転生したら嫌われ者No.01のザコキャラだった 〜引き篭もりニートは落ちぶれ王族に転生しました〜

隍沸喰(隍沸かゆ)

文字の大きさ
上 下
259 / 293
第十二章

256話 決別

しおりを挟む

 目が覚めると、そこは真っ白な世界だった。誰かの腕に抱き抱えられていて、それがテイガイアであることに気づく。

「テイガイア! 無事か!」

 テイガイアの隣にはラルフが立っていた。テイガイアの支えを受けながら立ち上がると、テイガイアが申し訳なさそうな顔をしながら言った。

「ここはオリオです」
「俺タチはもう意思がなくなるだろう」

 意思がなくなる?

「つまり……」
「…………」
「…………」

 つまり、二人は元の姿に戻れず、魔獣のまま暴れ続けると言うことだ。
 つまり、二人が死ぬと言うことだ。
 身体が震え出し、何も言えなくなっていると、ラルフが「お別れだ」と言い出した。

「な、何を言って」

「もうこうなったら助かる術はないんです、バン様」
「今だって話せてるじゃないか! 大丈夫、俺が、俺が呪いを解いてやるから!」

 そう怒鳴ると、それを宥めるようにラルフの手が俺の頭を撫でる。

「ラルフ……?」
「あの時、泣いてくれてありがとう」
「え?」
「お前が俺タチに一方的に約束して行った時、俺タチは、生きたいって思えたんだ」
「ら、ラルフ」
「今回もそうだ、アンタが来てくれたから、生きたいって、思った。それでやっとこの状態になったんだ」
「この、状態って……オリオのことか?」
「ラルフくんが呪いのコントロールに長けていたから、この状況がつくれたんですよ」
「でももうそろそろ限界だ。最後に会えてよかった」
「さ、最後ってなんだよ、変なこと言わないでくれ」
「助けに来てくれてありがとな」

 そう言って、ラルフの顔が近づいてくる。唇に冷たい感触が乗って、思わず目を閉じる。それが離れて行くと目を開け、ラルフの姿がなくなっていることに気が付いた。
 涙が溢れ、周囲を見渡す。

「ラルフ!」
「私より彼の方が呪いが少ない、恐らくもう呪いが吸われてしまったんでしょう。もうここには戻ってこれません」
「テ、テイガイア、助ける、助けるから! お前達を絶対に助けるから!」
「バン様、落ち着いてください」
「お願いだ、もう少しだけ、もう少しだけ頑張っててくれ、俺が絶対に助け出してみせるから!!」
「記憶の世界でのこと、覚えていますか」
「え……?」
「あなたが、いてくれなければ、私はおそらく、未だに実験体として、いろんな人を苦しめていたかとしれません。……自分が化け物であることは知っていました、私はあの頃、死にたくて仕方がなかったんだ」
「テイガイア……?」
「あなたが好きと言ってくれた時からずっと、私はあなたが、特別でした。私も好きです。あなたを愛しています」
「お、俺も好きだ、だから待って。助けるから、絶対に」
「もう既に助けられていますよ、あの時、私は助けて貰ったんだ。あなたのことを考えるだけで、全ての苦しみから解き放たれるんです。幸せだった。あなたがいてくれると思うだけで、私は充分、助けられていたんです。バン様、あなたは何度も私を助けに来てくれた。真っ暗闇へ落ちてしまった私を、何度もその手で引き上げてくれた。何度も温かい光で包み込んでくれました」

 テイガイアに抱きしめられ、何となく、押さえ込まれているような気がしてもがく。

「よせ、おねがいだ、もう」
「バン様、愛しています……あなたを、愛している。あなたのそばにいたい、私は欲張りになってしまった、あなたがいるだけで、幸せだった筈なのに……まだ、あなたのそばにいたいんです」
「テイガイア、まだ、まだだッ!! まだ、まだお前は、幸せになれるんだ、だってずっと、閉じ込められてたんだろ、ヒオゥネに実験されてたんだろ、やっと、やっと自由になれたのに、これから俺達と、たくさんの人を救って……」

 オリオは既に消えかかっている。

「やだ、いやだよ、テイガイア……。一緒に償って行こうって約束したじゃないか……待って、待ってくれ、頼む」
「バン様、愛しています」
「テイ――」

 テイガイアの顔が降ってきて、柔らかく湿った感触が唇の上に乗る。目を大きく見開いてそれを驚く。
 愛してる、って……。
 いつも、言ってたけど。
 からかわれていると、口説き症だと、思っていたけれど。
 テイガイアの涙と、深いキスがそれは間違いだと証明してくる。
 オリオは崩壊し始め、テイガイアの身体も消えかかって行く。
 やめろ、やめろ!
 待ってくれ、やめてくれ!
 消えないでくれ!
 涙が溢れ出し、テイガイアの服をぎゅっと握る。触れるだけの熱い口付けが離れていく。

「テイ――」

 名前を呼ぼうとすれば、再び顔が近づいてきて、キスをされる。

「んん、ん、んん!」

 言わせてくれ、話させてくれ、テイガイア。
 お願い…………言わせてくれ。
 どんどん、唇の熱が消えていく。
 テイガイアの愛情が込められた甘やかすような優しいキスが消えていく。
 力がかなわなくて、言いたいことも言えなくなった。
 お願い、お願い。言わせてくれ。テイガイア。

言わせて。行かないで。

死なないで。テイガイア。

 そっと唇が離れるが、もう姿は見えなかった。

「バン様、あなたは私の光だ」

「待ってくれ、待って!! いやだっ!」

「好きと言ってくれて、ありがとう」

 七色の光があたり一面を覆い、オリオの最後を知らせてくる。

「テイガイアあああああああっ!」

 オリオは消え、俺は真っ白な世界に投げ出される。徐々にその白い世界は暗転していき、無意識に身を委ねるように目を閉じた。


しおりを挟む
LINEスタンプ https://store.line.me/stickershop/product/16955444/ja
感想 23

あなたにおすすめの小説

この道を歩む~転生先で真剣に生きていたら、第二王子に真剣に愛された~

乃ぞみ
BL
※ムーンライトの方で500ブクマしたお礼で書いた物をこちらでも追加いたします。(全6話)BL要素少なめですが、よければよろしくお願いします。 【腹黒い他国の第二王子×負けず嫌いの転生者】 エドマンドは13歳の誕生日に日本人だったことを静かに思い出した。 転生先は【エドマンド・フィッツパトリック】で、二年後に死亡フラグが立っていた。 エドマンドに不満を持った隣国の第二王子である【ブライトル・ モルダー・ヴァルマ】と険悪な関係になるものの、いつの間にか友人や悪友のような関係に落ち着く二人。 死亡フラグを折ることで国が負けるのが怖いエドマンドと、必死に生かそうとするブライトル。 「僕は、生きなきゃ、いけないのか……?」 「当たり前だ。俺を残して逝く気だったのか? 恨むぞ」 全体的に結構シリアスですが、明確な死亡表現や主要キャラの退場は予定しておりません。 闘ったり、負傷したり、国同士の戦争描写があったります。 本編ド健全です。すみません。 ※ 恋愛までが長いです。バトル小説にBLを添えて。 ※ 攻めがまともに出てくるのは五話からです。 ※ タイトル変更しております。旧【転生先がバトル漫画の死亡フラグが立っているライバルキャラだった件 ~本筋大幅改変なしでフラグを折りたいけど、何であんたがそこにいる~】 ※ ムーンライトノベルズにも投稿しております。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

身代わりになって推しの思い出の中で永遠になりたいんです!

冨士原のもち
BL
桜舞う王立学院の入学式、ヤマトはカイユー王子を見てここが前世でやったゲームの世界だと気付く。ヤマトが一番好きなキャラであるカイユー王子は、ゲーム内では非業の死を遂げる。 「そうだ!カイユーを助けて死んだら、忘れられない恩人として永遠になれるんじゃないか?」 前世の死に際のせいで人間不信と恋愛不信を拗らせていたヤマトは、推しの心の中で永遠になるために身代わりになろうと決意した。しかし、カイユー王子はゲームの時の印象と違っていて…… 演技チャラ男攻め×美人人間不信受け ※最終的にはハッピーエンドです ※何かしら地雷のある方にはお勧めしません ※ムーンライトノベルズにも投稿しています

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…

こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』  ある日、教室中に響いた声だ。  ……この言い方には語弊があった。  正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。  テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。  問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。 *当作品はカクヨム様でも掲載しております。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

あなたの隣で初めての恋を知る

ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

処理中です...