リクゴウシュ

隍沸喰(隍沸かゆ)

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リョウゲ

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 黄泉は電車に揺られ、眠っていたことに気がついた。左肩に温もりがあることに気がついて隣を見ると、そこには赤鳥の寝顔があった。
 向かいの窓の外に、観覧車が見えて、ちょうど、駅に止まる。
「姉さん、姉さん。着いたぞ」
 隣の姉を揺すって起こす。
「な~に~?」
「着いたぞ」
「え、本当!? ありがとう!」
 起こしてくれたことに対しての礼をすぐにすると、黄泉の手を引っ張って電車を降りる。ホームに白馬と青海の姿を見つけて赤鳥が安心する。
 駅を出ればすぐ、目的の場所に辿り着けた。
 敷地は他の遊園地と比べると小さいらしいが、それなりに遊べる遊園地だった。
 青海が隣に来ると、黄泉は鼻息をふんふん鳴らして言った。
「新しく出来た遊園地らしいぞ」
「いつになく楽しそうだね、黄妃」
「遊園地には昔から憧れていたからな」
「そうなの?」
「茶王に教えられてな」
「茶王は何でも知ってるね」
「あの人だけが人間だからな」
「そうだね」
 青海と話していると、赤鳥がやってきて言った。
「早く、早く! 早くして、乗り物たくさん乗るんだから!」
「そうだな!」
「いつになくはしゃいでるね、黄妃……」
 どこに行く、と話していれば、すぐそばにあったメリーゴーランドに赤鳥と一緒に乗り、そのすぐそばにあったティーカップに乗り、そのすぐそばにあったゴーカートに行き。……………………。
「さっきから子供向けじゃないか?」
「だって黄泉がすぐそばにばっかりいくんだもの」
「じゃあ向こうの怖そうなのに」
「あそこのマスコットの着ぐるみのところに行きましょうよ」
「…………赤鳥姉さん?」
「なぁに黄泉」
 ガシッと手首をひっ掴んで姉を本物のジェットコースターに連れて行こうとすれば、「いやあああああああっ離してえええええ」と泣き叫ぶ姉。
「常に怖いものに囲まれて育ってるだろ」
「怖いものは怖いのよおおおお! これとお家は別物でしょおおおお!」
「いいから、乗るぞ」
「乗りたくない! 待ってる! 待ってるから!」
 仕方がない、と手を離すと、姉はバッと離れて小動物のように震える。
「誰か乗りたい奴は?」
「せっかく来たんだし私も楽しみたいかな」
「白馬は?」
「俺も行く」
「ええ、白馬お兄様! 私を一人にするつもりですか!」
「じゃあ乗れ」
「はううううう! 待ちますううううう!」
 姉をベンチに連れていってから、私達はジェットコースターに向かう。並んでいる間が待ち長かったが、二人が話しかけてくるのであっという間だった。
 普通の会話でなくて面倒な時間を過ごしたが。
 そして面倒なことは再び起こる。私が三人の中で最前列に並んだ時、青海と白馬はどちらが先に乗るかと喧嘩し出した。そして次のジェットコースターが来た時、私たちの前の5人が座り、2人席に1人だけ座り、私の乗る番が来た。
 私は初対面の人の隣に座り、挨拶する。
 それを見た青海と白馬が固まり、遊園地のキャストの呼びかけにより渋々男同士の隣同士で座った。
 面倒が過ぎて安心していた私も、隣の初対面の男にジェットコースターが出発したからも話しかけられ、降りた頃に連絡先を聞かれ、面倒な時間を過ごしてしまった。
 後から降りてきた白馬と青海が初対面の男を睨むと、彼は一目散に逃げていった。
 次は姉が好きそうなショップ周りだ。
 遊園地のお土産も売っている。
 それぞれの買い物が終わると、お腹が空いたと白馬が言い出し、食事をするためにファストフードの店に寄る。遊園地内のキッチンカーのお店だ。
 料理がくるまで待っていると、赤鳥がショップで買った袋を取り出して中身を出す。
「黄泉」
「何だ?」
 赤鳥に折り畳みの串を差し出される。小さなアイスがたくさん載ったポップで可愛い串だ。
「ヨミにあげるわ」
「必要ない」
「今日の記念。プレゼントよ。受け取って」
「……ありがとう」
 今日の記念、プレゼント。なんて言われたら受け取るしかない。
 運ばれてきた料理を食べた後は、それぞれの行きたいところに乗って回り、15時になった頃、最後に観覧車に乗ろうと言う話になった。
 列は結構並んでいたが、列の動きは少し待てばすぐに乗れるスピードだった。
 私達も少しずつ、少しずつ進んでいく。
 黄泉は赤鳥に貰った串を手に、微笑む。
 青海がそれを見ていった。
「良かったね」
「ああ。赤鳥姉さんは優しいな。……白馬も、たぶん私たちを気遣っていた」
「そうかな?」
「そうだ」
 青海は笑って。黄泉も笑う。
「助けないとね」
「ああ。絶対に助け出す」
 二人だけでこそこそ話している様子を見てか、もうすぐ観覧車に乗るだろうからか、赤鳥が言った。
「よみと青海兄様は仲良しだから、私と白馬お兄様と隣で座りましょっ!」
 赤鳥がそう言ったのに、白馬は観覧車に乗る番が来ると。平然と私の隣に座った。
 青海は私の前に座る、やめてくれ。
 私は何処を見ればいいんだ。ああ、外か。
 隣と前からの視線を無視するように、はしゃぐ姉の声を聞きながら外を眺める。
 彼女の本音は、何でアンタがお兄ちゃんの隣なのよぴーぴこぷんぷん! とかだろう、時々鋭い視線を感じる。
 それにしても普段部屋から眺める光景とは違い過ぎて現実味が持てない。互いに高さは問題ないが、屋敷の方では滝と森と崖しか見えないのだ。ずっと曇っているし。今見ている景色は美しい。ビル群も、空も、鮮やかに輝いて見えた。いつの間にか眺めることに夢中になっていた。
 しかし、横顔に当てられる真正面席からの視線が一番気になって仕方がない。
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