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第六章
150話 独占欲
しおりを挟む舞台へ連れて来られる。シャンデリアから降り注ぐ光により、全面金ピカの床が照り輝き、思わず目を細めた。そんな舞台の上から、改めて大勢の人を見下げて圧倒される。
強引に俺を引っ張いていた手がパッと離されて、ガッと肩に腕を回された。
先刻退場した筈の無礼者が王に肩を抱かれて戻ってくれば、そりゃみんな困惑するだろう、ザワザワと波が立つように人々の声が会場に木霊する。しかしそのざわめきはやがて、しんと静まり返り、王様の発言を待つ姿勢へと変わった。
「――紹介しよう。私の弟。第五王子のヴァントリア・オルテイルだ」
――何っ!?
どよめきが起こった。
「お、おいっ!? どういうつもりだ!?」
「その髪を晒した時点で貴様であることは明白だ」
うぐ。
何も言えなくなり、相手を睨むだけになったが、最低限の反抗がお気に召したのか、シストは口角を上げて言った。
「貴様は脱獄囚だ。しかし聞いたところ魔法も使える例外らしいな。なら、いっそ外界と隔離された王宮とやらに閉じ込められていろ」
シストは俺から視線を逸らしスウッと息を吸い込んだ。
「今この時より、第五王子ヴァントリア・オルテイルから剥奪した王族の権利を元に戻すッ!! 第五王子の地位に戻り、王宮で暮らすことを義務付ける!!」
——と、宣言され、呆気にとられたのも束の間、すぐにシストに飛び付いて襟首に掴み掛かる。
「――ふざけるなッ!!」
――王宮に戻ったら、みんなと会うのが難しくなってしまう!
会場のざわめきはいっそう大きくなる。しかし、シストに両腕を掴まれてしまい——その緊迫感を肌で感じたのだろう——それを見て、とたんに辺りが静まり返った。
シストから放たれるビリビリとした空気が会場中を包んでいくのが分かる。
「ヴァントリア……私の名を呼べ」
シストの唇から冷たい声が放たれた。
……なんだ? 急に。
悪い予感を感じながらも、シストの威圧的な瞳に気圧されて、無意識のうちに口が開かれる。
「……シスト?」
――瞬間、シストの手が伸びてきてガッと顎を掴まれた――、「うっ」――首がもがれるんじゃないかと言う強い力で天井を向かされ、首元にシストの顔が近付いて行くのを視界の端で確かめる。
その直後――喉仏にしっとりとした感触が沈み込んだ。
それが何であるかは経験上検討がつく。
ゾッと背筋を悪寒が駆け抜けていき、身体は氷のように凍り付いた。
声も出せずポカンと口を開け放っていれば、――ガリッと血が滲むほどに歯を立てられ、そこから少量の血液が鎖骨まで滴った。
シストはそれを舐め上げた跡、喉仏を縦に動かしてごくんと嚥下する。
そうしてやっと、俺を離して、シストはいたずらが成功した子供のように満足げに口角を上げた。
「な、何するんだ……!」
シストの胸を突き放して後退し、気味の悪い感触をゴシゴシと拭えば、遠くの方から奇声が上がった。
そちらへ振り向けば、発狂して倒れるものが一人。…………あれはウォルズだな。
シストは舞台の中央にいつの間にやら――おそらく俺達が退場した後だろう――用意されていたソファへ向かい、長い足を見せ付けるように組んでドカドカと座った。
「言っただろう、貴様を監視する為に王宮へ一時的に戻す。主従関係を結んでやる」
言われて気が付いた、地面には俺達を取り囲むように円状の大きな魔法陣が広がっている。
14歳のヴァントリアの時とは違い、ゲームの映像と酷似した輝きが放たれる。光は俺の首に巻き付いて鎖の形を型どりシストへと伸びる。シストがそれを捕まえれば美しく霧散し、消えていった。
契約が成立した時に現れるモーションだ。
目的は分かった。王宮で俺の行動を制限する為の契約だろう。でも。
「――だからって、大勢の前で何してくれてんだ!」
現王が弟の首にキスするなんて、常識の範疇を超えている。ウォルズに聞いた話では手を繋ぐだけだって結べるんだ。ここにいる人達に一体どんな噂を流されるか……。
「貴様が私の手中にあることを見せ付けておかないと皆が安心しないだろう」
「……っ」
つまり、見せしめってことか。俺はお前以下であると言うことを、みんなと、俺自身に知らしめるための。
腹の中に沸き立つ負の感情を相手に注ぐかの如く睨み付ければ、シストはソファから立ち上がって懐から何かを取り出しながら近付いてくる。
キラリと怪しい赤い光を放つそれを見て、ビクリと身体が震えた。
「返そう、ヴァントリア。貴様の欲しがっていた王族の証だ」
シストが俺の背後に周り、顔の横に白い手袋が伸びる。銀の鎖が輝き、胸に赤い光が落ちてくる。しかし。
「……王宮へ戻るぞ。ヴァントリア・オルテイル」
「―――っ」
首筋に奴の指先が触れる――俺はシストの胸を肘で押し退けて彼の傍から離れた。
「いらないっ、王宮には戻らない……!!」
その言葉によって会場が驚愕の声で振動した。
ざわめく人々を他所に、俺の前でシストは目を見開いて固まっている。それから直ぐにキッと目を吊り上げて言った。
「お前は王族に戻った、これからは王宮で暮らすことが決められている」
「俺は王宮に閉じこもる気なんかない!」
「フン。莫迦みたいに求めていた王族の証をまた捨てようというのか」
「そうだ!」
シストは訝しげに目を細め、「何を企んでいる」と俺の顎を掴み顔を近づけてくる。刃物のように鋭く尖った眼光が胸を刺してきて怖い。シストから僅かに目を逸らして答えた。
「企んでなんか……俺は、みんなといたいだけ」
奴隷達を逃がそうとしてるんだから、シストの言う通り、自分は企んでいるのだ。否定しずらくなって、途中で言うのをやめてから、心の底から願っていることを伝えることにした。
「……みんな、だと。お前なんかと誰かが共に行動していると言いたいのか? ……まさか、あの男か」
「あの男?」
さらに顔を近付けられて思わず身体をのけぞった。
「そう言えば随分と仲が良さそうだったな。まさか貴様にそんな趣味があったとは……いや、昔から貴様はよく——………………いや。どうでもいいことだ。余計な話をしてしまったな」
仲が良い? イルエラじゃないよな、それとも博士か? 一体誰のことを言ってるんだ。
変なところで話を止めてじっとこちらを見つめられ、俺もシストを眺めながら考え込んでいると、その時間が気に障ったのか。シストは俺の腕を取って強引に舞台から退場しようとする。
「やはり貴様は王宮へ閉じ込めておいた方がいいようだ」
「——な、ちょ、舞踏会はどうするんだ! お前が途中で帰ったら駄目だろ!」
「途中で帰ることは許されている」
「お前が忙しいのは分かる、でもいくら何でも早過ぎだ。俺が言ったことを忘れたのか、俺は各層の状態を把握しろって言ったんだ」
シストは足を止めて振り返る、じっと白い瞳に見つめられて緊張が走る。
「ちゃんと行事にも参加しろ。ただの業務としてこなすだけじゃなくて、状態が知れるいい機会なんだから。王宮に戻って執務をすることなんていつでもできる仕事じゃないか。こんなイベントがなきゃ41層に来る機会なんてないんだろ。ならそのチャンスを逃すなよ」
返事がなく、じっと自分を見つめるだけのシストの目に訴えかける。しかし、穴が開きそうなくらいシストが見つめ返してくるから、いたたまれなくなってそっと逸らす。
「フン。貴様の言葉など聞きたくないが、確かに現状を把握するにはいい機会だ」
――目を逸らした矢先だったので表情は伺えなかったが、シストは俺から離れて再びソファへと向かっていく。エルデが直ぐに反応して、「シスト様! しかし仕事の方は……!」と慌てた様子でシストへ近付く。それを1人の兵士が止めてシストの言葉を待つように促す。
「残りはほぼウロボス帝の仕事だ。私の仕事は終わってる。奴にやらせろ。報酬にヴァントリアに会わせてやると言えば何が何でもするだろうさ」
ウロボス帝と言うワードにドキンと胸が鳴る。
ど、どうしてヒオゥネが俺に会いたがるんだ?
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