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第十章
222話 キモカワ!?
しおりを挟む「通信が切られたな」
「失敗か、サイオン兄さんがいても説得できないとはな」
……わかったよ。お前らが助けないなら、俺が助けてやる。
「……まずは皆で魔法石をたくさん集めて、許容量をいつも以上に増やしてもらって……」
「ヴァントリア?」
クソ、くそ、なんで。ヒオゥネ……何で。なんでお前なんだ。
「……ヒオゥネ」
「ヴァントリア……」
だから認められないんだ。悪い奴だって分かってたから、なのに、なのに……お前があの時、助けたりするから。
……誰もしてくれなかった、助けを呼んでも来てくれなかった。逃げようとしたけれど、撃退しようとしたけれど、捕まえられ、縛られ、気が狂いそうな罰を受けた。助けてと何度も言ったけれど、シストでさえも、助けてくれなかった。シストは光だった、オレの憧れだった、なのに、光は離れていった、俺を照らしてはくれなかった。
助けて。寒い。凍る、固まる。壊れる。
闇の中に引きずり込まれるような感覚がする。いつも誰かに見張られている気がする。どこにも行かないように、全てを受け止めろと言わんばかりに、俺に憎しみと悲しみと痛みを受けろと目で訴えてくる。助けてくれと訴えてくる。助けて。助けてと。
……寒い、誰か、誰か。助けて。
呼んだって、誰も来てくれない、分かっていたことだ。俺はこの世界で一人ぼっちなんだから。
助けて。……誰も助けになんかきやしない。俺は、汚れているんだから。弱者に手を差し伸べてくれる人なんて、いやしないんだ。選ばれるのは特別な人達だけ。その他は誰も助けてくれはしない。
真っ暗闇の部屋の中、冷たい腕に抱かれた中に、光が射し込んできた。
それは熱くて、熱くて、凍り付いている胸を溶かしてくれるように、あたたかくて。嫌いだと言っているのに、離れてはくれなかった。それどころか、近付いてくるばかりだ。胸にすりよれば、背中に手を回してくれた。助けに来たと、言ってくれた。
……ヒオゥネは、助けてくれたんだ。助けに来てくれたんだ。
優しく抱きしめてくれた、恋愛感情でなくても、好きだって言ってくれた。
ダメだ、……ダメだってわかってるのに、気持ちが抑えられない。俺は、ヒオゥネが特別だ。ヒオゥネを、好きになっちゃいけないなんて、あんまりだ。
「俺は絶対に止める! 止めてみせる! ディスゲル兄様、サイオン兄様! 手伝ってくれ!」
「手伝うって、一体何をする気だ?」
「全員逃がす!!」
「はあああ!?」
「そ、そんなこと出来るわけ……!」
「するんだ!! 仲間のところに行ってくる、そんでシストはクソだったって言ってくる!」
「ちょ、ヴァントリア!」
腕を掴まれる、しかしそれはディスゲルではなく、サイオンだった。
「さ、サイオン?」
「ヴァントリア、貴殿は気持ち悪い」
「な、何だよ! もう分かったからいいよ! その話は!」
「可愛いと言わせるのではなかったのか?」
「今はそれどころじゃ……」
「作戦もなしに仲間を巻き込むな。貴殿の無茶で仲間が死んでもいいのか?」
「そんなこと、させない……」
「貴殿に守れる力があるのか? そのヒオゥネと言う男を止められるだけの力が」
「……力は手に入れてみせる! 強くなるって決めたんだ!」
「力を手に入れる方法はそれだけじゃない。力のある者を味方につけろ。ヴァントリア」
「どういう意味だ?」
「もう一度チャンスをやる。余に可愛いと言わせてみろ」
「…………つまり、お前に可愛いって言わせれば、味方になってくれるってことか?」
「可愛いと思わせろ」
「ど、どうやればそう思ってくれるんだ」
「まずは全ての人を救うなんてバカバカしい考え方を捨てろ」
「そ、そんなこと考えてない、目の前にいる苦しんでる人を救いたいって思ってるだけだ。そんなの出来っこないって分かってるから、出来ることから――」
「それもやめろ。」
「な、何を言って」
「見捨てろ」
「……みす、てる?」
「貴殿は異常者だ。普通は、名前も知らない他人を救うに気になどなれぬ」
「……異常、者?」
おかしいってことか? 俺が?
「サイオン、ヴァントリアは優しいだけだ、異常者なんて言い方はあんまりだ」
「誰かを思って泣く人は大勢いる、それは優しいと言う奴だ。だがこいつは違う、助けたがってるんだ」
「それのどこが異常者なんだ」
「よく考えてみろ、この世界でそんな人間は稀だ。普通は自分のことしか考えて生きない、もし誰かのことを思うならそれは家族や友人だ。だがこいつは他人を救おうとする、どんな人でもだ。薄気味悪い。そのヒオゥネという男を止めて、貴殿はそいつをどうするつもりだ? 殺すのか?」
「そ、そんなことしない!」
「たくさんの人を殺してきた男だぞ?」
「俺だって、たくさん、苦しめてきたんだ! それに助けられなかった俺達もその人達を殺してきたみたいなものだ、だから、一緒に償っていくんだ!」
「気持ち悪い」
「な、何で……」
「分かっただろうディスゲル。こいつは、他人のために助けたいんじゃない。自分のために助けたいんだ」
「へ……?」
「それで許されると思っているのか? 家族を殺された人達が、その男を許すと思うか?」
「そ、それは……」
だって、例え悪いことをしてきた人でも、殺すなんて……俺には出来ない。なんて情けないんだろう。被害を受けた人達のことを思えば、それが一番の償いになるんだろう。同じ目にあってほしいと、思っていることだろう。
でも、それじゃ、ダメなんだ。憎んでいる相手が、死ぬことによって得る幸せなんて……そんなの、与えたくないし、悲しい。
いや、違う。違うんだ。確かにそうとも考えているけれど、そうじゃなくて。
ヒオゥネに、死んでほしくないと思ってるのが一番大きいのかもしれない。
「自分の前で人が死ぬのが怖いんだろう?」
「…………それの何がいけないんだ」
サイオンはそれを聞いてピクッと眉を動かす。
「他の人と違っててもいい! 俺は誰かが苦しむのは見たくないんだッ!! 死んでいく姿も見たくないんだ……っ、助けられた筈の命を助けられないのは嫌なんだッ!!」
「ヴァントリア」
「俺の為に決まってるだろ、俺が悲しいと思うから助けるんだ、助けたいと思うから助けるんだッ!! 助けてと呼んでいるから助けに行くんだッ!!」
「貴殿は気持ち悪いな、ヴァントリア」
「誰も助けちゃダメになるくらいなら気持ち悪くていいっ」
キッと睨み付ければ、相手は意地が悪そうに笑う。こういう所はシストにそっくりだ。
「お前の力なんて借りな――え?」
サイオンは近付いてくるなり、顔を近づけて来て。長いまつ毛がすぐそこまで迫る。唇に、ちょん、と柔らかい何かが触れてきて――とたん。
「ぎゃあああああああ!?」
「ブッ!!」
それが完全にくっつく前に俺は反射的にサイオンのほっぺたを思いっきりぶっ叩く。相手から離れてすぐに口を拭えば、サイオンがこっちを見そうな気配がしたのでディスゲル兄様の後ろに隠れた。
「な、何なんだよさっきから!! 気持ち悪いっ!」
「せっかく可愛いと思ってやったのに」
「はあ!?」
「そう言えばシストにもキスしようとして拒まれてるよな」
「え、サイオンの甘やかすってキスするってこと? え、普通に嫌なんだけど」
嫌われたら虐められて好かれたらキスされるなんて、中間はないのかよ! そんなの無理ゲーじゃん!
「貴殿は綺麗すぎると思っていた……」
サイオンは近づいてきてほっぺたを撫でてくる。何なんだ、調子狂うな、やめろ。ディスゲル兄様も急な変貌に戸惑っているようだ。
「さ、サイオン兄さん? ヴァントリアが綺麗って……」
「だから気持ち悪いんだ。自分の欲望のために行動しようとする。なんて傲慢で醜悪で汚らわしい」
「酷くない?」
「バカな奴だ」
やっぱりソコに至るのか、なんでだ!
サイオンの顔が近付いてくる。逃げようとしたが腰を捕まえられて逃げられないし、手で引っ張たこうとしたが今度は手首を掴まれて止められてしまった。もう一方の手で抵抗を試みるがそれさえも捕まえられてしまう。
ディスゲル兄様は唖然と眺めるだけだ。助けろよ!?
「気持ち悪さは前のままだが、それすらも可愛く見えてきたぞヴァントリア」
「ひ、ひぃっ」
「余のキモ可愛い弟……」
「キモカワ!?」
ジリジリと壁まで追い詰められて、逃げ場がなくなってしまう。お、俺は、何度これを体験すれば耐性が持てるんだ! どうにか逃げ出す手段を考えなければ!
サイオンは顔を近づけてきて、ちゅっと額にキスをしてくる。な、なんだよ、額なら先に言えよ。逃げる意味なかったじゃん。
しかし。
「あ、あの、サイオン?」
サイオンは額だけでは飽き足らず、頬や目尻、顎に鼻先など、顔中にキスをしてくる。
「や、やめて! トラウマになる! やだやだ!!」
「ふふ、今更だな。トラウマなんて慣れてるんだろう?」
「トラウマに慣れて溜まるか!」
今まで軌道が逸れていたそれがまっすぐこちらへ向かってくる。
「や、やだ、やめろ……」
な、なんで、なんでなんで、なんで!?
「んんんんんんんん!!」
サイオンのまつ毛がふれあいそうなほど近くによって、鼻先が擦れて唇がくっ付いてくる。ちゅうちゅうと吸いつかれて寒気が足の爪先から頭のてっぺんまで何度も上がってくる。
「ん、んん……んぅ」
唇だけを吸うようなそのキスはずっと続く。長い!
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