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ディノル
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いつもはある程度町を探検してから住むかどうか決めるけれど、今は探検出来るほどの体力なんかない。まずご飯……いやご飯が手に入ったらチビたちに食べさせないと……。
商人探しからした方が良いかな。ご飯売ってるかなー。
楽ドが人影を探しつつ、逃亡ルート等を決めていると。焦げたような香りがしてくる。それと一緒に…………
――ん?
何だ? この美味しそうな匂い。俺はこの匂いを知っている気がする――……
「――……これは!! もしやローストティキンの香りか!? どこだ!? どこだー!!」
匂いを頼りに走り回り、それでも見つからないので地面に這いつくばって鼻をぴったりくっ付けて進む。
「――……こっちか。こっちからなんか匂う気がする」
楽ドは匂いに導かれるまま這いつくばって進んでいる間に、辺りが暗くなっていることに気が付いた。楽ドはハッとして、顔を上げ、硬直してしまった。
彼の視線の先には、見たこともない高さのビル群が広がっていた。
この辺りはある程度、建物の形が保たれているらしい。どれも建物とは思えない不思議な形をしている。形が保てている建物自体が珍しいので、楽ドは高層ビルと言う存在すら知らなかった。
もっとも、楽ドの目の前にあるビル群は高層ビル群ではなく、すべてが100~200階以上、700~800メートル以上の超高層ビル群だったが。彼はそんなことを知る由もない。
最上階は見えず、天に届きそうなほど高い。そんなビル群が青い空を覆い隠してしまうくらいに並んでいる。その姿に楽ドは圧倒される。
どれも立派だけれど、崩壊しないと言う保証はなく、安全とも言えないため、住んでいる人はいなさそうだ。
ヒビ割れたアスファルトの上を歩き、奥へ進んでいけば、匂いはだんだんと濃くなっていく。
これって、血の匂いか? 夢中になって辿っていたらいつの間にかあの焦げた匂いもなくなっている。なんだぁ……ご飯じゃなかったのかぁ……。でも変だな。なんか……。
……最近、この辺で争いでもあったのか?
ビル群に入ってから匂いが濃くなり、進めば進むほど辺りに血の匂いが充満していく。まるで血の塊を顔に押し付けられているみたいに、匂いが身体の中に直接入ってくるような感じがする。
……悪臭ではない。悪臭の類いは武軍の基地にいた頃にはあまり嗅いだことのない香りだったけれど。町に出てからはしょっちゅう嗅いでいた。小規模ではあるとは言え、戦場の匂いを知っている。自分の匂いも同じように変わっているかもしれない。
――いやいや、待て待て。
辺り一面にむせ返るようなこの匂いは――知らない。
――大量の知らない匂いがする。いや、これはたった一つの香りだ。火薬のにおいもしない、汗とあかの酷い体臭もしない。本当に血の匂いか? 似ているけれど――一切汚れのない、純粋な香りだ。匂いを嗅いだ時に恐怖が感じられない。分からない。知らない。
軍隊か? 彼らは基地にさえ戻れば、温かいお風呂と綺麗な水で一時的な清潔さを保てる。だが、武器が豊富な彼らなら争った後には必ず火薬の匂いがする筈だ。
楽ドは、争いがある、または、争いがあった方へは行かない。
火薬の匂いや人の焼ける匂い、腐った匂いがあれば、その周辺で軍隊による争いが起きたと考える。国同士ではない小規模の争いではあるが、軍と言う組織であるため、その後の処理も行われるので見つかると厄介だ。また、立ち寄った時は争いの後であるため、腐った死体などもあり、余計に匂っているのかもしれない。
もちろん、立ち寄らない理由は争いに巻き込まれない為だが……その匂いを嗅ぐと、危険から逃れる為の人間の本能なのか、足が進まなくなってしまうのも理由だ。
何の匂いか分からずに一度だけ、その争いの後の現場へ向かおうとしたことがあった。数えきれないくらいの人が倒れ、呻き声をあげている。その時楽ドは歩いて来た道に振り返り、ひたすら走った。夜は魘されるようになり、ご飯も喉を通らなくなった。今では元通りだが、時々その時のことを考えてしまう。自分の親もあんな風に死んだのかと、自分達もいずれあんな風に死んでいくのかと、本当にあの時、倒れていた人々は呻き声をあげていたのか、と。本当はもう声一つ発せないまま死んでいたんじゃないかと。
しかし。ここではあの独特な感覚が、異様な空気が、一切感じられない。だから楽ドは、ここまで来てしまっているのだ。
まるで意志を感じられない。生も死も存在しない。なのに、血の匂いが――人の匂いが、異常なくらい、自分の身体の中まで含めて、立ち込めている。匂いの原因を集めて凝縮したかのように。匂いがみなぎっている。
いったい、この先に、何が。
「あっ」
進んだ先の道に――楽ドの視界に、キラキラと輝く海が見えた。
「――っ」
美しい、自然界の赤い海が。
違う――これは!! この道はだめだ!!
この先に進んだらいけない……っ!!
楽ドの足はひたすら動いた。以前と同じように、危険から逃れる為に。
「―――――――――っ、…………なんでっ」
――なんで、前に進んでいるんだろう?
商人探しからした方が良いかな。ご飯売ってるかなー。
楽ドが人影を探しつつ、逃亡ルート等を決めていると。焦げたような香りがしてくる。それと一緒に…………
――ん?
何だ? この美味しそうな匂い。俺はこの匂いを知っている気がする――……
「――……これは!! もしやローストティキンの香りか!? どこだ!? どこだー!!」
匂いを頼りに走り回り、それでも見つからないので地面に這いつくばって鼻をぴったりくっ付けて進む。
「――……こっちか。こっちからなんか匂う気がする」
楽ドは匂いに導かれるまま這いつくばって進んでいる間に、辺りが暗くなっていることに気が付いた。楽ドはハッとして、顔を上げ、硬直してしまった。
彼の視線の先には、見たこともない高さのビル群が広がっていた。
この辺りはある程度、建物の形が保たれているらしい。どれも建物とは思えない不思議な形をしている。形が保てている建物自体が珍しいので、楽ドは高層ビルと言う存在すら知らなかった。
もっとも、楽ドの目の前にあるビル群は高層ビル群ではなく、すべてが100~200階以上、700~800メートル以上の超高層ビル群だったが。彼はそんなことを知る由もない。
最上階は見えず、天に届きそうなほど高い。そんなビル群が青い空を覆い隠してしまうくらいに並んでいる。その姿に楽ドは圧倒される。
どれも立派だけれど、崩壊しないと言う保証はなく、安全とも言えないため、住んでいる人はいなさそうだ。
ヒビ割れたアスファルトの上を歩き、奥へ進んでいけば、匂いはだんだんと濃くなっていく。
これって、血の匂いか? 夢中になって辿っていたらいつの間にかあの焦げた匂いもなくなっている。なんだぁ……ご飯じゃなかったのかぁ……。でも変だな。なんか……。
……最近、この辺で争いでもあったのか?
ビル群に入ってから匂いが濃くなり、進めば進むほど辺りに血の匂いが充満していく。まるで血の塊を顔に押し付けられているみたいに、匂いが身体の中に直接入ってくるような感じがする。
……悪臭ではない。悪臭の類いは武軍の基地にいた頃にはあまり嗅いだことのない香りだったけれど。町に出てからはしょっちゅう嗅いでいた。小規模ではあるとは言え、戦場の匂いを知っている。自分の匂いも同じように変わっているかもしれない。
――いやいや、待て待て。
辺り一面にむせ返るようなこの匂いは――知らない。
――大量の知らない匂いがする。いや、これはたった一つの香りだ。火薬のにおいもしない、汗とあかの酷い体臭もしない。本当に血の匂いか? 似ているけれど――一切汚れのない、純粋な香りだ。匂いを嗅いだ時に恐怖が感じられない。分からない。知らない。
軍隊か? 彼らは基地にさえ戻れば、温かいお風呂と綺麗な水で一時的な清潔さを保てる。だが、武器が豊富な彼らなら争った後には必ず火薬の匂いがする筈だ。
楽ドは、争いがある、または、争いがあった方へは行かない。
火薬の匂いや人の焼ける匂い、腐った匂いがあれば、その周辺で軍隊による争いが起きたと考える。国同士ではない小規模の争いではあるが、軍と言う組織であるため、その後の処理も行われるので見つかると厄介だ。また、立ち寄った時は争いの後であるため、腐った死体などもあり、余計に匂っているのかもしれない。
もちろん、立ち寄らない理由は争いに巻き込まれない為だが……その匂いを嗅ぐと、危険から逃れる為の人間の本能なのか、足が進まなくなってしまうのも理由だ。
何の匂いか分からずに一度だけ、その争いの後の現場へ向かおうとしたことがあった。数えきれないくらいの人が倒れ、呻き声をあげている。その時楽ドは歩いて来た道に振り返り、ひたすら走った。夜は魘されるようになり、ご飯も喉を通らなくなった。今では元通りだが、時々その時のことを考えてしまう。自分の親もあんな風に死んだのかと、自分達もいずれあんな風に死んでいくのかと、本当にあの時、倒れていた人々は呻き声をあげていたのか、と。本当はもう声一つ発せないまま死んでいたんじゃないかと。
しかし。ここではあの独特な感覚が、異様な空気が、一切感じられない。だから楽ドは、ここまで来てしまっているのだ。
まるで意志を感じられない。生も死も存在しない。なのに、血の匂いが――人の匂いが、異常なくらい、自分の身体の中まで含めて、立ち込めている。匂いの原因を集めて凝縮したかのように。匂いがみなぎっている。
いったい、この先に、何が。
「あっ」
進んだ先の道に――楽ドの視界に、キラキラと輝く海が見えた。
「――っ」
美しい、自然界の赤い海が。
違う――これは!! この道はだめだ!!
この先に進んだらいけない……っ!!
楽ドの足はひたすら動いた。以前と同じように、危険から逃れる為に。
「―――――――――っ、…………なんでっ」
――なんで、前に進んでいるんだろう?
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