リクゴウシュ

隍沸喰(隍沸かゆ)

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エンタイア

17

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 出口まで、300m。




 ――次に立ちはだかったのは、あの白い髪の少年、ゼア・キャリルだった。
「ゼノ。君を地下室へ連れ戻せと言われている」
「お前達のその口調を聞いていると頭がおかしくなりそうだ」
 ゼノが責めるように頭を抱えて言うと、アリシアがその手を押さえる。
「大丈夫だ。下がってろ」
 ゼノは七色に輝く白い結晶の、龍に似た姿へ変身し、相手の動きを待つ。
 相手は一向に変身しようとしない。
「何故、逃げようとするんだ」
 ゼア・キャリルはそんなことを尋ねてくる。
「自由になりたいからだ」
「自由とはなんだ」
「外に出て、やりたいことをやる。一緒にいたい人といる。きっとそんなことだ」
「ここにいても頼めばやりたいことが出来、一緒にいたい人と一緒にいることは出来る」
「だが誰かに観察され続け、誰かに許可を取らなければならないだろ」
「そんなの、嫌ならぶっ飛ばせばいいだけだ」
「――だから、今やっているだろう」
 ゼノが容赦なく飛び出すと、ゼア・キャリルは後退し、変身する。真っ白な身体に4本足のスタイリッシュな、硬い皮と筋肉だけの生き物。頭は脳味噌が丸見えで、一見急所のようにも見えるがその一部分だけが非常に頑丈だった。
 ゼア・キャリルは蹄を床へ叩き付け――ゼノの攻撃から逃げる。逃げながら、大量の魔法陣を出現させ、眩しい光の球を降らせて来る。
ゼノがそれと接触した途端、太陽のように目を背けたくなるほどの光が発生し、ゼノの身体は熱で覆われ蒸発する。ゼノの身体はすぐに再生したが、次々と光の球が降り注ぎ、ゼノに襲い掛かる。
 ――眩い光が同じ場所から幾度も発生し、ゼノの声にならない悲鳴が上がり続ける。
 アリシアは思わず飛び出そうとしたが、目をやられ、壁に手をつくことしかできなかった。
 次に、相手が繰り出して来た攻撃は、またもや魔術の攻撃――重力が何倍もに倍増され、ゼノを押し潰し拘束する攻撃だった。
 拘束されている最中に、魔法陣が発生し、光の球が落ちて来る。
 ゼノはもがき、考え、自分の真上に空間の穴を発生させる。光の球はゼノに当たる直後に姿を消し、ゼアの真上に大量発生する。
 ゼアは弾かれたように飛びのき、魔術の攻撃は一旦中止される。重力の魔術も解け、ゼノはすぐにゼアへ飛び掛かった。ゼアはバリアの役割をする魔法陣を自分の前へ出現させ、攻撃に備える。
 魔法陣にゼノの身体が触れた途端、魔法陣は結晶化し砕け散っていく。
ゼアはムチのような尻尾をしならせ、ゼノへ攻撃するが、尻尾は徐々に結晶化し、身体をも結晶化させ砕かれる。
しかし粉々になったゼアの身体はすぐ元通りに戻り、それを見たゼノは龍に似た姿から4本足の獅子のような姿へ変身する。
 ゼノが攻撃を仕掛け、鋭い爪の先端がゼアの脳味噌を掠めていく。
 ゼノはもう一度脳味噌に向けて攻撃を繰り出すが、ゼアは首をあらぬ方向にぐにゃりと曲げ、その攻撃を難なく避けた。
 ゼアは風の魔術を使い、ゼノを自分から遠ざける。
 ゼノはその魔法陣ごと異空間へ飛ばし、ゼアへ飛び掛かる。
 ゼアは床に押し倒され、ゼノは脳味噌を噛み潰そうとする。
 ゼアは悲鳴を上げる。
 ゼノの真上に魔法陣を発生させ、中から炎が飛び出してくる。
 それを見て反応したのは、アリシアだった。
 アリシアは出てきた炎を操り、ゼノの援護をする。脳味噌が噛み砕かれそうになっているゼアは脳味噌を自分の体の中に引っ込め、外装で覆う。光の球の魔術が展開された魔法陣から降り注ぎ、ゼノはゼアの上から飛びのく。
 ゼアはその光の球から光を吸収し、身体に纏わせた。
 ゼノは低く唸り、「くっ」と歯ぎしりする。
 ゼアがゆったりとゼノへ近づいてきて、ゼノは後退する。
 アリシアの操る炎がゼアへ襲い掛かるが、彼に当たる前に跡形もなく消えてしまう。それを見たアリシアは舌打ちをする。
 ゼノは再び姿を変え、今度は相手と全く同じ姿となる。自分の周りの空間だけ歪ませ、空間を纏ったような状態となる。
 二人はともにゆったりと近寄り合う。
 ――ゼノの空間とゼアの光が接触したとたん、凄まじい熱風が噴き荒れる。アリシアは思わず顔を覆うが、次の瞬間には戦いに集中し、熱を炎へ吸収させ巨大にしていく。
 その炎をゼアへぶつけて、彼の光の魔術を相殺する。そうすると、ゼノの空間の歪みがゼアを取り込み、空間の歪みに合わせるように彼の身体がぐちゃぐちゃに歪み、骨が付き出し内臓が剥き出しになり、赤い血液が噴出する。
 ゼラもそうだったが、どうやら化け物の姿の時には、彼等の血は赤くなるようだった。恐らく変身に力を使っているため、血液はろ過されたような状態になっているのだろう。
 見た目は化け物なのに、中身は人間らしいようだ。
 ゼアは後退し、身体を再生する。
 ゼノは空間を操り、ゼアの身体の一部を異空間へと飛ばすが――ゼアの再生能力はけた違いに高かった。
 再び元に戻るどころか、その再生能力を生かし、ゼノへと突っ込んでくる。
 重力の魔術が発動し、ゼノは地面へ押し潰される。
 しかし、次の瞬間――ゼノがすっくと立ちあがり、ゼアは身体をビクつかせる。ゼノは空間を操る力で重力をも操って相殺したのだ。
 ゼノは空間の穴でゼアを襲い続けた。
 後ろ左足を。
 頭を。
 上半身を。
 右前足を。
 下半身を。
 右前足を。下半身を。
 上半身を。
 胴を。
 頭を。
 左後ろ足を。
 頭を。下半身を。
 下半身を。
 胴を。右後ろ足を。胴を。
 上半身を。胴を。
 下半身を。右前足を。
 右後ろ足を。
 右前足を。
 下半身を。上半身を。
 胴を。下半身を。
 右前足を。
 胴を。
 頭を。下半身を。
 右後ろ足を。
 上半身を。
 胴を。
 下半身を。
 右後ろ足を。
 左後ろ足を。上半身を。
 胴を。
 右前足を。下半身を。左後ろ足を。
 上半身を。下半身を。
 右前足を。
 頭を。下半身を。右前足を。胴を。
 胴を。
 胴を。右後ろ足を。
 右前足を。右前足を。
 左後ろ足を。左後ろ足を。上半身を。
 上半身を。
 胴を。
 上半身を。左後ろ足を。
 下半身を。
 右後ろ足を。右前足を。
 上半身を。
 上半身を。
 左前足を。胴を。
 胴を。下半身を。
 下半身を。
 左後ろ足を。
 全身を。
 全身を。
 全身を。
 ――全身を。
 ゼアは体毛一本残るだけで再生を繰り返した。
 だから、ゼノは空間の穴をこれでもかと巨大化させ、彼を飲み込み。異空間へ追放した。
 ゼノの作り出したのは地面も壁も天井も棘が犇めく空間だった。
 ゼアは永遠に傷つけられ、いつか再生能力を亡くし、死亡することが出来るだろう。
 アリシアは炎を操りながら、ゼノと共に空間の穴へ飛び込む。
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