
聖唖がイラッとして、言った。
「いや、やっぱりあと3秒だ……」
時計は午前11時32分28秒を指している。
「え、3秒!? ちょ、ま────」
幡多の腕時計の秒針が丁度31を示した瞬間、眠っていた古電話は目覚め、産声のように叫び出す。幡多が呆気に取られていたら、聖唖が呟いた。
「カナキリにも負けないな、このポンコツ」
「すげぇ……って、感心してる場合じゃないッ! 出ないとッ!!」
幡多は受話器を取って慌てて耳に当てる、聖唖は幡多が話さないので、相手の噺でも聴いているんだろうと思っていたが。
「お、お前……」
幡多の動揺しきった表情を見て聖唖は席を立ち、幡多の傍までやって来た。聖唖が受話器に耳を近づければ、幡多の顔が真っ赤に染まる。幡多はすぐにスピーカーのボタンを押した。聖唖が離れて、ほっと息をついて幡多は考える。――無駄に顔がいい……寄越せ。
しばらくして、ポンコツから、相手の声が聞こえ始める。
『──今回は間違えてしまっただけなのですよ、標的を……。ああ、それと、あなた方が探しているカナキリ、うちの部隊の者なのでお気になさらないでくださいね。我々が狙うのは常にひとつ──……』
「──ヒグナル……?」
聖唖が呟けば、音を拾ったのか、話し相手の話し声が止む。
『…………おっと、その声は聖唖さん、帰って来られていたのですか。危ない危ない。目的を言うところでした。あなたがいなければ……この電話でカナキリを何匹か貢がせようと思ったのですがね。今そんなことしたらあなたが貢がれそうだ』
「ヒグナル、お前、何を考えている……さっき言い掛けた言葉は何だ」
『そうですね、我々が狙うのはひとつ──……って、答えるはずがないでしょう。相変わらずのバカですね。ではこれにて失礼します。我々にはまだ仕事があるので──……』
「――なっ!? おいお前……!!」
「――待てッ!! ヒグナル!!」
幡多と聖唖の耳に届くのは、静かな電子音だけで、先ほどまでの丁寧な声は消えていた。
「くそッ……またあいつ何か仕出かす気かよ……」
「標的、か……」
幡多は受話器を元の位置に戻すと、呟いた聖唖に目を向ける。
「──ボスに報告するぞ、ついて来い幡多」
「お、おう……!」
中でもシェハイン協会と呼ばれる組織に関しては別格であった。彼等にはどんな軍隊でも手が出せない。国家にも手が出せないシェハイン協会には、敵に回してはいけない人物がいるからだ。――特殊部隊隊長──威稲樹聖唖。
裏社会で彼は人間最強と呼ばれ、世界中に名を轟かせる人物である。
能力者の多い能力協会でトップを維持し続ける、能力協会最強の名を持つ実力者だ。
超色男の癖その自覚もなく、実力も圧倒的で周りと違う空気を纏っている。人を無視するような奴だが、いかんせん人気者だし、忙しい奴だし、ひとりひとり相手している暇はないのだろう。彼と話したい人は、彼が少人数と行動している時か、彼が一人で行動している時を狙うのがベストだ。話し掛ければ受け答えくらいはしてくれるし、性格もいい方だと思う。
何でもできて、顔も性格も良くて、本物の完璧人間だな──……
「──ぅ、うぐ……女臭い女臭い! また洗わないといけないじゃないか! 洗剤とお水がもったいない! 何なんだ彼等は! わらわらわらわらしてきて!」
────と、幡多は、数年前まで思っていたのだが。
幡多は聖唖の脱ぎ捨てた服を拾い集めて部屋の中央にある大きな机に乗せる。そこは聖唖個人の為の資料室だった。聖唖は机の上に用意されていた資料を手に取れば、すぐに奥の書斎に消えてしまった。幡多は聖唖の後を追い掛けて書斎へ入る。
「聖唖……本当に相変わらずの女嫌いだな……」
聖唖は自分の机に資料を置いてから、壁際のロッカーを開けて衣服を取り出す。
「嫌いな訳じゃないさ、あの匂いが苦手なだけだ。甘ったるくて鼻がひん曲がりそうになる」
「ああ、なるほど……ラ矢は香水なんてつけないもんな」
「ラ矢のいいところのひとつだな」
「俺はラ矢も少しくらい女の子らしくした方がいいと思うけど……」
聖唖は衣服を纏うと、椅子に座って資料を食い入るように眺め始めた。
「眼鏡また変えたのか?」
「女達が触って汚くなったからな」
「お前絶対女嫌いだろ」
聖唖は目が悪い訳ではないが、資料を見る時だけ眼鏡を掛ける。
その眼鏡は双眼鏡のような役割を果たしており、内蔵された機能で写真の細かい部分まで分析して表示してくれる。つまり、高性能虫メガネだ。
――その為、聖唖のように仕事の多い協会の会員──会員は、これを愛用していることが多い。
「また仕事に出るのか? それ、何の資料だよ……?」
「カナキリだ……魔力はかなり高いらしいな……」
「は? そんなこと書いてないじゃないか。どこ見てるんだ」
「ここだ、ここに書いてある」
「んん?」
幡多は聖唖の指し示す箇所を見つめた。どうやら写真だが、何処にもそんなことは書いていない。どうやら聖唖の眼鏡が機能を果たしているようだ。その状態を聖唖が読み上げる。
「全身骨折、出欠多量……肌を埋め尽くすほどの切り傷」
言葉にしなくても写真を見れば惨いことは丸わかりだが、それは黙っておく。幡多は被害者が死んでしまったことを悟った。それを読み取るかのように、聖唖は一言添える。
「この被害者は死んでいないよ」
「はっ!?」
「被害者もカナキリだったらしい。まあ、あと20秒くらいしたらお亡くなりの電話でも来ると思うが?」
幡多は腕時計を確認する。時計の針は、午前11時32分18秒を示している。
「じゃあ38秒に電話来るんだな? 前で待っててやろうか?」
幡多はそうからかって、電話の前に立つ。
聖唖がイラッとして、言った。
「いや、やっぱりあと3秒だ……」
時計は午前11時32分28秒を指している。
「え、3秒!? ちょ、ま────」
幡多の腕時計の秒針が丁度31を示した瞬間、眠っていた古電話は目覚め、産声のように叫び出す。幡多が呆気に取られていたら、聖唖が呟いた。
「カナキリにも負けないな、このポンコツ」
「すげぇ……って、感心してる場合じゃないッ! 出ないとッ!!」
幡多は受話器を取って慌てて耳に当てる、聖唖は幡多が話さないので、相手の噺でも聴いているんだろうと思っていたが。
「お、お前……」
幡多の動揺しきった表情を見て聖唖は席を立ち、幡多の傍までやって来た。聖唖が受話器に耳を近づければ、幡多の顔が真っ赤に染まる。幡多はすぐにスピーカーのボタンを押した。聖唖が離れて、ほっと息をついて幡多は考える。――無駄に顔がいい……寄越せ。
しばらくして、ポンコツから、相手の声が聞こえ始める。
『──今回は間違えてしまっただけなのですよ、標的を……。ああ、それと、あなた方が探しているカナキリ、うちの部隊の者なのでお気になさらないでくださいね。我々が狙うのは常にひとつ──……』
「──ヒグナル……?」
聖唖が呟けば、音を拾ったのか、話し相手の話し声が止む。
『…………おっと、その声は聖唖さん、帰って来られていたのですか。危ない危ない。目的を言うところでした。あなたがいなければ……この電話でカナキリを何匹か貢がせようと思ったのですがね。今そんなことしたらあなたが貢がれそうだ』
「ヒグナル、お前、何を考えている……さっき言い掛けた言葉は何だ」
『そうですね、我々が狙うのはひとつ──……って、答えるはずがないでしょう。相変わらずのバカですね。ではこれにて失礼します。我々にはまだ仕事があるので──……』
「――なっ!? おいお前……!!」
「――待てッ!! ヒグナル!!」
幡多と聖唖の耳に届くのは、静かな電子音だけで、先ほどまでの丁寧な声は消えていた。
「くそッ……またあいつ何か仕出かす気かよ……」
「標的、か……」
幡多は受話器を元の位置に戻すと、呟いた聖唖に目を向ける。
「──ボスに報告するぞ、ついて来い幡多」
「お、おう……!」
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
【R-18】クリしつけ
蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。
愛娘(JS5)とのエッチな習慣に俺の我慢は限界
レディX
恋愛
娘の美奈は(JS5)本当に可愛い。そしてファザコンだと思う。
毎朝毎晩のトイレに一緒に入り、
お風呂の後には乾燥肌の娘の体に保湿クリームを塗ってあげる。特にお尻とお股には念入りに。ここ最近はバックからお尻の肉を鷲掴みにしてお尻の穴もオマンコの穴もオシッコ穴も丸見えにして閉じたり開いたり。
そうしてたらお股からクチュクチュ水音がするようになってきた。
お風呂上がりのいい匂いと共にさっきしたばかりのオシッコの匂い、そこに別の濃厚な匂いが漂うようになってきている。
でも俺は娘にイタズラしまくってるくせに最後の一線だけは超えない事を自分に誓っていた。
でも大丈夫かなぁ。頑張れ、俺の理性。
【R18】もう一度セックスに溺れて
ちゅー
恋愛
--------------------------------------
「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」
過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。
--------------------------------------
結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。
【R18】淫魔の道具〈開発される女子大生〉
ちゅー
ファンタジー
現代の都市部に潜み、淫魔は探していた。
餌食とするヒトを。
まず狙われたのは男性経験が無い清楚な女子大生だった。
淫魔は超常的な力を用い彼女らを堕落させていく…
【R18】騎士たちの監視対象になりました
ぴぃ
恋愛
異世界トリップしたヒロインが騎士や執事や貴族に愛されるお話。
*R18は告知無しです。
*複数プレイ有り。
*逆ハー
*倫理感緩めです。
*作者の都合の良いように作っています。
【R18】僕の筆おろし日記(高校生の僕は親友の家で彼の母親と倫ならぬ禁断の行為を…初体験の相手は美しい人妻だった)
幻田恋人
恋愛
夏休みも終盤に入って、僕は親友の家で一緒に宿題をする事になった。
でも、その家には僕が以前から大人の女性として憧れていた親友の母親で、とても魅力的な人妻の小百合がいた。
親友のいない家の中で僕と小百合の二人だけの時間が始まる。
童貞の僕は小百合の美しさに圧倒され、次第に彼女との濃厚な大人の関係に陥っていく。
許されるはずのない、男子高校生の僕と親友の母親との倫を外れた禁断の愛欲の行為が親友の家で展開されていく…
僕はもう我慢の限界を超えてしまった… 早く小百合さんの中に…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる