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第十三章
263話 支え
しおりを挟む俺とウォルズは魔法石に回収した奴隷達を逃がすため、32層クジャへ向かった。
町の殆どの人が馬車で移動し、プレイヤーや馬車を持っていない貴族は町中に敷かれた橋で移動する。
「クジャに信頼できる人がいるって言ってたけど誰? いったい何処へ向かってるんだ?」
ウォルズと一緒に橋を歩いていると、そう尋ねられる。
「この町の警備隊……団? まあ、そこに知り合いがいて……」
橋を渡り、警備団(?)の基地である建物に着くと、その扉の前に立っていた屈強な男が俺を見て駆け寄ってくる。
「ヴァントリア様ああああああ!」
泣きながら抱きついてくるそいつに、不機嫌さを表しながら言った。
「おいくっつくな。離れろ」
「ヴァントリア、この人は……?」
「俺が最下層に落とされる前、俺につかえてた側近、ダリオス・ドゥヒライトだ」
まあ落とされた後も何度か会ってたみたいだけど。
「へえ、ある情報筋では聞いたことなかったな」
前世のゲームではすでにヴァントリアは落ちぶれていたし、A and Zでヴァントリアの過去のシーンが流れたとしても彼が出る機会はなかったのだろう。まず流れたのかさえ俺は知らないし。
ウォルズに耳打ちする。
「ヴァントリアの過去のムービーとか流れたりしなかったのか?」
「流れたことはあるけど……」
ウォルズはもごもごと口を動かし、ぼそっと呟く。
「俺全部見てないし?」
「ん?」
よく聞こえなくて聞き返したら、「何でもない!」と言われた。気になる……。
「それより奴隷達、この人に預けてもいいのか?」
「奴隷? ヴァントリア様、貴方またやったんですか!?」
「やった? 前にも逃がしたことあるの?」
「逃がした!? 買い占めたのではないのですか!?」
「安心してくれ、奴隷制度の廃止へ向けて会議が開かれることになってる。みんなも説得したしいい方向に進むと思う。ただ行き場がない奴隷たちがいるから、お前たちにみんなの見本として彼らに居場所を与えてほしいんだ」
ウォルズが肩をつついてくる。
「大丈夫なのか? そんなこと警備隊にできるの?」
「半数が昔買った奴隷達で出来た騎士団、トイタナだ。昔はそうじゃなかったけど、ドゥヒライトがトイタナに入ってから彼が引き入れた」
そうなる前からやさしい人が多くていい騎士団だった。さすがはお父様の騎士団だ。
「へえ。それは頼りがいがあるな」
ウォルズがそう言って頷いていると、ダリオスは俺に向かって言った。
「ヴァントリア様、部下にも会っていきますか?」
そう言えば……
「お前はここに立って何してたんだ?」
「シスト様からここにヴァントリア様が来るだろうと連絡がありまして」
「あいつ……読んでやがったのか」
身震いすると、ウォルズがよしよしと頭を撫でてくる。
「シストって怖いよね~嫌いだよね~」
「大っ嫌い!」
「それ絶対シスト様の前では言わないでくださいね?」
「うーん……約束できない」
「ハア……あなたと言う人は……」
トイタナはビレストと並ぶ騎士団の一つだ。実力派だが、直接光を浴びようとしない騎士団で、有名ではない。ビレストが光ならトイタナは影だろう。俺の父ゼクシィル・オルテイルの部下だった騎士団で、今は特に誰に使えるでもなくクジャの警備に当たっており自由に動いているらしい
ダリオスは基地の中に俺達を通し、部下達の元へ案内する。集まっていた彼らの様子を見て、俺が来ることを報告されていたんだろうと考える。
「ヴァントリア様ッ! 久しぶりだなッ!」
「パシフィック、久しぶり」
ウォルズが珍しくあたふたしているので、紹介していく。
「まずはダリオスから……ダリオスは俺が初めて買った奴隷だ。猛反対されたが側近にした。落ちぶれてから側近じゃなくなったけど、一緒に行動したりはしてたな。記憶の世界で真実を知ったと思うんだけど」
「貴方は何でも隠しすぎなんです」
「俺が落ちぶれてからはトイタナにいて……って、お前どうやってトイタナに入ったんだ?」
「ハア……知らなかったんですか?」
金髪とも言える茶色の髪の、31歳。
ダリオスはウォルズに向かって話し始める。
「ヴァントリア様は猛反対を受けましたが、私を捨てることはありませんでした。ヴァントリア様が最下層に落とされてから、貴方を守れなかったと自分を責めながら鍛えることでどんどん昇格して今に至ります」
「へえ……! 凄いな!」
素直にウォルズがそう言うと、ダリオスは彼の素直さに好感が持てたのか笑顔を見せた。
「で、その隣にいるのがオクソォト。トイタナの副団長だ」
「オクソォト・ナリジュペインだ、よろしくな~」
彼は戦闘時だけティアドロップのサングラスを掛ける。普段は前髪の上に乗せている。基本的にいつも眠そうだ。明るい緑色の髪が特徴だった。
「その隣の、紫の髪の奴が、セルヒィーヌ・ヤクイードだ」
「おれは昔ヴァントリア様に呪いにかかり失明していた目を治してもらったことがある」
そう言われ、思い出してみると確かにそんな記憶がある。回復系魔法でではなく、ただ呪いを吸収しただけだろう。呪いにかかったと言ったのは例えだろうから、呪いの存在は知らない筈だ。
「治ったのに目ぇ瞑ってるの?」
ウォルズが尋ねると、セルスィーヌが答える。
「癖でして……」
幼い頃から目が見えなかったから、俺と出会ってから治ったとすると確かに癖がついていてもおかしくはないかもしれない。
「そして、ライラール・イズィド。トイタナの中で最年少だが実力がある」
「次期副団長はこの僕と言われているんだよ。はやく団長は引退して副団長が団長になるべきだね。そして僕が副団長になる。団長ははやく引退してね」
「お前、またそう言うことを言ってッ! 団長は俺のお父さんなんだぞッ!」
「お父さんではないでしょ」
「お父さんみたいな人なんだッ!」
腕をブンブン振り回してパシフィックは怒っている。ダリオスを心から慕っているのだ。
「パシフィック・マクニカン。正義感があって明るい奴だ。俺と同い年」
「よろしくなッ! ウォルズさんッ!」
ちなみにトイタナはレベル40~90とかなり強い騎士団だ。ビレストも強いが、彼らも相当強い。みんなレベルいくらくらいなんだろう。今度テイガイアにレベル鑑定装置作ってもらおうかな。忙しいだろうから暇になった時でいいや。
他にも俺に話しかけてくる昔の奴隷達の姿があった。たくさん傷付けたから嫌われていると思っていたが、話しかけてくる人は結構いた。
俺とウォルズは奴隷達を魔法石から出し、彼らに世話を任せた。
警備で町を回ると言うダリオス達について行くことになり、クジャの町へと出る。橋を歩いていると、俺の姿を見た者達がひそひそと話し出した。
大半が貴族だから俺の顔を知っているし、悪行も知り尽くしているのだろう。奴隷を逃がした噂も既に広がっているだろうし……。貴族は奴隷大好きだから、冷ややかな目で見られても可笑しくない。
しかしそれを和らげるのがウォルズの立ち姿だった。まっすぐと前を見つめる瞳と、堂々としている姿は勇者そのものだ。そんな姿に、人々は羨望の眼差しを向けている。
そんな噂話の中に、魔獣狩りが行われる時期だという話もあった。それを聞いて、ウォルズに尋ねる。
「久しぶりに参加してみないか?」
「いいね! ヴァントリアと出会った時を思い出すな~!」
「あの時はお前怖かったぞ」
「だって激推しのヴァントリアが目の前に現れたんだよ! 誰でもああするよ!」
「いやお前だけだ変態」
魔獣狩りに参加することになり、ダリオス達とは別れて参加申請をしに行った。
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