リクゴウシュ

隍沸喰(隍沸かゆ)

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コノカ

8 ※GLあり

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 シティアはそう思うと、彼女の安否が気になり出した。例え彼女でも無理があるんじゃないか、助けにいかなくては彼女が化け物に取り込まれて彼女も化け物の一員になるのではないか、そうなったら生徒全員が彼女に勝てずにこの島で絶命することになるのでは、彼女は一人でこの島を自分の意思のないまま徘徊し続けるのではないか。
「シティア」
「あ。ら、蘭ちゃん」
「大丈夫カ? また暗い顔をしていたゾ?」
「ご、ごめんね。また変なこと考えちゃって」
「帰ったら先生に診てもらうカ?」
「そ、それほどじゃ……」
 先生とは診療科の先生だがシティアは自分の残酷な思考を誰にも知られたくないと思っている。知っているのは親友の蘭だけだが、彼女はシティアが優しいだけだと思っているからシティアは楽でいられる。
「なぁにのんきな話してんだよ。帰れるかも分からねえ任務なんだぜ?」
「だからそう言うことをシティアの前で言うなと言っているダロ!」
 頭伎と蘭は犬猿の仲だ。特にシティアのことで揉めていて、今回のチームの編成にも納得がいっていない。
 もし死傷者が出なかったら、今後もこのチームで行動することになるかもしれないし。
 もし死傷者が出たとしてもシティアの前後は蘭か頭伎だ、必ずどちらかが彼女と一緒のチームになるだろう。
 そう考えるだけで蘭は苦虫を噛み潰したような表情をつくってしまう。
 頭伎桔平きっぺいは頭伎幸が殺されたことについて怒りを感じていたようだが、普段から彼らはそのような絆など微塵も見せて来なかった。もしかしたら何か事情があるのかもしれないとみんなが勘繰るくらいには不自然だったのだ。
 隠しているつもりなのだろうが、あの日から焦りを感じている。しかし、生徒達にはそれを知る由がなかった。
 そんなことを今考える暇もない。
 化け物はうじゃうじゃいるが、建物は罅や煤だらけでもある。自分達よりもっと前の先輩たちもここへ滅菌に来たことがあるのだろう。そしてどうなったのか……。
 油断は一切許されないのだ。
「―――みんな、伏せろ!」
 突然発せられた串間の声に反応が追いつかないシティアの身体を、蘭はガッと彼女の背中に腕を回して力任せに地面へ共に伏せさせる。
 天井を埋め尽くすほどの化け物達が部屋から飛び出してきて、鋭い伸縮可能な牙を伸ばして上から串刺しにしようとしてきた。串間の声がなかったら皆殺されていただろう。
「みんなで炎を操って滅菌するゾ!」
「言われなくてもやってやるさ!」
「う、うん……!」
「了っ解~」
 串間が天井に向かって平らな炎を空飛ぶ絨毯のように広げ、上からの攻撃を防ぐ、次に、頭伎が廊下の奥の壁から出てきた巨大な口と手に気が付く。一番歳が上の彼だが、怖気付いて一歩下がってしまう、しかしこれが他の生徒なら一歩どころか迷わず逃走していただろう。
「後ろからくるぜ~!!」
 人を丸ごと50人程飲み込めそうな巨大な口が、ひと噛みで頭を噛み砕くだろう分厚い歯を見せ、迫ってくる。ブツブツと目のようなものが出たり入ったりする濁った緑色の唇の周りには大量の腕がざわざわと音を立てて壁を伝って動く。
 後ろからくるぜ~!! ――じゃない!
 蘭はそう思いながらも串間の広げた炎を操り、壁の化け物に攻撃していく。
しかし。そのドタバタと騒々しい走りは止められず、アレはここにいる誰にも止められないとシティアを横抱きにして反対側へと駆け出した。炎の鎧を纏いながら、蘭は走り続ける。同じ判断に出た串間と頭伎もその後を追い掛けるように走った。
 壁の化け物が起こす振動が強かった為か、今まで潜んでいた化け物達が全部屋から廊下に現れた。
飛び出してきたモノや、這い出てきたモノ。
 這い出てきたモノはまるで肉の塊と節足動物を足したような見た目で、飛び出してきたモノは獣の姿で剛毛、毛の1つ1つが分厚く硬く鋭い。
 流石はウイルスを研究していた施設だ、これほどまで化け物が湧き出てくるところなど、森の中でもなかった。
 対応できる化け物は炎で倒し、対応できない化け物は炎の鎧で怯ませた。そうやってただ必死に走っていれば、いつかは体力の限界が来て、しかも炎で怯まないような大型の化け物まで現れるだろう。
 そして――そんな酷い状況であるにも関わらず、串間と頭伎を見失ってしまった。
 壁の化け物の姿もない、彼らについて行ったらしい。
 蘭は逃げている最中に冷凍室を見つけた。後ろから迫る化け物達からの、音と言う圧力を感じながら蘭は冷凍庫の扉を押し開けた。
 古びた重い扉はなかなか開かなかった為、入るのに遅れ、また、化け物達に追い付かれ、扉を開けようとしてくる力に勝てない。さらに、蘭はシティアを横抱きにしている為、背中で押すことしか出来なかった。
 シティアが恐怖から立ち直り、彼女の腕から離れ、一緒に押しながら炎を扉の隙間を埋め尽くすように操って化け物たちを怯ませ、無事扉を閉じ、頑丈な鍵を閉めることも出来た。
 崩れ落ちるように二人して座り込む。冷凍庫とはいえ昔の冷凍庫だ、冷やされず頑丈ではある為、蘭たちはここに立てこもることにした。
「大丈夫か? シティア」
「ごめんね蘭ちゃん。私のせいで……」
「シティアのせいじゃナイ、こんな荷が重い任務をさせるあの女が――」
「ねえ、それやめよう。アリシアさんは教育係の仕事をしてるだけだよ……私たちが弱いのが悪いんだ、きっと」
「弱い私たちを強くするのが教育係の仕事ダロ」
「……そうなのかな」
「そうなんダ。そうじゃなきゃ教育係と言う存在が…………」
 心配そうにこちらを見つめてくるシティアを見て愚痴を止める。安心させようと微笑み、今はこの状況をどうするべきかを考える。
 あの女は資料を取ってこいとは言ったがどんな資料か何の資料かは言っていない。
 本当に私たち生徒を殺しに来ているではないか。
 気分転換だろう、シティアが立ち上がって回りを見渡し、ハッと息を吸い込んだ。
「ら、蘭ちゃんアレ……!」
「あれ……?」
 腰を上げて蘭はシティアの隣に立つ。
シティアが指さした方向は冷凍していたのだろうそのケースとラック、その奥――銀色の先ほど開けた扉に類似した鉄扉があった。つまりここは出入口で、ラックの奥に隠れていたその扉も出入り口だった。
「あの先に何かあるかもしれない。行ってみよう」
「う、うん! そしたら皆で帰れるよね! 資料を早く見つけて頭伎さんと串間くんを探しに行こう!」
「引き返すのは危険ダ。この先を確認してからの話だけどナ」
「そ、そうだよね」
「すまナイ。今のは厳しすぎたカ?」
「ううん。そんなことない。私、もっと強くなりたいし、今回のことで蘭ちゃんに頼ってばかりじゃダメだって思ったんだ」
「私は頼ってほしいんだガ……」
 蘭が項垂れるとすかさずシティアが言う。
「うん、勇気と安心をくれるのはいつも蘭ちゃんだよ」
「シティア……」
 その言葉を聞いて、蘭はキッとシティアを睨みつける――否、真剣な顔でシティアに迫った。シティアはラックを背に肩を押さえつけられて動けなくなる。シティアは不思議そうに首を傾げた。
「シ、シティア……愛してル。私に勇気をくれないカ。最大の勇気を」
「蘭ちゃんのためならどんなことだってするよ! 何をすればいい?」
 どんなことでも……どんなことでも……どんなことでも……何度もシティアの言葉が脳内で繰り返され、蘭はごくっと唾を喉の奥に押しやって言い放った。
「私に身をゆだねてくレ……」
「う、うん」
「目を瞑って……唇をもっと突き出して……」
「う、うん?」
「力を抜いて……」
 蘭の手がシティアの腰に回り、徐々に脇腹を慈しむように撫でて上がり、横胸に到達する。さわさわと撫でられて、シティアは思わずピクンと肩を弾ませる。
「ら、蘭ちゃん……?」
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