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第七章
165話 勇者様の登場なりー!
しおりを挟むうっすらだが、ラルフの桃色の瞳が開いている。
俺がラルフの傍に寄れば、テイガイアも慌ててラルフの顔を覗き込んだ。
「ラルフ、しっかり」
「やはり、呪いを解くのはキスだったんでしょうか。さっきまでどれだけ呼びかけようと目を開けてくれなかったのに」
「いや、痣は消えてないし……それに」
ラルフの目は虚ろだ。俺達の声が聞こえないのか、返事もない。
荒い息だけがラルフの口から吐き出される。
「あ……ふ、は」
「なんだ、ラルフ」
ラルフの唇から、少しずつ音が出てくる。何か言いたそうにしている。
「ラルフくん」
テイガイアがラルフの手を握れば、ラルフは、どこか安心したかのような表情を浮かべる。
「ぞ……ぶ」
「ラルフ」
呪いが暴走している、とテイガイアは言ったけれど、放って置いたらどうなるんだろう。
助けられなかったらラルフはどうなってしまうんだ。テイガイアが魔獣化した時のようにラルフも魔獣化してしまうのか。
目を開いてからずっと、天井を眺め続けているラルフの瞳に涙が溜まっていく。苦しいのか、呻き声を上げている。
ラルフは手の上に重ねられたテイガイアの手を、もう一方の手で握った。
そうしてから、ラルフの口から声が発せられる。
「ぞ、ぶど……く」
「…………まさか」
テイガイアに振り返れば、突然振り返った俺に驚いたのか、テイガイアは俺を凝視する。
「バン様?」
「テイガイアがラルフにキスしてみろ」
「…………はい?」
その顔はさっき俺もしたの!
「いいから早く! ラルフの意識があるうちにキスしなさい!」
テイガイアの腕を引っ張って、ラルフに近寄らせてから、テイガイアの背を押してキスさせようとする。
「ちょ、バン様、何を言っているのかさっぱり!」
「ラルフは俺に会ったことがないんだ、俺が特別なわけないだろ! ラルフが特別に思っているのは友人のお前だ!」
「友人からのキスで呪いが解けるはずがないでしょう」
「いいから試しにやってみろ! ラルフを助けるんだろ! 片っ端から試さないと!」
テイガイアは非常に困っていたが、ハッとした後、「じゃあ私がラルフくんにキスした後、口直しにバン様にキスさせてください」なんて言うから、仕方なく了承する。口直しになるのかって感じだけど。
テイガイアは自分を呼ぶ声にこたえるように、ラルフの唇に自らの唇を寄せていく。
うお、うおおお、テイガイア、お前なかなか勇気があるな! 俺もテイガイアにキスする時、流石に唇にする勇気はなかったのに!
俺は自分の手で目隠ししてから、指の隙間を開いてちらちら覗いてしまう。しかしテイガイアはラルフの唇にはキスをせず、その横の頰に口づけた。
……ですよね。
心の中で騒いでいた自分が恥ずかしい……。
「何も起きないんですけど」
振り返ったテイガイアに、ジロリと睨まれる。
「やはりラルフくんが特別に思っている相手はバン様だと思います」
「そう言えば、テイガイアの時も何回かほっぺたにキスしたけど解けなかったんだよな。額にキスしたら解けたんだ、額にちゅーしないとダメとか?」
「……もう一度しろと?」
「さっきは潔かったじゃんもっかいしてみよ!」
グッと親指を立てれば、相手はジトッとした目で俺を見た。
「ら、ラルフの額にちゅーしてくれたら。お、俺がテイガイアの額にちゅーしてあげるから……」
こんなデメリットしかない交渉に応じるわけないか。と思っていたら、「わかりました」と真顔で言われてしまう。
「いいの?」
「メリットはキスをして貰えることだけじゃありません。バン様にキスしてもらう時、ずっと目を開けていれば、バン様のキス顔も堪能できます」
意味がわからない。ヴァントリアのキス顔ほど需要がないものを俺は知らない。
テイガイアの長い指先がラルフの前髪を避ける。露わになった額に、テイガイアはそっとキスをした。俺相手の時とは違って、ラルフへのキスの仕方は妙に色っぽい。しかし、何も起きない。
再び、テイガイアにジトッとした目で見られてしまった。
「そ、その、えっと。あれええ?」
「わかりました。バン様も一緒にラルフくんにキスしましょう」
「ごめん、意味がわからない」
聞くこともお断りしようと思ったが、テイガイアが話し出す方が早かった。
「もしバン様の言う通り、ラルフくんが私を特別だと思っているなら、私のキスだけで呪いが解けたかもしれません。しかし、おそらく彼の身体の意志になっているバークレイくんが、バン様を特別に思っているのだと思います。バン様がバークレイくんに会ったことがあれば、の話ですが」
「そういえば、ディオンとはアトクタで話したな」
「くっ、ライバルがまた一人……」
ライバル? ああ、ディオンはテイガイアを嫌ってる様子だったもんな。ライバルだったのか。
「……助ける方法があるかもしれないなら、やるしかないか」
俺はベッドの反対側に回り込む。しゃがんで、ベッドに手をついて、テイガイアと目を合わせてから、二人で額にキスをしようとするが。
——ち、近い、二人で額にキスをするのは、困難だ! テイガイアと頬っぺたくっつかせないといけない!
ラルフにキスする時の色気ムンムンのテイガイアと顔をくっつけるなんて俺にはできない!
テイガイアの顔がすぐそこにある。あまりの近さに離れようとすれば、テイガイアに肩を組まれて、引き寄せられる。相手の頬っぺたが、ぷに、と俺の頬に当たった。
「ぎゃあああああっ!? こ、これは不本意である! 俺は、俺はああ」
「いつもしていることではありませんか」
お前が甘えてスリスリしてくる時の話をしているのか、あれも不本意だ! 誰が大の大人のテイガイアと頰っぺたをくっつけ合って喜べると言うんだ!
……ちっちゃいテイガイアが相手なら喜んででもやるのに。モチモチの頬っぺたもう一回触りたい。若返りの薬真面目に開発してくれないかな。
「ずっとこうしていたいですね」
「いいから早くちゅーしよ」
早くお前から離れたい。
二人でラルフの額にキスをしようとしたその時だ。
——「ばばーんっ! 勇者様の登場なりー! ダメじゃないか万も博士も! お酒は回復薬なんだから飲まなきゃー!」と、空気の読めない勇者様が酒樽を両腕に抱えて扉から降臨される。お前どうやって扉を開けた。
「ん……? 何やってんの? ……ふお」
嫌な予感しかしない……!
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