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第十二章
254話 亀裂
しおりを挟む皆と連絡を取り、第一階層ユアの王宮に向かうことに決まった。シストに命ぜられた四皇級階の説得は終わったし、王宮に帰る約束をシストとしたため帰ることに決めたのだ。
ウラティカとは手紙でやりとりするつもりだが、シストに仲介役として彼女の侍女を用意してもらおうと思う。本当は会いにいってあげたいのだが何故かシストに止められた。説得しろと言ったのはあいつなのに。
俺は王宮の客室に通され、仲間達がやってくるのを待っていた。
待っていたら、三人の声が聞こえてきて胸が高鳴る。
ウロボスの階層ではずっと一人で行動していたから、皆と会えると思うと嬉しくなった。
しかし、ヒオゥネとのことを思い出して喉が詰まるような感覚を覚える。
ああ、こんなのはいやだ。やっとみんなに会えたのに素直に喜べないなんて。だから、正直に話してみよう。
「ヴァントリア!」
「ウォルズ!」
扉が開き、ウォルズ、イルエラ、ジノの3人が現れる。
「ジノ、久しぶりだな、寂しかったか?」
「ンなわけないだろ。お前の方が寂しかったンじゃないか?」
相変わらず素直じゃないな。寂しかったと言いながら頭を撫でたらはたき落とされた。
「イルエラも久しぶりだな」
「ああ、何もなかったか? あの変態に何かされたのではないか?」
「変態……セルのことか? まあいろいろあったけど大丈夫だったよ」
「色々とは!? 色々とは何があったのですか!?」
「後で話すよ……」
その日は休むことになり、それぞれ用意された客室に向かった。夜になるとウォルズが訪ねてきて、詳しく、とか言うのでセルとの話を聞かせてやった。
「ウォルズ……実は話したいことがあるんだ」
「なになに!? セルと結婚する気になった!?」
「いやその話はもう終わったんだけど……その」
言い出せないでいると、ウォルズの手が背中を撫でてくれる。
「俺、ヒオゥネのことが好きなんだ」
「応援します!」
即答され、呆けてしまう。そんなこと気にも止めないのか、ウォルズはヒオヴァンヒオヴァンとうわ言のように呟いている。
「ウォルヴァンのこと好きなんじゃないのか?」
「と言うよりヴァントリアのことが好きなんだ」
「え!?」
何ドキドキしてるんだ俺は、そう言う意味じゃないぞ!
「ショックは受けてるよ、結構」
「ご、ごめん……」
「みんなには話すのか?」
「…………話そうと思ってる」
よしよしと背中を撫でられ、勇気が湧いてくる。ジノとイルエラはヒオゥネのことが許せない筈だ、だから話すことに抵抗があったけれど、伝えないわけにはいかない。
ウォルズのおかげで心も軽くなった。
ジノとイルエラに話があると伝え、部屋に来てもらった。
「話って何だよ」
「その……」
「ゆっくりでいい」
俺の様子を見てか、イルエラが優しく言ってくれる。
「俺……ヒオゥネのことが好きなんだ。悪い奴だって分かってる、許せない相手だってことも分かってるけど、でも」
「それ、博士には言えるのか」
「え……」
「僕より博士の方が酷い目にあってる。博士にも言えるんだろうな」
「そ、それはもちろん、言うつもりで……」
「ふざけるな!! あんな奴好きになるなんてどうかしてる……!」
「……っ!」
イルエラに振り向くが、彼は目を閉じ無言で立ち去ろうとする。
「イルエラ」
「…………」
無視をされてしまい、ジノも彼に続いて去っていく。
彼らを追いかけようとしたが、自分のことを責めて追いかけることができなかった。
朝まで眠れず、シストから連絡が入る。
俺達の頑張りが認められ、ウォルズと一緒にシストの元へ行くことになった。
.。.:✽・゜+.。.:✽・゜+.。.:✽・゜+.。.:✽・゜+.。.:✽・゜+
ジノとイルエラは廊下で待っていた。
「イルエラさんはあいつの話どう思いましたか?」
「理解してやりたかったが、理解できなかったな」
「僕もです。胸のあたりがモヤモヤして、あいつの言ってることが少しも理解できなかった」
「ショックを受けた顔をしていたな」
「そうですね。でも僕達だって当然の反応をした筈だ」
「私達に理解されなかったことが相当ショックだったんだろう」
「…………」
「…………」
無言になった二人の元へ、カツン、カツン、と言う足音が近づいてきた。二人はそれに振り返る。そうして、その黒い影に瞠目し、後退した。黒い影はそれを無視してさらに距離を縮めて、彼らに話しかけた。
.。.:✽・゜+.。.:✽・゜+.。.:✽・゜+.。.:✽・゜+.。.:✽・゜+
シストに王宮で過ごすよう言い渡された俺達は、冒険できなくなったことに対し少し不満を募らせながら廊下を歩いていた。
「ジノとイルエラどこに行ったんだろうな」
「見つからないな~……」
王宮中を探し回り、人気のない端の方まで来て懐かしさを覚える。
「本当に天空のユアなんだな!」
ウォルズがそう言って、「詐欺だけどな」と呟く。そう呟くと、昔誰かに言われた気がして、思い出そうとしても思い出せなかったので、不思議に思う。いつもなら思い出せるんだけど。
「あ、イルエラ、ジノ!」
ウォルズがそう言って、走り出す。俺も二人の姿を発見し、後に続いた。
二人は灰色の服を着ている。
「何その格好」
ウォルズが尋ねても、返事は来ない。二人ともどこかぼうっとしている気がする。
カツ、カツと背後から足音が聞こえ出し、ウォルズと共に振り返る。
黒衣を纏ったヒオゥネが、ウォルズと俺の間を踊り抜けて、イルエラとジノの前に立った。
「ひ、ヒオゥネ……? どうしてこんなところに?」
「彼らは僕のしもべになりました」
「ど、どう言うことだ」
「どうやら貴方への不信感が拭えなかったようですね。すぐに僕の提案に乗ってちょっとした実験をさせてくれましたよ」
「そんな……」
「それでは僕達はこれで」
ヒオゥネは、ジノとイルエラと共に去ろうとする。
「ま、待て!」
ウォルズと二人でそれを止めようとするが、ヒオゥネの圧倒的な力でねじ伏せられ、それ以上は追うことが出来なかった。
失われつつある意識の中で、ヒオゥネの背中に手を伸ばす。しかしそれは届くことはなく、意識は飛んでいった。
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