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第十章

219話 よし来い!

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 そう思っていたらサイオンが言った。

「少しは貴殿から甘えてこい! シストと違って可愛さがなさすぎるんだ貴殿は! 生意気だし可愛くないし可愛くないし可愛くないし」
「無理じゃね? 可愛いって言ってくれない兄貴に甘えるなんて無理じゃね? ふつーにありえなくない? お姉ちゃんならまだしも兄貴に甘えるなんて無理じゃね? もっと包容力のあるお兄ちゃんしないと無理じゃね?」
「貴殿既に余から手を離しているくせによく言えたな……」
「……分かったよ、全力で甘えてやる! 可愛いって言わせてやる! 勝負だサイオン!」
「よし来い! 余が直々に甘やかしまくって腰砕きにしてくれる!」
「いや、あの、本題……」
『…………』

 相手がシストじゃないだけマシだ、それに演技力なら自信があるぞ! なんてったってあのヴァントリアだからな! 前世のプレイヤーたちを騙し続けてきたあのヴァントリア様!
 自分が可愛いなって思える人をまず演じてみようかな。……誰だろう、ジノとか? ジノが甘えたらどうなるんだ?

「……バカ。くたばれ。死ね」

 ディスゲル兄様の溜息が聞こえた。なんでだ!

「ヴァントリア……貴様ァァ」
「アアン何か言ったか?」
「ヴァントリア、それ少しも甘えてないぞ……」
「ジノじゃだめか……じゃあイルエラで行こう」
「え、何、誰?」
『…………』

 こほん、と咳を払ってからサイオンの頬を手で包み込む。

「俺が守ってやる。お前を守り抜いて幸せにしてやる」
『…………』
「……え、何それ。参考にしてる人がいるとしてどうしてそんな言葉が出てくるわけ」
「いや、俺が幸せにする」
「プロポーズか?」
『――ビリィイッ』

 あれ、何かが破ける音がサイオンの右手首から……。

「貴殿に余が守れるわけがないだろう気色悪い出直してこい」
「手厳しいな!? でも確かに……甘えてはいないよな、どちらかと言うと甘やかす側だそれは」
「甘える……分かったぞテイガイアか!」
「テイガイアって、あのテイガイア・ゾブド博士か? 本当に手を組んでたんだな……って、なんで〝甘える〟が博士と繋がるんだよ」
「サイオン様……美しい。俺と結婚してください。直ぐに式場を手配しましょう、いやもうここで挙げましょう。そうしましょう」
『…………』
「だからなんでプロポーズ!?」
「ヴァントリア貴殿、余と結婚したいのか?」
「何でそうなる!? 俺は皆を参考にしてるだけで……甘える、甘えるか、甘えるじゃダメなのかな、可愛いとか? ……ウォルズか?」
「貴殿がウォルズと並ぶわけないだろう」
「そういえばお前ウォルズ好きなんだったっけ」

 ウォルズはやったら引くよな……間違いなく。それにあんなの演技でも出来ない、セリフが思いつかない。……やってみるか?

「サイオン!? 本物!? かっけぇ! でも俺をいじめるから嫌いなんだよねー」
「どこが甘えてるんだ?」
「ダメだ、相手がサイオンじゃダメなのか」
「貴様おろすぞ」
「俺相手だと思って……ええっと」
『…………』

 ヴァントリアの事好きって話だから、ウォルヴァンの話をしてる時だと思えばいいんだよな? ウォルズを俺、ヴァントリアをサイオン。よし!

「やっぱ俺とサイオンは心も身体も繋がる運命だよね!」
『ビリイイッ』
「だってさ、だってサイオンは俺と和解した後ずっと気にかけてたしあれは惚れてますわ恋してるわちょーかわいい! もうデキてるよね! 絶対ちゅーしてるって、1回くらいしてる! 冗談半分本気半分でちゅーしてその後気持ちよくて続けちゃってだんだん深くなって言って興奮して身体を触るようになっていってえっちしてもうえっち三昧になってサイオンが悲しむ度にえっちして慰めてサイオンも俺を求めるようになって俺から離れられなくなって周りに反対されちゃうけどそれを乗り越えてペアリングとか交換してみんなの目の前でイチャイチャしてればいいよ! うんうん! サイオン可愛い! ちょーかわいい! もうぺろぺろしたい!」
『ビリビリビリ』
「…………」
「…………」

 あれ……? 終わったんだけど何で皆黙り込んでるんだ。て言うかシストはなんなの、何を破ってんの。何かを破る仕事中なの? もしそうじゃないとしたらそれって破っていいものなのか?

「あの……参考にしてるんだよな? 誰かを」
「ウォルズだけど」
「ウォルズって、あのウォルズ・サハニア・イノスオーラ……のことか?」
「うん。変態だから」
「変態を参考にしたらダメだろ!?」
「変態だけど可愛いんだぞウォルズは。サイオンはウォルズが大好きなんだから」
「余のウォルズが変態なわけがあるか!」
「え、結構クオリティ高かった気がするんだけど」
「クオリティ高かったらオレが困る。説教しに行く」

 変態を説教しに来てくれるなんて、ディスゲル兄様、しゅてき♡

「ディスゲル兄様……俺のことを思ってくれてるんですね、俺も兄様を思ってます♡」
「どうしてサイオンにそれが出来ないんだよ」
『ビリッビリッビリッ』
「シスト兄さんはやめて!? それ何!? 大事な資料なんじゃないの!? ねえ!?」
「どうしよう……他に参考にできる人と言えば……」

 女の子は無理だもんな、ヒュウヲウンはめちゃくちゃ可愛いけどヒュウヲウンだから可愛いわけで……。ラルフか? ラルフって言うか、ディオンがテイガイアと話してる時とか?

「よし、行くぞサイオン」
「もう諦めろ」
「絶対可愛いって言わす!」
「諦めの悪い奴だな」

 次は自信があるぞ! ラルフは年上に可愛いと思わせるプロのような子だからな!

「サイオン! 今日は何して遊んでくれるの?」
「……何で貴殿と遊ばなければならないんだ」
「えぇ~そんなこと言わないでよ、遊んでよ~」
「お、いい感じだぞヴァントリア、そのまま、そのままだ!」

 だけど俺ディオンとテイガイアのやりとりとかあんま見たことない。ゲームでもディオン出てないし、A and Zだったら出てたかもしれないけど。

「いいぞ、遊んでやる」
「ほ、ほんとう!?」
「まず余が魔法で火の輪っかをつくる、ジャンプしてその中を通って着地出来たらクリアだ」

 …………こいつ。

「わあ! おもしろそう! 参考にまず見せてサイオン!」
「…………仕方のない奴だな。見ておけよ」

 魔法陣と火の輪っかが出てきて、更に火の塊が出てくる、火の塊が火の輪っかを潜り抜けた。

「こうするんだ、分かったか?」
「えーつまんないなぁ、やっぱりやらなーい。他の遊びがいいなー」
「…………我儘を言うな、遊んでやらないぞ?」
「我儘? 今のが? サイオンってかったいねー!」
「…………ぶち殺していいか?」
「何で!? 俺頑張ったよ! ほぼ想像だけど!」
「誰を参考にしたんだ?」
「ディオン……いいや、俺への態度でもっかい再チャレンジする」
「嫌な予感しかしないんだけど」

 失礼だな! 確かに甘えるって感じじゃないけど……色気と甘えは紙一重なんだぞ!
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