上 下
266 / 293
第十三章

263話 支え

しおりを挟む

 俺とウォルズは魔法石に回収した奴隷達を逃がすため、32層クジャへ向かった。
 町の殆どの人が馬車で移動し、プレイヤーや馬車を持っていない貴族は町中に敷かれた橋で移動する。

「クジャに信頼できる人がいるって言ってたけど誰? いったい何処へ向かってるんだ?」

 ウォルズと一緒に橋を歩いていると、そう尋ねられる。

「この町の警備隊……団? まあ、そこに知り合いがいて……」

 橋を渡り、警備団(?)の基地である建物に着くと、その扉の前に立っていた屈強な男が俺を見て駆け寄ってくる。

「ヴァントリア様ああああああ!」

 泣きながら抱きついてくるそいつに、不機嫌さを表しながら言った。

「おいくっつくな。離れろ」
「ヴァントリア、この人は……?」
「俺が最下層に落とされる前、俺につかえてた側近、ダリオス・ドゥヒライトだ」

 まあ落とされた後も何度か会ってたみたいだけど。

「へえ、ある情報筋では聞いたことなかったな」

 前世のゲームではすでにヴァントリアは落ちぶれていたし、A and Zでヴァントリアの過去のシーンが流れたとしても彼が出る機会はなかったのだろう。まず流れたのかさえ俺は知らないし。
ウォルズに耳打ちする。

「ヴァントリアの過去のムービーとか流れたりしなかったのか?」
「流れたことはあるけど……」

 ウォルズはもごもごと口を動かし、ぼそっと呟く。

「俺全部見てないし?」
「ん?」

 よく聞こえなくて聞き返したら、「何でもない!」と言われた。気になる……。

「それより奴隷達、この人に預けてもいいのか?」
「奴隷? ヴァントリア様、貴方またやったんですか!?」
「やった? 前にも逃がしたことあるの?」
「逃がした!? 買い占めたのではないのですか!?」
「安心してくれ、奴隷制度の廃止へ向けて会議が開かれることになってる。みんなも説得したしいい方向に進むと思う。ただ行き場がない奴隷たちがいるから、お前たちにみんなの見本として彼らに居場所を与えてほしいんだ」

 ウォルズが肩をつついてくる。

「大丈夫なのか? そんなこと警備隊にできるの?」
「半数が昔買った奴隷達で出来た騎士団、トイタナだ。昔はそうじゃなかったけど、ドゥヒライトがトイタナに入ってから彼が引き入れた」

 そうなる前からやさしい人が多くていい騎士団だった。さすがはお父様の騎士団だ。

「へえ。それは頼りがいがあるな」

 ウォルズがそう言って頷いていると、ダリオスは俺に向かって言った。

「ヴァントリア様、部下にも会っていきますか?」

 そう言えば……

「お前はここに立って何してたんだ?」
「シスト様からここにヴァントリア様が来るだろうと連絡がありまして」
「あいつ……読んでやがったのか」

 身震いすると、ウォルズがよしよしと頭を撫でてくる。

「シストって怖いよね~嫌いだよね~」
「大っ嫌い!」
「それ絶対シスト様の前では言わないでくださいね?」
「うーん……約束できない」
「ハア……あなたと言う人は……」

 トイタナはビレストと並ぶ騎士団の一つだ。実力派だが、直接光を浴びようとしない騎士団で、有名ではない。ビレストが光ならトイタナは影だろう。俺の父ゼクシィル・オルテイルの部下だった騎士団で、今は特に誰に使えるでもなくクジャの警備に当たっており自由に動いているらしい
 ダリオスは基地の中に俺達を通し、部下達の元へ案内する。集まっていた彼らの様子を見て、俺が来ることを報告されていたんだろうと考える。

「ヴァントリア様ッ! 久しぶりだなッ!」
「パシフィック、久しぶり」

 ウォルズが珍しくあたふたしているので、紹介していく。

「まずはダリオスから……ダリオスは俺が初めて買った奴隷だ。猛反対されたが側近にした。落ちぶれてから側近じゃなくなったけど、一緒に行動したりはしてたな。記憶の世界で真実を知ったと思うんだけど」
「貴方は何でも隠しすぎなんです」
「俺が落ちぶれてからはトイタナにいて……って、お前どうやってトイタナに入ったんだ?」
「ハア……知らなかったんですか?」

 金髪とも言える茶色の髪の、31歳。
 ダリオスはウォルズに向かって話し始める。

「ヴァントリア様は猛反対を受けましたが、私を捨てることはありませんでした。ヴァントリア様が最下層に落とされてから、貴方を守れなかったと自分を責めながら鍛えることでどんどん昇格して今に至ります」
「へえ……! 凄いな!」

 素直にウォルズがそう言うと、ダリオスは彼の素直さに好感が持てたのか笑顔を見せた。

「で、その隣にいるのがオクソォト。トイタナの副団長だ」
「オクソォト・ナリジュペインだ、よろしくな~」

 彼は戦闘時だけティアドロップのサングラスを掛ける。普段は前髪の上に乗せている。基本的にいつも眠そうだ。明るい緑色の髪が特徴だった。

「その隣の、紫の髪の奴が、セルヒィーヌ・ヤクイードだ」
「おれは昔ヴァントリア様に呪いにかかり失明していた目を治してもらったことがある」

 そう言われ、思い出してみると確かにそんな記憶がある。回復系魔法でではなく、ただ呪いを吸収しただけだろう。呪いにかかったと言ったのは例えだろうから、呪いの存在は知らない筈だ。

「治ったのに目ぇ瞑ってるの?」

 ウォルズが尋ねると、セルスィーヌが答える。

「癖でして……」

 幼い頃から目が見えなかったから、俺と出会ってから治ったとすると確かに癖がついていてもおかしくはないかもしれない。

「そして、ライラール・イズィド。トイタナの中で最年少だが実力がある」
「次期副団長はこの僕と言われているんだよ。はやく団長は引退して副団長が団長になるべきだね。そして僕が副団長になる。団長ははやく引退してね」
「お前、またそう言うことを言ってッ! 団長は俺のお父さんなんだぞッ!」
「お父さんではないでしょ」
「お父さんみたいな人なんだッ!」

 腕をブンブン振り回してパシフィックは怒っている。ダリオスを心から慕っているのだ。

「パシフィック・マクニカン。正義感があって明るい奴だ。俺と同い年」
「よろしくなッ! ウォルズさんッ!」

 ちなみにトイタナはレベル40~90とかなり強い騎士団だ。ビレストも強いが、彼らも相当強い。みんなレベルいくらくらいなんだろう。今度テイガイアにレベル鑑定装置作ってもらおうかな。忙しいだろうから暇になった時でいいや。
 他にも俺に話しかけてくる昔の奴隷達の姿があった。たくさん傷付けたから嫌われていると思っていたが、話しかけてくる人は結構いた。
 俺とウォルズは奴隷達を魔法石から出し、彼らに世話を任せた。
 警備で町を回ると言うダリオス達について行くことになり、クジャの町へと出る。橋を歩いていると、俺の姿を見た者達がひそひそと話し出した。
 大半が貴族だから俺の顔を知っているし、悪行も知り尽くしているのだろう。奴隷を逃がした噂も既に広がっているだろうし……。貴族は奴隷大好きだから、冷ややかな目で見られても可笑しくない。
 しかしそれを和らげるのがウォルズの立ち姿だった。まっすぐと前を見つめる瞳と、堂々としている姿は勇者そのものだ。そんな姿に、人々は羨望の眼差しを向けている。
 そんな噂話の中に、魔獣狩りが行われる時期だという話もあった。それを聞いて、ウォルズに尋ねる。

「久しぶりに参加してみないか?」
「いいね! ヴァントリアと出会った時を思い出すな~!」
「あの時はお前怖かったぞ」
「だって激推しのヴァントリアが目の前に現れたんだよ! 誰でもああするよ!」
「いやお前だけだ変態」

 魔獣狩りに参加することになり、ダリオス達とは別れて参加申請をしに行った。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

R18の乙女ゲーに男として転生したら攻略者たちに好かれてしまいました

やの有麻
BL
モブとして生まれた八乙女薫風。高校1年生。 実は前世の記憶がある。それは自分が女で、25の時に嫌がらせで階段から落とされ死亡。そして今に至る。 ここはR18指定の乙女ゲーム『愛は突然に~華やかな学園で愛を育む~』の世界に転生してしまった。 男だし、モブキャラだし、・・・関係ないよね? それなのに次々と求愛されるのは何故!? もう一度言います。 私は男です!前世は女だったが今は男です! 独身貴族を希望!静かに平和に暮らしたいので全力で拒否します! でも拒否しても付きまとわれるのは何故・・・? ※知識もなく自分勝手に書いた物ですので何も考えずに読んで頂けると幸いです。 ※高校に入るとR18部分が多くなります。基本、攻めは肉食で強行手段が多いです。ですが相手によってラブ甘? 人それぞれですが感じ方が違うため、無理矢理、レイプだと感じる人もいるかもしれません。苦手な方は回れ右してください! ※閑話休題は全て他視点のお話です。読んでも読まなくても話は繋がりますが、読むとより話が楽しめる内容を記載しております。 エロは☆、過激は注)、題名に付けます。 2017.12.7現在、HOTランク10位になりました。有難うございます。

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

【完結】ハードな甘とろ調教でイチャラブ洗脳されたいから悪役貴族にはなりたくないが勇者と戦おうと思う

R-13
BL
甘S令息×流され貴族が織りなす 結構ハードなラブコメディ&痛快逆転劇 2度目の人生、異世界転生。 そこは生前自分が読んでいた物語の世界。 しかし自分の配役は悪役令息で? それでもめげずに真面目に生きて35歳。 せっかく民に慕われる立派な伯爵になったのに。 気付けば自分が侯爵家三男を監禁して洗脳していると思われかねない状況に! このままじゃ物語通りになってしまう! 早くこいつを家に帰さないと! しかし彼は帰るどころか屋敷に居着いてしまって。 「シャルル様は僕に虐められることだけ考えてたら良いんだよ?」 帰るどころか毎晩毎晩誘惑してくる三男。 エロ耐性が無さ過ぎて断るどころかどハマりする伯爵。 逆に毎日甘々に調教されてどんどん大好き洗脳されていく。 このままじゃ真面目に生きているのに、悪役貴族として討伐される運命が待っているが、大好きな三男は渡せないから仕方なく勇者と戦おうと思う。 これはそんな流され系主人公が運命と戦う物語。 「アルフィ、ずっとここに居てくれ」 「うん!そんなこと言ってくれると凄く嬉しいけど、出来たら2人きりで言って欲しかったし酒の勢いで言われるのも癪だしそもそも急だし昨日までと言ってること真逆だしそもそもなんでちょっと泣きそうなのかわかんないし手握ってなくても逃げないしてかもう泣いてるし怖いんだけど大丈夫?」 媚薬、緊縛、露出、催眠、時間停止などなど。 徐々に怪しげな薬や、秘密な魔道具、エロいことに特化した魔法なども出てきます。基本的に激しく痛みを伴うプレイはなく、快楽系の甘やかし調教や、羞恥系のプレイがメインです。 全8章128話、11月27日に完結します。 なおエロ描写がある話には♡を付けています。 ※ややハードな内容のプレイもございます。誤って見てしまった方は、すぐに1〜2杯の牛乳または水、あるいは生卵を飲んで、かかりつけ医にご相談する前に落ち着いて下さい。 感想やご指摘、叱咤激励、有給休暇等貰えると嬉しいです!ノシ

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

【R18】奴隷に堕ちた騎士

蒼い月
BL
気持ちはR25くらい。妖精族の騎士の美青年が①野盗に捕らえられて調教され②闇オークションにかけられて輪姦され③落札したご主人様に毎日めちゃくちゃに犯され④奴隷品評会で他の奴隷たちの特殊プレイを尻目に乱交し⑤縁あって一緒に自由の身になった両性具有の奴隷少年とよしよし百合セックスをしながらそっと暮らす話。9割は愛のないスケベですが、1割は救済用ラブ。サブヒロインは主人公とくっ付くまで大分可哀想な感じなので、地雷の気配を感じた方は読み飛ばしてください。 ※主人公は9割突っ込まれてアンアン言わされる側ですが、終盤1割は突っ込む側なので、攻守逆転が苦手な方はご注意ください。 誤字報告は近況ボードにお願いします。無理やり何となくハピエンですが、不幸な方が抜けたり萌えたりする方は3章くらいまでをおススメします。 ※無事に完結しました!

転生したらBLゲーの負け犬ライバルでしたが現代社会に疲れ果てた陰キャオタクの俺はこの際男相手でもいいからとにかくチヤホヤされたいっ!

スイセイ
BL
夜勤バイト明けに倒れ込んだベッドの上で、スマホ片手に過労死した俺こと煤ヶ谷鍮太郎は、気がつけばきらびやかな七人の騎士サマたちが居並ぶ広間で立ちすくんでいた。 どうやらここは、死ぬ直前にコラボ報酬目当てでダウンロードしたBL恋愛ソーシャルゲーム『宝石の騎士と七つの耀燈(ランプ)』の世界のようだ。俺の立ち位置はどうやら主人公に対する悪役ライバル、しかも不人気ゆえ途中でフェードアウトするキャラらしい。 だが、俺は知ってしまった。最初のチュートリアルバトルにて、イケメンに守られチヤホヤされて、優しい言葉をかけてもらえる喜びを。 こんなやさしい世界を目の前にして、前世みたいに隅っこで丸まってるだけのダンゴムシとして生きてくなんてできっこない。過去の陰縁焼き捨てて、コンプラ無視のキラキラ王子を傍らに、同じく転生者の廃課金主人公とバチバチしつつ、俺は俺だけが全力でチヤホヤされる世界を目指す! ※頭の悪いギャグ・ソシャゲあるあると・メタネタ多めです。 ※逆ハー要素もありますがカップリングは固定です。 ※R18は最後にあります。 ※愛され→嫌われ→愛されの要素がちょっとだけ入ります。 ※表紙の背景は祭屋暦様よりお借りしております。 https://www.pixiv.net/artworks/54224680

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします。……やっぱり狙われちゃう感じ?

み馬
BL
※ 完結しました。お読みくださった方々、誠にありがとうございました! 志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、とある加護を受けた8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 独自設定、造語、下ネタあり。出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

処理中です...