173 / 293
第七章
170話 踊る理由
しおりを挟む「早く飲みなよ万。それとも俺が口移しで飲ませてあげようか?」
「飲みます」
薬瓶を取ろうとするウォルズの手を払い、瓶を掴む。薬を一気に口に流し込んで飲み下す。
「3分で出来上がるから」
「カップラーメンかよ」
そう言えば、ラルフの分はないのだろうか。尋ねれば、テイガイアが既に飲ませたと言う。
「変化なくない?」
「まつ毛が長くなる薬です」
「それ意味あるか!?」
「冗談ですよ。ラルフくんは薬に耐性がついてるんだと思います。そのうち変身できるでしょう。そうなると私も遅いかもしれないな。久しぶりにバン様に甘えようと思ったのに」
いつも甘えてるじゃないか。
「おっ、そろそろ3分だ」
と、ウォルズが時計を言いながら言う。瞬間、彼の口の上にもさっと口ひげが生えた。いや、どこからどう見てもウォルズなんですけど。
隣のジノが、むくむくと大きくなり、背も髪も伸びて、中性的美青年になってしまう。美人だ。ジロジロと見ていたら、ギロッと睨まれる。眼力は変わらないらしい。
テイガイアにはまだ変化がないが、その隣のイルエラは大きなウサギさんになってしまった。……そのウサギって、あのウサギじゃん。ツノは二本だけどあのウサギさんだ。
「おお、イルエラ美味しそう! マスター、イルエラ調理して!」
「ウォルズ、冗談でもやめてくれ!!」
でも、凶暴でないとわかっているからかちょっと、かわいいかも。俺もご飯を食べ終わったので席を立ってイルエラをもふもふしていたらキラキラ美人のジノが隣に来て目を輝かせながらイルエラを撫でだした。
そうか、動物は好きなのか。
「ヴァントリアも効きが遅いんだね」
そう言えば、自分は変化がない。
しかし、そう思ったとたん、髪の毛が伸びだして、胸が膨らみ出す。
「お、おお、お?」
心做しか目線も低くなっている気が……ハッ、お、お股の間の感触が消えていく! ひえ! 何これ!? いいの!?
「おー、これが公式の女体化! かわいいよヴァントリア! いいよ!」
「あ、うん」
どう反応したらいいんだろう。取り敢えず胸は揉んでみる。
――……て言うか、一般客もいるけど、いいのか、これは。俺達指名手配されるらしいじゃないか。これじゃバレバレだろう。
なんかジロジロ見られている気がするし。
「きゃあああっかわいい! さあ行きましょ! 衣装たくさんあるのよ!」
「え!?」
順応早くない!?
ハートさんに手を引っ張られ、踊り子達に背中を押される。この感じ! ノス・イクエアの時と似ている!
「ひょあああああ、どこに連れていく気だぁあ! ジノ、イルエラ! ウォルズ、テイガイアあ!」
道の端に止められていたランシャの荷馬車にポイっと積み込まれてしまう。
女の子がたくさん入ってきて、馬車の中でワイワイしている。あれ、これって。俺だけハーレム的な気分を味わえるんじゃないか? 最高かよ。もっとやれ。
うきうきしていたら、既にダボダボになっていた男の服を脱がされる。
「ちょ!? あの、自分で脱げるから! ていうか見ないで!」
「恥ずかしがらなくても大丈夫よ~女の子同士じゃな~い」
いやでもなんか色々と失ってしまう気がする!
……うん、ウラティカの時に経験済みか。
されるが儘にされていたらやっぱり着せ替え大会が始まってしまった。
踊り子達が次々とやってきて、これも着てほしい、こっちもいいんじゃない?、これなんかどうかな、っと衣装を置いていくのだ。
「いやぁ~さすが王族出来が違うわ。見てよこの身体、男なのに肌すべすべもちもち」
「ちょおおおお!?」
背中に頬擦りされて思わず飛び退く。
「あ、あの! く、薬の影響だと思うし! て、て言うか、ほら、早く衣装も決めてさ……その、えっと」
「だって可愛いんだものー! かわいい子には服を着せよっていうじゃない!」
かわいい子には旅をさせよ、だと思う。
「ホント何この可愛さ。ほっぺたぷにぷに。唇ぷるぷる。おめめくりくり。ずるいわこの子ずるいわ」
ほっぺたを揉みくちゃにされる。やめてくれ。
「見てよこのお尻、何これ、キュートよこれこそキュート、誰かお尻振らせる振り付け考えてくれない?」
「胸も見てこれ、ヒュウヲウンよりおっきいんじゃない? 私達よりは小さいほうだけどぉ、手におさまらずしかし鷲掴めるって言うちょうどいい大きさだわ」
「わああああ!? 直で触るな揉むな!? 尻も胸も背中もほっぺもダメ!」
「何よりこの髪よ!」
「無視!?」
「一本一本見てみても、根元から毛先まで全部赤! 本当に真っ赤な髪なのねぇ」
「怖いくらい綺麗よね」
血みたいだって不気味がる人もいるんだけどな。ランシャの踊り子達は羨ましそうに見ている。
「いいな~親が赤いの?」
「え、ああ。父さんの髪が赤いよ」
「へえ~」
髪を弄り出す踊り子達。あの、裸なんですけど。寒いんですけど。
最終的に踊り子の衣装に着替えさせられ、髪も編み込みにしてまとめて貰えた。
「じゃ、踊りの練習しよっか!」
「え……?」
「言ったじゃない、舞台に立ってもらうのよ!」
「じゃ、じゃあ目立つのは困るから端っこに……」
「目立った方がいいのよ、わざわざ目立つ指名手配犯がどこにいるってね! 灯台下暗しよ灯台下暗し! 意味分かんないけどそんな感じよ! きっと!」
いや、灯台に照らされたところに立ってる状況だと思うんだけど。
「まあ今は女だし大丈夫なのか?」
赤い髪! 赤い瞳! ヴァントリア! ってシストに言われたら、胸揉ませて確かめさせればいいか。あいつ無駄に勘がいいからな。ヴァントリアの正体見破るの上手すぎ。
シストに見つかったら胸揉まれるのか……なんかそれやだ。絶対やだ。ヴァントリアって疑いながら胸を揉んでくるなんて、なんて変態野郎なんだ! 偉そうにしておいて女の子の胸揉むなんて最低! ……でもあいつは疑ってきそうなんだよな。胸揉まれるのはいやだから全裸になって…………絶対、やだ。シストなら舐め回すような目で見てくるもん!
……まあ、冗談はこれくらいにして。シストが自ら捜索してるわけじゃないし、たぶん平気だろう。
「わかった。……あ、でも、踊りなら少し習ったことがあるぞ」
「え?」
「俺の母さんが踊り子だったんだ。確か、それこそ10年以上は前だけど、ウラティカに教えるために、母さんから教えてもらったんだ。ウラティカには俺しか会えないからな。必死に覚えたから今でも踊れると思うけど……あ、でもグループ違うからだめか」
いちから覚える必要がありそうだなぁ。またウラティカに再会できたら教えてあげよう。
「ヴァントリア様のお母様って、確かメフィリアルーローン様よね?」
ハートさんが興味津々で尋ねてくる。
「うん」
「……踊り子だったなんて話知らなかったわ。どこのグループだったの?」
どこだっただろう。小さい頃に聞いた話だから思い出せない。
でもこの話は本当の筈だ。
その踊り子グループの舞台を見ていた父さんが、グループの華であった母さんに一目惚れしたのだから。
当時の母さんは踊り子の華としてとても有名だったらしいし、王族の血も引いていた。これは父さんが母さんに惚れるまでは、彼女自身も知らなかったことだ。
王族の血を引いていて、民にも家族にも好かれている。そんな人だったから、父さんとのお付き合いについて特に反対されることもなく、結婚までスムーズに進んだらしかった。
「まあ、その、母さんにたくさん教わったし、踊りを覚えるのは得意だから、ランシャの踊りも教えてくれたら嬉しいな」
「ええ、もちろんよ! あ、でも、踊りは簡単なものにするから、気負わなくていいのよ」
「ありがとう。俺踊るのは好きだから、頑張るよ」
下手くそだったら逆に目立ってしまうだろうし、彼女達に溶け込めるくらいには頑張らなきゃ。
……ヒュウヲウンは俺と踊りたいと言ってくれたし、約束したし。友達のためだと思えば踊る意味もあるかもしれない。
10
お気に入りに追加
1,928
あなたにおすすめの小説
R18の乙女ゲーに男として転生したら攻略者たちに好かれてしまいました
やの有麻
BL
モブとして生まれた八乙女薫風。高校1年生。
実は前世の記憶がある。それは自分が女で、25の時に嫌がらせで階段から落とされ死亡。そして今に至る。
ここはR18指定の乙女ゲーム『愛は突然に~華やかな学園で愛を育む~』の世界に転生してしまった。
男だし、モブキャラだし、・・・関係ないよね?
それなのに次々と求愛されるのは何故!?
もう一度言います。
私は男です!前世は女だったが今は男です!
独身貴族を希望!静かに平和に暮らしたいので全力で拒否します!
でも拒否しても付きまとわれるのは何故・・・?
※知識もなく自分勝手に書いた物ですので何も考えずに読んで頂けると幸いです。
※高校に入るとR18部分が多くなります。基本、攻めは肉食で強行手段が多いです。ですが相手によってラブ甘?
人それぞれですが感じ方が違うため、無理矢理、レイプだと感じる人もいるかもしれません。苦手な方は回れ右してください!
※閑話休題は全て他視点のお話です。読んでも読まなくても話は繋がりますが、読むとより話が楽しめる内容を記載しております。
エロは☆、過激は注)、題名に付けます。
2017.12.7現在、HOTランク10位になりました。有難うございます。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
【完結】ハードな甘とろ調教でイチャラブ洗脳されたいから悪役貴族にはなりたくないが勇者と戦おうと思う
R-13
BL
甘S令息×流され貴族が織りなす
結構ハードなラブコメディ&痛快逆転劇
2度目の人生、異世界転生。
そこは生前自分が読んでいた物語の世界。
しかし自分の配役は悪役令息で?
それでもめげずに真面目に生きて35歳。
せっかく民に慕われる立派な伯爵になったのに。
気付けば自分が侯爵家三男を監禁して洗脳していると思われかねない状況に!
このままじゃ物語通りになってしまう!
早くこいつを家に帰さないと!
しかし彼は帰るどころか屋敷に居着いてしまって。
「シャルル様は僕に虐められることだけ考えてたら良いんだよ?」
帰るどころか毎晩毎晩誘惑してくる三男。
エロ耐性が無さ過ぎて断るどころかどハマりする伯爵。
逆に毎日甘々に調教されてどんどん大好き洗脳されていく。
このままじゃ真面目に生きているのに、悪役貴族として討伐される運命が待っているが、大好きな三男は渡せないから仕方なく勇者と戦おうと思う。
これはそんな流され系主人公が運命と戦う物語。
「アルフィ、ずっとここに居てくれ」
「うん!そんなこと言ってくれると凄く嬉しいけど、出来たら2人きりで言って欲しかったし酒の勢いで言われるのも癪だしそもそも急だし昨日までと言ってること真逆だしそもそもなんでちょっと泣きそうなのかわかんないし手握ってなくても逃げないしてかもう泣いてるし怖いんだけど大丈夫?」
媚薬、緊縛、露出、催眠、時間停止などなど。
徐々に怪しげな薬や、秘密な魔道具、エロいことに特化した魔法なども出てきます。基本的に激しく痛みを伴うプレイはなく、快楽系の甘やかし調教や、羞恥系のプレイがメインです。
全8章128話、11月27日に完結します。
なおエロ描写がある話には♡を付けています。
※ややハードな内容のプレイもございます。誤って見てしまった方は、すぐに1〜2杯の牛乳または水、あるいは生卵を飲んで、かかりつけ医にご相談する前に落ち着いて下さい。
感想やご指摘、叱咤激励、有給休暇等貰えると嬉しいです!ノシ
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします。……やっぱり狙われちゃう感じ?
み馬
BL
※ 完結しました。お読みくださった方々、誠にありがとうございました!
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、とある加護を受けた8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 独自設定、造語、下ネタあり。出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
転生したらBLゲーの負け犬ライバルでしたが現代社会に疲れ果てた陰キャオタクの俺はこの際男相手でもいいからとにかくチヤホヤされたいっ!
スイセイ
BL
夜勤バイト明けに倒れ込んだベッドの上で、スマホ片手に過労死した俺こと煤ヶ谷鍮太郎は、気がつけばきらびやかな七人の騎士サマたちが居並ぶ広間で立ちすくんでいた。
どうやらここは、死ぬ直前にコラボ報酬目当てでダウンロードしたBL恋愛ソーシャルゲーム『宝石の騎士と七つの耀燈(ランプ)』の世界のようだ。俺の立ち位置はどうやら主人公に対する悪役ライバル、しかも不人気ゆえ途中でフェードアウトするキャラらしい。
だが、俺は知ってしまった。最初のチュートリアルバトルにて、イケメンに守られチヤホヤされて、優しい言葉をかけてもらえる喜びを。
こんなやさしい世界を目の前にして、前世みたいに隅っこで丸まってるだけのダンゴムシとして生きてくなんてできっこない。過去の陰縁焼き捨てて、コンプラ無視のキラキラ王子を傍らに、同じく転生者の廃課金主人公とバチバチしつつ、俺は俺だけが全力でチヤホヤされる世界を目指す!
※頭の悪いギャグ・ソシャゲあるあると・メタネタ多めです。
※逆ハー要素もありますがカップリングは固定です。
※R18は最後にあります。
※愛され→嫌われ→愛されの要素がちょっとだけ入ります。
※表紙の背景は祭屋暦様よりお借りしております。
https://www.pixiv.net/artworks/54224680
甥っ子と異世界に召喚された俺、元の世界へ戻るために奮闘してたら何故か王子に捕らわれました?
秋野 なずな
BL
ある日突然、甥っ子の蒼葉と異世界に召喚されてしまった冬斗。
蒼葉は精霊の愛し子であり、精霊を回復できる力があると告げられその力でこの国を助けて欲しいと頼まれる。しかし同時に役目を終えても元の世界には帰すことが出来ないと言われてしまう。
絶対に帰れる方法はあるはずだと協力を断り、せめて蒼葉だけでも元の世界に帰すための方法を探して孤軍奮闘するも、誰が敵で誰が味方かも分からない見知らぬ地で、1人の限界を感じていたときその手は差し出された
「僕と手を組まない?」
その手をとったことがすべての始まり。
気づいた頃にはもう、その手を離すことが出来なくなっていた。
王子×大学生
―――――――――
※男性も妊娠できる世界となっています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる