232 / 293
第十一章
229話 そう言うところが
しおりを挟む数時間が経った。
「…………、…………」
吸血鬼達は纏わりつくように血を吸い、ストレスの捌け口に暴力を振るう。ボロボロになって思い出す、この痛みは初めてではないと。
こんな痛み、少しも怖くないと。
震える身体でそんなことを考えていた。本当は、恐ろしい癖に。
でも、助けを呼んで仲間が来たら、同じ目に合わせるかもしれないじゃないか。
朦朧とする意識の中で皆の姿を思い浮かべる。それだけで、心が落ち着いていく気がした。
そんな時だった、血を吸い、暴力を振るう化け物達が黒いモヤを浴びて次々と気を失い、背後から伸ばされた腕に捕まれ前方へと投げ飛ばされていく。
更に背後で何かが地面に何度もぶつかるような音がして、同様のことが後ろで起こっているのだと気がつく。
後ろから、コツ、コツ、と足音が聞こえて来て、イーハが戻ってきたかと思ったが。
「酷い姿ですね」
「その、声は」
ああ、この声は。
「助けに来てくれたのか?」
「はい」
どうしてお前には、助けて欲しいって時が分かるんだ。
ナイフを外され、立ち上がろうとしてふらつき、声の主――ヒオゥネの胸にもたれかかる。
「ヴァントリア様、気を確かに」
「お前は……いつも助けに来てくれるな」
「僕だって流石に毎回は助けられませんよ」
「ありがとう」
「……別に、貴方のためではありません。貴方が傷付くと、僕が苦しいだけです」
「それ、自分のためだって言ってるのか?」
「はい」
言ってないような気がするけど……。
ヒオゥネは俺に大きなタオルを羽織らせてから言った。裸見られた……恥ずかしい。
「貴方に用があってきました」
「はあ」
椅子に座らされ、彼は後ろを向く。呪いが集まるようなモーションが見えた気がしたが見間違いだろうか。
彼は振り返って、「どうぞ」とそれを差し出した。
真っ黒なウサピョンだった。
「…………俺ウサピョン大っ嫌い」
可愛いけど悩みのタネだもの。イルエラウサピョンは好きだけど。
ヒオゥネがウサピョンを下ろすと、ウサピョンは近づいてきてスリスリしてくる。
「安心してください。ただのウサピョンではないですから。僕の作った生命体のウサピョン、名前はコゲテルです」
……ウサピョンと言う名前をつけたゲーム会社の人のネーミングセンスもどうかと思ってたけど、ヒオゥネはもっと酷いな。
ウサピョンを抱き上げて眺めていると、ヒオゥネが呟く。
「……可愛いですね」
「はい?」
え、何が? もしかしてコゲテルとか言うこの黒いウサギのことか? あ、いやウサピョン。ウサピョンウサピョン。
黒いウサピョンはおとなしくて、結構可愛いかもしれない。ただめっちゃスリスリしてくる、あんまり変なところに入り込まないで欲しいんだけど。手で退けたり、後退して避けたりしながら、ウサピョンを眺めていたら、ヒオゥネがそれをじろじろと見てくる。
「何?」
「コゲテルを持ちながら誰でもいいので吸血鬼に近づいてみてください」
「なんで?」
「ちゃんと守れるか確かめるためです」
立ち上がり、協力しようとはするものの、足が動かない。無意識に怖がってしまっているらしい。
「ち、近づかなきゃダメ……?」
『あーあ、仕方ないですね……自分で歩きますから下ろしてください』
……ん?
何か変な違和感を覚えたが、言われるまま下ろす。すると、コゲテルはてけてけと吸血鬼の一人に近寄って蹲る。すーすーと寝息を立て始めた。
「あの、ヒオゥネさん? 寝てるんだけど……」
「今は呪いを吸収しているんです。吸収した呪いは僕に送られてくるのでコゲテルには負担がありませんよ」
『やはり新月の夜は呪いが強くなるようですね』
ウサピョンがヒオゥネよりちょっと高めのヒオゥネのかわいい声で喋り出す。それには驚くが、ヒオゥネが作ったウサピョンなら有り得る。さっきの違和感はこれか?
「吸血鬼の皆さんはルーハンに吸血鬼にされた人達なので、反応するんでしょう。新月の夜、魔獣が活性化することと関係がありそうですね。空の魔法の出力が強まる日でもありますから魔獣がそれを喰らって活性化する……。それらが各層の純ウロボス一族の魔獣と戦闘になって食われ、吸収されて、呪いが強まる……吸血鬼に影響があると言ったところですか」
ほとんど言ってることが分からなかった。
「そ、そっか。それにしてもこのウサピョン……寝てても喋れるんだな……」
「身体と意識は別々ですから」
「意識?」
あれ、なんかさっきから違和感が……。
『…………そのまま動かないでください』
「え?」
『……綺麗です』
「何が?」
「いえ、なんでもないです」
ヒオゥネがタオルを巻き直してきて、時々肌に直接触れる指にドキドキする。いや、何を考えてるんだ俺は。フラれたばかりだろう。
「あの、ヴァントリア様、いい加減服を着ていただけませんか。僕以外の人に裸を見せないでください」
「お前の前でも見せる気はない……って、待って。そう言えば、なんか見えてる感じの話し方っていうか…………」
かああっと頰が熱くなるのを感じる。慌てて胸と又の間をタオルで隠す。
「み、見えてないんだよなこのウサピョン目線では!? 撮影機能とかないよな!?」
そうじゃなかったら、角度的に色々とんでもないところ見られてる! ヒ、ヒオゥネに変なところ見られたってことになっちゃう……っ、そ、そんなの恥ずかしくて死にたくなる!
『はい、ちゃんと生きてるのでそんな機械的な機能はありませんよ。だからそのタオルを退けてください。リラックスしてくれて大丈夫ですから』
「――なんでタオルを退けなきゃならないんだよ」
「…………別に意図はありませんけど?」
「今の間はなんだ!? ナチュラルなトーンで綺麗に嘘つくな!!」
急いで服を着れば、ウサピョンから「あーあ」と言う声が聞こえてくる。なんなんだその残念そうな声は! 絶対に見えてるじゃないか!
ああもう最悪だ変なところ入り込まれたりしたし…………ん?
「ヒオゥネの意志で、歩くことって出来るのか?」
「はい、まあ。僕の分身と同じです、分身を作っている擬似呪いと同じモノで作った人工動物ですから。今は記憶を共有している状態なんですよ」
「まさか、感覚まで分かるなんてことはないよな……?」
「それは流石にないですよ」
「そうか」
…………もし感覚を共有してたら、ヒオゥネの身体に俺のいろんなところが擦り付けられてたって状態になってたのか。胸に鼻ちょんちょんされたし……。ただのウサギでも恥ずかしいんですけど。
「…………待て、何で抱っこさせたんだ、自分で歩けるのに」
それにはウサピョン――コゲテルが答える。
『楽なので』
そう言えばイルエラも抱っこされたがってたな。やっぱり楽を覚えてしまったか。
「ほ、本当に感覚はないんだよな?」
「……はい」
「嘘付いてないよな? 嘘だったら、その、色々と……だから、その、嘘付かれるのは……悲しいって言うか、いや、時には必要な嘘もあるかもしれないけど……」
「…………すみませんでした。嘘です。感覚はあります。呪いで出来た身体を調べられるチャンスだと思って触りました」
急に正直。で、でも結構と言うか、かなりショック受けてるんだよな。そりゃ知り合いに身体を触られまくったのと同じなんだからショック受けるか。
「……まあ、本当は触れたかったから触れただけなんですけど」
「…………え?」
「ヴァントリア様がとても綺麗だったので、つい触れたくなってしまいました」
急速に身体の熱が上がっていく。
「き、きききき、綺麗って何だよ!? 自分で言ってて恥ずかしくないのか!? いや、あ、あれか、呪いなのに作りが良くて綺麗って言うか、モノに対しての綺麗ってことだな!?」
「はあ、僕が美しいと思ったのはヴァントリア様なんですけど。……あんまり他の人に見せないでくださいね。独り占めしたいので」
な、ななな、な、じょ、冗談でも恥ずかしすぎるぞ! 何を考えてるんだお前は!
「ヴァントリア様、貴方は美しいです」
「バカッ!!」
顔を両手で覆って背を向ける。あああああ、くそ、こんなんじゃみんなにバレるぞ! 本人にもバレかねない……。顔が熱い、絶対赤い、こんなの誰にも見せられない。どうしたら……ああああー! ヒオゥネのアホおおおおっ。
「直接触れると怒られると思いまして」
そう言いながら、タオルの中に手を入れてくる。見える見える見える!!
「ダメだダメだダメだダメだ!」
「少し眠ってください」
「へ?」
「僕は今そういう気分じゃないんです。今、僕は怒ってますから」
怒ってると言われてビクリと肩が揺れる。
「俺に怒ってるのか?」
「いいえ。自分に怒っています」
目の上に手を当てられ、徐々に眠気が襲ってくる。
「俺はお前の訳わかんないそう言うところが……」
目の前が真っ暗になり、ヒオゥネに受け止められた感覚だけがした。
「…………」
10
お気に入りに追加
1,928
あなたにおすすめの小説
R18の乙女ゲーに男として転生したら攻略者たちに好かれてしまいました
やの有麻
BL
モブとして生まれた八乙女薫風。高校1年生。
実は前世の記憶がある。それは自分が女で、25の時に嫌がらせで階段から落とされ死亡。そして今に至る。
ここはR18指定の乙女ゲーム『愛は突然に~華やかな学園で愛を育む~』の世界に転生してしまった。
男だし、モブキャラだし、・・・関係ないよね?
それなのに次々と求愛されるのは何故!?
もう一度言います。
私は男です!前世は女だったが今は男です!
独身貴族を希望!静かに平和に暮らしたいので全力で拒否します!
でも拒否しても付きまとわれるのは何故・・・?
※知識もなく自分勝手に書いた物ですので何も考えずに読んで頂けると幸いです。
※高校に入るとR18部分が多くなります。基本、攻めは肉食で強行手段が多いです。ですが相手によってラブ甘?
人それぞれですが感じ方が違うため、無理矢理、レイプだと感じる人もいるかもしれません。苦手な方は回れ右してください!
※閑話休題は全て他視点のお話です。読んでも読まなくても話は繋がりますが、読むとより話が楽しめる内容を記載しております。
エロは☆、過激は注)、題名に付けます。
2017.12.7現在、HOTランク10位になりました。有難うございます。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
【完結】ハードな甘とろ調教でイチャラブ洗脳されたいから悪役貴族にはなりたくないが勇者と戦おうと思う
R-13
BL
甘S令息×流され貴族が織りなす
結構ハードなラブコメディ&痛快逆転劇
2度目の人生、異世界転生。
そこは生前自分が読んでいた物語の世界。
しかし自分の配役は悪役令息で?
それでもめげずに真面目に生きて35歳。
せっかく民に慕われる立派な伯爵になったのに。
気付けば自分が侯爵家三男を監禁して洗脳していると思われかねない状況に!
このままじゃ物語通りになってしまう!
早くこいつを家に帰さないと!
しかし彼は帰るどころか屋敷に居着いてしまって。
「シャルル様は僕に虐められることだけ考えてたら良いんだよ?」
帰るどころか毎晩毎晩誘惑してくる三男。
エロ耐性が無さ過ぎて断るどころかどハマりする伯爵。
逆に毎日甘々に調教されてどんどん大好き洗脳されていく。
このままじゃ真面目に生きているのに、悪役貴族として討伐される運命が待っているが、大好きな三男は渡せないから仕方なく勇者と戦おうと思う。
これはそんな流され系主人公が運命と戦う物語。
「アルフィ、ずっとここに居てくれ」
「うん!そんなこと言ってくれると凄く嬉しいけど、出来たら2人きりで言って欲しかったし酒の勢いで言われるのも癪だしそもそも急だし昨日までと言ってること真逆だしそもそもなんでちょっと泣きそうなのかわかんないし手握ってなくても逃げないしてかもう泣いてるし怖いんだけど大丈夫?」
媚薬、緊縛、露出、催眠、時間停止などなど。
徐々に怪しげな薬や、秘密な魔道具、エロいことに特化した魔法なども出てきます。基本的に激しく痛みを伴うプレイはなく、快楽系の甘やかし調教や、羞恥系のプレイがメインです。
全8章128話、11月27日に完結します。
なおエロ描写がある話には♡を付けています。
※ややハードな内容のプレイもございます。誤って見てしまった方は、すぐに1〜2杯の牛乳または水、あるいは生卵を飲んで、かかりつけ医にご相談する前に落ち着いて下さい。
感想やご指摘、叱咤激励、有給休暇等貰えると嬉しいです!ノシ
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
転生したらBLゲーの負け犬ライバルでしたが現代社会に疲れ果てた陰キャオタクの俺はこの際男相手でもいいからとにかくチヤホヤされたいっ!
スイセイ
BL
夜勤バイト明けに倒れ込んだベッドの上で、スマホ片手に過労死した俺こと煤ヶ谷鍮太郎は、気がつけばきらびやかな七人の騎士サマたちが居並ぶ広間で立ちすくんでいた。
どうやらここは、死ぬ直前にコラボ報酬目当てでダウンロードしたBL恋愛ソーシャルゲーム『宝石の騎士と七つの耀燈(ランプ)』の世界のようだ。俺の立ち位置はどうやら主人公に対する悪役ライバル、しかも不人気ゆえ途中でフェードアウトするキャラらしい。
だが、俺は知ってしまった。最初のチュートリアルバトルにて、イケメンに守られチヤホヤされて、優しい言葉をかけてもらえる喜びを。
こんなやさしい世界を目の前にして、前世みたいに隅っこで丸まってるだけのダンゴムシとして生きてくなんてできっこない。過去の陰縁焼き捨てて、コンプラ無視のキラキラ王子を傍らに、同じく転生者の廃課金主人公とバチバチしつつ、俺は俺だけが全力でチヤホヤされる世界を目指す!
※頭の悪いギャグ・ソシャゲあるあると・メタネタ多めです。
※逆ハー要素もありますがカップリングは固定です。
※R18は最後にあります。
※愛され→嫌われ→愛されの要素がちょっとだけ入ります。
※表紙の背景は祭屋暦様よりお借りしております。
https://www.pixiv.net/artworks/54224680
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします。……やっぱり狙われちゃう感じ?
み馬
BL
※ 完結しました。お読みくださった方々、誠にありがとうございました!
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、とある加護を受けた8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 独自設定、造語、下ネタあり。出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
甥っ子と異世界に召喚された俺、元の世界へ戻るために奮闘してたら何故か王子に捕らわれました?
秋野 なずな
BL
ある日突然、甥っ子の蒼葉と異世界に召喚されてしまった冬斗。
蒼葉は精霊の愛し子であり、精霊を回復できる力があると告げられその力でこの国を助けて欲しいと頼まれる。しかし同時に役目を終えても元の世界には帰すことが出来ないと言われてしまう。
絶対に帰れる方法はあるはずだと協力を断り、せめて蒼葉だけでも元の世界に帰すための方法を探して孤軍奮闘するも、誰が敵で誰が味方かも分からない見知らぬ地で、1人の限界を感じていたときその手は差し出された
「僕と手を組まない?」
その手をとったことがすべての始まり。
気づいた頃にはもう、その手を離すことが出来なくなっていた。
王子×大学生
―――――――――
※男性も妊娠できる世界となっています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる