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アノン
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シェルビーが拘束を解き、アライアと抱き締め合っている時だった、暗い床に光が差し込み、シェルビーを照らす。シェルビーは振り返り、腕を顔の前に翳した。
大きな扉が重たい音を立て、両側に開いていき、光で照らされる範囲が広がっていく。
光の向こう側に立っていたのは、ヒグナル・バルマディッジだった。
「おやおやお邪魔でしたか?」
叫ぶ者が現れ、叫び声を上げようとするが、空気が震えたのを感じ、シェルビーは彼らが叫ぶ前に魔術を発動させる。
魔法陣が掌の前に現れ、風の魔術が彼らの身体を切り裂き、音の魔術が彼らを気絶させた。シェルビーは新たな魔法陣を出現させ、炎を噴出させる。
――そう、シェルビーはもう炎系統の魔術を克服していたのだ。シェルビーは教室を出ていたため、学生達が苦戦していることを知らなかった。
巨大な炎が部屋を包み、自分達の身を守るために魔術を発動させる。
「――三重芯守魔法!!」
叫ぶ者達は焼き殺され、シェルビーは目を逸らす。
逸らしたとたん、攻撃をしたつもりだった男の声が聞こえた。
「いやあ、凄い凄い。魔術実験は成功していたんだね。しかもここまで扱いきれるとは」
煙が消えて、ヒグナルの姿が現れる。ヒグナルには傷一つ付いていない。
「なんで……」
「緑龍子だよ。知らないかい?」
「まさか、バシリを自分に付与したのか!?」
「使用することは禁じられていない、世界のどこにでも存在する物質だ」
「だが、故意の大量使用は禁止されている!」
シェルビーは魔術でヒグナルを倒そうとするが、彼にとって魔術はただの風のようなものだった。シェルビーは相手の体術に圧倒され、戦いに負けて気絶してしまう。
ヒグナルはアライアをちらりと見る。
「アノン……お前より、彼の方が気になるな」
とシェルビーを見て不気味に笑う。
「何!?」
アライアが魔術を発動させようとするが、その前に手首を掴まれ、魔法陣の形成が出来なくなる。
「研究者の監視から解かれ最大の敵の出現で研究を急いだ。お前を守る為に。自信と本気が足りなかったんだね」
アライアは苦いつばを喉の奥に押しやる。
「彼はあっという間に、何十年間研究され続けてきた人類の魔術使用を成功させた上に、全員が簡単に使える魔術の実験まで始めて既に指で数えられないほどの魔術を生み出している。しかもお前の身体を、細胞を使いもしないで。とんでもない、まだ高校生だろう? この子はお前より、価値がある。お前がいなくなっても、この子がいれば、アノンがたくさん生み出せるんだよ」
「ま、まさかシェルビーを……」
ヒグナルはアライアの手首を身体ごと振り払う。アライアは地面に倒れ伏せ、ヒグナルの力に抵抗できずに再び拘束される。
「お前は永遠にそこにいるといい。今のお前は未熟だが、お前の魔術は誰よりも恐ろしいからね。拘束しておこう。衰弱死してくれると尚更いいけど、結構かかりそうだぁ」
ヒグナルはそう言ってから、シェルビーに近づき、彼を担ぐ。
「この子は我々が貰い受けるよ……」
「やめろ、やめろ!!」
ヒグナルとシェルビーは光の中に消えていく。
「シェルビいいいいいいい!!」
――重たい音を立てて、扉は閉まっていく。
アライアはまた、暗闇へ飲み込まれていった。
◇◇◇
学生達の魔術実験はそのまま続けられ、新たな種――炎を操る者・コノカが生まれた。彼らには炎を発生させる力は与えず、炎を操ることだけに特化させた。
あの未知の化け物は叫ぶ者とギゼルに倒され、共に大暴れしたコノカもどきにより骨まで焼き尽くされたと聞いた。
アノンに会いに行ったシェルビーは戻ってこなかった。
アノンも何処に行ったのか分からない。
魔術はやがて、全世界の人に広まり、黄色の魔方陣が出た人だけは魔術の使用を禁じられた。
しかし試した人が続出し死者も多く出た。
身を守る為だけの芯守魔法などは一般公開などもされ、その他は研究中と言うことになった。
あれから、4年以上が経っていた。
暗闇は逃してはくれなかった。
けれど心の中に燃え続ける光は離れていかなかった。
友人達の与えてくれた、暖かい光。
太陽なんかよりももっと、暖かかった光。
彼の光。
溜めこんできた。
君のような記憶力や発想力はないけれど、天才ではないけれど。
俺には父に教えられた形見がある。
大事な思い出がある。
君や友人達を守る為の、光を持っている。
必ず助ける。助け出す。
身体は充分成長した、力も充分溜めこんだ。
あとは、思いを口にするだけだ。
「――魔法」
辺りが光に包まれ、壁が消失し、ユヤ穴の天井は大きなパイプや施設を消失させる。
青い空と、白い雲と。
眩しくて、暖かい光が、顔を出した。
アライアの右肩から腰までが消失してしまったが、身体の再生速度も前より格段に速かった。
まだ生きられる。
まだ助けられる。
シェルビー。
シェルビー。
何処にいるんだ。
あらゆる建物が、波紋を生むように崩れていく。
町も、施設も、電力も、この町を形成するエネルギーのすべてが壊れていく。
まるで、檻を壊すかのように、空が広がっていく。
青い空の下、光の降り注ぐその場所で。
アライアは深く息を吸い込んだ。
「シェルビいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」
◇◇◇
茶飯達は崩壊していく施設の中を、魔術を使いつつ避難していた。
みんなで居場所や状況の確認を取りながら、施設の中から避難する。
茶飯はあることに気が付き、周りを見渡し、呟いた。
「オルトシア?」
大きな扉が重たい音を立て、両側に開いていき、光で照らされる範囲が広がっていく。
光の向こう側に立っていたのは、ヒグナル・バルマディッジだった。
「おやおやお邪魔でしたか?」
叫ぶ者が現れ、叫び声を上げようとするが、空気が震えたのを感じ、シェルビーは彼らが叫ぶ前に魔術を発動させる。
魔法陣が掌の前に現れ、風の魔術が彼らの身体を切り裂き、音の魔術が彼らを気絶させた。シェルビーは新たな魔法陣を出現させ、炎を噴出させる。
――そう、シェルビーはもう炎系統の魔術を克服していたのだ。シェルビーは教室を出ていたため、学生達が苦戦していることを知らなかった。
巨大な炎が部屋を包み、自分達の身を守るために魔術を発動させる。
「――三重芯守魔法!!」
叫ぶ者達は焼き殺され、シェルビーは目を逸らす。
逸らしたとたん、攻撃をしたつもりだった男の声が聞こえた。
「いやあ、凄い凄い。魔術実験は成功していたんだね。しかもここまで扱いきれるとは」
煙が消えて、ヒグナルの姿が現れる。ヒグナルには傷一つ付いていない。
「なんで……」
「緑龍子だよ。知らないかい?」
「まさか、バシリを自分に付与したのか!?」
「使用することは禁じられていない、世界のどこにでも存在する物質だ」
「だが、故意の大量使用は禁止されている!」
シェルビーは魔術でヒグナルを倒そうとするが、彼にとって魔術はただの風のようなものだった。シェルビーは相手の体術に圧倒され、戦いに負けて気絶してしまう。
ヒグナルはアライアをちらりと見る。
「アノン……お前より、彼の方が気になるな」
とシェルビーを見て不気味に笑う。
「何!?」
アライアが魔術を発動させようとするが、その前に手首を掴まれ、魔法陣の形成が出来なくなる。
「研究者の監視から解かれ最大の敵の出現で研究を急いだ。お前を守る為に。自信と本気が足りなかったんだね」
アライアは苦いつばを喉の奥に押しやる。
「彼はあっという間に、何十年間研究され続けてきた人類の魔術使用を成功させた上に、全員が簡単に使える魔術の実験まで始めて既に指で数えられないほどの魔術を生み出している。しかもお前の身体を、細胞を使いもしないで。とんでもない、まだ高校生だろう? この子はお前より、価値がある。お前がいなくなっても、この子がいれば、アノンがたくさん生み出せるんだよ」
「ま、まさかシェルビーを……」
ヒグナルはアライアの手首を身体ごと振り払う。アライアは地面に倒れ伏せ、ヒグナルの力に抵抗できずに再び拘束される。
「お前は永遠にそこにいるといい。今のお前は未熟だが、お前の魔術は誰よりも恐ろしいからね。拘束しておこう。衰弱死してくれると尚更いいけど、結構かかりそうだぁ」
ヒグナルはそう言ってから、シェルビーに近づき、彼を担ぐ。
「この子は我々が貰い受けるよ……」
「やめろ、やめろ!!」
ヒグナルとシェルビーは光の中に消えていく。
「シェルビいいいいいいい!!」
――重たい音を立てて、扉は閉まっていく。
アライアはまた、暗闇へ飲み込まれていった。
◇◇◇
学生達の魔術実験はそのまま続けられ、新たな種――炎を操る者・コノカが生まれた。彼らには炎を発生させる力は与えず、炎を操ることだけに特化させた。
あの未知の化け物は叫ぶ者とギゼルに倒され、共に大暴れしたコノカもどきにより骨まで焼き尽くされたと聞いた。
アノンに会いに行ったシェルビーは戻ってこなかった。
アノンも何処に行ったのか分からない。
魔術はやがて、全世界の人に広まり、黄色の魔方陣が出た人だけは魔術の使用を禁じられた。
しかし試した人が続出し死者も多く出た。
身を守る為だけの芯守魔法などは一般公開などもされ、その他は研究中と言うことになった。
あれから、4年以上が経っていた。
暗闇は逃してはくれなかった。
けれど心の中に燃え続ける光は離れていかなかった。
友人達の与えてくれた、暖かい光。
太陽なんかよりももっと、暖かかった光。
彼の光。
溜めこんできた。
君のような記憶力や発想力はないけれど、天才ではないけれど。
俺には父に教えられた形見がある。
大事な思い出がある。
君や友人達を守る為の、光を持っている。
必ず助ける。助け出す。
身体は充分成長した、力も充分溜めこんだ。
あとは、思いを口にするだけだ。
「――魔法」
辺りが光に包まれ、壁が消失し、ユヤ穴の天井は大きなパイプや施設を消失させる。
青い空と、白い雲と。
眩しくて、暖かい光が、顔を出した。
アライアの右肩から腰までが消失してしまったが、身体の再生速度も前より格段に速かった。
まだ生きられる。
まだ助けられる。
シェルビー。
シェルビー。
何処にいるんだ。
あらゆる建物が、波紋を生むように崩れていく。
町も、施設も、電力も、この町を形成するエネルギーのすべてが壊れていく。
まるで、檻を壊すかのように、空が広がっていく。
青い空の下、光の降り注ぐその場所で。
アライアは深く息を吸い込んだ。
「シェルビいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」
◇◇◇
茶飯達は崩壊していく施設の中を、魔術を使いつつ避難していた。
みんなで居場所や状況の確認を取りながら、施設の中から避難する。
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「オルトシア?」
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