転生したら嫌われ者No.01のザコキャラだった 〜引き篭もりニートは落ちぶれ王族に転生しました〜

隍沸喰(隍沸かゆ)

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第六章

157話 前兆

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 本物の剣で応戦しようとする兵士達を次々と気絶させていくウォルズ。やっぱりウォルズは凄いや、さっきからウォルズのこと見直しすぎてるかも。普段があれだからな。

「万!」

 ウォルズが投げた、空中を移動してくる木の剣をキャッチする。

「ありがとうウォルズッ!!」
「さあ、来い来い! 俺の敵はどーこだっ!」

 ウォルズは俺に見向きもせずに、見事な動きでどんどん兵士を倒していく。普段の重たそうな装備ではないからか、アクロバティックな動きが繰り広げられる。その瞳は野生的で、獣のようだと例えられたゲームのウォルズの戦い方と酷似している。

「そ、その剣はまさか——っ!!」

 兵士の一人がそういえば、次々と兵士達が動きを止めて俺達の剣を眺める。

「ボルボデズゴルドの双剣か!?」

 ——ボルボデズゴルド、魔獣の名前だ。マデウロボス以下ではあるものの、同等のランクにならなければ倒せない厄介な魔獣である。確か41層の森にも住み着いている。しかし、41層の森は魔獣が住んでいても魔獣狩りは行われない。なぜなら、穏やかな性格をした魔獣が多いからだ。

 ウォルズ、お、お前、まさか、初めての稽古の日、早起きしてたのって、倒しに行ってたからなのか!?

 そうだ、確かボルボデズゴルドの剣は鞘がない代わりに木の棒に変身するんだった。

 俺はそれを今まで、木のおもちゃだと思いながら——っ、最低!! 教えてくれてもいいじゃないか!

 ジノとイルエラも合流し、テイガイアはアイテムポーチの役割を持つ魔法石を使って俺達の武器を取り出した。

 会場中は大パニックである。

 逃げ惑う人々を屋敷の召使い達が誘導し、兵士達が俺達を囲む。

 シストが舞台の上で言った。

「無駄な抵抗は寄せ、ヴァントリア、ウォルズ・サハニア・イノスオーラ」

 俺達5人を囲む兵士の周りを、さらに、やってきた騎士団ビレストが囲む。どうやらエルデがいち早く呼びに行っていたらしい。シストの後ろにいる兵士は一人になっているから間違いない。

 ウォルズがくすりと笑う。

「それはこっちのセリフだよ、シスト。無駄な抵抗はやめなよ」
「何……?」

 ウォルズの堂々とした姿が、美しい眼差しが、俺達を導いてくれる。

「どれだけ数を揃えてこようと、どれだけ邪魔されようと、止められるつもりはない。俺はこの世界にもう一つの目的を見つけたんだ。万を守る、ヴァントリアを今度こそ守るという目的の他に。彼の望む、自分の望む世界に、作り変えるってね」
「フンッ、愚かな望みだッ!! そいつらを捕らえろッ!! 王族二人は王宮に、脱獄囚共は44層の牢獄に戻せ、博士も捕らえろ、ウロボスの長に任せる」
「なっ……」

 ヒオゥネとグルだったのか!? いや、ヒオゥネもさっき言っていたじゃないか。シストには会場を実験場にすると伝えてあるって。くっそぅ、このあほんだら! 舞踏会にはたくさんの人が集まるって知っておきながら、実験場にすることを承諾したって言うのか。ゆるせない!

「やれ」

 シストのその一言で、兵士達との戦闘が再開する。俺達はそれぞれの武器を取り、応戦する。ビレストもいる上、刃物相手なのでジノもイルエラも武器を使っているようだ。彼等の戦闘センスは一級品で、どうやら博士やウォルズの動きだけでなく、周りの兵士やビレストの動きまでコピーしてしまっているらしい。相変わらずオリジナリティ満載だが、とんでもない成長スピードだ。

 ウォルズは変わらず木の剣で——ボルボデズゴルドの剣で応戦している。

「バン様っ!!」

 ギイイインッと金属のぶつかる音が鳴り、テイガイアに庇われたことに気がつく。

「ご、ごめん!」
「ヴァントリア、自分で防御するんだ——っ、相手は倒さなくていいから!」

 それを見ていたウォルズが言う。

 そ、そうだ、足でまといにならないために頑張ったんだから。

「俺もお相手願おう。」

 そんな声が頭上から降ってきて、5人背合わせで戦っていたが、四方に散らばる。さっきまで自分達がいた場所に、ズドオオオンッと黒い刀身の剣を突き刺したエルデが現れる。彼が地面から引き抜けば、地面はひび割れて、瓦礫が宙に浮いて攻撃を仕掛けてくる。

 ずるい!

 剣で何とかガードするが、全て防ぐには無理がある。

「万っ! こっちも使って!」

 ウォルズの持っていたもう一本のボルボデズゴルドの剣を投げられ、咄嗟に受け取る。ウォルズはあの光の剣を腰から引き抜いていく。眩い閃光がが放たれ、光が収まれば兵士がふらついているのが確認できる。

 舞台の上で傍観を決め込んでいたシストが、「その剣はッ!! 聖剣レクサリオンッ!!」と叫ぶ。

 どよめく兵士達、騎士団長エルデもウォルズの剣を凝視している。未だにフラついている兵士達を博士が剣の柄で気絶させていき、俺の傍にやってくる。ジノやイルエラも俺の後ろについた。

 ウォルズだけが一人取り残されている。

 聖剣レクサリオン? どっかで聞いたことあるような。

 ヒオゥネもその剣には興味があるようで、それに反応して話し始める。

「聖剣レクサリオン。イノスオーラ一族によって作られた光の剣。素材は太陽の光と月の光、星々の光。魔獣や炭鉱から取れる素材ではなく、光だけで作られた剣。イノスオーラ一族の宝剣。神話に出てくるような幻の剣です。全ての闇を撃ち払い、光を与えると言われています。まさか、存在するなんて思いませんよね」

 くつくつと肩を揺らし、シストに視線を向けるヒオゥネ。

 そう言えばヒオゥネは、ウォルズに初めて出会った時も、彼の剣に興味津々だったっけ。

「なるほど、イノスオーラ一族か。貴様の話は本当のようだな」
「いまさら気付いたって名乗ってあげなーい」

 ウォルズが言えば、わかりやすくシストの顔に青筋が浮かぶ。本当にお前は人を苛立たせる天才だな。

「と、ら、え、ろッ!!」

 シスト様の鋭い眼力が兵士達をビクつかせる。指をビシィッとウォルズのみに向けるシストの命令で、動きを止めていた兵士達が再び戦闘を開始する。

 ボルボデズゴルドの剣や、聖剣レクサリオンをウォルズが持っていたことに動揺して、偶然にも動きが止まったのだ。もう次はないだろう。

 テイガイアやジノ、イルエラが応戦する中、自分もボルボデズゴルドの双剣を構える。

「あれ……」

 テイガイアがその声に反応して、「どうかしましたかっ!?」と聞いてくる。

「なんか。」

 しっくりくるような。

 自分に向かって二人の兵士が同時に斬りかかってくる、ジノやイルエラ、テイガイア、そしてウォルズ——全員かよ——が自分を呼ぶ声が聞こえたが。

 ——相手の動きは良く見えるし。

 あれ、おかしいな。

 ウォルズに教えてもらった型通りに動けないのに、以前より滑らかに剣筋が通っていく。それぞれの武器を持つ手を剣の腹で軽く払って、柄で腹を打ち気絶させる。

「——…………」

 うまくいった。何で?

 驚いた表情をするテイガイアと目が合う。

 しかし、そのつかの間、黒い刀身が自分の頭の横を通っていき、ピタリと止まる。ゾッと背筋が凍り付いて、恐る恐る振り返る。

「腕を上げたみたいですね、ヴァントリア様。お手合わせ願います」
「エ、エルデさんは、まだ、登場には早いんじゃ。き、騎士団長様とお手合わせなんてそんなあはははははは」
「そんな、謙遜なさらないでください。とても美しい剣舞でしたよ」

 ひえええええええ、偶然なんだってばあああああああッ!?
 エルデの大剣が自分を目掛けて休みなく振り回される、ヴァントリアが回避得意じゃなかったら今頃真っ二つなんですけど!? 何をそんなに興奮していらっしゃるんですかエルデさん!?

「さっきの動きはどうしたのですが、もう一度お見せくださいっ!!」
「何を言ってるかさっぱりなんですけど!? ただの偶然なんですけど!?」

 ひいひい言って逃げ回っていれば、エルデ騎士団長様の大剣の風圧で周りの兵士も吹っ飛ばされる、また、彼の身長の二倍はある刀身の餌食にならないように皆彼から距離を取っている。

 お願い俺を追っかけてこないで! 本当に怖いから!
 舞台の上に逃げ出せば、エルデは登って追いかけてくる。そこは諦めてよ!? よし、ここはシストを盾にして。

 俺の意思を汲んだのか、シストがさっと避ける。意思を汲んだなら盾になってくださいお兄様!

「おわっ」
「おっと」

 そんなヒオゥネの声が聞こえて、え、と顔を上げると。

 いつの間にか席を立ってシストの背後に来ていたらしいヒオゥネに抱きとめられる。

「ヒ、ヒオゥネ、危ないっ!」


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