160 / 293
第六章
157話 前兆
しおりを挟む本物の剣で応戦しようとする兵士達を次々と気絶させていくウォルズ。やっぱりウォルズは凄いや、さっきからウォルズのこと見直しすぎてるかも。普段があれだからな。
「万!」
ウォルズが投げた、空中を移動してくる木の剣をキャッチする。
「ありがとうウォルズッ!!」
「さあ、来い来い! 俺の敵はどーこだっ!」
ウォルズは俺に見向きもせずに、見事な動きでどんどん兵士を倒していく。普段の重たそうな装備ではないからか、アクロバティックな動きが繰り広げられる。その瞳は野生的で、獣のようだと例えられたゲームのウォルズの戦い方と酷似している。
「そ、その剣はまさか——っ!!」
兵士の一人がそういえば、次々と兵士達が動きを止めて俺達の剣を眺める。
「ボルボデズゴルドの双剣か!?」
——ボルボデズゴルド、魔獣の名前だ。マデウロボス以下ではあるものの、同等のランクにならなければ倒せない厄介な魔獣である。確か41層の森にも住み着いている。しかし、41層の森は魔獣が住んでいても魔獣狩りは行われない。なぜなら、穏やかな性格をした魔獣が多いからだ。
ウォルズ、お、お前、まさか、初めての稽古の日、早起きしてたのって、倒しに行ってたからなのか!?
そうだ、確かボルボデズゴルドの剣は鞘がない代わりに木の棒に変身するんだった。
俺はそれを今まで、木のおもちゃだと思いながら——っ、最低!! 教えてくれてもいいじゃないか!
ジノとイルエラも合流し、テイガイアはアイテムポーチの役割を持つ魔法石を使って俺達の武器を取り出した。
会場中は大パニックである。
逃げ惑う人々を屋敷の召使い達が誘導し、兵士達が俺達を囲む。
シストが舞台の上で言った。
「無駄な抵抗は寄せ、ヴァントリア、ウォルズ・サハニア・イノスオーラ」
俺達5人を囲む兵士の周りを、さらに、やってきた騎士団ビレストが囲む。どうやらエルデがいち早く呼びに行っていたらしい。シストの後ろにいる兵士は一人になっているから間違いない。
ウォルズがくすりと笑う。
「それはこっちのセリフだよ、シスト。無駄な抵抗はやめなよ」
「何……?」
ウォルズの堂々とした姿が、美しい眼差しが、俺達を導いてくれる。
「どれだけ数を揃えてこようと、どれだけ邪魔されようと、止められるつもりはない。俺はこの世界にもう一つの目的を見つけたんだ。万を守る、ヴァントリアを今度こそ守るという目的の他に。彼の望む、自分の望む世界に、作り変えるってね」
「フンッ、愚かな望みだッ!! そいつらを捕らえろッ!! 王族二人は王宮に、脱獄囚共は44層の牢獄に戻せ、博士も捕らえろ、ウロボスの長に任せる」
「なっ……」
ヒオゥネとグルだったのか!? いや、ヒオゥネもさっき言っていたじゃないか。シストには会場を実験場にすると伝えてあるって。くっそぅ、このあほんだら! 舞踏会にはたくさんの人が集まるって知っておきながら、実験場にすることを承諾したって言うのか。ゆるせない!
「やれ」
シストのその一言で、兵士達との戦闘が再開する。俺達はそれぞれの武器を取り、応戦する。ビレストもいる上、刃物相手なのでジノもイルエラも武器を使っているようだ。彼等の戦闘センスは一級品で、どうやら博士やウォルズの動きだけでなく、周りの兵士やビレストの動きまでコピーしてしまっているらしい。相変わらずオリジナリティ満載だが、とんでもない成長スピードだ。
ウォルズは変わらず木の剣で——ボルボデズゴルドの剣で応戦している。
「バン様っ!!」
ギイイインッと金属のぶつかる音が鳴り、テイガイアに庇われたことに気がつく。
「ご、ごめん!」
「ヴァントリア、自分で防御するんだ——っ、相手は倒さなくていいから!」
それを見ていたウォルズが言う。
そ、そうだ、足でまといにならないために頑張ったんだから。
「俺もお相手願おう。」
そんな声が頭上から降ってきて、5人背合わせで戦っていたが、四方に散らばる。さっきまで自分達がいた場所に、ズドオオオンッと黒い刀身の剣を突き刺したエルデが現れる。彼が地面から引き抜けば、地面はひび割れて、瓦礫が宙に浮いて攻撃を仕掛けてくる。
ずるい!
剣で何とかガードするが、全て防ぐには無理がある。
「万っ! こっちも使って!」
ウォルズの持っていたもう一本のボルボデズゴルドの剣を投げられ、咄嗟に受け取る。ウォルズはあの光の剣を腰から引き抜いていく。眩い閃光がが放たれ、光が収まれば兵士がふらついているのが確認できる。
舞台の上で傍観を決め込んでいたシストが、「その剣はッ!! 聖剣レクサリオンッ!!」と叫ぶ。
どよめく兵士達、騎士団長エルデもウォルズの剣を凝視している。未だにフラついている兵士達を博士が剣の柄で気絶させていき、俺の傍にやってくる。ジノやイルエラも俺の後ろについた。
ウォルズだけが一人取り残されている。
聖剣レクサリオン? どっかで聞いたことあるような。
ヒオゥネもその剣には興味があるようで、それに反応して話し始める。
「聖剣レクサリオン。イノスオーラ一族によって作られた光の剣。素材は太陽の光と月の光、星々の光。魔獣や炭鉱から取れる素材ではなく、光だけで作られた剣。イノスオーラ一族の宝剣。神話に出てくるような幻の剣です。全ての闇を撃ち払い、光を与えると言われています。まさか、存在するなんて思いませんよね」
くつくつと肩を揺らし、シストに視線を向けるヒオゥネ。
そう言えばヒオゥネは、ウォルズに初めて出会った時も、彼の剣に興味津々だったっけ。
「なるほど、イノスオーラ一族か。貴様の話は本当のようだな」
「いまさら気付いたって名乗ってあげなーい」
ウォルズが言えば、わかりやすくシストの顔に青筋が浮かぶ。本当にお前は人を苛立たせる天才だな。
「と、ら、え、ろッ!!」
シスト様の鋭い眼力が兵士達をビクつかせる。指をビシィッとウォルズのみに向けるシストの命令で、動きを止めていた兵士達が再び戦闘を開始する。
ボルボデズゴルドの剣や、聖剣レクサリオンをウォルズが持っていたことに動揺して、偶然にも動きが止まったのだ。もう次はないだろう。
テイガイアやジノ、イルエラが応戦する中、自分もボルボデズゴルドの双剣を構える。
「あれ……」
テイガイアがその声に反応して、「どうかしましたかっ!?」と聞いてくる。
「なんか。」
しっくりくるような。
自分に向かって二人の兵士が同時に斬りかかってくる、ジノやイルエラ、テイガイア、そしてウォルズ——全員かよ——が自分を呼ぶ声が聞こえたが。
——相手の動きは良く見えるし。
あれ、おかしいな。
ウォルズに教えてもらった型通りに動けないのに、以前より滑らかに剣筋が通っていく。それぞれの武器を持つ手を剣の腹で軽く払って、柄で腹を打ち気絶させる。
「——…………」
うまくいった。何で?
驚いた表情をするテイガイアと目が合う。
しかし、そのつかの間、黒い刀身が自分の頭の横を通っていき、ピタリと止まる。ゾッと背筋が凍り付いて、恐る恐る振り返る。
「腕を上げたみたいですね、ヴァントリア様。お手合わせ願います」
「エ、エルデさんは、まだ、登場には早いんじゃ。き、騎士団長様とお手合わせなんてそんなあはははははは」
「そんな、謙遜なさらないでください。とても美しい剣舞でしたよ」
ひえええええええ、偶然なんだってばあああああああッ!?
エルデの大剣が自分を目掛けて休みなく振り回される、ヴァントリアが回避得意じゃなかったら今頃真っ二つなんですけど!? 何をそんなに興奮していらっしゃるんですかエルデさん!?
「さっきの動きはどうしたのですが、もう一度お見せくださいっ!!」
「何を言ってるかさっぱりなんですけど!? ただの偶然なんですけど!?」
ひいひい言って逃げ回っていれば、エルデ騎士団長様の大剣の風圧で周りの兵士も吹っ飛ばされる、また、彼の身長の二倍はある刀身の餌食にならないように皆彼から距離を取っている。
お願い俺を追っかけてこないで! 本当に怖いから!
舞台の上に逃げ出せば、エルデは登って追いかけてくる。そこは諦めてよ!? よし、ここはシストを盾にして。
俺の意思を汲んだのか、シストがさっと避ける。意思を汲んだなら盾になってくださいお兄様!
「おわっ」
「おっと」
そんなヒオゥネの声が聞こえて、え、と顔を上げると。
いつの間にか席を立ってシストの背後に来ていたらしいヒオゥネに抱きとめられる。
「ヒ、ヒオゥネ、危ないっ!」
11
LINEスタンプ https://store.line.me/stickershop/product/16955444/ja
お気に入りに追加
1,977
あなたにおすすめの小説
僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました
楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。
ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。
喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。
「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」
契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。
エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。
国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!
古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます!
7/15よりレンタル切り替えとなります。
紙書籍版もよろしくお願いします!
妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。
成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた!
これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。
「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」
「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」
「んもおおおっ!」
どうなる、俺の一人暮らし!
いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど!
※読み直しナッシング書き溜め。
※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
転生先のぽっちゃり王子はただいま謹慎中につき各位ご配慮ねがいます!
梅村香子
BL
バカ王子の名をほしいままにしていたロベルティア王国のぽっちゃり王子テオドール。
あまりのわがままぶりに父王にとうとう激怒され、城の裏手にある館で謹慎していたある日。
突然、全く違う世界の日本人の記憶が自身の中に現れてしまった。
何が何だか分からないけど、どうやらそれは前世の自分の記憶のようで……?
人格も二人分が混ざり合い、不思議な現象に戸惑うも、一つだけ確かなことがある。
僕って最低最悪な王子じゃん!?
このままだと、破滅的未来しか残ってないし!
心を入れ替えてダイエットに勉強にと忙しい王子に、何やらきな臭い陰謀の影が見えはじめ――!?
これはもう、謹慎前にののしりまくって拒絶した専属護衛騎士に守ってもらうしかないじゃない!?
前世の記憶がよみがえった横暴王子の危機一髪な人生やりなおしストーリー!
騎士×王子の王道カップリングでお送りします。
第9回BL小説大賞の奨励賞をいただきました。
本当にありがとうございます!!
※本作に20歳未満の飲酒シーンが含まれます。作中の世界では飲酒可能年齢であるという設定で描写しております。実際の20歳未満による飲酒を推奨・容認する意図は全くありません。
拾った駄犬が最高にスパダリ狼だった件
竜也りく
BL
旧題:拾った駄犬が最高にスパダリだった件
あまりにも心地いい春の日。
ちょっと足をのばして湖まで採取に出かけた薬師のラスクは、そこで深手を負った真っ黒ワンコを見つけてしまう。
治療しようと近づいたらめちゃくちゃ威嚇されたのに、ピンチの時にはしっかり助けてくれた真っ黒ワンコは、なぜか家までついてきて…。
受けの前ではついついワンコになってしまう狼獣人と、お人好しな薬師のお話です。
★不定期:1000字程度の更新。
★他サイトにも掲載しています。
男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~
さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。
そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。
姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。
だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。
その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。
女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。
もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。
周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか?
侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?
愛しい番の囲い方。 半端者の僕は最強の竜に愛されているようです
飛鷹
BL
獣人の国にあって、神から見放された存在とされている『後天性獣人』のティア。
獣人の特徴を全く持たずに生まれた故に獣人とは認められず、獣人と認められないから獣神を奉る神殿には入れない。神殿に入れないから婚姻も結べない『半端者』のティアだが、孤児院で共に過ごした幼馴染のアデルに大切に守られて成長していった。
しかし長く共にあったアデルは、『半端者』のティアではなく、別の人を伴侶に選んでしまう。
傷付きながらも「当然の結果」と全てを受け入れ、アデルと別れて獣人の国から出ていく事にしたティア。
蔑まれ冷遇される環境で生きるしかなかったティアが、番いと出会い獣人の姿を取り戻し幸せになるお話です。
神子だろうが、なにもかも捨てて俺は逃げる。
白光猫(しろみつにゃん)
BL
脱サラしたアラフォー男が異世界へ転生したら、癒しの力で民を救っている美しい神子でした。でも「世界を救う」とか、俺のキャパシティ軽く超えちゃってるので、神様とは縁を切って、野菜農家へ転職しようと思います。美貌の後見人(司教)とか、色男の婚約者(王太子)とか、もう追ってこないでね。さようなら……したはずなのに、男に求愛されまくる話。なんでこうなっちまうんだっ!
主人公(受け)は、身体は両性具有ですが、中身は異性愛者です。
※「ムーンライトノベルズ」サイトにも転載。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる