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第十二章
243話 会いに来た
しおりを挟む第7宮殿嘛暁――ウロボスの第14宮殿流遠の中庭にその入り口がある宮殿だ。
その門の前には門番すらおらず、しんと静まり返る中庭に立つだけでも緊張する。
前作では明かされなかった嘛暁の中。それを知ることができるとワクワクし過ぎて緊張状態にある。扉を叩き、中からの応答を待つ。
「何者だ」
そう言って出てきたのは長身の青年だ。きっちりとした雰囲気と、整った顔をしており、柔らかそうな茶髪の髪と、白い服装が特徴的な男性だった。
「ひ、ヒオゥネに会いにきたんだ。セルから紹介状も貰ってる」
そう言ってセルに書いてもらった紹介状を渡すと、相手はそれを奪い取るようにして受け取り、中を読む。
「確かにこれはセル様からの紹介状だが……お前は何者だ?」
「ヴァントリア・オルテイルだ」
「……オルテイル。いいでしょう。ヒオゥネ様には貴方が来たと伝えておきます、中に入ってお待ちください」
王族と知って態度を改めたらしい、別にさっきの口調でも良かったんだけどな。急に態度を変えられても落ち着かないし。
「お前の名前は?」
「私ですか? 私はサベラス・アラバン。ヒオゥネ様の召使いです」
「え!? 何で召使いが門番みたいなことしてるんだ?」
「普段は人通りが少ないですし、ヒオゥネ様の仕事の邪魔にならないようああして訪問者を帰しています」
「へえ……」
ヒオゥネの仕事って実験のことかな。セルの紹介状がなかったら俺も帰されてたかも。
「門番はしなくていいのか?」
「はい、他にもこの宮殿には召使いがいますので」
「ヒオゥネは普段どんなことしてるんだ?」
「毎日毎時間実験をしておられます。なので会えるかどうかは分かりません」
「待つよ」
もうシストに任された仕事も終わったし、時間はある。
「あ、待ってていいならだけど」
「いいと思いますが……。貴方はヒオゥネ様とどう言った関係なのでしょうか」
「……何だろうな、敵かも」
「…………帰っていただけますか?」
「べ、別に何もしない。ただ本物のヒオゥネと会ってみたかっただけだ」
「本物……知っていらしたのですか。あの方はお忙しいので会えるかどうか……」
「会ったことがあるのか!?」
身を乗り出すようにして聞くと、相手は驚いたような表情を浮かべる。召使いなんだから会ってて当たり前か。
「わ、悪い。その、あんまり人に会わないって聞いてたから」
「…………私も会う機会はほとんどありません」
「そうか」
「こちらでお待ちください」
部屋に通され、席に座らされお茶を入れられる。
「ご自由にお飲みください」
サベラスはそう言って下がっていき、他の召使いを呼び俺の世話をさせた。
本物のヒオゥネに会えるかどうか考えていると、お茶を注がれる。注がれて、それを飲みを繰り返していると、サベラスがやって来て言った。
「もうしばらくお待ちください。分身のヒオゥネ様が来られます」
「う、うん」
分身か。いや、諦めないぞ、絶対に出会ってみせるんだ!
鼻息をふんふん鳴らしていると、召使い二人は下がろうとする。
「行くのか?」
「そう言う命令ですから」
「そうか。ヒオゥネに伝えてくれてありがとう」
「仕事ですから」
サベラスともう一人の召使いが去ってからしばらく待っていると、コンコン、とノックの音が室内に響く。
「は、はい!」
「失礼します」
そう言って入ってきたのはヒオゥネだった。
「……っ」
ウロボスの真っ赤な衣装に身を包んだヒオゥネを見るのは初めてで、思わず息を呑む。
か、かっこいい……。
「どうかしましたか?」
「何でもないです!」
ヒオゥネは俺の前までやってきて、じっとこちらを見つめてくる。いつもの無表情なので何を考えているかは分からないが、なんか不思議と初めて会うような気がして緊張する。
「ヒ、ヒオゥネなのか? なんか初めて会うような……」
「はい。僕は貴方と初めて会う分身ですから」
「そ、そうなのか」
どうしよう、いきなり本題を切り出してもいいんだろうか。
「訪ねてこられるとは思っていなくて驚きました」
「きゅ、急にごめんな」
「暇な分身はたくさんいますから結構ですよ。何しに来られたんですか?」
ど、どうしよう、つまり本体は忙しいってことだよな。迷惑かけたくないし……このまま帰るべきだろうか。って待て待て、ヒオゥネが忙しいのって実験してるからだろう! 少しくらい邪魔したって大丈夫だ!
「ヒオゥネの本体に会いにきたんだ……!」
「…………はい?」
不機嫌そうに眉間に皺を寄せられ、思わず後ずさる。
「急に何を言い出すかと思えば……無理ですよ。本体は忙しいので」
「だって会いたかったんだ……!」
必死に訴えると、相手はじっとこちらを眺めてから言った。
「分かりました。本体の帰る部屋で待っていてください。会えるのは夜だと思います」
「よ、よる……」
「何か?」
「何でもない」
ついさっきまで刺激の強いセルと一緒にいたせいか、変なことを想像してしまった。
「では、僕はこれで失礼します」
「うん」
ヒオゥネが扉を開けると、扉の向こうから「あ」と言う声が聞こえてくる。扉の向こう側には、今まさに聞き耳を立てていましたよと言わんばかりのポーズを取っているサベラスがいた。
「…………」
「…………」
サベラスとヒオゥネは見つめ合う、冷たい空気がその場を包み込んだ。サベラスはこほんと咳払いをし、「ヴァントリア様、ヒオゥネ様の部屋へ案内いたします」と言い出した。
腕を取られ「こちらへ」と早足でその場を去っていった。
ヒオゥネの部屋に着き、中へ入ると、いきなり天蓋付きベッドがあってその奥にソファとローテーブルがあった。ソファに座らされ、「夜まで長いのでゆっくりくつろいでいてください」と言われる。
座らされたソファの隣には机と椅子がある。ヒオゥネはここでも仕事をしているんだろうか。
サベラスが去ってから、立ち上がって何となくその机に向かう。特にペンも本などの資料もない。もしかしてあんまり使っていない? その割には埃もつかないしきちんと手入れされている。サベラスの仕事なんだろうか。
夜まで長いし、ヒオゥネと会った時何を話すか決めておこう。
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