リクゴウシュ

隍沸喰(隍沸かゆ)

文字の大きさ
279 / 299
イルヴルヴ

しおりを挟む
 深い後悔と寂しさを抱え、たった一人で暗転した世界に落とされていく。
 ……アシャの意識が飛ぼうとしていた時だった。
 ユヤの中から、子供が走ってくる姿があった。時々雪に足を取られ転げ、振り始めた雪に白い息を吹き付けながらやって来る。
 雪を踏み付ける足音にアシャはゆっくりと目を開ける。
 ルイス?
 アシャが意識を取り戻しつつ、辺りを見渡すと、子供がアシャに気が付きこちらへ駆けて来る。
子供は膝の高さまである厚く募った新雪を掻き分け、走った跡を付けていく。子供の脚は雪の冷たさで赤くなって震えていた。
 こんなところにいる子供は、逃げ出してきた実験体しかいない、が、あの子の服は、膝下まであるサイズの大きい黒いTシャツだった。
 実験体用の服ではない。
 ならあの子は何者なのか。
 子供はアシャの元へ駆け付けると、アシャを揺すり起こそうとする。
 どうやらアシャを連れて逃げる気らしい。優しい子だ。
 アシャが首を振ると、子供も首を振って、アシャの、血を流す傷口に手を触れて緑色の光を発した。
 傷はみるみるうちに塞がっていき、アシャは立ち上がれるほどまで回復した。
 その間中、子供はずっと無表情で、ミステリアスな雰囲気を纏っていた。

 足下まである長く、晴天の空のような深い天色の髪。

 血の濁ったような赤黒い瞳。

 金に輝く瞳孔の、周りの色彩は青く光って見えた。

 アシャは身体を横に傾け、子供に背へ乗るように促す。伝わったのか、子供は恐る恐る背に乗り、アシャの毛をぎゅっと掴んだ。
 アシャはユヤからの追っ手が来る前に走り出し、山を抜け、洞窟に帰り、子供と共に身を潜めて逃げ切った。
 長い髪で可愛らしい顔立ち、とても美しい子供。
アシャは女の子だと判断した。
「名前は?」
 子供が脳を揺さぶるような美しい声で尋ねてくる。
 アシャだ、と答えようとしたが、唸り声が出るだけだった。子供はアシャの頭を撫でて言った。
「名前付けてあげる」
 アシャは子供にルイスの面影を感じた。
「……分かんない。どうしよう。考えておくね」
 アシャは呆れ返る。
 子供なのだから仕方がない、期待した自分が悪い。
 子供は無表情で手を差し出した。
 アシャはその手に自分の手――前足をくっ付けた。
 アシャが子供の瞳を真正面に受ける。
 血の濁ったような瞳ではあるが、七色に輝いて見えるそれはとても美しかった。
「ボクの名前は聖茄せいな。よろしくね」



        ◇◇◇



 アシャと聖茄はルイスの元へ帰ろうとしていた。せめて聖茄だけでもルイスへ預けようと思っていたのだ。
 小屋へ到着する前に、アシャはそれに気が付いて聖茄と共に岩陰に隠れた。聖茄と二人で小屋の前を覗き込む。
 そこにはラウグストゥスと呼ばれた子供と、研究者たちの姿があった。
 地面の雪は赤く染まり、その上に白い髪の毛の男が倒れていた。
 アシャは息を呑む。口元と、肩を雪に押さえ付けて、叫び出し、走り出したくなるのを我慢した。
 ラウグストゥスと言う少年は連れて行かれ、白い髪の男――ルイスの死体は持って行かれた。その際、ラウグストゥスは何か、キラリと光るモノを落とした。
 彼らが去った後、アシャはそこへ近づいていく。
 そこにはルイスの瞳にそっくりな宝石のネックレスがあった。
 アシャがポロポロと涙を流していると、聖茄はアシャの元へやってきて、何が何だか分からない筈なのに、優しく頭を撫でてくれた。
 アシャは鼻先でネックレスを示してから、聖茄に顔を向けた。それを何度も繰り返していると、アシャの意図が伝わったらしく、聖茄はそれを拾った。
 聖茄はそのネックレスをじっと観察するように眺めてから、来ている服の襟首から中を漁り、その中身を取り出した。
 聖茄が首から取り出したのはネックレスと全く同じ形の、もう一つのネックレスだった。
 嵌められたアイル・トーン・ブルーのジルコンも一緒だ。
 何故同じものを君が……そう思ったが、アシャには聞くことは出来ない。
「ここは君の家? ちょっと待ってて」
 聖茄は小屋から大きな布を持って来て、アシャの首に巻いた。そしてその布にネックレスの一つを付ける。
「ボクは持っているから、君が持ってて。お揃い」
 聖茄は服の中からネックレスを取り出し、アシャに付けたものと交互に指差して言う。
 聖茄は歩き出す。
 アシャが小屋から離れられずにいると足を止めて、振り返りアシャに手招きした。アシャはルイスの血の痕を見るのをやめ、聖茄に振り向き、駆け寄っていく。隣に並ぶと、聖茄は歩き出した。
「これからどこに行こうか」
 答えることは出来ないが、もう一人は嫌だと、聖茄のいるところならばアシャはどこでもいいと考えた。
 聖茄も、「君がいればどこでもいいや」と答えた。
 その夜はアシャの住処だった洞窟で眠った。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【短編】淫紋を付けられたただのモブです~なぜか魔王に溺愛されて~

双真満月
恋愛
不憫なメイドと、彼女を溺愛する魔王の話(短編)。 なんちゃってファンタジー、タイトルに反してシリアスです。 ※小説家になろうでも掲載中。 ※一万文字ちょっとの短編、メイド視点と魔王視点両方あり。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

処理中です...