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ディノル
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西暦三○○〇年九月現在、鹿児島県鹿児島市は戦場となり果てていた。
鹿屋市上空に突如現れた未知の空中都市《ユヤ》による一方的な攻撃により、ほとんどの人類が地球から逃げ出した。宇宙に出た彼らがどうなったかは、残った人類には分からなかった。
地球には復旧も不可能なほど崩壊した町と、辺り一面焼け野原になった世界だけが残った。残された人類たちは住居と食糧を失った状況で、それらを手に入れるために争った。
その中には協力関係を結び、グループを結成する者も現れた。やがて彼らが成長し、今では巨大勢力となり、軍隊を名乗る組織まで現れた。
現在、鹿児島市内でもっとも力のある組織は、その軍隊を名乗るレベルの組織だ。
彼らは《武軍》と名乗り、武に現れたグループが巨大化した組織で、今では旧鹿児島中央駅付近を拠点に周辺の町を牛耳っている。
それ以外にも複数の建物を基地としている。組織が巨大化したためか、復旧不可能とされていた建物も立て直し、次々に基地を作っているのだ。もはや彼等に対抗できるのは同程度の勢力になりつつある二番目と三番目に強い《春日軍》と《南栄軍》だろう。
弱小組織は育っても育たなくても、やがては巨大化した組織に飲まれていくスタイルなので、もしかしたらその二つも武軍に敗北した暁には彼らに吸収されてしまうかもしれない。
鹿児島市内の三大勢力である武軍、春日軍、南栄軍は現在も絶賛戦争中であり、その他の弱小組織同士による縄張り争いや、食糧の奪い合いのような小さな戦争は何度も起きている。
鹿児島市内と言う小さな場所で……と、言いたい処だが。争いは日本全土、いやそれ以上、世界各国で繰り広げられている。最悪人っ子一人いない国がごろごろあるだろう。ユヤの破壊行為と宇宙への逃亡、そして地球全体で発生している戦争により、人類は未だに滅亡の道を辿っているのだ。
そんな戦争の真っただ中の町に、子供がひとり、立っていた。
その子供は周囲の警戒もせず、崩壊した建物群の中にぽつんと立っている。誰から見ても珍しい姿だった。せめて瓦礫に身を隠すなどしてくれたなら、子供のいる姿などは珍しくもなんともないのだが。
何より戦場にはそぐわないスーツ姿であることが彼の存在を際立たせていた。
町にいるのは一般人がほとんどなのだからスーツを着た大人なら多くいると思うだろうが、それは生きていくうえで失われつつあった。
彼らが着ている服に上着やネクタイ、ベルト等が残っているのも珍しい。身体を隠す目的で身に付けるならズボンとシャツで足りるのだ。むしろ動きにくいと思い、邪魔になる部分は脱いでいっただろう。ベルトは紐の代わりや、鞭の代わりに使われていたのを見たことがある。ネクタイや、上着を細く裂いたモノを、縄に代用した者や大きく裂きただの布に変えた者、それを金に変えようと売った者もいるかもしれない。服の形を残した者ならさらに高値で取引されているだろう。
夏は服を売り、冬へ近づくと多くの人がコートや動物の毛皮等を買い求める。他にも水や食糧を売っているグループなどもいて、人類が滅亡しそうな今でも相変わらずお金は必要だ。彼らは売り物を強奪されることもしばしばあるようだ。むしろ狙われやすいと言ってもいい。
もう九月なので、そろそろ寒さ対策をした方がいいのかもしれない。スーツでは冬の寒さが凌げない。子供は風の子と言うし、もう冬でも動きやすい体操服で――半そで短パンでいいのでは――……怪我の確率と他もろもろの確率が上がるのでオススメはしないが。ジャージ姿の少年くらいならいるだろう。
上記の通り、一般人だらけの世界ではあるが、大人でも子供でもスーツを着ていることが珍しかった。そんな世界で子供は、真っ黒のネクタイをして真っ黒のスーツを着て、動くそぶりを見せずにただその場にぽけーっと突っ立っている。
「……………………」
しばらくして、彼は不思議そうに辺りを見渡したあと、呟いた。
「ん~ローストチキン落ちてないな~」
てけてけと歩いて、瓦礫の下を覗き込む。
「え~ローストビーフも見当たらないな~」
とてとてと歩いて、石ころの下を覗き込む。
「いやいや、欲張りは言ってられないよな。ここは戦場なんだ。美味しいご飯がそう簡単に手に入るわけないんだ。ローストが付くなら何でも食べ物だ。ローストチキンの産んだローストエッグくらいなら落ちてそうだな」
そろそろと歩いて、人間の下を覗き込む。
「ローストコインとローストペーパー発見! おおたっぷり落ちてたな! あっても意味ないんだけどな~。まあ懐で飼うことくらいならできるだろ。生き物ゆえ、責任をもって育てよ。何と愛らしい! ありがたく頂戴いたしまする!」
正確には人間――大人の男の下に落ちていたロースト財布からロースト硬貨とロースト札を頂いたわけだ。しかし、それを懐にしまったとたん、男の目が開き少年を凝視する。
「何してんだテメエ……」
「……………………生きてたのか。良かった。心配してたんだぞ」
「……………………」
「……………………」
少年はおもむろに立ち上がり、建物群のある方へ全力疾走した。しかし男は目を三角にして口から威嚇の声を出してぴったり背中にくっついてくる。
「待てこのガキイイイイイ! ただじゃおかねえ!」
「死体だと思ったのに、死体だと思ったのに! 死体が動いてる! 死体が動いてる! ゾンビだあああああ!」
「誰がゾンビだ! 捕まえて売りさばいてやる!」
物を売る者たち――自称商人たちは、商売をする。どんな商品があり、それにはどんな機能があり、それがどれほど魅力的であるか、値段を教え、時には交渉して売りさばく。これだけで、物を多く、そしてお金を多く持っていると周囲に知らしめてしまうのだ。だから彼らよりも強い者たちからの強奪が起きやすく、最悪脅されて盗みまで働かされる。強者からの強奪や脅しだけでなく、弱者からも商品や金の盗みをされやすい。大人から子供まで、油断ならないのだ。
今回の少年もそうだった。
鹿屋市上空に突如現れた未知の空中都市《ユヤ》による一方的な攻撃により、ほとんどの人類が地球から逃げ出した。宇宙に出た彼らがどうなったかは、残った人類には分からなかった。
地球には復旧も不可能なほど崩壊した町と、辺り一面焼け野原になった世界だけが残った。残された人類たちは住居と食糧を失った状況で、それらを手に入れるために争った。
その中には協力関係を結び、グループを結成する者も現れた。やがて彼らが成長し、今では巨大勢力となり、軍隊を名乗る組織まで現れた。
現在、鹿児島市内でもっとも力のある組織は、その軍隊を名乗るレベルの組織だ。
彼らは《武軍》と名乗り、武に現れたグループが巨大化した組織で、今では旧鹿児島中央駅付近を拠点に周辺の町を牛耳っている。
それ以外にも複数の建物を基地としている。組織が巨大化したためか、復旧不可能とされていた建物も立て直し、次々に基地を作っているのだ。もはや彼等に対抗できるのは同程度の勢力になりつつある二番目と三番目に強い《春日軍》と《南栄軍》だろう。
弱小組織は育っても育たなくても、やがては巨大化した組織に飲まれていくスタイルなので、もしかしたらその二つも武軍に敗北した暁には彼らに吸収されてしまうかもしれない。
鹿児島市内の三大勢力である武軍、春日軍、南栄軍は現在も絶賛戦争中であり、その他の弱小組織同士による縄張り争いや、食糧の奪い合いのような小さな戦争は何度も起きている。
鹿児島市内と言う小さな場所で……と、言いたい処だが。争いは日本全土、いやそれ以上、世界各国で繰り広げられている。最悪人っ子一人いない国がごろごろあるだろう。ユヤの破壊行為と宇宙への逃亡、そして地球全体で発生している戦争により、人類は未だに滅亡の道を辿っているのだ。
そんな戦争の真っただ中の町に、子供がひとり、立っていた。
その子供は周囲の警戒もせず、崩壊した建物群の中にぽつんと立っている。誰から見ても珍しい姿だった。せめて瓦礫に身を隠すなどしてくれたなら、子供のいる姿などは珍しくもなんともないのだが。
何より戦場にはそぐわないスーツ姿であることが彼の存在を際立たせていた。
町にいるのは一般人がほとんどなのだからスーツを着た大人なら多くいると思うだろうが、それは生きていくうえで失われつつあった。
彼らが着ている服に上着やネクタイ、ベルト等が残っているのも珍しい。身体を隠す目的で身に付けるならズボンとシャツで足りるのだ。むしろ動きにくいと思い、邪魔になる部分は脱いでいっただろう。ベルトは紐の代わりや、鞭の代わりに使われていたのを見たことがある。ネクタイや、上着を細く裂いたモノを、縄に代用した者や大きく裂きただの布に変えた者、それを金に変えようと売った者もいるかもしれない。服の形を残した者ならさらに高値で取引されているだろう。
夏は服を売り、冬へ近づくと多くの人がコートや動物の毛皮等を買い求める。他にも水や食糧を売っているグループなどもいて、人類が滅亡しそうな今でも相変わらずお金は必要だ。彼らは売り物を強奪されることもしばしばあるようだ。むしろ狙われやすいと言ってもいい。
もう九月なので、そろそろ寒さ対策をした方がいいのかもしれない。スーツでは冬の寒さが凌げない。子供は風の子と言うし、もう冬でも動きやすい体操服で――半そで短パンでいいのでは――……怪我の確率と他もろもろの確率が上がるのでオススメはしないが。ジャージ姿の少年くらいならいるだろう。
上記の通り、一般人だらけの世界ではあるが、大人でも子供でもスーツを着ていることが珍しかった。そんな世界で子供は、真っ黒のネクタイをして真っ黒のスーツを着て、動くそぶりを見せずにただその場にぽけーっと突っ立っている。
「……………………」
しばらくして、彼は不思議そうに辺りを見渡したあと、呟いた。
「ん~ローストチキン落ちてないな~」
てけてけと歩いて、瓦礫の下を覗き込む。
「え~ローストビーフも見当たらないな~」
とてとてと歩いて、石ころの下を覗き込む。
「いやいや、欲張りは言ってられないよな。ここは戦場なんだ。美味しいご飯がそう簡単に手に入るわけないんだ。ローストが付くなら何でも食べ物だ。ローストチキンの産んだローストエッグくらいなら落ちてそうだな」
そろそろと歩いて、人間の下を覗き込む。
「ローストコインとローストペーパー発見! おおたっぷり落ちてたな! あっても意味ないんだけどな~。まあ懐で飼うことくらいならできるだろ。生き物ゆえ、責任をもって育てよ。何と愛らしい! ありがたく頂戴いたしまする!」
正確には人間――大人の男の下に落ちていたロースト財布からロースト硬貨とロースト札を頂いたわけだ。しかし、それを懐にしまったとたん、男の目が開き少年を凝視する。
「何してんだテメエ……」
「……………………生きてたのか。良かった。心配してたんだぞ」
「……………………」
「……………………」
少年はおもむろに立ち上がり、建物群のある方へ全力疾走した。しかし男は目を三角にして口から威嚇の声を出してぴったり背中にくっついてくる。
「待てこのガキイイイイイ! ただじゃおかねえ!」
「死体だと思ったのに、死体だと思ったのに! 死体が動いてる! 死体が動いてる! ゾンビだあああああ!」
「誰がゾンビだ! 捕まえて売りさばいてやる!」
物を売る者たち――自称商人たちは、商売をする。どんな商品があり、それにはどんな機能があり、それがどれほど魅力的であるか、値段を教え、時には交渉して売りさばく。これだけで、物を多く、そしてお金を多く持っていると周囲に知らしめてしまうのだ。だから彼らよりも強い者たちからの強奪が起きやすく、最悪脅されて盗みまで働かされる。強者からの強奪や脅しだけでなく、弱者からも商品や金の盗みをされやすい。大人から子供まで、油断ならないのだ。
今回の少年もそうだった。
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