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コノカ
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「なっ……何の話ダ!」
「シティアちゃん!? アンタ他処から来たのか!?」
「そ、それは……っ、」
シティアの頭の中は。何故アリシアがそのことを、どこまで知られているの、皆に幻滅されたくない、そんな当たり前の心配から。如何しよう、組織に迷惑を掛けちゃう。アリシアが上の人に報告したら組織に一体何をするか――彼処には仲間や友達だけでなく、家族だって保護された一般人達だっているのに! と言う処まで進む。
アリシアは眼前の蒼白になった顔を興味なさそうに無表情で見つめた儘。追い詰めるように鋭い声で吐いた。
「此の地上最大……いえ、地下最大の施設《シェルビー・ホール》への侵入は簡単だけれど、逃亡は不可能だと謂われているわ。と言っても、侵入を赦して罠に掛けるのが私達の目的なのだから当たり前ね」
くすり。と心底楽しそうに笑うアリシアを見て、シティアは戸惑った。彼女の笑顔は人を魅了し、安心させる力がある。しかし。
「いい道具が増えたわね。5人も……。最高だわ」
彼女には不相応の品物だった。
弁明の余地はなく。また、的外れでない自分達への攻撃に反論も出来ない。シティア、蘭、蓮、蔘、蕁へ、既に周囲からの違和感の視線が張り付いている。
やはり、視線になど興味がないのか、アリシアは悠々と教壇に戻って誰とも目を合わせずに語り出した。
「他処者の貴方達に教えてあげる。此処では一年毎にクラス替えがされるの。どんどん生徒が減っていくからよ。最終的に残るのは一人かゼロか。初めは30人程度いるわ。ここにいる方々が生き残っている理由は解るわよね? この方々は皆、教育係と信頼関係を築いて、仲間を売ってきた人達なのよ。ね、問題児でしょう? だから嘘付きが多いの。理解出来たかしら低脳さん達。貴方達も足元が掬われない様に気を付けてちょうだい」
ざわめきは最早最高レベルに達していた。互いを見合って動揺したり弁明したり、中には悲鳴を上げたり、適当な人を犯人に仕立て上げようとする者も出る。最初の静けさは嵐の前の、と言う奴だったのかと蓮が心中で考えていた時だ。
「あ、そうそう。何で教育係が突然死亡したか、教えてあげるわ」
シティアだけでなく、他生徒も知る由もなかった筈の内容をアリシアが切り出した。
「私が個人的に、貴方達に会いたかったからよ」
◇◇◇
「アリシア」
教育係用の個人室へ戻ろうとしていたのだろう、一層騒がしくなった教室の外でアリシアの背中に声が掛かる。彼女は悠然と振り返って、にこやかな笑みを浮かべた。
「あら梁翼牡蓮。何か用かしら」
「君の名前は何と言うんだ」
教育係と仲を深めて情報収集することも目的だが。
「今貴方自分で云ったじゃない」
「フルネームだ。俺達にも言わせたんだから教えてくれ」
彼女に一矢報いたいと言う気持ちの方が勝っていた。
「……私はアリシアよ。アリシア以外の何者でもないわ。貴方達は協力者がいた方が動きやすいでしょ。蓮。此れからはそう呼ぶわ。他の教育係や役員に聞かれたら大変だものね」
アリシアの提案に多少驚いたが、蓮は「違う」と立ち去ろうとする彼女の肩を掴んで引き止める。
「フルネームを教えてくれと言ったんだ。協力は頼んでいない、これは俺達に課せられた任務だ。君や他の人を巻き込む訳にはいかない」
「そう。───……フルネーム、ね……。A106SHAAよ」
「何?」
蓮の柳眉は歪に反り上がり、口角はゆっくりと上がった。
「私の名前。オトウサマに付けて貰った名前。此処では貴方しか知らないわ。余り他言しないでくれないかしら。もし誰かに話したら貴方の大事なお仲間を役員に売るわ」
「わかった。気を付けよう」
にこ、と業とらしい微笑みを浮かべてアリシアは去っていく。微笑み返した蓮はその背中を見詰めた後、歯軋りを立てて踵を返した。
「シティアちゃん!? アンタ他処から来たのか!?」
「そ、それは……っ、」
シティアの頭の中は。何故アリシアがそのことを、どこまで知られているの、皆に幻滅されたくない、そんな当たり前の心配から。如何しよう、組織に迷惑を掛けちゃう。アリシアが上の人に報告したら組織に一体何をするか――彼処には仲間や友達だけでなく、家族だって保護された一般人達だっているのに! と言う処まで進む。
アリシアは眼前の蒼白になった顔を興味なさそうに無表情で見つめた儘。追い詰めるように鋭い声で吐いた。
「此の地上最大……いえ、地下最大の施設《シェルビー・ホール》への侵入は簡単だけれど、逃亡は不可能だと謂われているわ。と言っても、侵入を赦して罠に掛けるのが私達の目的なのだから当たり前ね」
くすり。と心底楽しそうに笑うアリシアを見て、シティアは戸惑った。彼女の笑顔は人を魅了し、安心させる力がある。しかし。
「いい道具が増えたわね。5人も……。最高だわ」
彼女には不相応の品物だった。
弁明の余地はなく。また、的外れでない自分達への攻撃に反論も出来ない。シティア、蘭、蓮、蔘、蕁へ、既に周囲からの違和感の視線が張り付いている。
やはり、視線になど興味がないのか、アリシアは悠々と教壇に戻って誰とも目を合わせずに語り出した。
「他処者の貴方達に教えてあげる。此処では一年毎にクラス替えがされるの。どんどん生徒が減っていくからよ。最終的に残るのは一人かゼロか。初めは30人程度いるわ。ここにいる方々が生き残っている理由は解るわよね? この方々は皆、教育係と信頼関係を築いて、仲間を売ってきた人達なのよ。ね、問題児でしょう? だから嘘付きが多いの。理解出来たかしら低脳さん達。貴方達も足元が掬われない様に気を付けてちょうだい」
ざわめきは最早最高レベルに達していた。互いを見合って動揺したり弁明したり、中には悲鳴を上げたり、適当な人を犯人に仕立て上げようとする者も出る。最初の静けさは嵐の前の、と言う奴だったのかと蓮が心中で考えていた時だ。
「あ、そうそう。何で教育係が突然死亡したか、教えてあげるわ」
シティアだけでなく、他生徒も知る由もなかった筈の内容をアリシアが切り出した。
「私が個人的に、貴方達に会いたかったからよ」
◇◇◇
「アリシア」
教育係用の個人室へ戻ろうとしていたのだろう、一層騒がしくなった教室の外でアリシアの背中に声が掛かる。彼女は悠然と振り返って、にこやかな笑みを浮かべた。
「あら梁翼牡蓮。何か用かしら」
「君の名前は何と言うんだ」
教育係と仲を深めて情報収集することも目的だが。
「今貴方自分で云ったじゃない」
「フルネームだ。俺達にも言わせたんだから教えてくれ」
彼女に一矢報いたいと言う気持ちの方が勝っていた。
「……私はアリシアよ。アリシア以外の何者でもないわ。貴方達は協力者がいた方が動きやすいでしょ。蓮。此れからはそう呼ぶわ。他の教育係や役員に聞かれたら大変だものね」
アリシアの提案に多少驚いたが、蓮は「違う」と立ち去ろうとする彼女の肩を掴んで引き止める。
「フルネームを教えてくれと言ったんだ。協力は頼んでいない、これは俺達に課せられた任務だ。君や他の人を巻き込む訳にはいかない」
「そう。───……フルネーム、ね……。A106SHAAよ」
「何?」
蓮の柳眉は歪に反り上がり、口角はゆっくりと上がった。
「私の名前。オトウサマに付けて貰った名前。此処では貴方しか知らないわ。余り他言しないでくれないかしら。もし誰かに話したら貴方の大事なお仲間を役員に売るわ」
「わかった。気を付けよう」
にこ、と業とらしい微笑みを浮かべてアリシアは去っていく。微笑み返した蓮はその背中を見詰めた後、歯軋りを立てて踵を返した。
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