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第十四章
271話 想い
しおりを挟む俺達は20層ツーチャにやって来た。以前は大規模な実験場が44層にしかないと考えていたけれど、後から増えたのかそれとも前からあったのか、44層より大規模な実験場Ⅱがあったり、44層よりは規模の小さい実験場Ⅲがこの階層には存在する。それに気付けたのは大勢の人の記憶を思い出すようになってからだ。攻略本や前世のゲームでは44層の実験場Iしか出てこなかった。
20層ツーチャには普通の森が広がっている。森は酸素を作り、地下都市に酸素を送るための装置がある施設がこの階層にはあるが、そこが実験場と化しているのだろう。
中に入ると、灰色の集団は麻薬や武器の実験を行っている。いつかヒオゥネが博士に使っていた気味の悪い色の毒薬も発見された。ヘイルレイラも協力し、俺達はあっという間に敵を倒して、別の階層から兵士を呼び彼らを捕らえさせた。
ヒオゥネの分身がいなかったことが救いだ。彼がいたら相当厄介な敵となっていただろう。
俺達は20層ツーチャを後にし、その2階層下にある22層ラウルへやって来ていた。
上級階の者が住む町がある階層だった。
今夜泊まる宿屋を探していた時だった。俺の存在に気がついた上級階の貴族たちが話しかけてくる。
「ヴァントリア様、21層の麻薬を根絶したらしいですね、素晴らしい!」
「各地で行われていた悪しき実験も皆さんで止められたとか!」
「ありがとうございます!」
つぎつぎと話しかけられて、戸惑う。今まで貴族のいる町では冷たい視線を向けられていたし、いったいどうしてそんなことを知っているのか不思議だったし、嫌われ者の自分が敵視されないことにも慣れなかった。
不思議に思いながらも皆に「ありがとう」と伝えていると――
「ヴァントリア・オルテイル様!!」
一人の女性が必死な様子で追いかけて来て名前を呼ぶ。
どう見ても貴族だが、妙な色気むんむんだった。
待て待て、女性をそんな目で見るなんてなんか失礼なじゃないか……? 反省。
「私を、救ってくださってあるがとうございました」
「えっと?」
「貴方は私を死体と偽ってこの層に運んでくださいました」
「え……」
も、もしかして。
「さすがに経験豊かですので、あれが偽造だとすぐにわかりましたよ」
にっこりと笑う女性を見て、顔がカアアッと熱くなる。
「もしかして、あの時の……」
「はい。ありがとうございます。あの時は、ノス・イクエアで誰彼構わず身体を売る者でしたが……」
彼女の話を聞いて、思い出す。ヴァントリアが彼女を襲った……と見せかけたのは、彼女が借金に苦しみ貧しい思いをしながら受付兼、ノス・イクエアの客に密かに体を売っていた娼婦であると知っていたからだ。何回か身体の関係も持っていた。14歳のヴァントリアは飽きたと言っていたけれど、彼女を助ける準備が整ったからああ言ったのだろう。
「今は家族もできて幸せなんですよ」
お腹を触る彼女を見て、「おめでとうございます」と告げると、彼女は笑った。
町の人々から何故か拍手が上がる。詳しいことは知らない彼らだが、ヴァントリアが昔したことが認められた瞬間な気がして、とても嬉しかった。
救われたと思ってくれていた人もいてくれたんだな。
ヴァントリア。お前のことを嫌われ者と呼ぶ奴は、少しずつだけど少なくなってきたよ。
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