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第十一章

231話 なんとなく

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 33層ベルファイン、一番広いとされる階層で、その全てに魔獣の森が広がっている。落ちている物や人の住んでいた形跡のある小屋が存在したことなどから本軸の番人がいると言う考察がされていた。

「すげえええええ! ベルファインだ! ゲームのまんまだ!」
「俺は何度か来てるけど、やっぱり何度来ても興奮するなぁ!」

 ウォルズが続けて言う。そのままウォルズと二人でイルエラとジノを先導し目的を忘れ歩き回っていたら、巨大な木と、ふわふわと浮かぶ綿の実を発見した。

「わーい! たくさん食べるー!」

 綿の実を頬張っていると、何だか体力が回復していっている気がする。まあイーハの教会に泊まったし最初から体力は満タンなんだけど。

「こちらはリッカルを発見! 食うぞー!」
「ラジャー!」

 みんなでリッカルを追いかけていると、それを狙う魔獣の群れに遭遇する。そいつらは俺達にも襲いかかってきて、みんなで倒す。すると、その死骸に集まる鳥類の魔獣ワバク。
 そのワバクを狙って次の魔獣・ムェシェドが現れ、その魔獣を狙って次の魔獣・ラハバラが現れる。

「「これって……」」

 ウォルズと二人で目を合わせて。

「ベルファインに初めて入った時に流れるムービーだぁぁ!」
「俺達ムービーの一部になったんだ! やべえええええ!」

 次の瞬間、はしゃぐ俺とウォルズの襟首をひっ掴んで、運ぶイルエラ。
 二人が今までいた場所は地面ごと魔獣・ラハバラに食われてしまう。

「イルエラさんナイス」

 ジノがそう言ってイルエラに近づく。イルエラは眉間に皺を寄せながら言った。

「困った奴らだ」
「こいつら偶に変なテンションになるよな」

 その後、魔獣に出会っては倒し、逃げてを繰り返し、いつの間にか仲間達と逸れてしまっていた。
 全員が逸れてしまったらしい。連絡は魔法石で取り合えているが、森の中なので目印になる場所がない。
 ウォルズと俺はゲームで見た木々の感じを覚えているので何となくわかるが、完璧には覚えていないので合流は難しいだろう。

「確か近くに古い塔がある筈だ」
『じゃあそこを合流場所に決めよう』

 みんなと通信を切り探検を再開する。

「って」

 通信を切ったそばから。

「なんでこうなるのおおおおおおおおおおお!?」

 まいた筈のラハバラが追いかけてきていて、俺は猛ダッシュで逃げる。どんどん岩とか地面だっただろう瓦礫とか木とかが前に飛んできて恐ろしい。どこか隠れる場所は――と辺りを見渡し、綿の実の巨木を発見する。綿の実の木に魔獣は近づかない。あそこでラハバラが去るまで待とう。
 綿の実を付ける巨木の影で休憩していると、右方向から黒い丸い影が現れて飛び退く。

「ひょえ!?」

 何も起きず、そろりと相手の様子を伺うと、それは黒いウサピョンだった。

「なんだ、コゲテルか。ってこの名前やっぱりセンスないよな……」

 コゲテルを抱き抱えると、擦り寄ってくる。今意志はないんだよな? ないよな?
 綿の実を食べながら休憩を続けていると、後方からズシン、ズシンと縦揺れの地震のように地面を揺らす足音が近付いてくる。
 ラハバラがやっと去ったのにまた来るのか。とか呑気に考えていたら、足音はどんどん近付いてくる。それも、綿の実を付ける巨木の森がある方向から。

「え……綿の実って、魔獣を寄せ付けないんじゃ」

 あ。
 そう言えば、この階層では魔獣の森を東西南北で区切られ、それぞれに森の主と呼ばれる魔獣・ドラゴンが生息していた。彼等は綿の実を付ける木の匂いを嫌がらず、逆に魔力を補充できる綿の実を目当てにやってくる。
 だから、ゲームでは彼等が出現した時は厄介で……。
 ここが西の森と言うことは――今聞いてるこの足音の正体って4つの頭を持つドラゴン――魔獣・ガンガウロボスの足音!?
 恐る恐る振り返れば、巨木よりも高い位置にある4つの顔がこちらを見ており、その一つと目がバッチリとあった。

『グオオオオオオオオオオオオオッ!!』

「いやああああああああああああああああああ!?」

 ガンガウロボスの雄叫びと共に絶叫を上げ、前方に前方にと走り出す。
 しつこく追い回してくる相手から逃げるうち、ゼェゼェと息を荒げ始め、もう無理だ、死ぬ、死ぬかも、と考えていた時だった。
 心では諦めつつも逃げることが得意のヴァントリア様の本能がそうするのか、必死に足を動かし逃げていると、ガンガウロボスは黒いモヤを吹き出してくる。
 そう言えば、マデウロボスは呪いを多く持っているんだったな。ガンガウロボスもそうなのか?
 ガンガウロボスは呪いを放出しながら弱っていき、動かなくなる。ピクリとも動かなくなり、死んでしまった。
 不思議に思い、呪いが集まっていく方向へ走ってみると、開けた場所にやって来ていて。
 葉っぱの形がハート形で、幹がクネクネと曲がる特徴的な形の白い木が中央にあり、それを見て気がつく。
 ここはセーブポイントだ。
 この白い木の影響で今度こそ魔獣も森の主もやってこない。って、ここは塔から逸れている場所じゃないか!
 そう思って踵を返そうとすると、反対側の木の下にコゲテルが向かっていき、着いていく。

「もう帰る……ぞ」

 コゲテルがいるであろう場所を覗くと、ボロボロの黒い衣服を着たヒオゥネが木に背を預け眠っていた。
 そうして、なんとなく、隣に座る。
 ずっと、何となく寝顔を眺める。
 こんなところで何してるんだろう……。
 って言うか、呪いってここにきたんだよな。ガンガウロボスのこと寝ながら倒したのか? ヒオゥネってどんだけ強いんだ……。
 ガンガウロボスから呪いを吸収してたってことは、ヒオゥネは魔獣から呪いを集めているってことなのか?
 それにしても……睫毛長いし、整った顔してるよな。美しいってこう言う時に使う言葉なのかもしれない。
 って俺は何を考えてるんだ。男相手に美しいもクソもあるか。
 頭を振ってしばらく地面を眺めてから、また、ヒオゥネの顔を眺める。木に背を預けているからか、頭は傾き、顔は少しこちらを向いている。
 じっと眺めていると、ドキ、ドキと不自然に速い鼓動を聞いていると、なんとなく、なんとなく、吸い寄せられるように、ヒオゥネとの距離を縮める。
 目を瞑ると、唇に沈み込むような感触が触れて、熱い熱がじわじわと顔中に伝わって。それを誤魔化すようにサワサワと風が落ち葉を運ぶ。
 顔を離して目を開ければ、一瞬、近過ぎる距離に呆けて、次の瞬間。
 自分の顔が火傷しそうなほど熱くなるのを感じる。
 な、何してるんだ俺は。
 熱くなった両頬を冷まそうと両手でパタパタ叩いていれば、ふと、視線を感じてその方向を見る。
 そこには黒いウサピョンがいて、じっと、こちらを見ているではないか。
 そこで、ハッとする。感覚が繋がってたら、今の、まさか、見られ――…………

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