リクゴウシュ

隍沸喰(隍沸かゆ)

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ディーヴァ

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「カナタ……お前を殺させてもら────……ぅぐっ……!!」
 瞬間、ミドノは背中から飛んで、壁を突き抜けて学舎の外へと落ちる。
 奏がミドノのお腹に拳をとんと当てただけだった。それだけだった。それが、ディーヴァの力。
 お兄ちゃんから聞いた。
 種族の力は歌だけじゃないのだ。
 メインが歌なだけでパワーもあるはずだ。
 力がある者とない者が存在する、そしてその差は激しい。
 奏は力がある者の類い。
 強者の類い。
 この力を操れるようになれば、ミドノを止められる筈。
「奏……逃げろ……っ……」
 カナタは立たない、いや、立てないのだろう。服の間から血肉が見えた、瀕死と言ってもいいほどではないだろうか。
「──うん、逃げる──……」
「……そうか、安心し────…………そ、奏……!?」
「──カナタも一緒に……!」
 奏は呆けているカナタをあっさりと担いだ。
「お、おい、奏!? どう言うつもりだ……!」
 カナタは冷静じゃなくなっている。
 奏の肩で怒鳴っていた。
 そんなカナタに奏は少しだが、怒りを覚えた。
「そんなに私に生きてほしいの。そう、じゃああんたも生きなさいよ」
「そ、奏……?」
「私は殺される気はないし、死ぬ気もない。そりゃ、二人に命を狙われてるって知った時、どうすれば良いのか分からなくて、殺して欲しくないって思ったし、欲しいとも思った。でも、でもね、心の底では死にたくないって思った。生きたいって思った。例え寂しくても、生きなきゃならないって思った!」
 カナタは辛そうな顔をして押し黙っている。
「あと、一人で生きる気もしないから。そ、その……カナタがいないとダメなんだよね……。もちろんミドノも……」
 ──でも、
「何だよそれ────…………」
 奏がそれを告げた瞬間、かすかに口元が動いた気がした。
「────お前ってやっぱりバカなんじゃないのか……?」
 奏がそれに見とれた直後、廊下の奥の非常口の扉が開く。
 そこを開け放った人影は、黒い上着をはおり、息を切らし、血を滴らせる、日の光と赤銅色を纏う彼だった。
「おい! 奏!! 無事か!? 大きな音が聞こえた!」
「──お兄ちゃん……!!」
 奏は鼻に刺激を感じる、それと同時に目に違和感が生じた。
 ラドは奏のもとへ走り出す。
「逃げるぞ……! 援軍だ!」
 カナタを担いだまま歩き出すと、お兄ちゃんは愕然としていた。
 お兄ちゃんは珍しく少し強い口調で言い放つ。
「お前担ぐって女らしくないな……!!」
「うっさいわ!! カナタも連れていくの」
 奏もそれにつられ、強く返してしまった。
 ──奏に担がれる少年はその言葉に疑念を持つ。
「──…………え……?」
「さっき言ったでしょカナタ。一人で生きる気しないから」
 カナタは目を伏せ、拳に力を込める。
 奏がカナタとラドと、非常階段から学舎を出たら、落ちた空中都市から地上へ向けて歩いて行った。
 地上へ出ると、火薬と鉄の匂いが立ち込めていた。
 空は暗く、地面は焼け焦げ、人々は倒れ、血を流す。
 酷い光景だった。
 そんな見慣れた戦場を見ながら、カナタは朦朧としながら言った。
「奏……俺はお前を殺そうとした……」
「だから?」
「────……は……?」
 カナタは目を見開いている。
 奏の言ってる意味が分からない、そう思っているのだろう。
 カナタは私の言葉に────
「今度は一人で死ぬ気だったんでしょ?」
 ────胸を衝かれる。
 カナタは目を閉じ、開きを繰返し、最終的に目を閉じた。そしてため息を吐いた。今までため込んできましたと分かるほど、深いため息だった。
「ああ……そうだ」
「どうせならさ、一緒に、生きよう……?」
「…………」
「……」
 一時の沈黙が続く。カナタは呆れたように奏を見つめ、またため息を吐いたのだった。
「ああ、一緒に……い……きる……」
 カナタはその臭い台詞に、羞恥を感じたのか顔を赤くした。
 奏が前を向くために顔を上げると、カナタは優しく微笑んだ。安心したかのように目を細めて。
 奏も、安心して笑う。
 しかし。次の瞬間。
 それの安心を壊す声が鳴る。
「ダメだろ……」
 背筋が凍りついた。
 おぞましいほどの寒気が全身を襲う。
 その恐怖で体が動かない。
 ミドノが、こちらを見ていた。
 鋭く睨みを効かせたあの冷たい目でこちらを見ていた。
「ミドノ……」
 学園都市内に落ちたミドノは奏たちの姿を発見し、追って来たのだ。
 ミドノも優しく微笑んだ。
 ミドノの笑顔は発するドス暗いオーラとは違い、子供のもののように純粋だった。
「奏……待ってろ、今、殺してやるからな……」
 今のミドノの笑顔は亀裂入りの恐怖の絶景のようだ。
 奏は先程までのミドノの行為を思い出す。
 それに準ずるかのように再び恐怖を感じ出した。
 奏はカナタをラドに任せる。
 カナタはせっかく生きると言ってくれたのだ。笑ってくれたのだ。
 絶対に死なせるわけにはいかない。
「ミドノ……」
「どうした奏……言いたいことがあるみたいだな、言えよ……死ぬ前に」
「うん、…………」
 ミドノの間に、長い沈黙が生まれた。
 ――奏が、思ったこと。
 ミドノに、伝えたいこと。言いたい。
 言おう。
 奏はミドノへ、真剣な目を向ける。
 この時奏は人生で一番、目に力を入れた。
「──ミドノ……」
「何だ……」

「あんたキモい」
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