転生したら嫌われ者No.01のザコキャラだった 〜引き篭もりニートは落ちぶれ王族に転生しました〜

隍沸喰(隍沸かゆ)

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第十二章

241話 心も体も

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 蔑んだ目で相手を見ていると、相手はハッとしてから言う。

「す、すまない。こんなことがしたかったわけじゃないんだ。俺が求めて来た理想は決して叶えられないものだと諦めて来たんだ。それでも探し続けていた。ずっと。見つけられなかった。今までずっと、それなのに、突然目の前にお前と言う理想が現れてしまって、俺はお前を手に入れないといけないと思ってしまったんだ。いや、今でも思ってるよ。お前は美しい。俺の今まで見てきた色の中で正に理想……俺の求めてきた色そのものなんだ。一刻も早くお前を手に入れなければ、俺の元で保護しなければ。他の誰かがお前の色を汚す前に。でも俺もお前を汚す一人だった。どうすればいい? こんなに触れたいと、愛しいと思ったことは初めてで感情が身体が暴走してしまうよ」

 苦しそうな表情で話し出したと思ったら、急に顔を上げてちゅっとキスをしてくる。抵抗する間も与えず何度もキスをされて、ほふぅ、と相手が息をつくために離れた隙にベッドのふちまで下がって距離を取る。

「や、やめろっ、いきなりこんなことされて喜ぶ奴がいるかよ!」
「じゃあどうすれば喜んでくれるんだい」
「お、俺を帰せ!」
「ダメだお前を汚い色と混ぜてしまうなんて!」
「汚い汚いって言うけどな、他の色がないとそのお前の言う美しい色ってのも存在してないんだからな!」

 これはとあるゲームで主人公が保育園児に言っていた言葉だ。クレヨンの取り合いで黄色が一番好きだと駄々をこねた子供に対して、他の色があるからこそその色が一番になるんだよと、主人公が宥めてうまくいく、みたいな話だ。何で保育園で働かされていたのか、その前と後にどんな展開があったのかも忘れてしまったが。

「いらないよ、他の色なんかいらない、汚い、全て汚い色だ、その色さえ存在していれば美しいんだ、汚い色がなくても美しいその色さえあれば俺は幸せなんだ。汚い色が入り込んで来るだけで悍ましい。反吐がでるよ、苦しくなるんだ、気持ちが悪いんだ、いらないんだ」
「じゃあ、一番嫌いな色って何だ?」
「一番、嫌いな色……」
「そう。お前のその汚い色って奴の中で一番嫌いな色」
「…………白。いや、黒。いや、紫。いや、水色。……ああ、黄色。黄色が一番嫌いだ。チカチカと眩しくて、大嫌いな色だ」
「そっか。俺は黒が嫌いだな」

 呪いの霧が黒かったと言うこともあるけど、なんか、あの色を見ると思い出してしまって、どうも落ち着かないんだよな。

「ヴァントリアの好きな色って何だっ?」

 セルは興奮した様子でぐんと顔を近づけて聞いてくる。
 結構話出来る奴じゃないか。ウォルズみたいに話が出来ない変態ではないようだ。普段は話が出来るけど、興奮した状態のウォルズはたまに話が噛み合ってない気がするし。

「……好きな色。青、かな」
「え」
「え?」

 目の前に広がる青い髪の毛を見て、ハッとする。いや、待て、そうじゃない!

「――初めてだ」
「へ?」
「初めて自分の色を、好きだと思えたよ」

 そう言って、心底嬉しそうに笑うものだから、どうしていいか戸惑ってしまう。

「両想いだったなんて嬉しいな」
「お前自身を好きなんじゃない、色が好きなだけだ。いいか、初対面の相手をいきなり好きになる訳がないだろ。しかも男相手なんて尚更……」
「でも俺はヴァントリアのこと好きになったけど」

 それは俺が赤色だからだろうが。

「それに男相手に何の問題があるんだい……?」

 不思議そうに聞かれて、あ、と思う。そうだったウロボスでは同性愛も同性婚も普通のことだった。そう思った束の間、セルは一人で納得して話し出す。

「ああ、そうか。君はオルテイル一族だもんね。俺達ウロボス一族は男同士でも結婚が認められているんだよ。初代王の弟、ゼクシィル・ウロボスが――」

 ゼク、シィル。

「――だから――……ヴァントリア?」
「え、な、なんでもない」

 思い出しちゃだめだ。あいつのことだけは。思い出すだけであいつがここにきてしまうような……そんな気がする。
 しばらくそうやってセルと話すうちに少しだけだけど仲良くなっていく。
彼の笑顔や素直さを知っていくと、意外とすぐに警戒心はなくなった。
そう言えば眼帯を外したままだが、もしかして俺は幻覚を見てるんじゃないだろうか。尋ねてみると、確かに第二の目である銀色の瞳は発動しているが、コントロールはできると言う。じゃあ何故普段から眼帯をしているかと聞かれると、彼は常にコントロールしていると疲れるからだと答えた。
 二人でソファに座ってくつろいでいると、セルが席を立ち、どこかへ向かってから帰ってくる。

「ヴァントリア、お前にこれをあげよう」
「え、あ、ありがとう」

 それは真っ赤な薔薇だった。花瓶から取ってきたようだ。
 それを眺めていれば、すぐ傍でちゅっとリップ音が鳴って、瞠目する。

「チッ……薔薇が邪魔だったか」

 どうやらキスしようとしたが薔薇が邪魔だったらしい。って何の解説だ!

「なななななな何考えてるんだよ!」

 まだ諦めてなかったのか!
 顔が熱くなるのを感じて、ぶんぶんと頭を振る。薔薇がなかったら……またちゅーされてた……。
 あああああ俺って警戒心そんなに薄いのかなぁ……! 次からは警戒する、するからな! って警戒しても力任せにやられたら抵抗できないんだった……。って言うかいつまでウェディングドレス着たままなんだろう。
 その後は、話し疲れたのか、ソファのふかふかが心地良かったのか眠りについてしまった。

「あはは、寝顔もかわいいなぁ」

 セルはそう言ってさっきは薔薇が邪魔したそれを行う。ポケットから赤い小さな箱を取り出して、中から赤い指輪を取り出す。
 それを、理想の相手の薬指に嵌めた。

「お前を逃すつもりはないよ」


.。.:✽・゜+.。.:✽・゜+.。.:✽・゜+.。.:✽・゜+.。.:✽・゜+


「はぁ、はぁ……はぁ、はぁ」

 黒い。黒い。
 どこまでも黒い。

「セロウボス、お前は知るべきじゃなかった」

 醜い。醜い。
 どこまでも醜い。

「お前は正しいまま生きていけば良かったんだ!」

 汚い。汚い。
 どこまでも汚らわしい。

「俺はお前のためにやっているんだ、セロウボス!」

「うああああああああああああああああああああッ、ぐああああ、ああああああああッ」

 痛い。痛い。
 どこまでも痛い。

 黒く、醜く、汚くて、痛い記憶。

 過酷で、残酷で、身勝手な記憶。

 汚い色で、染められた世界。

 力を得てすぐ父親を操り、お仕置き部屋へ閉じ込めた。
 その力で父親に自らを傷付けさせた。
 それでも痛みは消えなかった。
 汚い色への憎しみは消えなかった。

 父親を操りながら、幻覚を見せ、その喉にナイフを当てる。父親はおかしいくらいにずっと笑っていた。

 汚い色、汚い世界。汚れた父親。

 醜い。痛い。憎い。

 美しくない。

 ナイフは喉笛の奥へ滑り、美しい色を舞い上がらせた。

 その美しさに目を奪われた、次に、脳を奪われた。

 全身に快楽に似た興奮が迫り上がっていく。

 自分の全てが、その美しさの虜となる。

 その代わり、他のすべての色は汚らわしく、醜く、憎らしく映った。

 だから染め上げる。全てを壊さないためにも、いいや。ただ、自分が好きな色に囲まれていたいだけだ。

 染め上げてずっと、興奮の中に浸っていたかった。

 痛さも憎らしさも汚らわしさも醜さも、もう自分やその他に感じることがないように。

 心も身体も、その他も、全てを美しい色で染め上げた。


.。.:✽・゜+.。.:✽・゜+.。.:✽・゜+.。.:✽・゜+.。.:✽・゜+


「ヴァントリア」

 セルの片方の瞳が金色に輝き、理想は口を開く。

「せ……ろうぼ……す」

 セルはナイフを取り出し、それを理想の手首に当て、数滴溢れる美しい色を飲む。そして、理想と口づけを交わす。
 光は理想の首に巻きついて鎖の形へと変化する。それがセルへと伸び、セルはそれを捕まえる。光の鎖は空気中へ霧散し、消えていった。
 セルは目の前の美しい色に染まった理想を眺めながら満足そうに笑みを浮かべた。

「必ずお前を手に入れて見せるよ」
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