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第十一章

235話 かわいいやつめ

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「ディスゲル兄様は反対されると思ってるんじゃないかな……」
「なぜだ? ワタシが反対する理由がないだろう?」

 いやお前自分に隠し事してるからって理由で反対する奴じゃん。

「とにかく、お前はディスゲル兄様より偉いから警戒されてるんだろ」
「なぜワタシを警戒する……ディスゲルめ、これからも絶対にあいつの言うことは聞かん」

 いや聞いてあげて。

「それよりヴァントリア。早くこの菓子を食せ」
「え?」
「え? じゃない。キサマのために用意したんだ。早く食せ」
「え、いや、お前のじゃないの?」
「ワタシは甘いものをこんなには食べん」

 本当に俺のためだけに用意したのか? ロベスティゥいい奴だな! って何コロッといってるんだ、まだ警戒……する必要ないような気がするんだよな。コロッといっちゃお、うん!
 極上のスイーツを食べていたら、それを眺めながらロベスティゥが冷静に言う。

「菓子を食べたら歯を磨いて湯に浸かれ、久しぶりに一緒に寝るぞ」
「うん……って、え?」
「え? じゃない。キサマが腕の中にいないと快眠出来ん。ずっと迷惑していたんだ」
「いやいやいやいや! 俺お前と一緒に寝たことなんかないと思うんだけど!」
「キサマは主従契約を使っているつもりでワタシの腕枕で眠るようになっていた。ワタシもキサマを抱きしめないと眠れん。代わりに枕でもと思ったが、抱き心地はキサマが一番なようでな、どうにも寝付けん」

 確かにヴァントリアの抱き心地がいいのは認めるけど。

「いやだよ一緒に寝るなんて! それに仲間達と合流しなきゃいけないし、外にウォルズ待たせてるし」

 そう言うと、扉からノックの音が聞こえてきて、扉の向こうから声が聞こえてくる。

『俺は大丈夫です! いつまででも立ってられますのでご自由に何でもしちゃってください!』
「おい!」
「仮眠を取るだけだ。早く食べて早く歯を磨け。湯に浸かるのは後でも良い」

 手からフォークを奪われ、あーんされる。どんどん口の前に運ばれてくるが、食べたい時にタイミングよく運ばれてくるそれは明らかに慣れている。まさかヴァントリア、昔からこうやってロベスティゥに食わされていたのか。いや、ロベスティゥに命令してお世話させてたなこれは。

「ほら、あーんしろ」
「あ、あーん」

 なんやかんや考えているうちにスイーツは食べ終えた。じゃあ今のあーんは何なんだと言われれば、歯磨きである。口の中見られるって不思議な感覚だな。でもなんだか綺麗に磨かれているような気がするし、なんだかロベスティゥの膝枕心地いい気がするし、悪くないな。

「ほら、歯ブラシだ。ぐじゅぐじゅっぺしてこい」
「はーい」

 歯ブラシを持たされ、この部屋に備え付けの洗面台へ向かう。洗面台は扉の向こう側にある。その向こうの扉の奥にはトイレがあるが、今は使わなくて大丈夫だ。
 ぐじゅぐじゅっぺして、歯ブラシを洗い、歯磨きを終えてから、ロベスティゥの元に戻る。ロベスティゥはベッドの上に乗り布団をめくった状態でスタンバイしていた。いや、このままだと一緒に寝る流れじゃん。

「あの……本当に寝るんですか?」
「ん? いまさら敬語はいらないが」
「そうじゃなくて。本当に一緒に寝るのか?」
「はやくしろ。寝不足で最近イライラするし頭痛がする」

 まさか俺以外の人に意地悪なのってそれのせいですか!? し、仕方がない……ディスゲル兄様にも優しくしてもらうために、一回寝とくか。
 ふかふかなベッドに上がり、用意されるロベスティゥの腕枕に頭を乗せる。うわー腕枕って初めてされたけど結構フィット感すごいな~。
 って何満足してるんだ俺は。
 暑苦しく身体に密着してくるロベスティゥ。巻き付いてくる反対の腕が腰を引き寄せてくる。暑い暑い。
 顔近い……こう見ると美形だな、ロベスティゥって。羨ましい……。
 ウォルズに悪いから俺は眠らないでおこう。
 しばらくすると寝息が聞こえてくる。本当に快眠らしく凄くリラックスした寝顔だ。涎垂らしてるし間抜け面だし、ゲームでは絶対に見られない顔だな。いや、俺でしか快眠出来ないんだから俺しか見られないのでは?
 いつまで眠るんだろう。5分くらい経ってから起こすか。
 5分後、ロベスティゥの胸を叩き起こそうとするが、全然目覚める気配はない。名前も呼んでみるが起きる気配はない。顎に頭突きしてみるが起きる気配はない。

「まさか死んでる?」

 胸に耳をくっつけてみるとちゃんと心臓の鼓動は聴こえてくる。

「ウォルズ~、ウォルズ~いるか?」
『はいはい、いますよ~全裸待機してますよ』

 本当にしてないだろうな。

「ロベスティゥのこと起こしてくれないか?」
『ロベスティゥの寝顔が拝見できるんですな!』
「そうですよーおいでー」
『わ~いヴァントリアのおいでだああ~!」

 かわいいやつめ。
 ウォルズはロベスティゥの寝顔を堪能した後、さっそく快眠グッズである俺を彼の腕から抜き取った。

「確かに抱き心地最高♡ いい匂いするしかわいいしもう離さない♡」
「は、離せ!」

 なぜかドキドキする。ウォルズみたいな爽やか系は苦手なんだ、って言うことはヒオゥネも爽やかなのか? まあ確かに顔は爽やかかも……。

「今何考えてるの?」
「え、いや、別に」
「めちゃくちゃぽわぽわしてたよ。かわいい顔してた」
「ぽわぽわ?」
「かわいい!」
「はいはい、いいから離しなさい」

 ウォルズに離され自由になると、ロベスティゥの様子を窺う。めちゃくちゃ寝苦しそうだ。

「う~ん……?」
「お、目ぇ覚めたか?」
「ヴァントリア……キサマ、ワタシの腕の中にいたのではなかったのか?」
「だってお前起きないんだもん」
「スッキリしているようなしていないような……」
「文句はいいから、俺もう帰るぞ。俺も寝たいし」
「一緒に寝ればいいだろう」
「寝れるか! とにかく帰るから!」
「分かった。明日の朝迎えに来よう」
「なんでだ!」
「部屋の番号を教えろ」
「やだ!」

 そう言ったのに、ウォルズがすらすら~っと答える。口を押さえるが遅い。

「久しぶりに皆で朝食をとろう」

 楽しみと言わんばかりに笑うので、断りづらくなる。ディスゲル兄様も誘うらしい。その際にトルショーを誘って良いかと聞いたら「ダメだ」と言われた。説得したいならワタシからもしてやろうと言われ、やっと頷く。

「じゃあな、ロベスティゥ。また明日」

 扉の外でそう言えば、ロベスティゥはコクリと頷き、顔を近づけてくる。

「おやすみヴァントリア」

 額にちゅっと、湿ったものが触れ、ロベスティゥの顔が離れていく。

「ひょええええ!」

 奇声を上げるな奇声を。

「何すんだよ」
「ヴァントリアはかわいいな」
「な、何なんだよ!」

 あのロベスティゥから、ヴァントリアかわいいなんて単語聞いたら精神崩壊起こしそうなんですけど!

「ディスゲルももう少し可愛くなればいいんだが……」

 そんなことをぶつぶつ呟きながらロベスティゥは扉を閉じる。サイオン兄様も可愛がり方がめちゃくちゃだったけどまさかロベスティゥもめちゃくちゃな可愛がり方をするのか?
 でもサイオンよりかは嫌じゃなかったかも。


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