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第十章

224話 ご丁寧に

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 変な声出ただろ! やめろもうちゅーはしたくない!
 サイオンに吸い付かれた後、今度はディスゲルがごくりと喉を鳴らし、顔を近づけてくる。
 え、うそ、本気?
 相当ヴァントリアとキスするのが嫌なのか――ならしようとするな――目が血走っている気がする。ディスゲルの長い睫毛が下におり、唇の上に、ちょん、と何かが触れた。
 俺はもう真っ白のもぬけの殻に成り果てている。
 え、何これ、何なのこれ。

「うわ……サイオン兄さんごめんなさい、これは……クセになるな」
「だろ?」
「え、あの、二人とも怖いんだけど……」

 サイオンにキスされそうになり拒絶し反対側を向くと、嫌そうに顔を歪めたディスゲルにキスされそうになり拒絶し反対側を向く。これをずっと交互に繰り返し、「いやああああああ!」と叫びたくなるのは仕方がない。
 もうどっちが先だとか分からなくなったのか両方顔を近づけてくる。綺麗な顔してるな二人とも、もう見せ付けないで。分かったから、もう甘やかしてなんて言わないから。
 目を瞑って唇を僅かに尖らせる、俺はそれに手を伸ばして、互いの顔を寄せ、唇同士をくっ付ける。
 唇が重なれば、サイオンはめちゃめちゃ吸い付いていき、ディスゲルは顔を曇らせる。やがてサイオンも顔を曇らせる。
 うわー、男同士のキスって傍から見たらこんなのなのかー。サイオン吸い付きすごいの分かるし。
 そう、俺はサイオンとディスゲルの顔を近付けさせ、キスをさせたのだ。ざまあみろ!
 先に動いたのはディスゲルだった。彼の顎が少し動いて、唇に隙間が空く。

「…………」

 赤いものをサイオンの唇が飲み込んでいく。

「…………」

 唖然と見つめることしか出来ない。
 吸い上げられるディスゲル兄様の舌、ビクビクと震える身体。角度を変えては互いに唇を重ね、舌を絡ませていく。

「…………」

 ど、どうしよう、止められなくなってきたぞ。オ、オイ、それを俺にしようとしていたのか、なあ、返事して、もう気が付いて。目を開けて。お願い。
 溢れる唾液を互いに舐めては吸い上げ交換する二人を見て、男同士でも美形同士のキスを見るのは別に変な気しないなーと思ってくる。最初はあれだったし面白かったけど、こんな色気ムンムンでお互い気持ち良さそうにキスしてるんだからいいのかも知れない。うん。きっと怒ったりしないよな。ウォルズになりきるとしたら、気持ちよくなってクセになってお互いにキスし合うようになってそれ以上のこともしだして止められなくなってえっちして結ばれるんだよな。
 恋のキューピットになった気分だ!
 しかし、そんな時だった。やはり先に動いたのはディスゲルだった。

「はぁ……ヴァントリア、もうよせ……サイオン兄様も見てるし……」
「は?」

 むちゅっとお互いの唇が離れて、サイオンが目を見開いて固まる。濡れたディスゲルの唇を見て青ざめた。そして俺を見る。
 俺はと言うと口を両手で押さえて眺めていた姿勢である。

「…………」

 サイオンは俺とディスゲルを交互に見て、口を押さえた。ピアノのギャーンって音が聞こえた気がしたぞ。

「ヴァントリア……もう少し甘えても……」

 流石に遅いと思ったのか、やっとこさ目を開けるディスゲル兄様。口を押さえて青ざめる近くにある顔を見てから、俺を見て、やがて交互に眺めて、口を押さえてピアノを鳴らす。

「いやー凄いもん見た」
「柔らかくないと思ったんだ……それで柔らかさに慣れてきたのかなって思って」

 なれるんだ柔らかさって、へえー。

「最悪だ……最悪過ぎるヴァントリアだと思っていたのに」
「いやアレを俺にしてたと思ってたってどういう事なの、怖いんだけど」
「貴殿が「オマエが「「可愛いのが悪いッ!!」」
「意味分かんない……」
「口直しだ」
「え」

 サイオンの唇がちゅうっとくっ付いてきてゾッとする。

「んんんん!?」
「あ! ずりい!」

 ずりい! じゃねえよ!
 ヌルッとしたモノが口の上を這う。絶対それだけは阻止してやる! ディスゲルよくもサイオンにベロチューの仕方を教えたな!
 しかし唇は呆気なく侵入を許してしまった。

「ん……ふぅ、あ、ふぁ」

 な、なんだこれ……! ルーハンより上手い! お前さては女の子とっかえひっかえしてたな! ディスゲルがビクビクする意味が分かったぞ。ベロチューのことは知っていたのかお前!

「ふ、ふ……ふぅ、や、やめ」
「……ヴァントリア。いいぞ、気持ち悪い……可愛い」
「か、かんべんしてくれ……もういいだろ」
「だめだ……」

 サイオンの顔が近づいてきて、ギュッと口も目も閉じれば。

「いい加減にしろ、次はオレの番だろう!」

 と言う声が聞こえて、ちゅっと口に湿った感触が乗る。
 うう……ヒオゥネ、ヒオゥネ……ヒオゥネ助けてぇ。
 再び呆気なく陥落した唇の中に舌がやってくる。

「はぁ、はぅ……ふぇ」

 ヒオゥネ、ヒオゥネ。
 ヒオゥネがいい、ヒオゥネじゃなきゃ嫌だ。嫌だ……ヒオゥネ、ヒオゥネ。

「ふえ、ぇ……」
「ん……ヴァ、ヴァントリア?」

 恥ずかしいくらいに情けない涙が溢れてきて、やっとこさしつこいキスが止められる。

「わ、悪かった。軽い冗談だったんだ泣くなよ!」
「うう……最悪だ、最悪だ……兄様達に口の中レイプされたぁああ」
「レイプって……ご、ごめんな。ヴァントリア、ほんと、……何してんだ俺は」
「ディスゲルはともかく余はレイプなんかしていない」
「俺の中ぐちゃぐちゃに掻き回したくせに!」
「うわ、レイプだわ、それレイプだわ」
「ディスゲルうううう」
「ひい! ごめんサイオン兄さんごめんって!」

 サイオンの右手首を取って、捲れば、腕時計のようなシルエットの機械が出てくる。それについたボタンをピッと押す。
 実はこの機械、戦闘シーンになると良く出てくるのだ。やっと敵を倒したと思えば、ストーリーシーンが来て、生きていた敵がこれを使って通信魔法陣を出し、『侵入者だ、増援を……』と連絡し、敵がうじゃうじゃやって来る。

「……お前何して……」

 そして攻略本にはご丁寧にこの機械の機能について説明されているページもある。今俺が押したボタンは、階級が高いものなら王様――つまりシストに直通できる仕組みになっていた。

『はい』

 ディスゲルとサイオンは黙って眺めている。何をしているんだ、と言う目で。

『サイオン? まさかさっきの話か? それなら断――』
「シストぉっ……!」

 泣きながらサイオンの手を引き寄せる。

『ヴァントリア? ……泣いているのか?』

 サッと、ディスゲルとサイオンの顔が青ざめた。

「兄様達が俺の口の中レイプし――」
「わー! わあああああ! わあああああ!」

 ディスゲル兄様に口を抑えられる。

「ヴァントリア貴様ああ! ちょっとベロベロされたくらいでレイプなどと! シスト、余はレイプなんかしていないからなッ!!」
「ぎゃあああああああっなんでもない、なんでもないってば!」
『レ、イプ……? ベロベロ? サイオン……? どういう事かな?』
「レイプじゃない! ちょっとキスしてやったくらいで泣き出しやがって! な! シスト!」
「余計なこと言うなああ!」

 ディスゲルが俺から手を離し、サイオンの口を塞ぎに行く。

「二人が俺にベロチューしてきて……ふええシストお兄様助けてぇ」
『……ヴァントリア、待ってろ、すぐ行く!』
「「来るな仕事しろッ!!」」
『サイオン、ディスゲル、話なら後で聞くから黙っててくれないかな?』

 サイオンとディスゲルは固まって動かなくなった。

「シスト、俺、俺嫌だって言ったのに……抵抗出来なくて二人が交互にキスしてきてぇえ……」
『ああ、俺が後で叱っておくから、もう泣くな』
「口直し、口直ししたい」
『え』
「口の中が気持ち悪い……」
『す、すぐ行く』
「「だから仕事しろッ!!」」

 ヒオゥネに消毒して欲しい。……って何を考えてるんだ俺は!

「く、口は注ぐから大丈夫! なんでもないんだ!」
『だ、だが……』
「メルカデォ廃止して!」
『は?』

 そ、そうだ、俺の目的はこれなんだ! キスのこととかヒオゥネのこととかはもう置いておくんだ! 今は急いでるんだから!

「シスト、お願い、俺王宮に戻るでも何でもするから、シストの言うことなんでも聞くから、主従契約なんかしなくても大人しく言うこと聞くから!」
『…………何でも?』
「メルカデォ廃止して、ついでに奴隷制度と実験もやめてそんでもって強姦魔と人攫いと奴隷商人とっ捕まえて、あ、あと売人も! 麻薬はもちろんだけど武器も売られてるから、それを止める手伝いして!」
『図々しいな貴様』

 そうだ、俺に力がないのなら、力を持っている人を味方にして、力にすることだってできるんだ。もちろん俺も強くなるけど、味方になってくれたら、すごく心強いし、何よりもっと多くの人を救える!

「シスト……俺、シストのことが好きだった」
『…………』
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