リクゴウシュ

隍沸喰(隍沸かゆ)

文字の大きさ
上 下
224 / 299
アノン

27

しおりを挟む
 シェルビーは焦りに焦って、ギゼルの存在を教室のみんなに明かした。ギゼルの成長スピードは凄まじく、もう自立して歩けるまでになっていた。
 羊紅色の髪に、桃色の瞳、アライアの鋭い目と、シェルビーの柔らかい口元が受け継がれた子供だった。
 教室で彼の世話をしながら、研究を手伝ってもらう。
 シェルビーはそれでも焦っていた。
 ある日、彼の中で、スイッチのようなものが入った音がした。
 彼の中の記憶――カプセルの女性の記憶、資料の記憶、アライアが魔術を使用した時の魔法陣の記憶――昔の研究者達の言葉が脳内でループする。更にそこに今までの学生・研究員としての経験が加わってくる。
「バシリだ。バシリは他の物質を支配する力を持つ。バシリでほかの物質を操れるようにすれば、魔術を生み出せるかもしれない!!」
 シェルビーは学生達と共に今までとは違う本格的なバシリ実験を開始する。
 シェルビーは記憶の中で見たアライアの魔法陣をホワイトボードに書き映し、バシリを操ってその形に形成する実験を開始する。
 数日が経つと、その方法で魔術が扱える者が続出した。
これでヒグナルを倒せる、とみんながやる気を出していく中、黄色の魔方陣を出した者達がパタリパタリと倒れ、彼らの脈が止まっていることにシェルビー達は気が付いた。
 理由を研究し、魔方陣を出して黄色だった者は文字の形成を中止して、魔術の使用を禁止すると決めた。
「研究者達はその気がなくてもヒグナルの手下のような状態だ、だから俺達に研究を託した。だから成功したことは隠す」
 シェルビーが宣言すると、翡翠が続けて言った。
「もしバレたらもれなく全員調教行き最悪売られて戦場に立たされるよ」
 全員がそれを聞いて、シェルビーの言葉に従った。
 黄色い魔方陣以外の魔術を、ギゼルを含む全員が使えるようになり、ヒグナルから身を守る為の強力な魔術実験が開始される。
 茶飯は実験を指導するシェルビーを見て呟く。
「真の天才が現れたな」
「だがまだ天才止まりだ」
とオルトシアがその呟きに答えた。
「歴史上の超天才はこんなレベルではなかった。ユヤ穴を作ったユヤや、バシリを始め、あらゆる物質をつくった超天才。彼が生きていたら、この地下都市は――いや、この世界はどうなっていたんだろう……」
茶飯はそれに返事が出来なかったが、世界の現状を考えて、きっと酷いことになっていただろうと考えた。それに反し、オルトシアは世界が発展し、平和になっている様子を頭の中に思い浮かべた。
魔術実験が進み、どうしても炎系統の魔術がうまくいかない問題にぶち当たる。みんなで考えた末、魔術を扱える新しい生命体を生み出し、ギゼルのように、ある程度育ったら手伝って貰おうと決まった。しかし実験は失敗に終わり、失敗作――魔法陣もなしに炎だけを発生させ、それを操る者が生まれてしまった。
 シェルビーはその頃、研究者達に会い、アノンの居場所を聞き出していた。研究者達は居場所を教えてはくれたが、会わせてはくれなかった。
 シェルビーは10年前を思い出した。そして、10年前より新しくなっている大きなダクトから会いに行った。
 いたるところに格子が付けられていてそれ以上進めないと言う状況に陥ったが、風を操る魔術によりそれを切断して進んだ。
 アノンの閉じ込められている部屋へ辿り着くと、風の魔術を扱いながら滑空して静かに降り立つ。
 真っ暗闇の中を、魔法陣を形成する光で照らしながら歩いていくと、椅子に座らせられ、拘束され、目隠しを付けられたアノンを発見する。
 シェルビーはそれに駆け寄り、アライアを抱きしめる。
「今外してやるから」



        ◇◇◇



 シェルビーの不在中も、実験が続けられていた。
 そんな中、失敗作である炎を発生させる者達が暴走する。
 彼らが炎を発生させ、大暴れすると、ギゼルも彼らに刺激されたのか魔術を扱って暴走する。
 数名の学生が、凄まじい力に壁を突き破り廊下に吹っ飛ばされる。
 その開いた穴から、学生達は我先にと逃げだした。
 茶飯と翡翠、オルトシアと若葉がそれを追いかけるように逃げようとした時だった。
 背後の廊下から、ぬちゃ……と言う音が、定期的に鳴り、聞こえてくる。それは徐々に近づいてきて、茶飯達は走りながら振り返る。
「何なんだ……あれは!!」
 茶飯は足を止めそうになりながらそう叫ぶ。
 背後から迫ってきていたのは、大量の目玉と肉が捻られたようにつらなり、塊となった生命体だった。透明の光る粘液を纏い、大きな手足を壁や地面に這わせながら近づいてくる。
「誰かの研究作だ」
 と翡翠が言う。
 化け物の塊から目玉が発射され、同じ場所から目玉がせり出し生えてくる。若葉がそれに襲われそうになるのを、翡翠が身を挺して庇い、彼女の手を取って走る。
「大丈夫か翡翠!」
 振り返りながら先導するオルトシアが言う。
「将来ここの施設がなくなっていようと、同じように研究している者がいるなら、同じような化け物が生まれるだろうね……」
 翡翠が呟くと、それを聞いていた茶飯が答えた。
「そうだな」
 ――瞬間、誰かの歌声が聞こえ始め、茶飯達の後ろの壁が赤く盛り上がり、突き破られて黄金の炎が噴出してきた。化け物は炎に包まれ、悲鳴を上げ暴れながら逃げるように後退していく。
 茶飯達は魔術で応戦しつつ、追ってくる失敗作――炎を発生させ操る者達を相手する。
 ギゼルは化け物を追って、茶飯達の呼びかけに答えることはなく、導かれるように暗闇へと消えていった。
 誰かの叫び声が聞こえ、一同は前方を向く。10人程度のその人物達は叫び声を上げ、床や壁を破壊し、炎を発生させる者達をも破壊し、撃退していく。
 茶飯達の前――叫ぶ者達の前に立っているのは、あの――ヒグナル・バルマディッジと言う男だった。
 叫ぶ者達を連れてきたのは彼らしい。叫ぶ者の攻撃に巻き込まれ、傷を負った茶飯達は、足を引きずるようにしてヒグナルに近づく。
 ヒグナルは茶飯達を一瞥すると、踵を返した。
茶飯達は彼がどこに向かうのか悟ったが、重傷を負った彼らにはそれを止めることは難しかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

【R18】絶望の枷〜壊される少女〜

サディスティックヘヴン
ファンタジー
★Caution★  この作品は暴力的な性行為が描写されています。胸糞悪い結末を許せる方向け。  “災厄”の魔女と呼ばれる千年を生きる少女が、変態王子に捕えられ弟子の少年の前で強姦、救われない結末に至るまでの話。三分割。最後の★がついている部分が本番行為です。

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

入れ替わった二人

廣瀬純一
ファンタジー
ある日突然、男と女の身体が入れ替わる話です。

完結【R―18】様々な情事 短編集

秋刀魚妹子
恋愛
 本作品は、過度な性的描写が有ります。 というか、性的描写しか有りません。  タイトルのお品書きにて、シチュエーションとジャンルが分かります。  好みで無いシチュエーションやジャンルを踏まないようご注意下さい。  基本的に、短編集なので登場人物やストーリーは繋がっておりません。  同じ名前、同じ容姿でも関係無い場合があります。  ※ このキャラの情事が読みたいと要望の感想を頂いた場合は、同じキャラが登場する可能性があります。  ※ 更新は不定期です。  それでは、楽しんで頂けたら幸いです。

【R18】淫魔の道具〈開発される女子大生〉

ちゅー
ファンタジー
現代の都市部に潜み、淫魔は探していた。 餌食とするヒトを。 まず狙われたのは男性経験が無い清楚な女子大生だった。 淫魔は超常的な力を用い彼女らを堕落させていく…

処理中です...