リクゴウシュ

隍沸喰(隍沸かゆ)

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リョウゲ

34 ※いけない描写あり

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「お前を、真黒になんか、渡したくない」
 何、今、何て言った。は。え。兄さん?
 ────こいつ、今、いま、何て。
「黄泉……好きだ。黄泉……」
「な、に。やめて。ちょっと」
 意味、分からん。全く理解出来ん。状況が全く把握出来ない。これはどっちの言葉だ。
「黄泉。お前も俺様に惚れてるんだよな?」
「おま、え、〝も〟って……」
「黄泉……」
 間近に在った長い睫毛が伏せられて、視界が反転する。その際、視界の端に天井が映った。吐き気を催している妹を押し倒すとはどう言う神経してるんだこの男は。
「黄泉」
 煩い。何度も呼ばなくても聞こえてる。
「黄泉。もう一回、してもいいか?」
 いいわけない。
「し、ない、で」
「……黄泉」
 何でお前は頬を赤く染めているんだ。
「黄泉」
 だから、何度も呼ばないでって……言ってるのに。あれ、言ったっけ?
「し、て」
 何で、何で私、兄さんなんかとキスしてるんだっけ。何で、こんなことになってるんだっけ?
 押し倒されて、何されるのか考えたら、口の中に虫がいたから、対策を取った。そうだ。そうに違いない。そうじゃなかったら兄さんにこんなことされる選択肢なんか選ぶもんか。だから、これは、兄さんに、その、だから。いや、違う何を考えてるんだ私は。
「ん……」
 こいつは何舌を入れようとしてるんだ。絶対入れさせないからなそんな化け物。それ以前に、状況をよく考えろ。今のうちに把握しろ。色々とヤバイ現実が目の前に広がってるんだから。夢じゃない、現実なんだから。もし、青海に見られたら。いや、見てくれた方がいい。早くこいつを引き剥がしてくれ。引き剥がして、くれるだろうか。奴はただ、微笑むだけなのではないのか。
 私はまだ青海に助けて欲しいのか。
 ……いっそ、この、まま、時間が止まればいいのに。
「ふ!?」
 内腿。何か、当たって。
「ふうううううううううッ!?」
 兄さん、まさかキス以上のことする気じゃないだろうな!? 有り得ないからな、絶対に! 何の為にこんなこと。

『好きだ』

 す、

 すすすすす好きとか知らない! あっち行け!!
 腹を膝で蹴っても、ビクともしない、それ処か開いた足の間に、奴の手が触れようとしているのを視界の端で捉えて悲鳴を上げそうになった。意識が持たない、でも落ちたら多分このままここで色々される。はちゃめちゃなことされる。
 でも、でも……
「話があるんだ黄泉、真黒にここにいると聞いて来たんだけ……ど」
 何てバッドタイミング。――真黒は後でまた落とす。
 兄さんがしっかり触れたそこを指でほぐほぐしている時に。舌を全力で拒んで抗議の声が出せない今、何故、この男を寄越したのですか、神よ。私が絶賛反抗期だからですか、謝ります。謝りますから面倒ことを私に寄越さないで下さい。
「兄さん。何をなさっているのですか?」
 ひえ。
 青海は問答無用に腰の刀を引き抜き振り翳す。
 その様を見て強い歓喜が胸をいっぱいにする。避けようとした兄の背に腕を回して道連れにとしようとがんじがらめにすれば、奴は目を見開いて。

 ――今まで見た中で一番幸せそうに笑った。

 化け物の癖に。笑うな。気色の悪い笑みを私に向けるな。何故、何故いきなり、もう何が何だか解らないんだ。キョウダイ皆、親戚皆、化け物だった。皆の姿が、茶王さえも、化け物の姿に変わる夢を毎晩見る様になった。もう嫌だ茶王。こいつ、何でこんなに面倒なことばっかり寄越すんだ。


 もう、入り込んでくるな。

 お前から与えられる〝面倒〟が。


 嬉しいなんて。


 私。変だ。



「はく、ば」

 私は。
 もう誰も失いたくない。
 やっと、お前達が大切だと気付けたというのに。

 だから足止めしていた。アリシアがここに向かっている。
 全員、アリシアに救ってもらうために。
 白馬は半透明の翼が8本生えた化け物に変身する。
 白馬は夜空に飛び立つ。翼の羽ばたく風圧が黄泉たちを近づかせなかった。
 その姿を見て、黄泉はまさに、赤鳥が赤ちゃんだったのだと気が付く。だから白馬はあんなに黄泉を恨んだのだ。
 身体は内臓と虫が異常に入り組み、半透明なのに真っ赤に見える。
 エビのように反った尻尾とにも内蔵が詰まり今にもはちきれそうだ。どんどん尻尾の先端から卵のようなものを産み落としていく。
 白馬は屋敷から屋敷へと卵を産み落としていっているようだった。
 鳥のような悲鳴を上げる虫たち。
 それに呼応したのだろうか、屋敷のあちらこちらで聞いたこともないような不協和音と木材の壊れる音がする。
 まだタフィリィが抜けていない人々が、全員、暴れ出したのだ。
 青海とともに、廊下に出て、大量の壊れた屋敷を見渡す。
「不味い。収集がつかなくなる」
「止めに行こう」
 そこへ、アリシアが辿り着き、言った。
「ここは私たちに任せて」
「私たち?」
 襖の向こうの廊下から姿を現したのは、聖唖だった。
「遅くなってすまなかった」
「聖唖様!」
「だめです、私たちは自分達で」
 青海が意見しようとしたとき、彼の頭に聖唖の手が乗る。優しく撫でて、言った。
「たまには頼ってくれていい」
 青海はぼうっと聖唖を見つめてから、頭を下げた。
「ここをお願いします」
 青海が言って、黄泉は彼と顔を見合わせ頷く。
 アリシアが炎を展開し、聖唖は他の屋敷へと走り出した。
 黄泉と青海も二手に分かれる。
 黄泉は千里眼の術を使って、白馬が向かう先の屋敷を特定した。たった少しだが、未来が見えるようになったのである。
 白馬が向かっているのは。
 本堂だ。
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