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ヴァラヴォルフ
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ティーネは食事の後いなくなった鵺トを探していた。
歌声が遠くから聞こえている気がしていたが、ティーネの耳でも探し出せなかった。
帰ってくるだろうと探すのを諦めた頃、ティーネは湖の周辺を歩いていた。
降り注ぐ月光で白い花が映え、輝いて見える。
そんな中に、少女が一人佇んでいるのを見つけた。
「お~い何してるんだ~?」
相手は何も答えない、なので駆けて行ってもう一度話しかけようとする。集団でもない、一族でもない女の子。ただ、ルビーの瞳が美しかった。
「あ、あ。良かったら少し話さないか?」
「ええ。話しましょう」
そう帰ってきて、ティーネはふぅっと息をつく。吐いた息が熱っぽいような気がして、自分の顔が熱いのだと気が付いた。
「何を話すの?」
「え、ええっと……そうだ! 花冠を作ってやろう! お母様がいつも持ってきてくれたんだ」
「いらないわ」
「待ってろおお……こう、こう、もう出来るからなぁあ……くぅっこのうんがあああああああああ!! 花のくせに生意気だぞ!」
うまくいかず。ぶちいいいッと千切ってしまうティーネ。
「…………」
「…………」
「…………ま、饅頭でいいか? あ、潰れてた。潰れた饅頭でいいか?」
「いいわ。ありがとう。ちょうどお腹が空いてたの」
少女は差し出された饅頭を受け取って眺めた。
「うんうん」
花畑の中に座る少女の隣に座り、饅頭を頬張る姿を見ながら頷く。
「で、貴方は誰なの?」
少女はティーネに食べながら聞いてくる。
「ティーネだ、貴様は誰だ?」
ティーネがニコニコと質問するが、少女は饅頭を食べ終わったらしく――潰れていたから数口程で食べられたのだろう――立ち上がって言った。
「じゃあね」
「え!? もう行くのか!?」
「ごめんなさい。忙しいのよ」
去って行ってしまった背中を追いかけることも出来ず、手を伸ばしたままぐうう~とお腹が鳴る。
「ティーネ?」
そう声を掛けたのは鵺トだった。
夜になると青い髪が似合っていてその美しさが映える。ティーネは思わず顔を逸らしてしまった。少しとんがった耳が赤い。
「お腹空いてるの? ご飯は?」
「ご飯は食べたが、おやつをたべてない……」
「じゃあ半分あげるよ」
「本当か!?」
ティーネは鵺トに飛び付く。耳を赤くするのは鵺トの番だった。
花畑に座って二人で肉の入った饅頭を食べていると、鵺トが切り出した。
「……躾のことが好きかもしれないんだ」
「は?」
「変かな」
変だと思った。
でも自分もそうなのかもしれなかった。
「私もあの子が好きかもしれない。女の子だけど好き」
鵺トはそれを聞いて息を呑む。
ふう~と息をついてから言った。
「おかしいな。変な感じだ。すごく変な感じだ。躾が君を好きで、君は女の子が好きで、僕が男の躾を好きで、なのに何だろう。すごく嫌だ。何でだろう。躾を好きだって分かった時は変じゃなかったんだけど。君が女の子を好きなんて言ったからかな。俺は男が好きなんだから君と俺は同じの筈なのに。君が女の子を好きなのが嫌だ」
「なんじゃそら、お前も男が好きなのに、私が女の子を好きなのは駄目だって言うのか。変だぞ」
「そうだね。変だね」
そんな話をして自分達は変なのかもしれないと二人が思っているころ、二人はある異変に気が付いた。
ティーネは鼻と耳、鵺トは耳で気が付いた。
そしてどちらから言うでもなく二人同時に走った。
森の中を互いに見失わず走った。顔を強張らせ、息を上げ、眉をへしゃげて走った。
辿り着いた先には。
女性の死体があった。
傷1つないように見える綺麗な死体だが、所々に何かが食い破ったような穴が空いている。
その中には虫がいるように見えるが、彼女はウイルスに感染しない筈だった。それに感染したら寧ろゾンビみたいに生き伸びている筈だ。
鵺トとティーネは意味が分からなかった。
翳によれば食料でもめた仲間内の乱闘で死亡者が多数出たらしかった。そのうちの一人だろうと言う。
「なに言ってんの……お母さんがそんなことで死ぬわけ……しぬ……わけ」
ボロ……と月映えし白く輝く雫が鵺トの頬を伝った。
ティーネは母親の死体を無言で揺すった。暖かく柔らかい身体を触っていると、ティーネは頭の中がめちゃくちゃになって彼女の身体に抱き着いた。そして「お母様」とだけ呼び掛け続ける。そんな背中に鵺トは縋り付き、ティーネは背中越しに鵺トの胸を借りた。
「おかあさまああああああ……おかあ、さまあ」
鵺トに振り返り、弱弱しくつぶやいた。
「大切な、たいせつな人の、し、しぃ。しに、しにぎ。ぅわ。を見た時、な、泣くしか、ない……じゃない、かぁ……」
「そう、だね……」
「おかあさま……」
「……おかあさん」
そう呟いた二人は互いに抱き合って大量の涙を流した。夜の寒さに冷えた頬に、熱い涙が幾筋も伝う。
「埋めてあげよう……」
弱弱しく鵺トが呟く。ティーネはゆっくりと時間を掛けてから頷いた。
鵺トとティーネは互いに支えあって立ち上がり、死体を花畑に埋葬することを決めた。花畑の中に、素手で穴を掘り、爪先から血が滲む。大人一人を生めるのには相当な苦労を要した。セイナを寝かせ、眠っているような彼女に土を掛けていく。ティーネが手を止め、蹲って泣き始めた。土を掛ける作業は鵺トが担った。
歌声が遠くから聞こえている気がしていたが、ティーネの耳でも探し出せなかった。
帰ってくるだろうと探すのを諦めた頃、ティーネは湖の周辺を歩いていた。
降り注ぐ月光で白い花が映え、輝いて見える。
そんな中に、少女が一人佇んでいるのを見つけた。
「お~い何してるんだ~?」
相手は何も答えない、なので駆けて行ってもう一度話しかけようとする。集団でもない、一族でもない女の子。ただ、ルビーの瞳が美しかった。
「あ、あ。良かったら少し話さないか?」
「ええ。話しましょう」
そう帰ってきて、ティーネはふぅっと息をつく。吐いた息が熱っぽいような気がして、自分の顔が熱いのだと気が付いた。
「何を話すの?」
「え、ええっと……そうだ! 花冠を作ってやろう! お母様がいつも持ってきてくれたんだ」
「いらないわ」
「待ってろおお……こう、こう、もう出来るからなぁあ……くぅっこのうんがあああああああああ!! 花のくせに生意気だぞ!」
うまくいかず。ぶちいいいッと千切ってしまうティーネ。
「…………」
「…………」
「…………ま、饅頭でいいか? あ、潰れてた。潰れた饅頭でいいか?」
「いいわ。ありがとう。ちょうどお腹が空いてたの」
少女は差し出された饅頭を受け取って眺めた。
「うんうん」
花畑の中に座る少女の隣に座り、饅頭を頬張る姿を見ながら頷く。
「で、貴方は誰なの?」
少女はティーネに食べながら聞いてくる。
「ティーネだ、貴様は誰だ?」
ティーネがニコニコと質問するが、少女は饅頭を食べ終わったらしく――潰れていたから数口程で食べられたのだろう――立ち上がって言った。
「じゃあね」
「え!? もう行くのか!?」
「ごめんなさい。忙しいのよ」
去って行ってしまった背中を追いかけることも出来ず、手を伸ばしたままぐうう~とお腹が鳴る。
「ティーネ?」
そう声を掛けたのは鵺トだった。
夜になると青い髪が似合っていてその美しさが映える。ティーネは思わず顔を逸らしてしまった。少しとんがった耳が赤い。
「お腹空いてるの? ご飯は?」
「ご飯は食べたが、おやつをたべてない……」
「じゃあ半分あげるよ」
「本当か!?」
ティーネは鵺トに飛び付く。耳を赤くするのは鵺トの番だった。
花畑に座って二人で肉の入った饅頭を食べていると、鵺トが切り出した。
「……躾のことが好きかもしれないんだ」
「は?」
「変かな」
変だと思った。
でも自分もそうなのかもしれなかった。
「私もあの子が好きかもしれない。女の子だけど好き」
鵺トはそれを聞いて息を呑む。
ふう~と息をついてから言った。
「おかしいな。変な感じだ。すごく変な感じだ。躾が君を好きで、君は女の子が好きで、僕が男の躾を好きで、なのに何だろう。すごく嫌だ。何でだろう。躾を好きだって分かった時は変じゃなかったんだけど。君が女の子を好きなんて言ったからかな。俺は男が好きなんだから君と俺は同じの筈なのに。君が女の子を好きなのが嫌だ」
「なんじゃそら、お前も男が好きなのに、私が女の子を好きなのは駄目だって言うのか。変だぞ」
「そうだね。変だね」
そんな話をして自分達は変なのかもしれないと二人が思っているころ、二人はある異変に気が付いた。
ティーネは鼻と耳、鵺トは耳で気が付いた。
そしてどちらから言うでもなく二人同時に走った。
森の中を互いに見失わず走った。顔を強張らせ、息を上げ、眉をへしゃげて走った。
辿り着いた先には。
女性の死体があった。
傷1つないように見える綺麗な死体だが、所々に何かが食い破ったような穴が空いている。
その中には虫がいるように見えるが、彼女はウイルスに感染しない筈だった。それに感染したら寧ろゾンビみたいに生き伸びている筈だ。
鵺トとティーネは意味が分からなかった。
翳によれば食料でもめた仲間内の乱闘で死亡者が多数出たらしかった。そのうちの一人だろうと言う。
「なに言ってんの……お母さんがそんなことで死ぬわけ……しぬ……わけ」
ボロ……と月映えし白く輝く雫が鵺トの頬を伝った。
ティーネは母親の死体を無言で揺すった。暖かく柔らかい身体を触っていると、ティーネは頭の中がめちゃくちゃになって彼女の身体に抱き着いた。そして「お母様」とだけ呼び掛け続ける。そんな背中に鵺トは縋り付き、ティーネは背中越しに鵺トの胸を借りた。
「おかあさまああああああ……おかあ、さまあ」
鵺トに振り返り、弱弱しくつぶやいた。
「大切な、たいせつな人の、し、しぃ。しに、しにぎ。ぅわ。を見た時、な、泣くしか、ない……じゃない、かぁ……」
「そう、だね……」
「おかあさま……」
「……おかあさん」
そう呟いた二人は互いに抱き合って大量の涙を流した。夜の寒さに冷えた頬に、熱い涙が幾筋も伝う。
「埋めてあげよう……」
弱弱しく鵺トが呟く。ティーネはゆっくりと時間を掛けてから頷いた。
鵺トとティーネは互いに支えあって立ち上がり、死体を花畑に埋葬することを決めた。花畑の中に、素手で穴を掘り、爪先から血が滲む。大人一人を生めるのには相当な苦労を要した。セイナを寝かせ、眠っているような彼女に土を掛けていく。ティーネが手を止め、蹲って泣き始めた。土を掛ける作業は鵺トが担った。
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