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リョウゲ
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真下に流れる河と滝の音。水の音とは思えない騒音だ。屋敷の中はいつも静かだと言うのに。
窓辺にぽかぽかと射す日差しに黄泉はうつらうつらとしていた。
そんな時に、もっとも面倒な奴がやってくる。
「黄おおおおおおおおお泉いいいいいいいいいい!!」
「何だうるさい」
黄泉が景色もさほど良くない窓の外を見たくなる時はだいたい白馬が原因である。
「当主候補者になんてならないんじゃなかったのかあああ!」
殴り掛かられ、思わず避ける。
「お、落ち着け。何の話だ!」
「銀王が茶王のすすめで候補者にしたと聞いたあああ!」
いくら怒っているとは言え、白馬はいつも暴力など振るわなかった。黄泉は白馬の様子がおかしいと考える。とりあえず白馬の動きを止めようとするが、白馬は現在最も当主に近い男、簡単にはいなしきれなかった。
「ぐあっ」
黄泉は殴られそうになりながら白馬の腹に蹴りを入れる。白馬は襖を突き破り吹っ飛んでいった。どこに消えたかは分からないくらいに。
「いい加減にしろ。茶王の奴……勝手に候補にしたのか。面倒ごとを寄越してくるなんて許せない」
「お前が茶王に頼み込んだんじゃないのか」
少しは冷静になったらしい、白馬は頭を押さえながらよろよろとこちらに歩いてくる。
「近寄るな」
「悪かった……」
黄泉が一歩下がれば、白馬は一歩どころか黄泉の隣までやって来て腰掛けた。黄泉が距離を取ろうものならまた迫ってくるだろう。黄泉は仕方なく白馬の隣に座った。
「…………」
「…………」
いつもは蹴飛ばしたくなるくらいうるさいのに一体どうしたんだ、と黄泉は白馬の顔を覗き込む。やけに真剣な顔で真ん前を見ている白馬。それを黄泉がじっと見つめていると、くるっと顔がこちらに向いたので、思わず黄泉は白馬の顔面を殴った。
「何をする! 俺様の綺麗な顔に!」
「ウザくてつい……」
「ウザいだと!? 俺様の顔が!?」
「面倒臭い」
「俺様の顔が面倒臭いだとおおお!?」
やっとうるさくなったと、黄泉は少し安心する。いや登場からしてうるさかったか。
「何のようだ?」
「赤鳥が探していたぞ」
「赤鳥姉さんが? 面倒臭そうだな」
「そう言うな。アイツはお前が大好きだからな!」
「うるさい。叫ぶな」
「俺様の美声がうるさいだと!?」
一回一回ナルシストを挟むな。
面倒ごとばかり持ってくるコイツは一番許せない相手だ。
「じゃあ俺様はお前と違って忙しいから、これで帰るとする」
「珍しいな。赤鳥姉さんの為にわざわざ動くなんて」
「べ、別に……気まぐれだ」
怪しい、とじっと睨みつければ、「じゃ、じゃあな!」と白馬はそそくさと去っていった。
仕方がない、赤鳥姉さんを探すか。
黄泉はおもむろに立ち上がった。探すのも歩くのも少々面倒臭い。
そう思った時だった。スパァァンッと襖が開かれ、無理やりくるくるヘアが視界に入ってくる。
「黄泉ヨミよみ~! YOMI! いっぱいお洋服持ってきてあげたわよ! 髪も巻いて早く出かけましょ!」
黄泉は一瞬相手が何を言っているのか理解出来ない、一瞬が過ぎても理解出来ない。
ワンピースを3着ほど持ってきた赤鳥に黄泉が溜息をついて尋ねる。
「何の話だ?」
「そんなの決まってるでしょ! 白馬お兄様とデートするの!」
「だ、誰がだ!」
「あたしに決まってるじゃない。何焦ってるのよ?」
赤鳥はふふんと胸を押さえて何故かいばり散らかし、黄泉はふう、と息を吐く。
「で、何で私が行く必要がある?」
「だからダブルデートだってば」
「いや聞いてないぞ! そもそも後一人は誰だ」
「青海兄様に決まってるでしょ? それとも真黒が良かった?」
それを聞いて、黄泉はぶんぶんと頭を振る。
「いや、青海で大丈夫だ」
「…………呼び捨て?」
「いや、青海兄さんで大丈夫」
「大丈夫なの?」
「いや、混乱していてよく分からない」
そもそも親戚でダブルデートって何だ、と黄泉は頭を抱える。
「二人にはもう誘ったのか?」
「誘ってOKが出たからから行くんじゃない」
「私は誘われてないぞ!」
「アンタは面倒臭いって言って断るじゃない。誘うわけないでしょ」
「断わらせろ!」
「いや。だめ。NO!」
「ふざけるな!」
「おめかししてあげるから、ね、お願い!」
「いやだ」
「白馬お兄様がダブルデートならいいって言ってくれたの! 遊園地に行くの! お願い!」
「遊園地だと?」
ピピーンと黄泉が反応すると、赤鳥は人差し指を立てて、もう一方の手を裾に入れ、言葉巧みに述べる。パッと2枚の紙切れを出して。
「そうよ! ここにペアチケットが2枚ありましてよ~! あたしが雑誌の応募で当てたのよ! 凄いでしょ!」
「凄いぞ赤鳥姉さん! 遊園地行く! 遊園地行くぞ!」
「じゃあおめかしさせて?」
ぴらぴらとチケットを振る赤鳥に、黄泉は即答する。
「いいだろう!」
窓辺にぽかぽかと射す日差しに黄泉はうつらうつらとしていた。
そんな時に、もっとも面倒な奴がやってくる。
「黄おおおおおおおおお泉いいいいいいいいいい!!」
「何だうるさい」
黄泉が景色もさほど良くない窓の外を見たくなる時はだいたい白馬が原因である。
「当主候補者になんてならないんじゃなかったのかあああ!」
殴り掛かられ、思わず避ける。
「お、落ち着け。何の話だ!」
「銀王が茶王のすすめで候補者にしたと聞いたあああ!」
いくら怒っているとは言え、白馬はいつも暴力など振るわなかった。黄泉は白馬の様子がおかしいと考える。とりあえず白馬の動きを止めようとするが、白馬は現在最も当主に近い男、簡単にはいなしきれなかった。
「ぐあっ」
黄泉は殴られそうになりながら白馬の腹に蹴りを入れる。白馬は襖を突き破り吹っ飛んでいった。どこに消えたかは分からないくらいに。
「いい加減にしろ。茶王の奴……勝手に候補にしたのか。面倒ごとを寄越してくるなんて許せない」
「お前が茶王に頼み込んだんじゃないのか」
少しは冷静になったらしい、白馬は頭を押さえながらよろよろとこちらに歩いてくる。
「近寄るな」
「悪かった……」
黄泉が一歩下がれば、白馬は一歩どころか黄泉の隣までやって来て腰掛けた。黄泉が距離を取ろうものならまた迫ってくるだろう。黄泉は仕方なく白馬の隣に座った。
「…………」
「…………」
いつもは蹴飛ばしたくなるくらいうるさいのに一体どうしたんだ、と黄泉は白馬の顔を覗き込む。やけに真剣な顔で真ん前を見ている白馬。それを黄泉がじっと見つめていると、くるっと顔がこちらに向いたので、思わず黄泉は白馬の顔面を殴った。
「何をする! 俺様の綺麗な顔に!」
「ウザくてつい……」
「ウザいだと!? 俺様の顔が!?」
「面倒臭い」
「俺様の顔が面倒臭いだとおおお!?」
やっとうるさくなったと、黄泉は少し安心する。いや登場からしてうるさかったか。
「何のようだ?」
「赤鳥が探していたぞ」
「赤鳥姉さんが? 面倒臭そうだな」
「そう言うな。アイツはお前が大好きだからな!」
「うるさい。叫ぶな」
「俺様の美声がうるさいだと!?」
一回一回ナルシストを挟むな。
面倒ごとばかり持ってくるコイツは一番許せない相手だ。
「じゃあ俺様はお前と違って忙しいから、これで帰るとする」
「珍しいな。赤鳥姉さんの為にわざわざ動くなんて」
「べ、別に……気まぐれだ」
怪しい、とじっと睨みつければ、「じゃ、じゃあな!」と白馬はそそくさと去っていった。
仕方がない、赤鳥姉さんを探すか。
黄泉はおもむろに立ち上がった。探すのも歩くのも少々面倒臭い。
そう思った時だった。スパァァンッと襖が開かれ、無理やりくるくるヘアが視界に入ってくる。
「黄泉ヨミよみ~! YOMI! いっぱいお洋服持ってきてあげたわよ! 髪も巻いて早く出かけましょ!」
黄泉は一瞬相手が何を言っているのか理解出来ない、一瞬が過ぎても理解出来ない。
ワンピースを3着ほど持ってきた赤鳥に黄泉が溜息をついて尋ねる。
「何の話だ?」
「そんなの決まってるでしょ! 白馬お兄様とデートするの!」
「だ、誰がだ!」
「あたしに決まってるじゃない。何焦ってるのよ?」
赤鳥はふふんと胸を押さえて何故かいばり散らかし、黄泉はふう、と息を吐く。
「で、何で私が行く必要がある?」
「だからダブルデートだってば」
「いや聞いてないぞ! そもそも後一人は誰だ」
「青海兄様に決まってるでしょ? それとも真黒が良かった?」
それを聞いて、黄泉はぶんぶんと頭を振る。
「いや、青海で大丈夫だ」
「…………呼び捨て?」
「いや、青海兄さんで大丈夫」
「大丈夫なの?」
「いや、混乱していてよく分からない」
そもそも親戚でダブルデートって何だ、と黄泉は頭を抱える。
「二人にはもう誘ったのか?」
「誘ってOKが出たからから行くんじゃない」
「私は誘われてないぞ!」
「アンタは面倒臭いって言って断るじゃない。誘うわけないでしょ」
「断わらせろ!」
「いや。だめ。NO!」
「ふざけるな!」
「おめかししてあげるから、ね、お願い!」
「いやだ」
「白馬お兄様がダブルデートならいいって言ってくれたの! 遊園地に行くの! お願い!」
「遊園地だと?」
ピピーンと黄泉が反応すると、赤鳥は人差し指を立てて、もう一方の手を裾に入れ、言葉巧みに述べる。パッと2枚の紙切れを出して。
「そうよ! ここにペアチケットが2枚ありましてよ~! あたしが雑誌の応募で当てたのよ! 凄いでしょ!」
「凄いぞ赤鳥姉さん! 遊園地行く! 遊園地行くぞ!」
「じゃあおめかしさせて?」
ぴらぴらとチケットを振る赤鳥に、黄泉は即答する。
「いいだろう!」
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