225 / 293
第十章
222話 キモカワ!?
しおりを挟む「通信が切られたな」
「失敗か、サイオン兄さんがいても説得できないとはな」
……わかったよ。お前らが助けないなら、俺が助けてやる。
「……まずは皆で魔法石をたくさん集めて、許容量をいつも以上に増やしてもらって……」
「ヴァントリア?」
クソ、くそ、なんで。ヒオゥネ……何で。なんでお前なんだ。
「……ヒオゥネ」
「ヴァントリア……」
だから認められないんだ。悪い奴だって分かってたから、なのに、なのに……お前があの時、助けたりするから。
……誰もしてくれなかった、助けを呼んでも来てくれなかった。逃げようとしたけれど、撃退しようとしたけれど、捕まえられ、縛られ、気が狂いそうな罰を受けた。助けてと何度も言ったけれど、シストでさえも、助けてくれなかった。シストは光だった、オレの憧れだった、なのに、光は離れていった、俺を照らしてはくれなかった。
助けて。寒い。凍る、固まる。壊れる。
闇の中に引きずり込まれるような感覚がする。いつも誰かに見張られている気がする。どこにも行かないように、全てを受け止めろと言わんばかりに、俺に憎しみと悲しみと痛みを受けろと目で訴えてくる。助けてくれと訴えてくる。助けて。助けてと。
……寒い、誰か、誰か。助けて。
呼んだって、誰も来てくれない、分かっていたことだ。俺はこの世界で一人ぼっちなんだから。
助けて。……誰も助けになんかきやしない。俺は、汚れているんだから。弱者に手を差し伸べてくれる人なんて、いやしないんだ。選ばれるのは特別な人達だけ。その他は誰も助けてくれはしない。
真っ暗闇の部屋の中、冷たい腕に抱かれた中に、光が射し込んできた。
それは熱くて、熱くて、凍り付いている胸を溶かしてくれるように、あたたかくて。嫌いだと言っているのに、離れてはくれなかった。それどころか、近付いてくるばかりだ。胸にすりよれば、背中に手を回してくれた。助けに来たと、言ってくれた。
……ヒオゥネは、助けてくれたんだ。助けに来てくれたんだ。
優しく抱きしめてくれた、恋愛感情でなくても、好きだって言ってくれた。
ダメだ、……ダメだってわかってるのに、気持ちが抑えられない。俺は、ヒオゥネが特別だ。ヒオゥネを、好きになっちゃいけないなんて、あんまりだ。
「俺は絶対に止める! 止めてみせる! ディスゲル兄様、サイオン兄様! 手伝ってくれ!」
「手伝うって、一体何をする気だ?」
「全員逃がす!!」
「はあああ!?」
「そ、そんなこと出来るわけ……!」
「するんだ!! 仲間のところに行ってくる、そんでシストはクソだったって言ってくる!」
「ちょ、ヴァントリア!」
腕を掴まれる、しかしそれはディスゲルではなく、サイオンだった。
「さ、サイオン?」
「ヴァントリア、貴殿は気持ち悪い」
「な、何だよ! もう分かったからいいよ! その話は!」
「可愛いと言わせるのではなかったのか?」
「今はそれどころじゃ……」
「作戦もなしに仲間を巻き込むな。貴殿の無茶で仲間が死んでもいいのか?」
「そんなこと、させない……」
「貴殿に守れる力があるのか? そのヒオゥネと言う男を止められるだけの力が」
「……力は手に入れてみせる! 強くなるって決めたんだ!」
「力を手に入れる方法はそれだけじゃない。力のある者を味方につけろ。ヴァントリア」
「どういう意味だ?」
「もう一度チャンスをやる。余に可愛いと言わせてみろ」
「…………つまり、お前に可愛いって言わせれば、味方になってくれるってことか?」
「可愛いと思わせろ」
「ど、どうやればそう思ってくれるんだ」
「まずは全ての人を救うなんてバカバカしい考え方を捨てろ」
「そ、そんなこと考えてない、目の前にいる苦しんでる人を救いたいって思ってるだけだ。そんなの出来っこないって分かってるから、出来ることから――」
「それもやめろ。」
「な、何を言って」
「見捨てろ」
「……みす、てる?」
「貴殿は異常者だ。普通は、名前も知らない他人を救うに気になどなれぬ」
「……異常、者?」
おかしいってことか? 俺が?
「サイオン、ヴァントリアは優しいだけだ、異常者なんて言い方はあんまりだ」
「誰かを思って泣く人は大勢いる、それは優しいと言う奴だ。だがこいつは違う、助けたがってるんだ」
「それのどこが異常者なんだ」
「よく考えてみろ、この世界でそんな人間は稀だ。普通は自分のことしか考えて生きない、もし誰かのことを思うならそれは家族や友人だ。だがこいつは他人を救おうとする、どんな人でもだ。薄気味悪い。そのヒオゥネという男を止めて、貴殿はそいつをどうするつもりだ? 殺すのか?」
「そ、そんなことしない!」
「たくさんの人を殺してきた男だぞ?」
「俺だって、たくさん、苦しめてきたんだ! それに助けられなかった俺達もその人達を殺してきたみたいなものだ、だから、一緒に償っていくんだ!」
「気持ち悪い」
「な、何で……」
「分かっただろうディスゲル。こいつは、他人のために助けたいんじゃない。自分のために助けたいんだ」
「へ……?」
「それで許されると思っているのか? 家族を殺された人達が、その男を許すと思うか?」
「そ、それは……」
だって、例え悪いことをしてきた人でも、殺すなんて……俺には出来ない。なんて情けないんだろう。被害を受けた人達のことを思えば、それが一番の償いになるんだろう。同じ目にあってほしいと、思っていることだろう。
でも、それじゃ、ダメなんだ。憎んでいる相手が、死ぬことによって得る幸せなんて……そんなの、与えたくないし、悲しい。
いや、違う。違うんだ。確かにそうとも考えているけれど、そうじゃなくて。
ヒオゥネに、死んでほしくないと思ってるのが一番大きいのかもしれない。
「自分の前で人が死ぬのが怖いんだろう?」
「…………それの何がいけないんだ」
サイオンはそれを聞いてピクッと眉を動かす。
「他の人と違っててもいい! 俺は誰かが苦しむのは見たくないんだッ!! 死んでいく姿も見たくないんだ……っ、助けられた筈の命を助けられないのは嫌なんだッ!!」
「ヴァントリア」
「俺の為に決まってるだろ、俺が悲しいと思うから助けるんだ、助けたいと思うから助けるんだッ!! 助けてと呼んでいるから助けに行くんだッ!!」
「貴殿は気持ち悪いな、ヴァントリア」
「誰も助けちゃダメになるくらいなら気持ち悪くていいっ」
キッと睨み付ければ、相手は意地が悪そうに笑う。こういう所はシストにそっくりだ。
「お前の力なんて借りな――え?」
サイオンは近付いてくるなり、顔を近づけて来て。長いまつ毛がすぐそこまで迫る。唇に、ちょん、と柔らかい何かが触れてきて――とたん。
「ぎゃあああああああ!?」
「ブッ!!」
それが完全にくっつく前に俺は反射的にサイオンのほっぺたを思いっきりぶっ叩く。相手から離れてすぐに口を拭えば、サイオンがこっちを見そうな気配がしたのでディスゲル兄様の後ろに隠れた。
「な、何なんだよさっきから!! 気持ち悪いっ!」
「せっかく可愛いと思ってやったのに」
「はあ!?」
「そう言えばシストにもキスしようとして拒まれてるよな」
「え、サイオンの甘やかすってキスするってこと? え、普通に嫌なんだけど」
嫌われたら虐められて好かれたらキスされるなんて、中間はないのかよ! そんなの無理ゲーじゃん!
「貴殿は綺麗すぎると思っていた……」
サイオンは近づいてきてほっぺたを撫でてくる。何なんだ、調子狂うな、やめろ。ディスゲル兄様も急な変貌に戸惑っているようだ。
「さ、サイオン兄さん? ヴァントリアが綺麗って……」
「だから気持ち悪いんだ。自分の欲望のために行動しようとする。なんて傲慢で醜悪で汚らわしい」
「酷くない?」
「バカな奴だ」
やっぱりソコに至るのか、なんでだ!
サイオンの顔が近付いてくる。逃げようとしたが腰を捕まえられて逃げられないし、手で引っ張たこうとしたが今度は手首を掴まれて止められてしまった。もう一方の手で抵抗を試みるがそれさえも捕まえられてしまう。
ディスゲル兄様は唖然と眺めるだけだ。助けろよ!?
「気持ち悪さは前のままだが、それすらも可愛く見えてきたぞヴァントリア」
「ひ、ひぃっ」
「余のキモ可愛い弟……」
「キモカワ!?」
ジリジリと壁まで追い詰められて、逃げ場がなくなってしまう。お、俺は、何度これを体験すれば耐性が持てるんだ! どうにか逃げ出す手段を考えなければ!
サイオンは顔を近づけてきて、ちゅっと額にキスをしてくる。な、なんだよ、額なら先に言えよ。逃げる意味なかったじゃん。
しかし。
「あ、あの、サイオン?」
サイオンは額だけでは飽き足らず、頬や目尻、顎に鼻先など、顔中にキスをしてくる。
「や、やめて! トラウマになる! やだやだ!!」
「ふふ、今更だな。トラウマなんて慣れてるんだろう?」
「トラウマに慣れて溜まるか!」
今まで軌道が逸れていたそれがまっすぐこちらへ向かってくる。
「や、やだ、やめろ……」
な、なんで、なんでなんで、なんで!?
「んんんんんんんん!!」
サイオンのまつ毛がふれあいそうなほど近くによって、鼻先が擦れて唇がくっ付いてくる。ちゅうちゅうと吸いつかれて寒気が足の爪先から頭のてっぺんまで何度も上がってくる。
「ん、んん……んぅ」
唇だけを吸うようなそのキスはずっと続く。長い!
11
LINEスタンプ https://store.line.me/stickershop/product/16955444/ja
お気に入りに追加
1,984
あなたにおすすめの小説
国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!
古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます!
7/15よりレンタル切り替えとなります。
紙書籍版もよろしくお願いします!
妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。
成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた!
これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。
「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」
「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」
「んもおおおっ!」
どうなる、俺の一人暮らし!
いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど!
※読み直しナッシング書き溜め。
※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。
転生先のぽっちゃり王子はただいま謹慎中につき各位ご配慮ねがいます!
梅村香子
BL
バカ王子の名をほしいままにしていたロベルティア王国のぽっちゃり王子テオドール。
あまりのわがままぶりに父王にとうとう激怒され、城の裏手にある館で謹慎していたある日。
突然、全く違う世界の日本人の記憶が自身の中に現れてしまった。
何が何だか分からないけど、どうやらそれは前世の自分の記憶のようで……?
人格も二人分が混ざり合い、不思議な現象に戸惑うも、一つだけ確かなことがある。
僕って最低最悪な王子じゃん!?
このままだと、破滅的未来しか残ってないし!
心を入れ替えてダイエットに勉強にと忙しい王子に、何やらきな臭い陰謀の影が見えはじめ――!?
これはもう、謹慎前にののしりまくって拒絶した専属護衛騎士に守ってもらうしかないじゃない!?
前世の記憶がよみがえった横暴王子の危機一髪な人生やりなおしストーリー!
騎士×王子の王道カップリングでお送りします。
第9回BL小説大賞の奨励賞をいただきました。
本当にありがとうございます!!
※本作に20歳未満の飲酒シーンが含まれます。作中の世界では飲酒可能年齢であるという設定で描写しております。実際の20歳未満による飲酒を推奨・容認する意図は全くありません。
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

当て馬的ライバル役がメインヒーローに喰われる話
屑籠
BL
サルヴァラ王国の公爵家に生まれたギルバート・ロードウィーグ。
彼は、物語のそう、悪役というか、小悪党のような性格をしている。
そんな彼と、彼を溺愛する、物語のヒーローみたいにキラキラ輝いている平民、アルベルト・グラーツのお話。
さらっと読めるようなそんな感じの短編です。

聖女の力を搾取される偽物の侯爵令息は本物でした。隠された王子と僕は幸せになります!もうお父様なんて知りません!
竜鳴躍
BL
密かに匿われていた王子×偽物として迫害され『聖女』の力を搾取されてきた侯爵令息。
侯爵令息リリー=ホワイトは、真っ白な髪と白い肌、赤い目の美しい天使のような少年で、類まれなる癒しの力を持っている。温和な父と厳しくも優しい女侯爵の母、そして母が養子にと引き取ってきた凛々しい少年、チャーリーと4人で幸せに暮らしていた。
母が亡くなるまでは。
母が亡くなると、父は二人を血の繋がらない子として閉じ込め、使用人のように扱い始めた。
すぐに父の愛人が後妻となり娘を連れて現れ、我が物顔に侯爵家で暮らし始め、リリーの力を娘の力と偽って娘は王子の婚約者に登り詰める。
実は隣国の王子だったチャーリーを助けるために侯爵家に忍び込んでいた騎士に助けられ、二人は家から逃げて隣国へ…。
2人の幸せの始まりであり、侯爵家にいた者たちの破滅の始まりだった。

BLゲームのモブに転生したので壁になろうと思います
雪
BL
前世の記憶を持ったまま異世界に転生!
しかも転生先が前世で死ぬ直前に買ったBLゲームの世界で....!?
モブだったので安心して壁になろうとしたのだが....?
ゆっくり更新です。
婚約破棄された俺の農業異世界生活
深山恐竜
BL
「もう一度婚約してくれ」
冤罪で婚約破棄された俺の中身は、異世界転生した農学専攻の大学生!
庶民になって好きなだけ農業に勤しんでいたら、いつの間にか「畑の賢者」と呼ばれていた。
そこに皇子からの迎えが来て復縁を求められる。
皇子の魔の手から逃げ回ってると、幼馴染みの神官が‥。
(ムーンライトノベルズ様、fujossy様にも掲載中)
(第四回fujossy小説大賞エントリー中)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる