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ディノル
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「軍の人とのお話が終わったから、今から探検に行ってくる」とラ矢に伝えれば、お友達とかなり仲良くなったらしく、「帰って来ないでいいからさっさと行って」と言われてしまった。
「酷い妹だよ全く。あんなに一緒に行く行くって甘えてきたと思ったらあれだよ? いってらっしゃいも言ってくれたのに今度は言ってくれなかったし。まったく」
あの衝撃的な出会いの日から、何度往復したか分からなくなってしまった道を進んでいれば、見慣れた砂山が見えてくる。まあ元は超高層ビルなんだけど。
「超高層ビル群か……行ってもどうせ、いないよなぁ。もう出てっちゃったのかなぁ。それともあのビルのどれかのどこかの階数に住んでるのか? 部屋も大量だしな……何号室だろ。見つけるのは無理そうだ」
別に会いたい訳じゃないけど、気になって仕方がない。ちゃんとご飯食べてるのかとか、あれからまた人を殺してるんじゃないかとか、寂しい思いをしたままなんじゃないかとか、また歌ってたり、泣いてたりしてないかとか。
「あああああああもう! 俺優しすぎる! 今までは他の奴らを蹴落としてでも家族を守るって非人情的行為ばかり繰り返してきたというのに! そう、この盗んだおむすびのように……! だってあんなにいっぱい入れてくれるなんて思わないじゃんよ~」
13個は貰ったが、それと別に1個は懐でローストオムスビにすくすく育てていたのだ。
「あいつお腹空かせてるかもしれないし……あー俺ってなんでこう優しくて素直で…………おぉー……」
赤い海があった場所の手前に辿り着くと、南栄軍の清掃員たちが一所懸命に掃除をしている姿が見えた。
不気味だと震える者やバケツに嘔吐している者もいる。いくら場慣れした清掃員さんたちでもこの光景は惨いと感じるのだろう。
彼らはどんな風に処理しているんだろうか。茶飯のように証明できないことを理解しようとして適当な答えを探すんだろうか。
「知りたいだけなんだ。正体を。そうすればあいつは寂しい思いをしなくて済む……」
――って、また口から出してしまった気がするぞ!
最近変だ。変過ぎる。
ずっと心細い、胸にぽっかり穴が開いたみたいな喪失感と、手を伸ばし続けているような焦燥感がある。
「……会いたいのかな。まさかな」
もうやめよう。あいつのことを考えることも、あの日のことを思い出すことも。ここに来ることも。
それから、この町に留まることも。
明日にはチビたちを連れてこの町から出よう。
……あの集団は、南栄軍ではない。
茶飯は南栄軍が殺気立っていたと言っていた。そして、清掃員の人達からも長い争いによる疲れが見える。飢えが見える。もし彼らが、この町で自分達の仲間が自分達の食糧を見知らぬ人々に与えていると知ったらどうなるだろう。
戦闘が起きたことを知っていた筈なのに、仲間が飢えていると知っていた筈なのに、奴らが助けに行かなかったのは何故だろう?
ここから一番近い基地にご飯がたくさんある筈なのに、どうして飢えた彼らはそちらへ行かなかったんだろう?
餓えた仲間がいると知っている筈なのに、食糧の配給が行われていたのはそこからかなり遠い場所だった。これは裏切り行為がバレて報復を受けないよう、隠れながら配給していると考えてもいいのだろうが……。
そもそも仲間ではなく、なりすましだったとしたなら合点がいく。
見方を変えるだけで色々なことが見えてくるものだ。
軍隊にしては、綺麗すぎる。彼らは争いによる疲れが見えない、むしろ生き生きとしている。そして全員が人を観察することが好きらしい。
ご飯には変なモノは入っていなかった……。町に住む人々があの場にいた人々で全員だと、知っていたのは――把握していたのはなぜだ。明日には死ぬかもしれない人を、いちいち覚えるだろうか。
親しくして、餌を与えて、この場所に縛り付ける。
脳をマヒさせるようなあの美しい歌声、思い出しただけでもまた聞きたいと依存する。
油断させて、心を許させて……一番ここが幸せなのだと洗脳していく。
人が少ないのは……ユヤのせいではない。
数年前に完治したような傷はあったようだけれど、最近受けた外傷はなかった。
傷もないのに、薬品の匂いがした――……。
奴らは南栄軍の仲間が大勢殺されていると言ったが、あの子供のせいではないだろう。あんな出来事を何度も起こしていたら、あんなところに軍隊が集まる筈がないのだ。
正体不明の大量虐殺が行われる場所に、何度も何度も行って殺されたなら、南栄軍は既に人員不足で崩壊している。ユヤを恐れるように、ビル群のことも恐れ、近づかなくなるだろう。
なら誰がやったのか。武軍か? いいや、俺が武軍から出てきたのは最近だ。そして南栄軍が動き始めたとお父さんが警戒し始めたのも最近だ。
じゃあ、なぜ茶飯の見た南栄軍は殺気立ち、俺の見た南栄軍の清掃員たちは疲労しているのか。
――彼らは武軍ではない別の敵と、長い間戦っていたのだろう。
…………崩壊して建物の形も残らないような町中に、中くらいの基地――そんなものが建ってしまったら誰にでも分かる。
でもそんなものは一切見たことがない。そもそも存在していない。
周辺に基地がないなら、奴らはどこから来ているんだろう。
別にルートがあるとするなら。海の町を好んでいるとするなら。海から来たなら。海の向こう側に、基地がある。
研究者が総出で調べたにもかかわらず、誰にも考え付かず、証明されてもいない、ユヤの浮いている可能性。もしあの時、刺さっている可能性、を先に上げていたら。どう言う反応をしたのだろう。
――――――――奴らの基地は。
―――――――……………………ユヤだ。
「酷い妹だよ全く。あんなに一緒に行く行くって甘えてきたと思ったらあれだよ? いってらっしゃいも言ってくれたのに今度は言ってくれなかったし。まったく」
あの衝撃的な出会いの日から、何度往復したか分からなくなってしまった道を進んでいれば、見慣れた砂山が見えてくる。まあ元は超高層ビルなんだけど。
「超高層ビル群か……行ってもどうせ、いないよなぁ。もう出てっちゃったのかなぁ。それともあのビルのどれかのどこかの階数に住んでるのか? 部屋も大量だしな……何号室だろ。見つけるのは無理そうだ」
別に会いたい訳じゃないけど、気になって仕方がない。ちゃんとご飯食べてるのかとか、あれからまた人を殺してるんじゃないかとか、寂しい思いをしたままなんじゃないかとか、また歌ってたり、泣いてたりしてないかとか。
「あああああああもう! 俺優しすぎる! 今までは他の奴らを蹴落としてでも家族を守るって非人情的行為ばかり繰り返してきたというのに! そう、この盗んだおむすびのように……! だってあんなにいっぱい入れてくれるなんて思わないじゃんよ~」
13個は貰ったが、それと別に1個は懐でローストオムスビにすくすく育てていたのだ。
「あいつお腹空かせてるかもしれないし……あー俺ってなんでこう優しくて素直で…………おぉー……」
赤い海があった場所の手前に辿り着くと、南栄軍の清掃員たちが一所懸命に掃除をしている姿が見えた。
不気味だと震える者やバケツに嘔吐している者もいる。いくら場慣れした清掃員さんたちでもこの光景は惨いと感じるのだろう。
彼らはどんな風に処理しているんだろうか。茶飯のように証明できないことを理解しようとして適当な答えを探すんだろうか。
「知りたいだけなんだ。正体を。そうすればあいつは寂しい思いをしなくて済む……」
――って、また口から出してしまった気がするぞ!
最近変だ。変過ぎる。
ずっと心細い、胸にぽっかり穴が開いたみたいな喪失感と、手を伸ばし続けているような焦燥感がある。
「……会いたいのかな。まさかな」
もうやめよう。あいつのことを考えることも、あの日のことを思い出すことも。ここに来ることも。
それから、この町に留まることも。
明日にはチビたちを連れてこの町から出よう。
……あの集団は、南栄軍ではない。
茶飯は南栄軍が殺気立っていたと言っていた。そして、清掃員の人達からも長い争いによる疲れが見える。飢えが見える。もし彼らが、この町で自分達の仲間が自分達の食糧を見知らぬ人々に与えていると知ったらどうなるだろう。
戦闘が起きたことを知っていた筈なのに、仲間が飢えていると知っていた筈なのに、奴らが助けに行かなかったのは何故だろう?
ここから一番近い基地にご飯がたくさんある筈なのに、どうして飢えた彼らはそちらへ行かなかったんだろう?
餓えた仲間がいると知っている筈なのに、食糧の配給が行われていたのはそこからかなり遠い場所だった。これは裏切り行為がバレて報復を受けないよう、隠れながら配給していると考えてもいいのだろうが……。
そもそも仲間ではなく、なりすましだったとしたなら合点がいく。
見方を変えるだけで色々なことが見えてくるものだ。
軍隊にしては、綺麗すぎる。彼らは争いによる疲れが見えない、むしろ生き生きとしている。そして全員が人を観察することが好きらしい。
ご飯には変なモノは入っていなかった……。町に住む人々があの場にいた人々で全員だと、知っていたのは――把握していたのはなぜだ。明日には死ぬかもしれない人を、いちいち覚えるだろうか。
親しくして、餌を与えて、この場所に縛り付ける。
脳をマヒさせるようなあの美しい歌声、思い出しただけでもまた聞きたいと依存する。
油断させて、心を許させて……一番ここが幸せなのだと洗脳していく。
人が少ないのは……ユヤのせいではない。
数年前に完治したような傷はあったようだけれど、最近受けた外傷はなかった。
傷もないのに、薬品の匂いがした――……。
奴らは南栄軍の仲間が大勢殺されていると言ったが、あの子供のせいではないだろう。あんな出来事を何度も起こしていたら、あんなところに軍隊が集まる筈がないのだ。
正体不明の大量虐殺が行われる場所に、何度も何度も行って殺されたなら、南栄軍は既に人員不足で崩壊している。ユヤを恐れるように、ビル群のことも恐れ、近づかなくなるだろう。
なら誰がやったのか。武軍か? いいや、俺が武軍から出てきたのは最近だ。そして南栄軍が動き始めたとお父さんが警戒し始めたのも最近だ。
じゃあ、なぜ茶飯の見た南栄軍は殺気立ち、俺の見た南栄軍の清掃員たちは疲労しているのか。
――彼らは武軍ではない別の敵と、長い間戦っていたのだろう。
…………崩壊して建物の形も残らないような町中に、中くらいの基地――そんなものが建ってしまったら誰にでも分かる。
でもそんなものは一切見たことがない。そもそも存在していない。
周辺に基地がないなら、奴らはどこから来ているんだろう。
別にルートがあるとするなら。海の町を好んでいるとするなら。海から来たなら。海の向こう側に、基地がある。
研究者が総出で調べたにもかかわらず、誰にも考え付かず、証明されてもいない、ユヤの浮いている可能性。もしあの時、刺さっている可能性、を先に上げていたら。どう言う反応をしたのだろう。
――――――――奴らの基地は。
―――――――……………………ユヤだ。
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