219 / 293
第十章
216話 デタラメな世界
しおりを挟む目を覚ますと、そこは真っ白な世界だった。
半円盤のような階段と、複数の大きな柱、そして半円状の土台があり、瓦礫が無重力に浮かぶ。しかし自分の足は土台にきちんと立っている。重力があるのかないのかさっぱりで、訳の分からない世界だった。
「どこだここは……なんなんだ。あいつの仕業か? いや、あいつがこんな大規模な魔法が使えるはずない」
半壊し半分となったらしい場所まで向かってみると、土台が空中に浮かんでいることに気がついた。そこには果てのない、境目のない白い空と地面があった。
空中に浮かぶ巨大な瓦礫達は上下にゆっくりと移動し続ける。飛び乗ることはできそうだが、何かがありそうにもないのでそれは行わない。
出口を探したが、半円盤のような階段の上にある、大きな赤い門くらいしか目につかない。門の向こう側は半壊した瓦礫が広がっているだけだが、それ以外出口らしいものはなかった。
警戒もせず潜ってみると、まだ床があると言うのに落ちるような感覚がして、成す術もなく意識が引っ張られる。
「なんなんだこのデタラメな世界は!余はまだ夢を見ているのか!」
着いた先は、また白い世界。
だが、その場所は見慣れた世界であった。
第二層、かつての王宮。アウラ。白い木が特徴的な中庭だ。それを囲むように円状に廊下が続き、更に枝分かれして中庭から反対側の奥の部屋達へ繋がる。
「クソ餓鬼、もう少しキビキビ歩け」
「はい……」
「……っ!」
そんな声が聞こえて、木の裏に身を隠す。
様子を伺うと、ヴァントリアと、見たこともない檳榔子黒の髪、全身黒で覆われた衣の青年が廊下を歩いていた。取り憑かれそうになるくらい美しく、飲み込まれそうになるくらい恐ろしく冷たい真っ青な瞳。その目を見ただけで、全身に圧力が掛かるような感覚に合い、悪寒が駆け巡っていく。見るだけで悍ましい映像を何度も流されるような、精神が崩壊していきそうな、そんな感覚に陥る。
ヴァントリアの様子はおかしい。まるで魂が抜けたかのようにそいつに手を引かれるまま着いていく。まるで、父上に連れられていた時のようだ。
後をつけていけば、父上の時より、もっと酷い光景を見せられた。
この世界に余は干渉できないらしい、扉をすり抜けることができた。
青年が去れば、今度は彼と似た姿と威圧感を持つ小さな子供が現れた。彼は複数人の男とヴァントリアを強姦し、拷問していた。
その時だった。扉が開く音がして、余もそちらを見る。ヴァントリアが手を伸ばし、助けを求めるが――その白い瞳を持つ存在は、それを無視して踵を返した。
ヴァントリアは絶望した表情を浮かべる。
信じられないことだが、ヴァントリアは小さな子供をアゼンヒルト、青年をゼクシィルと呼んだ。
しかし、あの圧倒的な威圧感と、身体が竦む感覚は、彼らが本物であることを証明していた。
「これは、ヴァントリアの記憶か……?」
二人はヴァントリアに、強姦だけでなく暴力も振るった。拷問よりもっと酷い光景だった。傷口は呪いと言う未知の力で塞ぎ、何度もヴァントリアを傷付けた。
ああ。気持ちが悪い。
ヴァントリアが気持ちが悪いのか?
いや、違う。違ったのだ。
ヴァントリアは、気持ち悪くなどなかったのだ。
そう気付いた時には、ヴァントリアの前から二人は姿を消し、ヴァントリアは召使いには無視され、キョウダイ達にも無視され、父上に強姦、拷問される。
そして、ヴァントリアの記憶の中の余に、虐められる。
「よせ」
余はただ、寂しくて……苦しくて!
「よせ、ヴァントリアが気持ち悪い訳じゃないのだ!」
世界が暗転し、別の世界へとやってくる。
ゼクシィルと、アゼンヒルトがヴァントリアの両側に立ち、左右に引っ張りあっている。ヴァントリアを奪い合っているようだ。
「よ、よせ、泣いているじゃないか! よせ。やめろ。気持ち悪いんだ貴様らは!!」
そう叫んだ次の瞬間――目の前を、赤い血飛沫と赤い糸を引く赤い塊が舞った。
ヴァントリアは引き裂かれて、内臓が辺りに飛び散った。
脳裏に、先ほど聞いたばかりのヴァントリアの声が響く。
『俺は半分だから』
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああ――ッ!!」
地面に崩れ落ち、ヴァントリアに手を伸ばして泣き叫んだ。
まるで己も過去に連れて行かれた子供のように泣きじゃくった。
そんな余の隣で、涙を流す小さな子供がいた。ヴァントリアを殺した張本人、アゼンヒルトである。
「貴様らの、せいだ、そいつが死んだのは貴様らのせいだろ! 何泣いてるんだ! 殺した後に泣くなんて! 余は泣かなかったぞ! このイカレ野郎共! 余の弟から離れろ!」
ゼクシィルは半分を持って去って行き、残った半分はどうやらアゼンヒルトが貰うようだった。アゼンヒルトが黒いモヤを出して、それが半分のヴァントリアを包み込んでいく。
「やめろ、やめろ!」
それが何かは分からないが、嫌な予感がした。
内臓も血管も、血液も、半分になった身体も黒いモヤで作られ、みるみるうちに修復され、元通りになる。肌に浮かんでいた黒い紋様も消え、ヴァントリアはゆっくりと目を覚ます。
アゼンヒルトを見て、怖がって逃げようとするヴァントリアを、アゼンヒルトは捕まえ、「怖いことは忘れるんだ」と呟いた。
アゼンヒルトの言葉は呪いとなると本で読んだことがある、それが本当ならヴァントリアは今の出来事を忘れたのだろうか。
それでも強姦、拷問されてきたヴァントリアは彼を怖がる。そんなヴァントリアに、「全部ゼクシィルがやったんだ」と、アゼンヒルトは告げた。
世界は縦に揺れ崩壊していく。
余は過去の世界が終わりを告げているのだと気が付いた。
10
お気に入りに追加
1,928
あなたにおすすめの小説
R18の乙女ゲーに男として転生したら攻略者たちに好かれてしまいました
やの有麻
BL
モブとして生まれた八乙女薫風。高校1年生。
実は前世の記憶がある。それは自分が女で、25の時に嫌がらせで階段から落とされ死亡。そして今に至る。
ここはR18指定の乙女ゲーム『愛は突然に~華やかな学園で愛を育む~』の世界に転生してしまった。
男だし、モブキャラだし、・・・関係ないよね?
それなのに次々と求愛されるのは何故!?
もう一度言います。
私は男です!前世は女だったが今は男です!
独身貴族を希望!静かに平和に暮らしたいので全力で拒否します!
でも拒否しても付きまとわれるのは何故・・・?
※知識もなく自分勝手に書いた物ですので何も考えずに読んで頂けると幸いです。
※高校に入るとR18部分が多くなります。基本、攻めは肉食で強行手段が多いです。ですが相手によってラブ甘?
人それぞれですが感じ方が違うため、無理矢理、レイプだと感じる人もいるかもしれません。苦手な方は回れ右してください!
※閑話休題は全て他視点のお話です。読んでも読まなくても話は繋がりますが、読むとより話が楽しめる内容を記載しております。
エロは☆、過激は注)、題名に付けます。
2017.12.7現在、HOTランク10位になりました。有難うございます。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
【完結】ハードな甘とろ調教でイチャラブ洗脳されたいから悪役貴族にはなりたくないが勇者と戦おうと思う
R-13
BL
甘S令息×流され貴族が織りなす
結構ハードなラブコメディ&痛快逆転劇
2度目の人生、異世界転生。
そこは生前自分が読んでいた物語の世界。
しかし自分の配役は悪役令息で?
それでもめげずに真面目に生きて35歳。
せっかく民に慕われる立派な伯爵になったのに。
気付けば自分が侯爵家三男を監禁して洗脳していると思われかねない状況に!
このままじゃ物語通りになってしまう!
早くこいつを家に帰さないと!
しかし彼は帰るどころか屋敷に居着いてしまって。
「シャルル様は僕に虐められることだけ考えてたら良いんだよ?」
帰るどころか毎晩毎晩誘惑してくる三男。
エロ耐性が無さ過ぎて断るどころかどハマりする伯爵。
逆に毎日甘々に調教されてどんどん大好き洗脳されていく。
このままじゃ真面目に生きているのに、悪役貴族として討伐される運命が待っているが、大好きな三男は渡せないから仕方なく勇者と戦おうと思う。
これはそんな流され系主人公が運命と戦う物語。
「アルフィ、ずっとここに居てくれ」
「うん!そんなこと言ってくれると凄く嬉しいけど、出来たら2人きりで言って欲しかったし酒の勢いで言われるのも癪だしそもそも急だし昨日までと言ってること真逆だしそもそもなんでちょっと泣きそうなのかわかんないし手握ってなくても逃げないしてかもう泣いてるし怖いんだけど大丈夫?」
媚薬、緊縛、露出、催眠、時間停止などなど。
徐々に怪しげな薬や、秘密な魔道具、エロいことに特化した魔法なども出てきます。基本的に激しく痛みを伴うプレイはなく、快楽系の甘やかし調教や、羞恥系のプレイがメインです。
全8章128話、11月27日に完結します。
なおエロ描写がある話には♡を付けています。
※ややハードな内容のプレイもございます。誤って見てしまった方は、すぐに1〜2杯の牛乳または水、あるいは生卵を飲んで、かかりつけ医にご相談する前に落ち着いて下さい。
感想やご指摘、叱咤激励、有給休暇等貰えると嬉しいです!ノシ
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
転生したらBLゲーの負け犬ライバルでしたが現代社会に疲れ果てた陰キャオタクの俺はこの際男相手でもいいからとにかくチヤホヤされたいっ!
スイセイ
BL
夜勤バイト明けに倒れ込んだベッドの上で、スマホ片手に過労死した俺こと煤ヶ谷鍮太郎は、気がつけばきらびやかな七人の騎士サマたちが居並ぶ広間で立ちすくんでいた。
どうやらここは、死ぬ直前にコラボ報酬目当てでダウンロードしたBL恋愛ソーシャルゲーム『宝石の騎士と七つの耀燈(ランプ)』の世界のようだ。俺の立ち位置はどうやら主人公に対する悪役ライバル、しかも不人気ゆえ途中でフェードアウトするキャラらしい。
だが、俺は知ってしまった。最初のチュートリアルバトルにて、イケメンに守られチヤホヤされて、優しい言葉をかけてもらえる喜びを。
こんなやさしい世界を目の前にして、前世みたいに隅っこで丸まってるだけのダンゴムシとして生きてくなんてできっこない。過去の陰縁焼き捨てて、コンプラ無視のキラキラ王子を傍らに、同じく転生者の廃課金主人公とバチバチしつつ、俺は俺だけが全力でチヤホヤされる世界を目指す!
※頭の悪いギャグ・ソシャゲあるあると・メタネタ多めです。
※逆ハー要素もありますがカップリングは固定です。
※R18は最後にあります。
※愛され→嫌われ→愛されの要素がちょっとだけ入ります。
※表紙の背景は祭屋暦様よりお借りしております。
https://www.pixiv.net/artworks/54224680
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします。……やっぱり狙われちゃう感じ?
み馬
BL
※ 完結しました。お読みくださった方々、誠にありがとうございました!
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、とある加護を受けた8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 独自設定、造語、下ネタあり。出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
甥っ子と異世界に召喚された俺、元の世界へ戻るために奮闘してたら何故か王子に捕らわれました?
秋野 なずな
BL
ある日突然、甥っ子の蒼葉と異世界に召喚されてしまった冬斗。
蒼葉は精霊の愛し子であり、精霊を回復できる力があると告げられその力でこの国を助けて欲しいと頼まれる。しかし同時に役目を終えても元の世界には帰すことが出来ないと言われてしまう。
絶対に帰れる方法はあるはずだと協力を断り、せめて蒼葉だけでも元の世界に帰すための方法を探して孤軍奮闘するも、誰が敵で誰が味方かも分からない見知らぬ地で、1人の限界を感じていたときその手は差し出された
「僕と手を組まない?」
その手をとったことがすべての始まり。
気づいた頃にはもう、その手を離すことが出来なくなっていた。
王子×大学生
―――――――――
※男性も妊娠できる世界となっています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる