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アノン
最終話
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暗闇だ。
まだ、抜け出せない。
むしろ足をからめとられて出られない。
光も奪われてしまった。
壊されていく。
思考のすべてが。
闇に飲まれていく。
墜ちていく。
首輪を付けられた人が大勢並ぶ廊下を、一人の青年が歩いていた。真っ白な髪と青い瞳の青年だった。隣には、くっつくようについてくる、黒い髪と、ルビーの瞳の青年がいる。
「ご主人様」
「ジェキシイン。愛してるよ」
「私もです。ご主人様」
首輪をつけた一人の少年がご主人様と呼ばれた青年に近づく。
「ヒグナル様。ギゼル・ジュニクファン様がいらっしゃいました」
「すぐ行くよ」
首輪をつけた者達が、彼が通り過ぎるのを心待ちにしていたと言わんばかりに頭を下げていく。
「ヒグナル様」
「ヒグナル様」
「ご主人様」
「ヒグナル様」
「ヒグナル様」
「ヒグナル様」
「ご主人様」
「ご主人様」
「ヒグナル様」
「ご主人様」
壊れていく。
崩れていく。
埋もれていく。
飲まれていく。
墜ちていく。
傍にいてくれるだけでいい。でも、思い出してくれた方がもっと嬉しい。
だから、手伝うよ。一緒にがんばろう。
思い出したら、皆に会いに行こう。俺達の友人達に。
そして、そして、彼らのいる街で、仲良く。サンドイッチでも買ってさ、それで、二人で暮らすんだ。
たくさんキスしてたくさんくっ付いて。幸せになろう。
ゆっくりでいい、ゆっくりでいいんだ。
焦らなくていい。
整理できていないだけだって、あの人が言ってたじゃないか。
まだ時間がかかるんだ。ゆっくりでいい。
エレベーターに乗り込み、ルビーの瞳の青年がボタンを押す。
エレベーターは下へ下へと降りていく。
「ヒグナル様。もうすぐシェルビー・ホールへ到着します」
「うん。久しぶりだね、ジェキシインと私の出会いの場所だ」
ああ、ああ。戻りたい、戻りたい。
あの、地下にある夢の世界に。
君に、もう一度君に会いたい。
名前を呼ばれたい。
要らない知識や残酷な記憶ばかりを持つ君じゃなくて。
俺や友人達や、両親や町の人を愛していただけの少年に。
もう一度会いたい。
焦ってはだめだ。だめだ。だめなのに。
焦る、怖い。
思い出してよシェルビー。
消さないでよシェルビー。
夢にしないでよシェルビー。
こわいこわいこわい。
また、また離される。
現実へ引き戻されてしまう。
暗闇へ引き戻されてしまう。
光が欲しい。君が欲しい。
君との思い出が。
確かな夢が。
こわい。こわい。
飲み込まれてしまった。
どんどん、どんどん、喉の奥まで、胃の中まで。
消化されていく。
夢が、君が。
消えてしまう。
距離が、体温が。
希望が。
君がいないとダメなんだ。
俺は。
思い出してくれたらうれしい。
今よりもっと幸せだ。
傍にいられるだけで幸せだ。
でも、思い出してくれたら、もっと幸せだ。
それだけだったはずなのに。
ほんのちょっとそう思っただけだったはずなのに。
「ヒグナル・バルマディッジ様」
俺は、アライアだったはずなのに。
まだ、抜け出せない。
むしろ足をからめとられて出られない。
光も奪われてしまった。
壊されていく。
思考のすべてが。
闇に飲まれていく。
墜ちていく。
首輪を付けられた人が大勢並ぶ廊下を、一人の青年が歩いていた。真っ白な髪と青い瞳の青年だった。隣には、くっつくようについてくる、黒い髪と、ルビーの瞳の青年がいる。
「ご主人様」
「ジェキシイン。愛してるよ」
「私もです。ご主人様」
首輪をつけた一人の少年がご主人様と呼ばれた青年に近づく。
「ヒグナル様。ギゼル・ジュニクファン様がいらっしゃいました」
「すぐ行くよ」
首輪をつけた者達が、彼が通り過ぎるのを心待ちにしていたと言わんばかりに頭を下げていく。
「ヒグナル様」
「ヒグナル様」
「ご主人様」
「ヒグナル様」
「ヒグナル様」
「ヒグナル様」
「ご主人様」
「ご主人様」
「ヒグナル様」
「ご主人様」
壊れていく。
崩れていく。
埋もれていく。
飲まれていく。
墜ちていく。
傍にいてくれるだけでいい。でも、思い出してくれた方がもっと嬉しい。
だから、手伝うよ。一緒にがんばろう。
思い出したら、皆に会いに行こう。俺達の友人達に。
そして、そして、彼らのいる街で、仲良く。サンドイッチでも買ってさ、それで、二人で暮らすんだ。
たくさんキスしてたくさんくっ付いて。幸せになろう。
ゆっくりでいい、ゆっくりでいいんだ。
焦らなくていい。
整理できていないだけだって、あの人が言ってたじゃないか。
まだ時間がかかるんだ。ゆっくりでいい。
エレベーターに乗り込み、ルビーの瞳の青年がボタンを押す。
エレベーターは下へ下へと降りていく。
「ヒグナル様。もうすぐシェルビー・ホールへ到着します」
「うん。久しぶりだね、ジェキシインと私の出会いの場所だ」
ああ、ああ。戻りたい、戻りたい。
あの、地下にある夢の世界に。
君に、もう一度君に会いたい。
名前を呼ばれたい。
要らない知識や残酷な記憶ばかりを持つ君じゃなくて。
俺や友人達や、両親や町の人を愛していただけの少年に。
もう一度会いたい。
焦ってはだめだ。だめだ。だめなのに。
焦る、怖い。
思い出してよシェルビー。
消さないでよシェルビー。
夢にしないでよシェルビー。
こわいこわいこわい。
また、また離される。
現実へ引き戻されてしまう。
暗闇へ引き戻されてしまう。
光が欲しい。君が欲しい。
君との思い出が。
確かな夢が。
こわい。こわい。
飲み込まれてしまった。
どんどん、どんどん、喉の奥まで、胃の中まで。
消化されていく。
夢が、君が。
消えてしまう。
距離が、体温が。
希望が。
君がいないとダメなんだ。
俺は。
思い出してくれたらうれしい。
今よりもっと幸せだ。
傍にいられるだけで幸せだ。
でも、思い出してくれたら、もっと幸せだ。
それだけだったはずなのに。
ほんのちょっとそう思っただけだったはずなのに。
「ヒグナル・バルマディッジ様」
俺は、アライアだったはずなのに。
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