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ディーヴァ
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姫存軍飛行船内の個室。
小さな窓と、ベッド、と簡素な作りの個室にカナタは閉じ込められていた。
窓から見える景色はオレンジ色に染まっており、冷たい風も運んでくる。
内装は新しいらしく、綺麗だった。
その時、カシャンと扉の小窓が開き、男の太い眉と強い目が覗く。
「客だ」
男はそう告げるともう用がないと言わんばかりにすぐ様小窓を閉めた。
鉄扉の開かれる重たい音が鳴り、真っ赤なシャツと真っ黒なスカートを着たあの特徴的な少女が現れた。
薄めの茶髪の上に付けられた、ピンクのカチューシャも未だに健在だ。
「奏」
パッチリとした目がこちらを見ると、彼女は部屋の中に入ってきて、扉はゆっくりと音を立てて閉じられる。ガチャンと鍵の閉まる音がした。
「カナタ。私、もう一度ミドノに会ってくるよ」
「ダメだ!! あんな目にあったんだぞ、何を考えてる!」
カナタは弾けるように奏の両肩を掴んで言った。
「いいの。私、死ぬつもりはないよ。それに酷いことはされたけど殺されはしなかったし」
「あいつは本気でお前を殺そうとしてるんだぞ!!」
カナタの鬼気迫る顔を間近で受けて、奏は視線を足元へと移した。
「それでも行く。言ったでしょ、ミドノになら殺されてもいいの。だけど簡単に死ぬつもりはない。殺されるつもりはないの。これを話しに来ただけなんだ。もう行くね」
奏が身を翻そうとすると、彼女の肩を掴んでいた手が離れる。
しかし。
「行くな!!」
カナタは奏の胸も腹も両手で押さえつけ、彼女を胸の中に抑え込む。
「行くな、奏……!!」
「カ、カナタ」
互いに胸を合わせ、抱擁したまま動かなくなった。
「カ、カナタ。離して」
「ダメだ。アイツの元へなんか行かせられない。帰ってこないかもしれない。これが最後かもしれない」
「考えすぎよ」
「ラドさんは知ってるのか?」
「話してない。カナタに会うことは許してくれたけど、ミドノに会うことは許してくれてないと思うから」
「そうか」
カナタはゆっくりと、奏を抱く手を解き、言い放つ。
「俺はお前が好きだ」
「は?」
「好きだ」
「急に何よ!?」
奏は手をあっちらこっちらに振り回して盆踊りを踊るように動揺する。動揺の仕方が異常であることが一目で分かる。
「ちなみに恋愛感情だ、男女の、ラブの方の」
「わ、分かってるから黙りなさい!」
カナタの口を奏の手が押さえると、カナタはその手に手を重ねてきて、口をつけてくる。
ぬあああああああああッ!? ぬああにぃをするううううううううッ!?
奏が真っ赤になってぬおおおおッぬおおおおッと自分の手を引っ張っていると、その手が離され、奏はバランスを崩し転けそうになる。それを抱きとめたカナタの顔があまりにも近くて思わず目を瞑ると、ふわりと額に何かが触れてくる。
カナタの前髪だ。
そう分かったのは、彼のシャンプーの匂いがしたからだ。
鼻先がぶつかり、唇に吐息が掛かる。
奏がひょえ、と思った時だった。
カナタの匂いが広がり、独特な感触が唇の上に広がる。
「んぐぅ」
まったく色気ない声を上げて奏が目を開けると、すぐ傍でカナタの長い睫毛が伏せられており、やっとこさ状況を悟る。
初めてのキスが、奪われた。
初めてのキスは、キスが終わるその時までしつこく唇同士が引っ付き、離れがたそうにしていた。
その弾力も、しっとりとした柔らかすぎる感触も、奏は初めてで、カナタに解放された後、動揺してゴキブリのように壁や床を這い回った。
「ッ何すんのよ!!」
弾かれたように言う奏を見て、カナタは無表情で答える。
「浮気だな。ミドノと別れた方がいいんじゃないか」
「ワイ!? 勝手にされたんですけど!!」
「犬に噛まれたとでも思っててくれ」
「な、なんて勝手な」
カナタは満足したのか、去ろうとする奏を止めなかった。
だから奏は安心して自分の部屋に戻った。
数刻後、部屋を訪ねてきたラドから、カナタが逃亡したと知らされた。
奏は、なぜ、と頭を抱える。
カナタは奏を止めなかった。
カナタは奏がミドノと会ったら最後、助からないと思った。
だから奏を止めなかった。
自分がミドノを殺すと、誓ったからだ。
ラドが頭を抱える奏に言う。
「奏はカナタもミドノも止めろ」
そう言って、ラドはカナタの向かうであろう避難用小型船の保管場所へ走る。
しかし、着いた頃には空と繋がるシャッターは開きっぱなしで、小型船は2機ある内の1機が既に姿を消していた。
周囲は分厚い雲に囲まれており、小型船の姿は見当たらない。
完全に逃げ切られてしまった。
それでも諦めずに、ラドは避難用の小型船を操縦しカナタの後を追った。
部屋に残っていた奏の元には、リカコが訪ねて来て、奏は《二人を止める》ために、彼女の指導を受けることになった。
小さな窓と、ベッド、と簡素な作りの個室にカナタは閉じ込められていた。
窓から見える景色はオレンジ色に染まっており、冷たい風も運んでくる。
内装は新しいらしく、綺麗だった。
その時、カシャンと扉の小窓が開き、男の太い眉と強い目が覗く。
「客だ」
男はそう告げるともう用がないと言わんばかりにすぐ様小窓を閉めた。
鉄扉の開かれる重たい音が鳴り、真っ赤なシャツと真っ黒なスカートを着たあの特徴的な少女が現れた。
薄めの茶髪の上に付けられた、ピンクのカチューシャも未だに健在だ。
「奏」
パッチリとした目がこちらを見ると、彼女は部屋の中に入ってきて、扉はゆっくりと音を立てて閉じられる。ガチャンと鍵の閉まる音がした。
「カナタ。私、もう一度ミドノに会ってくるよ」
「ダメだ!! あんな目にあったんだぞ、何を考えてる!」
カナタは弾けるように奏の両肩を掴んで言った。
「いいの。私、死ぬつもりはないよ。それに酷いことはされたけど殺されはしなかったし」
「あいつは本気でお前を殺そうとしてるんだぞ!!」
カナタの鬼気迫る顔を間近で受けて、奏は視線を足元へと移した。
「それでも行く。言ったでしょ、ミドノになら殺されてもいいの。だけど簡単に死ぬつもりはない。殺されるつもりはないの。これを話しに来ただけなんだ。もう行くね」
奏が身を翻そうとすると、彼女の肩を掴んでいた手が離れる。
しかし。
「行くな!!」
カナタは奏の胸も腹も両手で押さえつけ、彼女を胸の中に抑え込む。
「行くな、奏……!!」
「カ、カナタ」
互いに胸を合わせ、抱擁したまま動かなくなった。
「カ、カナタ。離して」
「ダメだ。アイツの元へなんか行かせられない。帰ってこないかもしれない。これが最後かもしれない」
「考えすぎよ」
「ラドさんは知ってるのか?」
「話してない。カナタに会うことは許してくれたけど、ミドノに会うことは許してくれてないと思うから」
「そうか」
カナタはゆっくりと、奏を抱く手を解き、言い放つ。
「俺はお前が好きだ」
「は?」
「好きだ」
「急に何よ!?」
奏は手をあっちらこっちらに振り回して盆踊りを踊るように動揺する。動揺の仕方が異常であることが一目で分かる。
「ちなみに恋愛感情だ、男女の、ラブの方の」
「わ、分かってるから黙りなさい!」
カナタの口を奏の手が押さえると、カナタはその手に手を重ねてきて、口をつけてくる。
ぬあああああああああッ!? ぬああにぃをするううううううううッ!?
奏が真っ赤になってぬおおおおッぬおおおおッと自分の手を引っ張っていると、その手が離され、奏はバランスを崩し転けそうになる。それを抱きとめたカナタの顔があまりにも近くて思わず目を瞑ると、ふわりと額に何かが触れてくる。
カナタの前髪だ。
そう分かったのは、彼のシャンプーの匂いがしたからだ。
鼻先がぶつかり、唇に吐息が掛かる。
奏がひょえ、と思った時だった。
カナタの匂いが広がり、独特な感触が唇の上に広がる。
「んぐぅ」
まったく色気ない声を上げて奏が目を開けると、すぐ傍でカナタの長い睫毛が伏せられており、やっとこさ状況を悟る。
初めてのキスが、奪われた。
初めてのキスは、キスが終わるその時までしつこく唇同士が引っ付き、離れがたそうにしていた。
その弾力も、しっとりとした柔らかすぎる感触も、奏は初めてで、カナタに解放された後、動揺してゴキブリのように壁や床を這い回った。
「ッ何すんのよ!!」
弾かれたように言う奏を見て、カナタは無表情で答える。
「浮気だな。ミドノと別れた方がいいんじゃないか」
「ワイ!? 勝手にされたんですけど!!」
「犬に噛まれたとでも思っててくれ」
「な、なんて勝手な」
カナタは満足したのか、去ろうとする奏を止めなかった。
だから奏は安心して自分の部屋に戻った。
数刻後、部屋を訪ねてきたラドから、カナタが逃亡したと知らされた。
奏は、なぜ、と頭を抱える。
カナタは奏を止めなかった。
カナタは奏がミドノと会ったら最後、助からないと思った。
だから奏を止めなかった。
自分がミドノを殺すと、誓ったからだ。
ラドが頭を抱える奏に言う。
「奏はカナタもミドノも止めろ」
そう言って、ラドはカナタの向かうであろう避難用小型船の保管場所へ走る。
しかし、着いた頃には空と繋がるシャッターは開きっぱなしで、小型船は2機ある内の1機が既に姿を消していた。
周囲は分厚い雲に囲まれており、小型船の姿は見当たらない。
完全に逃げ切られてしまった。
それでも諦めずに、ラドは避難用の小型船を操縦しカナタの後を追った。
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