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アノン
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麗土の弟・向が手を上げて言う。一番年下の少女・エリティが言った。
「まだ決まってないょ……でもサリちゃんだけは一緒に行くょ」
黄色の髪(毛糸)の人形の頭を撫でる。ラヴィラはそれを見て笑う。
「私はパン屋さん! もうパン屋さんになるって決めてるからね!」
シェルビーがそれに続く。
「俺はまだ決まってないけど、蒸しパンなら教えられるぞ」
「あのまじぃ~いパンが売れるかよ」
「そう言うお前はどうするんだよ」
「ん~まだ決めてない」
と麗土が腕を組んで目を瞑り、首を傾げる。シェルビーはそれを見て向に視線を向けた。
「向は? 何か決めてるから質問したんじゃねえの?」
「決まってないけど、大きい家には住みたいな」
「おい、俺らの家が小さいみたいに言うな!」
麗土に頭を小突かれ向は半泣きになる。
「いじめないでよ。見ててこっちが痛くなるわ。兄弟仲良しが一番なんじゃない?」
「なぁんか愛情わかねんだよな~」
「こっちだって兄ちゃんのこと家族なんて思ったことないよ」
頭を押さえながらそんなことを言う向のこめかみに、麗土の両拳がぐりぐりと攻撃をする。
「向いいいいいい……」
「いたたたた!! 兄ちゃんだって酷いこと言ったじゃん!」
「俺はいいんだよ!!」
「ずるい!! 暴力横暴大反対ぃ!!」
麗土が手を休めると、向はシェルビーの背に隠れる。
「シェルビー、そいつを出せ。それともお前が代わりにグリグリされるか?」
両拳を見せながら近付いてくる凶悪な顔をした麗土の頭をシェルビーは笑ってポンポンと撫でる。
「どうどう落ち着け落ち着け」
「お前たまに俺のこと動物扱いするよな?」
麗土の両拳がシェルビーのこめかみを掠めていって、シェルビーは麗土の鼻先に頭突きを食らわせながらスパンと直角に頭を下げる。
「すみませんでした!!」
「いてえッ!!」
すぱこんとシェルビーは頭を叩かれる。
麗土は赤くなった手にふぅふぅと息をかけ、「石頭が」と憎らしげに呟いた。
シェルビーが笑いかけると、麗土は口角を上げて笑みを浮かべる。二人がそうすると、ラヴィラも向もエリティも真似る。
シェルビーが手を前に突き出すと、みんながその手に手を重ねた。
「じゃあ、今日も作戦通り行きますか!」
シェルビーの掛け声と共に、走り出し、階段を上っていく。橋を渡り、道を真っ直ぐ真っ直ぐ走ってユヤ穴の一番外側までやってきて階段を上がる。町の一部を見渡せる展望台へやって来て、柵に手をやって眺める。一同は振り返り、一斉に壁を登り始めた。
「あちいぃ!! あちいぃ!!」とシェルビー。
「手が焼けるぅぅぅ!!」と向。
「いったん降りろぉぉ!!」と麗土。
一同が壁を登るのをやめ、どうするか考えていると。傍にあった箱を漁っていたシェルビーが複数の軍手を取り出して言った。
「これ使えそうじゃねえか?」
「人数分あるか?」
おそらくどこかの作業員の置き忘れか、捨てていったものだ。
麗土も箱の中を漁る。大人の軍手なのでかなりぶかぶかだが、軍手は人数分と片手一枚分があった。
「俺二重にしとこ」
シェルビーが右手だけ二重にする。それを見た向がその軍手をシェルビーの手から引っ張り取ろうとする。
「シェルビーずるい!」
「どうどう落ち着け落ち着け」
「兄ちゃんと同じ扱いするな!! ぎゃああ!!」
麗土の拳が向の頭の上から地面と垂直に落とされる。
一同は再び壁に向き直り――向は少し遅れて向き直り――軍手を付けた手をパンパンと鳴らして気合を入れ、壁を登り始めた。
「おおおお、熱いいいい……!!」とシェルビー。
「身体が焼けるぅぅぅ!!」と向。
「体温高くなりすぎると死んじまうんだぞ、これ大丈夫か!?」と麗土。
「壁からは無理かもしんない!?」とシェルビー。
「ひえあお!? まず体力持たないわよ!」とラヴィラ。
「手が痛いょぉ……!」とエリティ。
壁を登ることを諦めた一同は、軍手を箱の中に返し、いつも通っている下層の古い図書館へ向かった。
大通りを通っていると、屋台のおじさんが焼きたてのパンをくれて、食べながら図書館を目指した。ラヴィラが異常なくらい喜んでいた。
「ふわふわだわ……こんなかわいい食べ物存在していていいのかしら」
「存在してた方がいいょ」
「あのおじさんいっつも優しいよね。大人がみんなああだったらいいのに」
「誰かさんの蒸しパンより何十倍もうめぇ~」
「こっちを見るな。……そ、そんなに好きなら、プレゼントしてやるぞ?」
「何嬉しそうにしてんだ!! 要らねえ!!」
図書館に着き、靴を脱いで棚にしまい、カウンターの奥にいるお婆さんに挨拶をしながら奥の本棚群へ向かう。
それぞれが外へ行く時役に立ちそうな本を探す。
シェルビーと麗土は地下都市の地図や設計図を見つけ出し、床に寝そべってページを眺める。シェルビー達の他に人はいないし、本棚でちょうど隠れているので注意はされなかった。
地図や設計図などが載った本は持ち出し禁止なので、眺めることしかできなかった。
そこへ、ラヴィラとエリティがやって来て、見つけた本のページを見せてくる。
「ねえ、この設計図、汚水を浄化した後の水を地上にくみ上げるポンプって説明があるよ」
「これなら逃げられると思うょ……」
「天才かお前ら!!」
シェルビーが本を受け取り、麗土に見せるようにして二人で眺める。
「よっしゃ、次はポンプに侵入だ!」
「でもこの設計図見切れてるな……大丈夫なのか?」
「行ってみれば分かるって!」
「まだ決まってないょ……でもサリちゃんだけは一緒に行くょ」
黄色の髪(毛糸)の人形の頭を撫でる。ラヴィラはそれを見て笑う。
「私はパン屋さん! もうパン屋さんになるって決めてるからね!」
シェルビーがそれに続く。
「俺はまだ決まってないけど、蒸しパンなら教えられるぞ」
「あのまじぃ~いパンが売れるかよ」
「そう言うお前はどうするんだよ」
「ん~まだ決めてない」
と麗土が腕を組んで目を瞑り、首を傾げる。シェルビーはそれを見て向に視線を向けた。
「向は? 何か決めてるから質問したんじゃねえの?」
「決まってないけど、大きい家には住みたいな」
「おい、俺らの家が小さいみたいに言うな!」
麗土に頭を小突かれ向は半泣きになる。
「いじめないでよ。見ててこっちが痛くなるわ。兄弟仲良しが一番なんじゃない?」
「なぁんか愛情わかねんだよな~」
「こっちだって兄ちゃんのこと家族なんて思ったことないよ」
頭を押さえながらそんなことを言う向のこめかみに、麗土の両拳がぐりぐりと攻撃をする。
「向いいいいいい……」
「いたたたた!! 兄ちゃんだって酷いこと言ったじゃん!」
「俺はいいんだよ!!」
「ずるい!! 暴力横暴大反対ぃ!!」
麗土が手を休めると、向はシェルビーの背に隠れる。
「シェルビー、そいつを出せ。それともお前が代わりにグリグリされるか?」
両拳を見せながら近付いてくる凶悪な顔をした麗土の頭をシェルビーは笑ってポンポンと撫でる。
「どうどう落ち着け落ち着け」
「お前たまに俺のこと動物扱いするよな?」
麗土の両拳がシェルビーのこめかみを掠めていって、シェルビーは麗土の鼻先に頭突きを食らわせながらスパンと直角に頭を下げる。
「すみませんでした!!」
「いてえッ!!」
すぱこんとシェルビーは頭を叩かれる。
麗土は赤くなった手にふぅふぅと息をかけ、「石頭が」と憎らしげに呟いた。
シェルビーが笑いかけると、麗土は口角を上げて笑みを浮かべる。二人がそうすると、ラヴィラも向もエリティも真似る。
シェルビーが手を前に突き出すと、みんながその手に手を重ねた。
「じゃあ、今日も作戦通り行きますか!」
シェルビーの掛け声と共に、走り出し、階段を上っていく。橋を渡り、道を真っ直ぐ真っ直ぐ走ってユヤ穴の一番外側までやってきて階段を上がる。町の一部を見渡せる展望台へやって来て、柵に手をやって眺める。一同は振り返り、一斉に壁を登り始めた。
「あちいぃ!! あちいぃ!!」とシェルビー。
「手が焼けるぅぅぅ!!」と向。
「いったん降りろぉぉ!!」と麗土。
一同が壁を登るのをやめ、どうするか考えていると。傍にあった箱を漁っていたシェルビーが複数の軍手を取り出して言った。
「これ使えそうじゃねえか?」
「人数分あるか?」
おそらくどこかの作業員の置き忘れか、捨てていったものだ。
麗土も箱の中を漁る。大人の軍手なのでかなりぶかぶかだが、軍手は人数分と片手一枚分があった。
「俺二重にしとこ」
シェルビーが右手だけ二重にする。それを見た向がその軍手をシェルビーの手から引っ張り取ろうとする。
「シェルビーずるい!」
「どうどう落ち着け落ち着け」
「兄ちゃんと同じ扱いするな!! ぎゃああ!!」
麗土の拳が向の頭の上から地面と垂直に落とされる。
一同は再び壁に向き直り――向は少し遅れて向き直り――軍手を付けた手をパンパンと鳴らして気合を入れ、壁を登り始めた。
「おおおお、熱いいいい……!!」とシェルビー。
「身体が焼けるぅぅぅ!!」と向。
「体温高くなりすぎると死んじまうんだぞ、これ大丈夫か!?」と麗土。
「壁からは無理かもしんない!?」とシェルビー。
「ひえあお!? まず体力持たないわよ!」とラヴィラ。
「手が痛いょぉ……!」とエリティ。
壁を登ることを諦めた一同は、軍手を箱の中に返し、いつも通っている下層の古い図書館へ向かった。
大通りを通っていると、屋台のおじさんが焼きたてのパンをくれて、食べながら図書館を目指した。ラヴィラが異常なくらい喜んでいた。
「ふわふわだわ……こんなかわいい食べ物存在していていいのかしら」
「存在してた方がいいょ」
「あのおじさんいっつも優しいよね。大人がみんなああだったらいいのに」
「誰かさんの蒸しパンより何十倍もうめぇ~」
「こっちを見るな。……そ、そんなに好きなら、プレゼントしてやるぞ?」
「何嬉しそうにしてんだ!! 要らねえ!!」
図書館に着き、靴を脱いで棚にしまい、カウンターの奥にいるお婆さんに挨拶をしながら奥の本棚群へ向かう。
それぞれが外へ行く時役に立ちそうな本を探す。
シェルビーと麗土は地下都市の地図や設計図を見つけ出し、床に寝そべってページを眺める。シェルビー達の他に人はいないし、本棚でちょうど隠れているので注意はされなかった。
地図や設計図などが載った本は持ち出し禁止なので、眺めることしかできなかった。
そこへ、ラヴィラとエリティがやって来て、見つけた本のページを見せてくる。
「ねえ、この設計図、汚水を浄化した後の水を地上にくみ上げるポンプって説明があるよ」
「これなら逃げられると思うょ……」
「天才かお前ら!!」
シェルビーが本を受け取り、麗土に見せるようにして二人で眺める。
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