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第十二章
262話 サイディス祭り
しおりを挟む結局みんなでベルファインに向かうこととなり、着いた時に目印となる塔へ向かってから別れた。
ヒオゥネと出会った木を見つけて、死体をもう一度見るのは気が引けて、結局魔法石ごと木の下へ埋めた。
一人になれて安心したのか、少しの間そこで泣いた。
その時、森の奥にヒオゥネの姿を見かけた気がして手を伸ばす。追いかけるが、そこには誰もいなかった。
幻まで見てしまうなんて、俺はいつになったらヒオゥネを忘れられるんだろうか。
みんなの元へ帰ると、責められるような視線を浴びる。それでも俺は、ヒオゥネが好きだ。
どんなに悪いやつでも、どんなに仲間を傷つけられようと、たとえ愛してくれなくても、ヒオゥネを愛している。
「ヒオゥネの残した実験場はまだ稼働していると思う、俺は実験体達を逃がす為に頑張るから、彼らを救うためにみんな協力して欲しい」
そう言って頭を下げると、みんな顔を見合わせて気まずそうにする。
「正直言うと、ヒオゥネくんを好きな君を許せない」
ラルフの精神が入ったディオンがそう言う。その言葉を聞き、打ちひしがれるような気分になった。
「でも、君は救ってくれた。僕タチを助けると言ってくれた。だから、少しは理解できるよ。救ってくれた人を愛してしまう気持ちは」
その言葉に、みんな同意するように頷いた。
「協力するよ、ヴァン」
彼らはラルフとテイガイアと一緒に、メルカデォへ行く。そこで、実験体を助ける実験を再開することに決まった。
39層ゲロマティアまでやってきて、テイガイアとラルフ、みんなと別れの準備をする。
「次は気をつけてくれ」
「ヒオゥネくんがいない今、灰色の集団に我々への手出しはできませんよ、それに私はもう呪いがない、価値がありませんから」
「そっか。それでも気を付けてくれ、もう、死なないでくれ」
「心配をかけてすみませんでした。絶対に死にません、貴方に悲しい思いをさせません」
メルカデォまで彼らを見送ってから、俺は一人、ウォルズの待つ第1階層・ユアの王宮へと向かった。
王宮に戻ると、サイオンの部屋へ向かう。サイオンの部屋に着き扉を開けると、そこには異様な光景が広がっていた。
「いいよ! いいよサイオン! もっとやって!」
「ウォルズ……ふふ、やっと私のことを……ふふふふ」
「それはないけど、もっとやって!」
「ふざけるなこんなことが許されるか!」
ディスゲル兄様を膝に乗せて抱き締めているサイオンの周りを、ウォルズが指でカメラを向けるフリをしながら機敏に動いている。
「何してんの……」
「ヴァントリア! おかえり!」
ウォルズが振り返り、傍まで寄って来る。
「もう平気なのか?」
「うん、サイオンが呼んだ医療班のおかげですぐに良くなったよ。一人で行くなよ。待っててくれたら良かったのに。心配した……って凄い血の量! 怪我したの? 大丈夫!?」
「怪我はしてない……! でも色々あったんだ、話聞いてくれるか?」
「もちろん!」
それより今は~とウォルズはサイオンとディスゲル兄様に振り返る。
「もう少し構図のご協力を!」
「まだやるのか!?」
「協力しよう」
「ウォルズの頼みを何でもかんでもYESで答えるな兄さん!!」
楽しそうで何よりだ。うんうんと頷いていれば、ディスゲル兄様に睨まれた。
「サイディスサイディス!」
俺がそう言うと、ウォルズが腕を突き上げて言った。
「サイディス目覚めそう~!」
ウォルズが満足したらサイディス祭りは終了した。押し倒されたりキスされたり散々だったなディスゲル兄様は。満更でもなさそうなのが悪い。
サイオンやディスゲル兄様も一緒に話を聞いてくれるようだ――俺はイルエラとジノを追っていたこと、彼らはウロボスの王宮へ連れて行かれたこと、テイガイアとラルフが魔獣化したこと、彼らから呪いが消えたこと、ヒオゥネが助けてくれたこと、彼が亡くなったことを報告した。
俺がヒオゥネのことを好きなことを知っているウォルズは優しく背を撫でてくれた。それを見て、ディスゲル兄様は俺の好きな人を察したらしい、優しい言葉で慰めてくれる。
サイオンは「これからどうする」と尋ねてきた。
「ヒオゥネの残した実験を止めるために冒険に出たいんだ」
「ではシストの説得が必要だな」
「うん!」
「協力してくれる?」
ウォルズが尋ねれば、サイオンは顔を緩めて言った。
「もちろん協力しよう! ディスゲル、貴殿も一緒だ」
「なんでだよ! オレは関係ないだろう」
「ディスゲル兄様、お願いします」
ぎゅ、と手を握ると、ディスゲル兄様は顔を背ける。
「…………分かった。協力するよ」
「ディスヴァンですか!?」
「そのたまに出てくる言葉はどう言う意味なんだ! 知りたくないけど!」
.。.:✽・゜+.。.:✽・゜+.。.:✽・゜+.。.:✽・゜+.。.:✽・゜+
シストのいる執務室へ着くと、ノックをして返事が来てから中へ入る。
「君達か。何だい、ぞろぞろと」
「ヒオゥネの実験を止めるために冒険へ行きたいんだ」
「ヴァントリア、貴様は俺との約束を忘れたのか?」
「分かってる。メルカデォと奴隷制度を止めてくれるなら王宮にいるって奴だろ」
「そうだ。あれは嘘だったとでも言いたいのか?」
「実験を止めたいんだ、それが終わったら帰ってくるから」
「だめだ」
「シスト!」
シストはそれ以上返事をしなかった。ディスゲル兄様が近寄ってきて、耳打ちしてくる。
「オマエが何でもするって言えば大丈夫だと思うけど」
「嫌だよ何でもなんて」
もう言った後だけど。
「そうだよな……よく考えたら怖いことだよな」
ディスゲル兄様は考え直したようで青ざめた顔でそう言う。何なんだ急に。
「シスト……ちゃんと帰ってくるから」
「それより貴様、俺との主従契約をどうやって解いた?」
「え……」
今更聞くのか?
「仕事で忙しくてな、気づけなかったんだ」
シストは俺の言いたいことが分かったのかそんなことを言ってくる。
「主従契約なら脱出系魔法で解けたけど……」
「なるほど、確かに主従契約は相手を縛る魔法だ。解けてもおかしくはない」
「それより俺は王宮の外へ……」
待てよ、主従契約? そうか、その手があったんだ!
「シスト、そっちへ行ってもいいか?」
「…………来ても無駄だと思うが、好きにしろ」
シストの隣までやってくると、彼の手を取る。シストはビクついた。
「シスト」
「ヴァントリア……」
掛かった!
俺はシストの手首に噛み付き、滲んだ血を舐めとる。すると、地面には魔法陣が浮かび、光の鎖が現れる。それはシストの首に巻き付き、シストはしまった、と言う顔をした。
こちらに向かって飛んでくる光の鎖をキャッチすれば、光の鎖は光の粒となり霧散して消えていく。
「ふっふっふ……シスト、命令だ」
シストはチッと舌打ちをする。
「俺達が王宮の外へ向かうことを許可しろ」
「……っ、……、……いいだろう」
シストは命令に抗おうとしたようだが無理だったようだ。
シストは四人が出て行ってから、机に肘をつき、頭を抱えながら言う。
「ヴァントリア……貴様との主従契約など、俺には簡単に壊せるのだからな」
そう言って、もう傷の消えた自分の手首に唇を落とした。
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