265 / 293
第十二章
262話 サイディス祭り
しおりを挟む結局みんなでベルファインに向かうこととなり、着いた時に目印となる塔へ向かってから別れた。
ヒオゥネと出会った木を見つけて、死体をもう一度見るのは気が引けて、結局魔法石ごと木の下へ埋めた。
一人になれて安心したのか、少しの間そこで泣いた。
その時、森の奥にヒオゥネの姿を見かけた気がして手を伸ばす。追いかけるが、そこには誰もいなかった。
幻まで見てしまうなんて、俺はいつになったらヒオゥネを忘れられるんだろうか。
みんなの元へ帰ると、責められるような視線を浴びる。それでも俺は、ヒオゥネが好きだ。
どんなに悪いやつでも、どんなに仲間を傷つけられようと、たとえ愛してくれなくても、ヒオゥネを愛している。
「ヒオゥネの残した実験場はまだ稼働していると思う、俺は実験体達を逃がす為に頑張るから、彼らを救うためにみんな協力して欲しい」
そう言って頭を下げると、みんな顔を見合わせて気まずそうにする。
「正直言うと、ヒオゥネくんを好きな君を許せない」
ラルフの精神が入ったディオンがそう言う。その言葉を聞き、打ちひしがれるような気分になった。
「でも、君は救ってくれた。僕タチを助けると言ってくれた。だから、少しは理解できるよ。救ってくれた人を愛してしまう気持ちは」
その言葉に、みんな同意するように頷いた。
「協力するよ、ヴァン」
彼らはラルフとテイガイアと一緒に、メルカデォへ行く。そこで、実験体を助ける実験を再開することに決まった。
39層ゲロマティアまでやってきて、テイガイアとラルフ、みんなと別れの準備をする。
「次は気をつけてくれ」
「ヒオゥネくんがいない今、灰色の集団に我々への手出しはできませんよ、それに私はもう呪いがない、価値がありませんから」
「そっか。それでも気を付けてくれ、もう、死なないでくれ」
「心配をかけてすみませんでした。絶対に死にません、貴方に悲しい思いをさせません」
メルカデォまで彼らを見送ってから、俺は一人、ウォルズの待つ第1階層・ユアの王宮へと向かった。
王宮に戻ると、サイオンの部屋へ向かう。サイオンの部屋に着き扉を開けると、そこには異様な光景が広がっていた。
「いいよ! いいよサイオン! もっとやって!」
「ウォルズ……ふふ、やっと私のことを……ふふふふ」
「それはないけど、もっとやって!」
「ふざけるなこんなことが許されるか!」
ディスゲル兄様を膝に乗せて抱き締めているサイオンの周りを、ウォルズが指でカメラを向けるフリをしながら機敏に動いている。
「何してんの……」
「ヴァントリア! おかえり!」
ウォルズが振り返り、傍まで寄って来る。
「もう平気なのか?」
「うん、サイオンが呼んだ医療班のおかげですぐに良くなったよ。一人で行くなよ。待っててくれたら良かったのに。心配した……って凄い血の量! 怪我したの? 大丈夫!?」
「怪我はしてない……! でも色々あったんだ、話聞いてくれるか?」
「もちろん!」
それより今は~とウォルズはサイオンとディスゲル兄様に振り返る。
「もう少し構図のご協力を!」
「まだやるのか!?」
「協力しよう」
「ウォルズの頼みを何でもかんでもYESで答えるな兄さん!!」
楽しそうで何よりだ。うんうんと頷いていれば、ディスゲル兄様に睨まれた。
「サイディスサイディス!」
俺がそう言うと、ウォルズが腕を突き上げて言った。
「サイディス目覚めそう~!」
ウォルズが満足したらサイディス祭りは終了した。押し倒されたりキスされたり散々だったなディスゲル兄様は。満更でもなさそうなのが悪い。
サイオンやディスゲル兄様も一緒に話を聞いてくれるようだ――俺はイルエラとジノを追っていたこと、彼らはウロボスの王宮へ連れて行かれたこと、テイガイアとラルフが魔獣化したこと、彼らから呪いが消えたこと、ヒオゥネが助けてくれたこと、彼が亡くなったことを報告した。
俺がヒオゥネのことを好きなことを知っているウォルズは優しく背を撫でてくれた。それを見て、ディスゲル兄様は俺の好きな人を察したらしい、優しい言葉で慰めてくれる。
サイオンは「これからどうする」と尋ねてきた。
「ヒオゥネの残した実験を止めるために冒険に出たいんだ」
「ではシストの説得が必要だな」
「うん!」
「協力してくれる?」
ウォルズが尋ねれば、サイオンは顔を緩めて言った。
「もちろん協力しよう! ディスゲル、貴殿も一緒だ」
「なんでだよ! オレは関係ないだろう」
「ディスゲル兄様、お願いします」
ぎゅ、と手を握ると、ディスゲル兄様は顔を背ける。
「…………分かった。協力するよ」
「ディスヴァンですか!?」
「そのたまに出てくる言葉はどう言う意味なんだ! 知りたくないけど!」
.。.:✽・゜+.。.:✽・゜+.。.:✽・゜+.。.:✽・゜+.。.:✽・゜+
シストのいる執務室へ着くと、ノックをして返事が来てから中へ入る。
「君達か。何だい、ぞろぞろと」
「ヒオゥネの実験を止めるために冒険へ行きたいんだ」
「ヴァントリア、貴様は俺との約束を忘れたのか?」
「分かってる。メルカデォと奴隷制度を止めてくれるなら王宮にいるって奴だろ」
「そうだ。あれは嘘だったとでも言いたいのか?」
「実験を止めたいんだ、それが終わったら帰ってくるから」
「だめだ」
「シスト!」
シストはそれ以上返事をしなかった。ディスゲル兄様が近寄ってきて、耳打ちしてくる。
「オマエが何でもするって言えば大丈夫だと思うけど」
「嫌だよ何でもなんて」
もう言った後だけど。
「そうだよな……よく考えたら怖いことだよな」
ディスゲル兄様は考え直したようで青ざめた顔でそう言う。何なんだ急に。
「シスト……ちゃんと帰ってくるから」
「それより貴様、俺との主従契約をどうやって解いた?」
「え……」
今更聞くのか?
「仕事で忙しくてな、気づけなかったんだ」
シストは俺の言いたいことが分かったのかそんなことを言ってくる。
「主従契約なら脱出系魔法で解けたけど……」
「なるほど、確かに主従契約は相手を縛る魔法だ。解けてもおかしくはない」
「それより俺は王宮の外へ……」
待てよ、主従契約? そうか、その手があったんだ!
「シスト、そっちへ行ってもいいか?」
「…………来ても無駄だと思うが、好きにしろ」
シストの隣までやってくると、彼の手を取る。シストはビクついた。
「シスト」
「ヴァントリア……」
掛かった!
俺はシストの手首に噛み付き、滲んだ血を舐めとる。すると、地面には魔法陣が浮かび、光の鎖が現れる。それはシストの首に巻き付き、シストはしまった、と言う顔をした。
こちらに向かって飛んでくる光の鎖をキャッチすれば、光の鎖は光の粒となり霧散して消えていく。
「ふっふっふ……シスト、命令だ」
シストはチッと舌打ちをする。
「俺達が王宮の外へ向かうことを許可しろ」
「……っ、……、……いいだろう」
シストは命令に抗おうとしたようだが無理だったようだ。
シストは四人が出て行ってから、机に肘をつき、頭を抱えながら言う。
「ヴァントリア……貴様との主従契約など、俺には簡単に壊せるのだからな」
そう言って、もう傷の消えた自分の手首に唇を落とした。
12
お気に入りに追加
1,984
あなたにおすすめの小説
国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!
古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます!
7/15よりレンタル切り替えとなります。
紙書籍版もよろしくお願いします!
妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。
成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた!
これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。
「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」
「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」
「んもおおおっ!」
どうなる、俺の一人暮らし!
いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど!
※読み直しナッシング書き溜め。
※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。
【完結】伯爵家当主になりますので、お飾りの婚約者の僕は早く捨てて下さいね?
MEIKO
BL
【完結】そのうち番外編更新予定。伯爵家次男のマリンは、公爵家嫡男のミシェルの婚約者として一緒に過ごしているが実際はお飾りの存在だ。そんなマリンは池に落ちたショックで前世は日本人の男子で今この世界が小説の中なんだと気付いた。マズい!このままだとミシェルから婚約破棄されて路頭に迷うだけだ┉。僕はそこから前世の特技を活かしてお金を貯め、ミシェルに愛する人が現れるその日に備えだす。2年後、万全の備えと新たな朗報を得た僕は、もう婚約破棄してもらっていいんですけど?ってミシェルに告げた。なのに対象外のはずの僕に未練たらたらなの何で!?
※R対象話には『*』マーク付けますが、後半付近まで出て来ない予定です。

【完結済み】準ヒロインに転生したビッチだけど出番終わったから好きにします。
mamaマリナ
BL
【完結済み、番外編投稿予定】
別れ話の途中で転生したこと思い出した。でも、シナリオの最後のシーンだからこれから好きにしていいよね。ビッチの本領発揮します。

心からの愛してる
マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。
全寮制男子校
嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります
※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください

婚約破棄されるなり5秒で王子にプロポーズされて溺愛されてます!?
野良猫のらん
BL
侯爵家次男のヴァン・ミストラルは貴族界で出来損ない扱いされている。
なぜならば精霊の国エスプリヒ王国では、貴族は多くの精霊からの加護を得ているのが普通だからだ。
ところが、ヴァンは風の精霊の加護しか持っていない。
とうとうそれを理由にヴァンは婚約破棄されてしまった。
だがその場で王太子ギュスターヴが現れ、なんとヴァンに婚約を申し出たのだった。
なんで!? 初対面なんですけど!?!?

義理の家族に虐げられている伯爵令息ですが、気にしてないので平気です。王子にも興味はありません。
竜鳴躍
BL
性格の悪い傲慢な王太子のどこが素敵なのか分かりません。王妃なんて一番めんどくさいポジションだと思います。僕は一応伯爵令息ですが、子どもの頃に両親が亡くなって叔父家族が伯爵家を相続したので、居候のようなものです。
あれこれめんどくさいです。
学校も身づくろいも適当でいいんです。僕は、僕の才能を使いたい人のために使います。
冴えない取り柄もないと思っていた主人公が、実は…。
主人公は虐げる人の知らないところで輝いています。
全てを知って後悔するのは…。
☆2022年6月29日 BL 1位ありがとうございます!一瞬でも嬉しいです!
☆2,022年7月7日 実は子どもが主人公の話を始めてます。
囚われの親指王子が瀕死の騎士を助けたら、王子さまでした。https://www.alphapolis.co.jp/novel/355043923/237646317

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…
月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた…
転生したと気づいてそう思った。
今世は周りの人も優しく友達もできた。
それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。
前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。
前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。
しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。
俺はこの幸せをなくならせたくない。
そう思っていた…

有能すぎる親友の隣が辛いので、平凡男爵令息の僕は消えたいと思います
緑虫
BL
第三王子の十歳の生誕パーティーで、王子に気に入られないようお城の花園に避難した、貧乏男爵令息のルカ・グリューベル。
知り合った宮廷庭師から、『ネムリバナ』という水に浮かべるとよく寝られる香りを放つ花びらをもらう。
花園からの帰り道、噴水で泣いている少年に遭遇。目の下に酷いクマのある少年を慰めたルカは、もらったばかりの花びらを男の子に渡して立ち去った。
十二歳になり、ルカは寄宿学校に入学する。
寮の同室になった子は、まさかのその時の男の子、アルフレート(アリ)・ユーネル侯爵令息だった。
見目麗しく文武両道のアリ。だが二年前と変わらず睡眠障害を抱えていて、目の下のクマは健在。
宮廷庭師と親交を続けていたルカには、『ネムリバナ』を第三王子の為に学校の温室で育てる役割を与えられていた。アリは花びらを王子の元まで運ぶ役目を負っている。育てる見返りに少量の花びらを入手できるようになったルカは、早速アリに使ってみることに。
やがて問題なく眠れるようになったアリはめきめきと頭角を表し、しがない男爵令息にすぎない平凡なルカには手の届かない存在になっていく。
次第にアリに対する恋心に気づくルカ。だが、男の自分はアリとは不釣り合いだと、卒業を機に離れることを決意する。
アリを見ない為に地方に移ったルカ。実はここは、アリの叔父が経営する領地。そこでたった半年の間に朗らかで輝いていたアリの変わり果てた姿を見てしまい――。
ハイスペ不眠攻めxお人好し平凡受けのファンタジーBLです。ハピエン。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる