転生したら嫌われ者No.01のザコキャラだった 〜引き篭もりニートは落ちぶれ王族に転生しました〜

隍沸喰(隍沸かゆ)

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第十一章

236話 さすがはワタシの弟だ

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 次の日、ロベスティゥ、ディスゲル兄様と一緒に船内のレストランで朝食を取っていた。ディスゲル兄様の顔には出していないものの手元がおぼつかない様子を見ると、かなり動揺しているらしい。

「ディスゲル、マナーがなってないぞ」
「それを言うならヴァントリアの方がなってないだろう」
「今自分の弟を貶してどうする。ワタシはキサマのことを言ったんだ」

 うわぁ、なんかピリピリしてる。寝不足解消しなかったかぁぁ……!

「ロベスティゥ兄様、もう少しディスゲル兄様に優しく……」

 こそっと耳打ちすると、首を振られる。

「奴が奴隷解放運動について話さん限りこちらから何かしてやる気はない」

 頑固者ぉぉ……!!

「ディスゲル兄様、ロベスティゥ兄様は悪い奴じゃないんだ、奴隷解放の運動をしていたことについて話してみたらいいんじゃないか」

 今度はディスゲル兄様にこそっと耳打ちすると、ギョッとした顔で見られる。

「ロベスティゥ兄さんが悪い奴じゃないって? 一体どうしたんだヴァントリア」
「俺だってそんなに悪い奴じゃなかっただろ?」
「確かにオマエのことは勘違いしていたけど、ロベスティゥ兄さんは格が違うだろ」

 だめだこりゃ。
 朝食を済ませるとデッキへ出てトルショーの姿を探す。彼の部屋番号を聞くのを忘れていたため、みんなで地道に探した。
 そんな時だった――突然船に衝撃が走り、バランスを崩す。さっきまで柵の前で海を眺めていたお客さん達が悲鳴を上げる。尻もちをついていた俺達は立ち上がり、まだ立てずにいる彼らに駆け寄るが――……
 手を伸ばしてきた彼らの後ろ――海から突然、タコのような巨大な触手が現れて、船を叩きつけてくる。
 あちらこちらから悲鳴が上がり、そのうちの一人の紳士が叫んだ。

「魔獣スミスタコだああああああああ!!」

 巨大な触手の正体は、巨大なタコのような姿をした魔獣スミスタコだった。いやネーミングセンス!!
 とか気にしている場合ではない。スミスタコの手下である魔獣オクトパスタンの群れが船の上に上がってきてお客さん達に炭を吹き付けていく。いやだからネーミングセンス!!

「これは何事だ!!」

 そう声をあげたのは、今デッキに出てきたらしいトルショーだった。

「トルショーさん!」
「ヴァントリア様、いったい何が起きて……!」
「――魔獣オクトパスタンの群れと、魔獣スミスタコが襲ってきました!」
「緊張感のない名前だな」

 あなたもそう思いますか。

「この船に乗っている人々を守らねば。奴らを追い返すぞ! ヴァントリア様、協力していただきたい」

 部下に命令を出してから、俺達に向き直る。

「協力する!」
「ありがとうございます」

 トルショーは部下にお客さんを避難させるよう指示を出し、自らもオクトパスタンに切りかかっていく。お客さん――町の人々を第一に考える勇敢な人物だ。こんな一面があるのならばメルカデォや奴隷制度の件も納得してくれる筈……。

「ロベスティゥ兄様、ディスゲル兄様、協力してください!!」
「ああ、任せろ!」
「これ以上我々の民に手出しはさせん」

 ロベスティゥは魔法で剣を召喚し、オクトパスタンやスミスタコの触手に切りかかっていく。そんな姿を見たディスゲル兄様は、「あのロベスティゥ兄さんが……」と驚愕している様子だった。
ロベスティゥ、ディスゲル兄様、トルショーの協力の元、一時間の戦いを繰り広げ、スミスタコ、オクトパスタンを追い返すことが出来た。
 オクトパスタンの群れとスミスタコの襲来事件からしばらくしてお客さんも落ち着いてきた頃だった。トルショーの説得に戻り、彼が反対していた理由が「亜人や獣人は危険な存在であるからメルカデォで排除するべきだ」と言う考え方だったからだと分かった。
 確かに彼らは人間より力もあるし短気だが、それは日常で一緒に過ごす分には何のデメリットもないと話す。むしろメルカデォがあるからこそ彼らはストレスで争いを起こしやすくなっているのだと話し、誤解を解く。
 奴隷制度の廃止については他の貴族が反対しシストから離れていくかもしれないと危惧したかららしかった。貴族が離れても王族は離れて行かないとディスゲル兄様が伝えると、ロベスティゥも頷いた。
 トルショーは説得され、次の会議でメルカデォと奴隷制度の廃止に賛成してくれると言う。
 これでこの階層での俺達のミッションはクリアした訳だが……。

「ロベスティゥ兄さん」
「何だディスゲル」
「オレは兄さんを誤解していたのかもしれない……。さっきの民を守るための行動力、凄かったよ」
「そうか。キサマはもう少し早く動けていただろうに……失望したぞ」

 おいおい、どうして冷たくするんだよ。本当に頑固者だな。

「ロベスティゥ兄様、メルカデォと奴隷制度廃止の件については納得してくれたんだよな」
「ああ。最初から気に食わなかったからな」

 なんで俺には素直なんだよ。

「え……」

 ディスゲル兄様のそんな声が聞こえてか、ロベスティゥはハッとして口を押さえ、閉じる。それとは逆に口をあんぐりと開けるディスゲル兄様に耳打ちする。

「だから大丈夫だって言ったろ。って俺も昨日まで誤解してたんだけど……」
「昨日ってオマエ……」
「なんだよその目は。だってロベスティゥだぞ」
「……まあ、そうだな」

 ディスゲル兄様は咳払いし、緊張しているのか警戒がまだ解き切れていないのか、頬に汗を流しながらロベスティゥ兄様に言った。

「ロベスティゥ兄さん、オレ、隠していたけれど、奴隷解放の運動に参加していたんだ」
「…………知っていた」
「え」
「さすがはワタシの弟だ」

 そう言って、ロベスティゥはディスゲル兄様の頭を撫でる。ディスゲル兄様の顔がタコのように真っ赤っかに染まった。やっぱり甘やかされるの慣れてないんだな。

「お前もな、ヴァントリア」
「わっ……!」

 俺も頭を撫でられる。

「そろそろワタシも動くとしよう」
「え? 何の話?」
「ずっとキサマの陰に隠れていて、表立っては何もしてこなかったからな。このままキサマと行動することにした」
「え!? いいのか!?」

 びっくりしたのが半分、心強いと思ったのも半分でそう伝えると、ロベスエティゥ兄様は深く頷いた。

「オレもオマエと一緒に行動させてくれ。オマエの頑張りを傍で見てみたいからな」
「ありがとうございますディスゲル兄様!」

 実は暇人じゃないかと思うくらいちょうどよくシストから連絡が来て、次は四皇級階の者が住む屋敷がある階層・ソーサンへ向かうよう言い渡された。ディスゲル兄様とロベスティゥも一緒に行くと伝えると、シストは一瞬黙り込んで意外そうにしながらも承諾した。

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