リクゴウシュ

隍沸喰(隍沸かゆ)

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イルヴルヴ

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 アシャがユヤにいないと気が付いたのは、数刻後だった。
聖茄は閉じ込められていた部屋をやっと破壊し、アシャの保管されていた、ング・エンタ第一研究基地重要研究室【F】に駆け付け、彼女の姿が見えないことに気が付いた。
 真っ暗な空間に緑龍子の光が輝き、床が緑に照らされる。そこへ新たな寒色の光が加えられた。ゼルベイユが聖茄の後ろの扉から現れたのだ。
「アシャをどこへやったッ!!」
「彼女は新たな研究所へ置いて来たよ」
「何故そこまでして彼らに協力するんだ!!」
「僕が彼らのボスになれたのは、彼らの手助けをしてきたからだ。邪魔をしたなら敵対してしまうよ」
「君なんか大嫌いだ……!!」
「…………」
 ゼルベイユはひどく傷ついたような表情を浮かべる。
「なんでそんなことを言うんだ。僕は今まで君のために……」
「私のためだと言うなら追って来るな!!」
 聖茄はそう言って部屋を飛び出し、廊下を全力で走った。
 床は罅割れ。
 ユヤは縦に揺れた。
 壁を破壊していく聖茄の後ろを追いかけてくるゼルベイユ。彼が聖茄の破壊した壁の穴を飛び越える前に壁は緑龍子で再生する。
 それをゼルベイユも破壊していく。
 外に飛び出した彼らは、空高くあるユヤの上で追いかけっこをした。空の上は寒く、風が吹き付け凍えた。
 冷たい息を吐く聖茄。息は上がっていない。ゼルベイユより足が数段早く、どんどん引き離されていく。ゼルベイユはその背中に腕を伸ばした。
「………はぁ、はぁ」
 聖茄の背は遠のいていくばかりだった。
 ゼルベイユは涙を浮かべ、掌を前へ前へと伸ばし続けた。
 瞬間。
 聖茄の背が落ちるように消えていく。
 雲がゼルベイユを覆い、通り過ぎていく。
 ゼルベイユの身体が斜めに傾いた。

 聖茄もゼルベイユも、ユヤから落ちていった。




        ◇◇◇



 聖茄は地上の大地の上に佇んでいた。クレーターと思われる巨大な抉られた円状のその場所で、聖茄はぼうっと突っ立っていた。
 ゼルベイユが降ってきて、炸裂音を立てて見事に着地する。
「何か感じるのかな?」
「……ここは、どこだ」
 聖茄には外の世界は見たこともない場所ばかりだったが、ここだけは常軌を逸していた。
「ユヤの本来あるべき場所」
 聖茄は訳も分からず。


「ラナだ」


 瞠目する。

「君はどうやって生まれたと思う?」

「アシャと同じように実験されて……」

「違う。人間から生まれた」

 否定されて、聖茄は目を見開いたまま顔を俯けていく。

「君はどこで生まれたと思う?」

「ユヤ……」

「違う。君はラナで生まれた」

 俯いたまま目をぎゅっと瞑る。

「ラナはどうして消え去ったと思う?」

「ユヤに……消され――」

「――違う。

 瞑った目に涙が滲む。

「君の親はどうなったと思う?」

「研究者たちが――……」

「違う。君の親は自殺するために君をこの世界に生み落とし、君に殺されて死亡した」

 涙が溢れ出し、ゼルベイユが聖茄を抱き締める。
 聖茄はゼルベイユの胸に縋った。
「アシャは家族だ……」
「違う」
「違くない。アシャは私を守ってくれた。私の傍にいてくれた。一人ぼっちの私の、たった一人の家族だ」
 ゼルベイユは目を伏せて言う。
「僕もひとりぼっちだった。君に出会う前は……」
 ゼルベイユの前に生まれた、すべての失敗作たちは次々と殺されていった。完成体。孤独な生物。誰も同じでない、たった一人の生物だった。
「お願い、一緒に来て」
 ゼルベイユは懇願するように、聖茄を強く、強く抱擁した。
「大人たちは君を探してるんだ。君から貰ったネックレスはユヤを操る制御装置・ハラディクトだったんだ。僕は利用されている。でも、逆らえないんだ。君が戻らない限りユヤは地上を攻撃し続ける」
 聖茄は自分たちの前で昔行われた行為を思い出し、ゆっくりと頷いた。
 人間のことは嫌いだが、自分たちのように別れ、悲しむことだけには同情した。それに。
「私は帰る、その代わり、アシャを自由にして欲しい……」
「それは……」
「アシャは自由になるべきひとだ。おねがい……アシャを自由にしてあげて」
 聖茄はゼルベイユから身体を離し、真剣に彼の瞳を見つめる。ゼルベイユの頬は赤く染まり、聖茄の目を真剣に受け止めた。
「分かった。彼らと相談してみる」
 ユヤが降りてきて、門から橋が降り、聖茄とゼルベイユはユヤへ帰った。
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