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第六章
159話 力をくれ
しおりを挟む俺が尋ねれば、相手は首を振る。
相手が答えてくれないので、舞台の上のヒオゥネを見上げる。
「実は、44層に入れられていた囚人達が突然姿を消しましてね。これは以前も言った通り、よくあることなんです。恐らく45層へ移動してしまったと考えられます。レーライン先輩達も、実験しているうちに消えちゃいました」
「じゃ、じゃあ、やっぱり。45層にいたのはラルフで、その周りにいたのは、アトクタの、テイガイアのクラスメイトだった生徒達」
「さあ、消えた人はたくさんいるので分かりません」
「ヒオゥネ……」
どうしてそんな酷いことを、ゆるせない、ゆるせない。絶対に。
「俺が誰か知りたいのか、ヴァン」
ラルフの顔を持つ男が俺に近付いて言った。
「う、うん」
「ディオンだ」
「え?」
「ディオン。グラディオン・バークレイ。俺タチはそいつの意識をベースにして一つになることで思考力を手に入れて、ラルフ・レーラインの身体をベースに一つになることで身体を手に入れた」
「素晴らしいです。失敗作だと思っていた彼等が、もしかしたら最高傑作を作る材料になるかもしれないんですから。でも、意識がバークレイ先輩だからですかね、レーライン先輩ほどには力をコントロールできていません。ほしいな、その身体」
ヒオゥネが舞台から降りてきて、兵士がはけていく。先程のエルデの剣を見ていたのだろう。
ヒオゥネから距離を取るように離れていく。
何をする気だ——……
ヒオゥネに攻撃を仕掛けようとするラルフ——ディオンに、ヒオゥネが手を伸ばす。
「ヒオゥネ、ダメだッ!! やめてッ!!」
ぴくっ、とヒオゥネが反応してこちらに視線を向ける。視線が絡み合って、彼は動かなくなってしまった。
「あ、危ないヒオゥネ——ッ」
思わず飛び出そうとした時だ、ディオンの腹に、真っ赤な槍が突き刺さる。それは一本から、やがて、2本、3本、4本と増えていき、ついに、20を超える槍が一気に彼の身体を貫いた。
ウロボスの兵士の持っていた槍だ。
ヒオゥネが危険になって、彼等が反応したのだ。
「ら、ラルフっ!!」
駆け寄れば、大量の血が流れて地面に血だまりを作っている。
「ディオンだ、ばか」
「しゃべるな、い、いまなおしてやるからな。大丈夫だから」
抜こうとすれば、血液が溢れ出す。どうすれば、どうすればいいんだ。治癒の魔法を使える人なんて、ここにはいない。
「泣くなよ、ヴァン」
「泣いたりしない、いいから黙って」
「アンタは泣き虫だ」
「う、うるさいな、黙っててくれっ」
テイガイアがそばにやってきて、「私に任せてください」と肩に触れてくる。
貫いた腹から血液が噴き出し、ぐちぐちと音を立てて触手が蠢いている。
酷い、こんなの、こんなの酷い。
ラルフが生きてた、正確には、ディオンや他の生徒達の集合体だけれど。それでも、生きて目の前に来てくれたのに。再び実験をしようとするヒオゥネも、彼に傷を負わせたウロボスも、嫌いだけれど。何よりもっと。
ディオンをここに引き寄せてしまった自分が、大嫌いだ。
『自分の身を守る力を付けろ。ヴァントリア』
この声、アゼンヒルト?
『君は弱い。俺が教えてやろう。立て、ヴァントリア。』
アゼンヒルト、俺は、俺はどうしてこんなに弱いんだ。お前達と近しい存在だと、あの古いノートには書かれていたのに。
『俺がいなくなれば君は王宮で一人になる。自分で身を守るしかなくなるんだ。ヴァントリア。泣くな。立ちなさい』
アゼンヒルト、やめてくれ。痛いのは、嫌いなんだ。
『ヴァントリア、君を守るためだ。力を手に入れなさい』
アゼンヒルト、力、力って。守る力、俺はいい。俺は守らなくていいんだ。俺は力を、誰かを守る力を欲しているんだ。
『立て、ヴァントリア、肉が切れても立て、修復しろ』
ざわつく。
『そうじゃない、もう一度俺に剣を振ってみろ』
ざわざわと、ざわざわと。
『休んでいる暇はない、俺は君のそばにずっといるわけには——』
胸の内側を、冷たいものが這い上がってきて。
『——泣くな、すまなかった。でも君を守るためにはこの方法しか』
凍り付いて、喉が渇いて。
『ヴァントリア。分かってくれ。守る力を手に入れろ。自分を守るための力を』
ざわざわと、腹の中で、何かが蠢いて。
『そばにはいてやれないんだ、ヴァントリア』
アゼンヒルト、俺は力が欲しい。誰かを守れる力が。
『よくやった。俺が教えられるのはここまでだ。君の力だ。好きに使うといいさ』
アゼン、ヒルト。力が欲しい。
力をくれ。
痛い。
荊棘が身体を這うようだ。
アゼンヒルト、俺に力を。
「万……?」
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