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第十章
218話 甘やかしてやらないぞ
しおりを挟む魔法陣が出て、いっときすると、『はい』と落ち着いた返事が聞こえてきた。シストの声だ。
『どうかされましたか、兄上』
「やっぱりシストは可愛いなぁ!」
なんだその差は! 知ってたけど!
やっぱりディスゲル兄様がいい。
モゾモゾしてディスゲル兄様にくっつけば、ディスゲル兄様に睨まれる。だって……。目で訴えれば、腰に新たな腕が巻き付く。ディスゲル兄様の腕だ。ディスゲル兄様はサイオンを睨み付けている。そうだよな、もうサイオンなんていらないよな。
『……用がないなら切りますが』
「あるある! 大事な話!」
お花が飛びまくっている気がする。何なんだその差は!
「ヴァントリアを捕獲したぞ、シストの為に!」
「え!?」
「ちょ!?」
捕獲って、サイオンは裏切るつもりなのか!? 俺とディスゲル兄様が慌てていたら、向こうの声が静かになる。何だ? なんで黙ってるんだ? まさか俺達の声のせい?
たった1文字2文字だけで俺達の正体が分かるわけないよな?
『今の声……ヴァントリアはそこにいるんですか?』
なんで俺だけ分かるんだよ!
理由を求めてディスゲル兄様を見れば遠い目をしている。
「ああ、余の腕の中にいる」
『…………』
「…………」
「…………」
『……今、なんと言いました?』
「変な言い方はやめろ!」
「変な言い方だと? 本当のことを言ったまでだ。気味の悪い言いまわしにしようとするな」
『本当の、こと……だと? ああ、逃げないように捕まえているんですもんね』
「違う。甘やかしているんだ」
「何処がだ!?」
『……何だって?』
シストの声暗いんだけど! なんか黒いもの出てきてる気がするんですけど!
『兄上、今一体、どう言う状況なんだい? 何が起こっているのかな? ん?』
「うわー怒ってるなこれ」
『今の声は誰ですか?』
「なんで俺の声だけ分かったんだよ!」
「うるさいぞ黙れヴァントリア。甘やかしてやらないぞ」
「だから甘やかしてねえだろ!?」
「黙れ可愛くない。死んだフリをしろ。少しはマシになる」
なんだよなんだよ! シストばっかり!
「もう通信切れよこんな奴の声なんか聞きたくもない!」
『何だと?』
「ひいい! ごめんなさい!」
「いや、もうそろそろ本題入ろう」
『誰だ貴様、名を名乗れ』
「何でオレだけわかんないんだよ! ディスゲルだ!」
やっぱりディスゲル兄様もあれだよな、皆まともな兄じゃないから甘やかされるとかなかったよなきっと。俺や弟も可愛くないのだったし。ヴァントリアは可愛い弟では絶対にない。弟なら甘え上手だろうけどアイツは腹黒いのが分かっているだろうし。……って言うかディスゲル兄様だけじゃなくて、皆一緒にはいるけどキョウダイって感じしなかったもんなぁ。まあ、シストとサイオン以外は親が違うし、キョウダイって言っても従兄弟同士みたいなものだから仕方がないんだけど。
オルテイルでは王族に生まれたらその皆が王様の養子みたいなものになる。アゼンヒルトがそもそも子供を産むのに呪いを使っているから、側室が少ない。一夫多妻ではあるものの、子供をたくさん儲けると言うことはしないのだ。
第一王子サイオンと第三王子・現王シストはシルワール王とシエルバ・グリフォンと言う正室の間に生まれた子で、第二王子ロベスティゥはシルワール王とゲルダインライシェハルツ・サイハイ・イノスオーラの妹、ヘトクリスメルヘラ・ライシェ・イノスオーラの子だ。第四王子ディスゲルはゼクシィル・オルテイルの兄、ベルシアン・オルテイルとシルワール王の妹、キーシャ・ヲクーン・オルテイルの子、第五王子ヴァントリアはゼクシィル・オルテイルとメフィリアルローン・シェハニオスとの子だ。
更に第六王子アスナロヴはシルワール王とヴァレリー・トルショーの間に生まれた子だ。シルワール王と直接の血の繋がりがある王子達は権力がある職に着きやすい。
シエルバ・グリフォンのプラチナブロンドの髪とシルワールの瞳を受け継いだサイオンは、その威厳だけでなく整った顔立ちまで王様って感じがする。シストよりも王様感凄い上に長男なのにどうしてシストが王様なのかと言うと、シルワールを殺して王座に座ったからだ。その殺したと言うシルワールも、そもそも死骸であったとはシストは知るまい。
サイオンは王座を奪ったシストをどう思っているのだろう、まあ見るからに大好きだから王様になんてなりたくなかったのかもしれないな。
「シスト、余達はメルカデォを壊そうと思う」
サイオンは魔法陣に向かっていきなりそんなことを言い出す。
『はい?』
その言い方だと3人で手を組んで何かしでかそうとしてるみたいじゃないか!
サイオンにディスゲルがコソッと耳打ちする。
「今すぐ、廃止させたい、と思っている、って言って……そこまで? 言っちゃダメ?」
『…………』
「ディスゲル兄様、もういいよ。使えないな、サイオン」
「ヴァントリア貴様ァアア!」
「うるさいうるさいサイオン、うるサイオンだな」
「甘やかしてやらないぞ」
「だから甘やかしてないだろ!」
もう俺の方通信で腕すら回ってねえし!
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