転生したら嫌われ者No.01のザコキャラだった 〜引き篭もりニートは落ちぶれ王族に転生しました〜

隍沸喰(隍沸かゆ)

文字の大きさ
上 下
224 / 293
第十章

221話 頼む相手

しおりを挟む

 あいつ相手だと思って、勇気を振り絞る。

「だ、だから、その、だから……さ、触って、欲しい……っ言うか、だから、だ、抱き、抱きしめて欲しいって言うか、て、手を繋ぐだけでもいいけど……キ、キスもいっぱい……い、いやなんでもない!」
「それって誰を参考にした演技?」
「う、うるさいな……う、うぐ、と、とにかく……その、だから、……俺、お前の体温が好きなんだ、安心するって言うか……だから、あの、……あっためて欲しい……な、なんて」
「…………オマエってほんと色んなやつから好かれてるんだな?」

 ニヤニヤしてそんなことを言うディスゲル。

「え!? いや今のは俺を参考に……って参考とは言わないのかこの場合……?」
「ん? つまりどういうことだ?」
「だから、俺が甘えた時、相手になんて言うか……考えて言ったんだよ」
「ふうん、相手は誰を想像したんだ?」
「へ!? あ、いや、別に誰とかはなく……」
『…………』
「それにしてはガチっぽかったけど? 体温ねぇ、もしかして……シスト?」
『ガタッ』
「ヴァントリアああ……」
「はあ? なんでシストなんだよありえないだろ」
『……カタン』

 何でディスゲル兄様は腹抱えて笑ってんだよ。

「も、もういいだろこの話は! そもそも好きな人に甘えるってのとは違うんだ、兄貴に甘えるんだから別物だ!」
『ドターンッ』
「えっ、好きな人!? 今好きな人って言ったよな!?」

 え。

「す、好きかどうかはわかんないけど! って言うかあんな奴好きじゃない! 絶対! まず好きになれないし好きになっちゃいけないし好きってそもそもなんだよああもう! もういいって!」
「オマエ顔真っ赤だぞ自分で分かってるか?」
「ウラティカ様のことではなさそうだな。……しかし婚約者がいる身で好きになるとは……恥を知れ」
「まあ婚約者があれじゃあ無理もないけど」
「……いいんだ。どうせ向こうもそんな気はないだろうし……まず男相手なんて望み薄いよな……」
『ドタドタドタドタッ』
「……今なんて?」
「え?」
「男相手って……」
「え、いや! 待て! そもそも好きとかじゃないんだってば!」
「向こうもそんな気ないとか言って気にしてるくせに好きじゃないって言うのかよ、ええ?」
「……好きじゃない、あんな奴。大っ嫌いだ」
「うんうん、その人の名前は?」
「言うかボケ!!」
「ここまでほぼ自分で言っちゃってるんだけどね。何? 言ったらシストに消されちゃう?」
「シストより強いから別に言ったって大丈夫だけど」

 でも、言ったら認めちゃうことになるし。

「え、シストより強いって……そんな奴いんの?」
「たぶん、だけど」
「……まさか、アゼンヒルトのことか?」

 サイオンから出た名前に、ギクッとする。

「え、な、何でサイオンがそんなこと知ってるんだよ」
「…………否定はしないんだな?」
「お、俺が好きなのはアゼンじゃないッ!!」
「ならゼクシィルか?」
「だ、だから、どうして……ゼクシィルでもないよ」
「ゼクシィルって、……ヴァントリアの父親のことじゃないよな、この話の流れじゃ。でも……初代王が生きてるわけ……」
『生きているらしい。ウロボスの長の話ではな』

 今度はシストの言葉にギクッとする番だった。

「ウ、ウロボスの長って……もしかして」
『ああ。貴様の想像している奴だ』
「シ、シストは会ってるのか?」
『まあ、奴とは仕事があるからな』

 シストは手を切れと言ったら切ってくれるだろうか。そうなったらヒオゥネは怒るかな。俺は嫌われるんだろうな、でも、嫌われ者なのは今更だ。

「……シスト、メルカデォと、奴隷制度を廃止して欲しいんだ」
『何?』
「お願いだ、お前ばかりに頼ったりしない、お前が王宮の仕事で忙しいって言うなら、俺が町に出て調査する。だから、だから……お願いだから適切な判断をしてくれ! 俺が王宮に戻らない理由はみんなを助けたいからなんだ! それが出来ないなら放っておいてくれ!」
『それは出来ないな、メルカデォも奴隷制度も必要だ。貴様の言うみんなが望んでいることだ。お前は弱者の目線でしか見ていない』
「お前は強者の目線で見てるって言うのか、平等に見ろ! またすぐに王宮に戻りやがって、こんなムカつく兄貴送ってくるし! つーか主従契約さっさと破棄しろ! お前が見てるのは強者の目線じゃない、暴力者の目線だ! 弱い人に手を差し伸べることが出来ない人が多いのは、予め弱者と強者が決められているからだ! 奴隷も女も亜人も人間も! 皆等しいんだ! 等しく生きる権利を持ってる、幸せに生きる権利を持ってる! 理不尽に奪われていい命じゃない! 彼等はお前らのモルモットじゃないんだッ!!」

 それを静かに聞いていたサイオンが呟くように言った。

「……ヴァントリア、貴殿が王だったらどうなっていたんだろうな」
「え……?」
「サイオン兄さん? 急に何を……まるでそれじゃシスト兄さんが……」

 ディスゲル兄様はそこまで言って止める。

「シスト、余は貴殿の兄でありながら、貴殿に任せすぎたようだな。まあ、余がもし王位継承の順位のまま王になっていたとしてもこの地下都市を支配することなど到底無理だっただろう。何故なら、王は脅される仕組みらしい」
「脅されてる!? 誰に!?」
「研究者達だ」
『調べたのか?』
「王の行動は目立つものだ。気を付けるのだぞシスト」
『フン……まあいい。情報が漏れていたところで俺が影響を受けることではない。それに私は脅されているつもりはない、シルワールが即位する前から行われていた契約だからね』
「契約?」
『研究者達との契約だ。ウロボスも手を貸しているらしいな』
「じゃ、じゃあヒオゥネも、その契約で悪いことをしているだけなのか!?」
『あいつは利用しているだけだと言っていた、奴はアトクタで神童と呼ばれていたそうだ。その前から奴らと手を結んでいる。奴は天才だ。恐らく逆だろう。契約を願い出たのは組織の方だ。奴は下に出ているように見せてはいるが、セルやテイガイア・ゾブド博士の時のように誰かを仮面に立てて裏で糸を引いている。奴が組織のトップだろう』
「そ、そんな……」

 ……ヒオゥネが悪いことしてたのも知ってたけど、悪い奴らの一番上の人だったなんて。いや、ゼクシィルと手を組んでいる時点でそうなんだろうと考えていたけれど。

「シスト、貴殿が脅されているにしろ契約をしているにしろ、余達は操れないだろう。余が神級階と四皇級階の奴らと話を付けてやる。いくら王様と言えど彼らの話を断ることは出来ないはずだ」

 神級階とは全員で2人の、王族の次に力を持つ階級だと言われる人達のことだ。2人の意見が合致して初めて王様と同じ権限を持つ。さらに、4人で構成される四皇級階の者達の同意もえれば例え王でも逆らえない。
 神級階にはサイオンとロベスティゥ、天級階は7人で構成され、ディスゲルや地上の姫であるウラティカ、弟がいる。四皇級階にはセルも属している。さらにその下の階級が最上級階。王族、オルテイル一族、ウロボス一族、イノスオーラ一族と、そして騎士団達がこの階級に当たる。つまり、ビレスト、トイタナ、ルフスがこれに当たる。過去の話だが、ビレストはシルワールの騎士団、トイタナは俺の父ゼクシィルの騎士団、そしてルフスはウォルズの父、ゲルダインライシェハルツの騎士団だった。
 この下には、上級階、中級階、下級階、最下級階と続く。

「ダメだサイオン、それだと次のメルカデォが開かれてしまう!」
「無茶を言うな」
「シスト、この件は王宮に持ち帰るってことで決定が出るまでは中止してくれ! それじゃ納得出来ない!」
『……ヴァントリア、ひとつ言っておく、頼む相手を間違えているんじゃないか? メルカデォを廃止したとしても、死体の量は変わらないと思うぞ』
「ど、どういう意味だよ!?」
『新たなイベントが作られるということだ。ウロボス帝の手によってな』
「お前が手を組んでるからだろ!? 却下しろ!」
『そう言う訳には行かない。奴はウロボス帝、王と同等の権力を持っている男だ。それに、俺が逆らえば恐らくオルテイル一族は引きずり降ろされて地下都市は奴の手に落ちる。その後は奴のやりたい放題だ』
「お、俺が止める! 絶対に止めるから……っ」
『奴の本体はウロボスの王宮にいるんだぞ、どうやって止めると言うんだ』
「こ、この間分身が会いに来てくれたし……」
『つまり相手が来るまでは止められないということだろう?』
「う……っ、シ、シストは会ってるって言っただろ、俺が王宮に戻って――」
『俺が会っているのは奴の分身だ』
「……じゃ、じゃあウロボスの王宮に侵入する!!」
『そんなことをしたら引きずり降ろされるきっかけにかりかねない! これ以上勝手な行動をするのはやめろ!』
「止めなくちゃ、いけないんだ!」
『ヴァントリア!!』
「ヒオゥネを止めるんだッ……!!」
『…………っ』
「俺はヒオゥネを絶対に止める、止めてみせる! だから――」
『ふざけるな』

 ブツッという音が聞こえて、ハッとする。サイオンの手を見れば、魔法陣が消えていた。
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

【完結】伯爵家当主になりますので、お飾りの婚約者の僕は早く捨てて下さいね?

MEIKO
BL
【完結】そのうち番外編更新予定。伯爵家次男のマリンは、公爵家嫡男のミシェルの婚約者として一緒に過ごしているが実際はお飾りの存在だ。そんなマリンは池に落ちたショックで前世は日本人の男子で今この世界が小説の中なんだと気付いた。マズい!このままだとミシェルから婚約破棄されて路頭に迷うだけだ┉。僕はそこから前世の特技を活かしてお金を貯め、ミシェルに愛する人が現れるその日に備えだす。2年後、万全の備えと新たな朗報を得た僕は、もう婚約破棄してもらっていいんですけど?ってミシェルに告げた。なのに対象外のはずの僕に未練たらたらなの何で!? ※R対象話には『*』マーク付けますが、後半付近まで出て来ない予定です。

身代わりになって推しの思い出の中で永遠になりたいんです!

冨士原のもち
BL
桜舞う王立学院の入学式、ヤマトはカイユー王子を見てここが前世でやったゲームの世界だと気付く。ヤマトが一番好きなキャラであるカイユー王子は、ゲーム内では非業の死を遂げる。 「そうだ!カイユーを助けて死んだら、忘れられない恩人として永遠になれるんじゃないか?」 前世の死に際のせいで人間不信と恋愛不信を拗らせていたヤマトは、推しの心の中で永遠になるために身代わりになろうと決意した。しかし、カイユー王子はゲームの時の印象と違っていて…… 演技チャラ男攻め×美人人間不信受け ※最終的にはハッピーエンドです ※何かしら地雷のある方にはお勧めしません ※ムーンライトノベルズにも投稿しています

不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!

タッター
BL
 ボスは悲しく一人閉じ込められていた俺を助け、たくさんの仲間達に出会わせてくれた俺の大切な人だ。 自分だけでなく、他者にまでその不幸を撒き散らすような体質を持つ厄病神な俺を、みんな側に置いてくれて仲間だと笑顔を向けてくれる。とても毎日が楽しい。ずっとずっとみんなと一緒にいたい。 ――だから俺はそれ以上を求めない。不幸は幸せが好きだから。この幸せが崩れてしまわないためにも。  そうやって俺は今日も仲間達――家族達の、そして大好きなボスの役に立てるように―― 「頑張るっす!! ……から置いてかないで下さいっす!! 寂しいっすよ!!」 「無理。邪魔」 「ガーン!」  とした日常の中で俺達は美少年君を助けた。 「……その子、生きてるっすか?」 「……ああ」 ◆◆◆ 溺愛攻め  × 明るいが不幸体質を持つが故に想いを受け入れることが怖く、役に立てなければ捨てられるかもと内心怯えている受け

【完結済み】準ヒロインに転生したビッチだけど出番終わったから好きにします。

mamaマリナ
BL
【完結済み、番外編投稿予定】  別れ話の途中で転生したこと思い出した。でも、シナリオの最後のシーンだからこれから好きにしていいよね。ビッチの本領発揮します。

【完結】だから俺は主人公じゃない!

美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。 しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!? でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。 そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。 主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱! だから、…俺は主人公じゃないんだってば!

完結|ひそかに片想いしていた公爵がテンセイとやらで突然甘くなった上、私が12回死んでいる隠しきゃらとは初耳ですが?

七角@中華BL発売中
BL
第12回BL大賞奨励賞をいただきました♡第二王子のユーリィは、美しい兄と違って国を統べる使命もなく、兄の婚約者・エドゥアルド公爵に十年間叶わぬ片想いをしている。 その公爵が今日、亡くなった。と思いきや、禁忌の蘇生魔法で悪魔的な美貌を復活させた上、ユーリィを抱き締め、「君は一年以内に死ぬが、私が守る」と囁いてー? 十二個もあるユーリィの「死亡ふらぐ」を壊していく中で、この世界が「びいえるげえむ」の舞台であり、公爵は「テンセイシャ」だと判明していく。 転生者と登場人物ゆえのすれ違い、ゲームで割り振られた役割と人格のギャップ、世界の強制力に知らず翻弄されるうち、ユーリィは知る。自分が最悪の「カクシきゃら」だと。そして公爵の中の"創真"が、ユーリィを救うため十二回死んでまでやり直していることを。 どんでん返しからの甘々ハピエンです。

乙女ゲームが俺のせいでバグだらけになった件について

はかまる
BL
異世界転生配属係の神様に間違えて何の関係もない乙女ゲームの悪役令状ポジションに転生させられた元男子高校生が、世界がバグだらけになった世界で頑張る話。

処理中です...