リクゴウシュ

隍沸喰(隍沸かゆ)

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エンタイア

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 オレは、ひとりぼっちだ。





        ◇◇◇




 闇。

 それは果てのない空間を生み出す。歩けば底のない感覚や恐怖が襲い掛かり、物の輪郭が見えていればすがすがしささえ感じる。
 しかしその真の闇とは言えない闇では恐ろしさを感じることが出来なくなる。
 自分を追い続ける焦燥感と恐怖はもはや快感に近かった。それを永遠に永遠に感じ続けて、精神がおかしくなっていたのかもしれない。


 闇の中に黒い影が浮かぶ。
 それは子供の姿をしており、地面に座り込んでいた。
 鎖の音がして、子供の影が動いた。
 子供の影の指よりも小さいその影を指に掴み、頭の影が飲み込んだ。
 ボリボリ、バリバリ、グチュグチュと、輪郭を持った唇が動く度に影を噛み潰す音が鳴る。
 ごくりと喉を鳴らすと、しんと闇が静まり返った。
 影も動きを止め、闇に馴染んでいく。
 子供の影は闇の一つになった。


 意思が生まれた頃、同じ顔の生き物が大勢、卵のような容器に入れられて浮かんでいる姿が目に入って来た。
下を見れば同じ、上を見ても同じ、おんなじ顔と身体が存在していた。正確には同じではなく、似た生き物が自分と同じように卵に閉じ込められ、その緑色の液体の中に浮かんでいたのだ。
 全員が目を開き、周りや隣の生き物と目を合わせたり手を伸ばしてみたりしている。自分もそうだった。
 隣の生き物を見て、その瞳に映る自分が彼らと似た顔をしていることに気が付く。
 卵の外を歩いていた白い服の男達が、それぞれの卵を見比べながら、手に持ったノートにペンを走らせている。
 自分の前に来た白服は、自分を指さして、他の白服を呼んだ。
 それから数日が経って、身体が成長したら、自分は卵から出され、白い服を着せられた。
 自分と会うために別の部屋で待っていたその人物はとても美しい容姿をしていたが、自分達よりは劣っていた。
 彼は自分に色々なことを教えてきた。
 いや、強制してきたのだ。

 自分は――ボクは、人間じゃない。

 誰かに似せて作られた人工生命体だ。




        ◇◇◇



 アイル・トーン・ブルーの瞳、真っ白な髪、降ったばかりの雪のように白い肌。
 顔立ちも美しく、年齢は319歳だが見た目は17歳くらいと若く見えた。
 そんな青年が床に座り、3Dホログラムで映し出された9歳くらいの少年の姿を眺めていた。壁一面のモニターにもその少年の写真がランダムサイズで表示されている。
 録音された声が天井のスピーカーから流れ、天井の穴からは再現された匂いが噴出していた。
 床に置かれたスマホが、ランプでもメロディでもなく振動でアラームを知らせる。
 青年は扉から別の部屋へ行き、着替えると。開け放たれた扉の向こう側にいる写真の彼に、「いってきます」と言って、部屋を出た。



        ◇◇◇



 三〇〇三年三月一二日。

 超高層ビル群の並ぶ町、鹿児島市。
 横断歩道の信号に止められ、青年はネクタイを整えながら、それを待った。
 それから腕時計を見た。
 時間には余裕がある。
 横断歩道を渡ると、少し歩いてから見えてくる喫茶店に入り、モーニングセットを注文する。
 パソコンを開き、部下からのメールへの返信を済ませると、ちょうどウェイトレスがモーニングセットを持ってくる。
 パソコンをカバンにしまうと、紅茶を啜り、ハニートーストを嚙る。
 窓の外の雑踏を眺めながら、青い空を見上げて笑みをこぼした。
 支払いを済ませ、店を出て、町を歩いていれば、女性と肩がぶつかった。彼女の白い瞳に、一瞬見惚れる。
「す、すみませんでした!」
 彼女は慌てた様子でその場を去っていく。
 青年も彼女のことは気にせず、その場を去っていった。
 青年は再び信号で止まり、スマホを取り出し、画面を眺める。
 横断歩道を渡ると、少し歩いてから路地裏へと入って行った。



        ◇◇◇



 ング・エンタ第四研究基地地下3F廊下。
「うわああああああああ!!」
 白い廊下へ飛び出してきた若い白衣の男に、扉の前を言っていた年配の白衣の男が振り返る。
「何をしているのだ」
「ゼ、ゼセルが暴れ出したんです! ボスに連絡を……!」
 彼の後ろではこの世のものとは思えない化け物が扉の向こう側で暴れ回っている。
 彼がスマホをズボンのポケットから取り出す前に、年配の男がその手を掴んでやめさせる。
「そんなことか。いちいち連絡するな。ボスは忙しいんだ。シギュルージュを流し込めば死ぬ」
「し、シギュルージュとは何ですか?」
「そんなことも知らんのか。或る生物の血液を緑龍子りょくりゅうしという物質で薄めたモノらしいぞ」
 二人の横をバタバタと通り抜けていく白衣の研究者の姿があった。三白眼の男だった。
「どうしたのだ戸上とうえ!」
 年配の男がそれを見て呼び止める。
「おお、下狩かがりのおっさんか!! ゼノが暴れ出した、ボスに連絡を頼む!!」
「分かった!!」
 年輩の男――下狩が迷わずスマホで連絡を取ろうとするのを見て、若い男が言った。
「ゼノとはそんなに重要な実験体なんですか?」
「ああ。ボスのお気に入りでな」
 スマホの発信音が止み、下狩は緊張しながらそれに声を吹き込んだ。
「ボス、ゼノがまた暴れ始めました」
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