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アノン
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シェルビーは焦りに焦って、ギゼルの存在を教室のみんなに明かした。ギゼルの成長スピードは凄まじく、もう自立して歩けるまでになっていた。
羊紅色の髪に、桃色の瞳、アライアの鋭い目と、シェルビーの柔らかい口元が受け継がれた子供だった。
教室で彼の世話をしながら、研究を手伝ってもらう。
シェルビーはそれでも焦っていた。
ある日、彼の中で、スイッチのようなものが入った音がした。
彼の中の記憶――カプセルの女性の記憶、資料の記憶、アライアが魔術を使用した時の魔法陣の記憶――昔の研究者達の言葉が脳内でループする。更にそこに今までの学生・研究員としての経験が加わってくる。
「バシリだ。バシリは他の物質を支配する力を持つ。バシリでほかの物質を操れるようにすれば、魔術を生み出せるかもしれない!!」
シェルビーは学生達と共に今までとは違う本格的なバシリ実験を開始する。
シェルビーは記憶の中で見たアライアの魔法陣をホワイトボードに書き映し、バシリを操ってその形に形成する実験を開始する。
数日が経つと、その方法で魔術が扱える者が続出した。
これでヒグナルを倒せる、とみんながやる気を出していく中、黄色の魔方陣を出した者達がパタリパタリと倒れ、彼らの脈が止まっていることにシェルビー達は気が付いた。
理由を研究し、魔方陣を出して黄色だった者は文字の形成を中止して、魔術の使用を禁止すると決めた。
「研究者達はその気がなくてもヒグナルの手下のような状態だ、だから俺達に研究を託した。だから成功したことは隠す」
シェルビーが宣言すると、翡翠が続けて言った。
「もしバレたらもれなく全員調教行き最悪売られて戦場に立たされるよ」
全員がそれを聞いて、シェルビーの言葉に従った。
黄色い魔方陣以外の魔術を、ギゼルを含む全員が使えるようになり、ヒグナルから身を守る為の強力な魔術実験が開始される。
茶飯は実験を指導するシェルビーを見て呟く。
「真の天才が現れたな」
「だがまだ天才止まりだ」
とオルトシアがその呟きに答えた。
「歴史上の超天才はこんなレベルではなかった。ユヤ穴を作ったユヤや、バシリを始め、あらゆる物質をつくった超天才。彼が生きていたら、この地下都市は――いや、この世界はどうなっていたんだろう……」
茶飯はそれに返事が出来なかったが、世界の現状を考えて、きっと酷いことになっていただろうと考えた。それに反し、オルトシアは世界が発展し、平和になっている様子を頭の中に思い浮かべた。
魔術実験が進み、どうしても炎系統の魔術がうまくいかない問題にぶち当たる。みんなで考えた末、魔術を扱える新しい生命体を生み出し、ギゼルのように、ある程度育ったら手伝って貰おうと決まった。しかし実験は失敗に終わり、失敗作――魔法陣もなしに炎だけを発生させ、それを操る者が生まれてしまった。
シェルビーはその頃、研究者達に会い、アノンの居場所を聞き出していた。研究者達は居場所を教えてはくれたが、会わせてはくれなかった。
シェルビーは10年前を思い出した。そして、10年前より新しくなっている大きなダクトから会いに行った。
いたるところに格子が付けられていてそれ以上進めないと言う状況に陥ったが、風を操る魔術によりそれを切断して進んだ。
アノンの閉じ込められている部屋へ辿り着くと、風の魔術を扱いながら滑空して静かに降り立つ。
真っ暗闇の中を、魔法陣を形成する光で照らしながら歩いていくと、椅子に座らせられ、拘束され、目隠しを付けられたアノンを発見する。
シェルビーはそれに駆け寄り、アライアを抱きしめる。
「今外してやるから」
◇◇◇
シェルビーの不在中も、実験が続けられていた。
そんな中、失敗作である炎を発生させる者達が暴走する。
彼らが炎を発生させ、大暴れすると、ギゼルも彼らに刺激されたのか魔術を扱って暴走する。
数名の学生が、凄まじい力に壁を突き破り廊下に吹っ飛ばされる。
その開いた穴から、学生達は我先にと逃げだした。
茶飯と翡翠、オルトシアと若葉がそれを追いかけるように逃げようとした時だった。
背後の廊下から、ぬちゃ……と言う音が、定期的に鳴り、聞こえてくる。それは徐々に近づいてきて、茶飯達は走りながら振り返る。
「何なんだ……あれは!!」
茶飯は足を止めそうになりながらそう叫ぶ。
背後から迫ってきていたのは、大量の目玉と肉が捻られたようにつらなり、塊となった生命体だった。透明の光る粘液を纏い、大きな手足を壁や地面に這わせながら近づいてくる。
「誰かの研究作だ」
と翡翠が言う。
化け物の塊から目玉が発射され、同じ場所から目玉がせり出し生えてくる。若葉がそれに襲われそうになるのを、翡翠が身を挺して庇い、彼女の手を取って走る。
「大丈夫か翡翠!」
振り返りながら先導するオルトシアが言う。
「将来ここの施設がなくなっていようと、同じように研究している者がいるなら、同じような化け物が生まれるだろうね……」
翡翠が呟くと、それを聞いていた茶飯が答えた。
「そうだな」
――瞬間、誰かの歌声が聞こえ始め、茶飯達の後ろの壁が赤く盛り上がり、突き破られて黄金の炎が噴出してきた。化け物は炎に包まれ、悲鳴を上げ暴れながら逃げるように後退していく。
茶飯達は魔術で応戦しつつ、追ってくる失敗作――炎を発生させ操る者達を相手する。
ギゼルは化け物を追って、茶飯達の呼びかけに答えることはなく、導かれるように暗闇へと消えていった。
誰かの叫び声が聞こえ、一同は前方を向く。10人程度のその人物達は叫び声を上げ、床や壁を破壊し、炎を発生させる者達をも破壊し、撃退していく。
茶飯達の前――叫ぶ者達の前に立っているのは、あの――ヒグナル・バルマディッジと言う男だった。
叫ぶ者達を連れてきたのは彼らしい。叫ぶ者の攻撃に巻き込まれ、傷を負った茶飯達は、足を引きずるようにしてヒグナルに近づく。
ヒグナルは茶飯達を一瞥すると、踵を返した。
茶飯達は彼がどこに向かうのか悟ったが、重傷を負った彼らにはそれを止めることは難しかった。
羊紅色の髪に、桃色の瞳、アライアの鋭い目と、シェルビーの柔らかい口元が受け継がれた子供だった。
教室で彼の世話をしながら、研究を手伝ってもらう。
シェルビーはそれでも焦っていた。
ある日、彼の中で、スイッチのようなものが入った音がした。
彼の中の記憶――カプセルの女性の記憶、資料の記憶、アライアが魔術を使用した時の魔法陣の記憶――昔の研究者達の言葉が脳内でループする。更にそこに今までの学生・研究員としての経験が加わってくる。
「バシリだ。バシリは他の物質を支配する力を持つ。バシリでほかの物質を操れるようにすれば、魔術を生み出せるかもしれない!!」
シェルビーは学生達と共に今までとは違う本格的なバシリ実験を開始する。
シェルビーは記憶の中で見たアライアの魔法陣をホワイトボードに書き映し、バシリを操ってその形に形成する実験を開始する。
数日が経つと、その方法で魔術が扱える者が続出した。
これでヒグナルを倒せる、とみんながやる気を出していく中、黄色の魔方陣を出した者達がパタリパタリと倒れ、彼らの脈が止まっていることにシェルビー達は気が付いた。
理由を研究し、魔方陣を出して黄色だった者は文字の形成を中止して、魔術の使用を禁止すると決めた。
「研究者達はその気がなくてもヒグナルの手下のような状態だ、だから俺達に研究を託した。だから成功したことは隠す」
シェルビーが宣言すると、翡翠が続けて言った。
「もしバレたらもれなく全員調教行き最悪売られて戦場に立たされるよ」
全員がそれを聞いて、シェルビーの言葉に従った。
黄色い魔方陣以外の魔術を、ギゼルを含む全員が使えるようになり、ヒグナルから身を守る為の強力な魔術実験が開始される。
茶飯は実験を指導するシェルビーを見て呟く。
「真の天才が現れたな」
「だがまだ天才止まりだ」
とオルトシアがその呟きに答えた。
「歴史上の超天才はこんなレベルではなかった。ユヤ穴を作ったユヤや、バシリを始め、あらゆる物質をつくった超天才。彼が生きていたら、この地下都市は――いや、この世界はどうなっていたんだろう……」
茶飯はそれに返事が出来なかったが、世界の現状を考えて、きっと酷いことになっていただろうと考えた。それに反し、オルトシアは世界が発展し、平和になっている様子を頭の中に思い浮かべた。
魔術実験が進み、どうしても炎系統の魔術がうまくいかない問題にぶち当たる。みんなで考えた末、魔術を扱える新しい生命体を生み出し、ギゼルのように、ある程度育ったら手伝って貰おうと決まった。しかし実験は失敗に終わり、失敗作――魔法陣もなしに炎だけを発生させ、それを操る者が生まれてしまった。
シェルビーはその頃、研究者達に会い、アノンの居場所を聞き出していた。研究者達は居場所を教えてはくれたが、会わせてはくれなかった。
シェルビーは10年前を思い出した。そして、10年前より新しくなっている大きなダクトから会いに行った。
いたるところに格子が付けられていてそれ以上進めないと言う状況に陥ったが、風を操る魔術によりそれを切断して進んだ。
アノンの閉じ込められている部屋へ辿り着くと、風の魔術を扱いながら滑空して静かに降り立つ。
真っ暗闇の中を、魔法陣を形成する光で照らしながら歩いていくと、椅子に座らせられ、拘束され、目隠しを付けられたアノンを発見する。
シェルビーはそれに駆け寄り、アライアを抱きしめる。
「今外してやるから」
◇◇◇
シェルビーの不在中も、実験が続けられていた。
そんな中、失敗作である炎を発生させる者達が暴走する。
彼らが炎を発生させ、大暴れすると、ギゼルも彼らに刺激されたのか魔術を扱って暴走する。
数名の学生が、凄まじい力に壁を突き破り廊下に吹っ飛ばされる。
その開いた穴から、学生達は我先にと逃げだした。
茶飯と翡翠、オルトシアと若葉がそれを追いかけるように逃げようとした時だった。
背後の廊下から、ぬちゃ……と言う音が、定期的に鳴り、聞こえてくる。それは徐々に近づいてきて、茶飯達は走りながら振り返る。
「何なんだ……あれは!!」
茶飯は足を止めそうになりながらそう叫ぶ。
背後から迫ってきていたのは、大量の目玉と肉が捻られたようにつらなり、塊となった生命体だった。透明の光る粘液を纏い、大きな手足を壁や地面に這わせながら近づいてくる。
「誰かの研究作だ」
と翡翠が言う。
化け物の塊から目玉が発射され、同じ場所から目玉がせり出し生えてくる。若葉がそれに襲われそうになるのを、翡翠が身を挺して庇い、彼女の手を取って走る。
「大丈夫か翡翠!」
振り返りながら先導するオルトシアが言う。
「将来ここの施設がなくなっていようと、同じように研究している者がいるなら、同じような化け物が生まれるだろうね……」
翡翠が呟くと、それを聞いていた茶飯が答えた。
「そうだな」
――瞬間、誰かの歌声が聞こえ始め、茶飯達の後ろの壁が赤く盛り上がり、突き破られて黄金の炎が噴出してきた。化け物は炎に包まれ、悲鳴を上げ暴れながら逃げるように後退していく。
茶飯達は魔術で応戦しつつ、追ってくる失敗作――炎を発生させ操る者達を相手する。
ギゼルは化け物を追って、茶飯達の呼びかけに答えることはなく、導かれるように暗闇へと消えていった。
誰かの叫び声が聞こえ、一同は前方を向く。10人程度のその人物達は叫び声を上げ、床や壁を破壊し、炎を発生させる者達をも破壊し、撃退していく。
茶飯達の前――叫ぶ者達の前に立っているのは、あの――ヒグナル・バルマディッジと言う男だった。
叫ぶ者達を連れてきたのは彼らしい。叫ぶ者の攻撃に巻き込まれ、傷を負った茶飯達は、足を引きずるようにしてヒグナルに近づく。
ヒグナルは茶飯達を一瞥すると、踵を返した。
茶飯達は彼がどこに向かうのか悟ったが、重傷を負った彼らにはそれを止めることは難しかった。
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