リクゴウシュ

隍沸喰(隍沸かゆ)

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エンタイア

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 真っ白な部屋に眩しい光が映え、白い息は空気中へ消えていく。その一角だけが情熱と共にゆらゆらと揺れ、生まれたばかりの姿で合わさる影があった。
 しばらくして熱が冷め始めた頃、未だにベッドにうつ伏せる少女の隣――ベッドの横に座って、露わになった肌の上に衣を羽織り、真紫の髪とルビーの瞳の美少女・アリシアが言った。
「そろそろ行かなくちゃ」
「え~もう行くの? まだ一緒に居ようよ」
「この後アマラと約束があるのよ。貴方は満足したでしょ」
「今度は私が寝る約束でしょ」
「それは次回ね」
「ずるい!」
「あら。自分だって気持ち良さそうだったじゃない」
「…………はぁ、しょうがないなぁ。アマラとの約束が終わった後は? 予定あるの?」
 シャツのボタンを留めていたアリシアが少女――アリアに振り向く。不機嫌そうに微妙に顔をひくつかせた。
「まさか今日約束を果たせなんて言わないわよね?」
「え、予定あるの?」
「ないけど……行きたいところがあるのよ」
「どこ?」
「関係ないでしょ」
 ぷいと顔を背けたアリシアの肩に、アリアは半身で起き上がって顎を乗せる。
「教えてよ」
「まあ、どことは言いたくないけど、そこですることならいいわ。……とは言ったものの、何をするか決めてないのよね。するとしたら、ある厄介な獣の躾……かしら」
「それってもしかして仕事の話?」
「いいえ。まだ仕事になるかどうかは決まってないわ」
「まだってことは相手男じゃん」
 アリアは顔を離し、渋い顔をする。
「男嫌い治せないの? よく仕事できるわね」
「目ぇ瞑ってアリシアのこと想像するようにしてるよ」
「気持ち悪いこと言わないでよ」
 アリアは目を潤ませて両拳を胸の前に作って喚いた。
「ひど~い! 気持ち悪いって言った! アリシアと私は両想いでしょ!」
「暇つぶしよ。本気なわけないじゃない」
「やだ~!」
 アリアはアリシアの肩を引きベッドへ押し倒し、小さな胸に顔を擦り寄せる。
 顔を上げ、顎にキスをした後、アリシアの顔の横に手を付き状態を起こし、唇に唇を押し付ける。
 短く吸い付くと、ぺろぺろと舌で柔らかい唇を執拗に舐め始めた。
 アリシアはずっと抵抗しているが、拒絶することはしない。
 流されるように、アリシアは頬を赤く染め、熱い息を漏らした。
 アリアの手がアリシアの身体を下から上へ撫で付けていく。その手に擦り寄るアリシアの反応を嬉しく思ったらしく、アリアはアリシアの唇を開き、彼女の口内へ舌を出し入れした。舌に吸い付いてくるアリシアの唇を自分の舌ごと口の中に含み、ちゅうちゅうと赤ん坊のように吸い上げる。
 ぷはっと唇を離すと、アリアは満足したように笑って口元を拭った。
 アリシアはゆったりと起き上がり、息を上げながら、アリアの胸を鷲掴みにして揉みしだいた。
「ふぁ、あ、あん……! あぅ、な、何するのよ! アリシア、やめて~!」
「このエロガキが!」
「同い年でひょ、ひゃんっ」
「アマラとの約束に遅れたじゃない」
 手を離され、アリアは息を荒げてベッドに突っ伏する。アリシアの蒸気する頬や口元を見上げて、不貞腐れながら呟いた。
「いいじゃん仕上げてあげたんだからアマラも怒らないでくれるよ」
「クソが」
「口悪いよ!」
「あんたにだけよ」
 アリシアは服をさっさと着ると、さっさと部屋を出て行った。アリアは頬を紅潮させて自分の指に唇を付ける。
「素直じゃないなぁ。私のこと大好きなくせに」
 アリシアは寒気が全身を駆け抜けていく感覚を覚えていた。両手で自分の身体を抱きしめながら歩いていると、アマラの部屋に着く。
 アマラは時間に遅れたせいで不機嫌らしく、ベッドの中に潜り込み、呼びかけても返事をしなかった。
 アリシアは息をついて、アマラの部屋を後にして、予定よりずいぶん早まった地下室へ向かうと言う目的を果たした。
 扉の前でじっと固まり、ふぅ、と息を吐き肩の力を抜く。
 ノックしようと左手の拳を上げて、思い直してノックはせずに胸に手を当てる。もう一度息を吐き、心臓の音を聞いてから、アリシアは口元に笑みを浮かべた。
 扉の横にある部屋の暗証番号のボタンを押すと、扉がパシュッと開かれる。
 その奥は電気が付いておらず、真っ暗だった。あの闇よりも濃い影を探すが、影はどこにも見当たらなかった。
 部屋の中へ入り、キョロキョロとあたりを見渡す。
 ちょろっと小さい影が前を横断し、ベッドの下へ向かった気がして、ごくりと喉を鳴らしベッドの下に目を向ける。ゆっくりとベッドに近寄り、下を覗くと、探していた影がそこにあった。
「何してるのよ」
「別に……」
「貴方、まさか此処から逃げ出そうと訓練していたんじゃない?」
「…………だったらなんだ」
「あら。素直じゃない」
 ゼノはいろんな形に姿を変えられる力を持っていた。
 ほとんど見たこともないような化け物の姿をしているが、身体の大きさや形は自由自在に操れた。
 扉の隙間を通り抜けていくことや天井や壁を這い回ることも可能だ。
 他にも同じ能力を持つ者は第四研究基地にたくさんいたが、ゼノほど操れる者は少なかった。
「何しにきた」
 ゼノはベッドの下から這いずり出ながら言った。
 アリシアは真顔になってそれを眺める。
「言ったでしょ。私の勝手よ」
「ここに来たって暇なだけだろ」
「まあ。楽しいわよ」
「どう楽しいんだ」
「貴方は必ず返事をしてくれるわ」
「…………」
「急に黙り込んじゃってどうしたの?」
「はぁ……もういい。勝手にしろ。オレも勝手にする」
「それでいいわ」
 ゼノが壁まで歩き、それを背に座れば、アリシアは隣に座ってくる。
「何で隣に座る」
「勝手にしろって言ったじゃない」
「勝手にするとも言っただろ」
「しつこい男は嫌われるわよ」
「嫌われる方が楽でいい」
「珍しいわね。嫌われると面倒だと思う方が多いわよ」
「お前はどうなんだ?」
「私は好かれたいと思ってるわ」
「そうすることも面倒だろ?」
「そうかしら。私は楽しいけど」
「そうか」
「そうよ」
 ゼノは同年代の子供と話すのは初めてだった。ずっと隣にいようとする存在も初めてで、少々戸惑っていた。
 ゼノは一人でいる方が好きだった、だから彼女に「来るな」と伝えたのだが、彼女はそれを無視してやって来る。
「教えるのか、ヒグナルに」
「何を?」
「脱出しようとしていたことだ」
「どうかしら」
 くすくすと笑う彼女を見て、ゼノはイラッとする。彼女の頬の肉を指で摘んで引っ張ると、「いひゃい!」と殺さんばかりに睨まれた。指を離してそっぽを向けば、怒ったのか隣から地面を叩く音が聞こえてくる。
「お前が伝えないにしろ、伝えるにしろ、オレは脱出してみせる」
 そう言ってゼノは立ち上がり、バキバキと身体が歪に曲がり――七色に輝く結晶のような化け物に姿を変える。
 彼は己の力を脱出に利用する訓練を始める。
 普通なら誰の目にも見たこともないような化け物の姿は恐ろしく映るだろうが、アリシアの目にはこの世のどんなモノより美しく映った。
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