147 / 293
第六章
144話 仮面舞踏会
しおりを挟むうさぎの雪崩で地面に倒れてうさちゃんに埋もれてしまった。目の前が真っ暗だ。虫をしゃぶるウサギさんの鳴き声だけが聞こえてきて悪寒が走る。
「虫を食ったら凶暴化して人間も襲うんだよ」
なんてジノとイルエラに説明するウォルズの言葉を聞いて、いてもたってもいられなくなる。
――この爽やか鬼畜野郎ッ!!
そ、そうだ何も殺さなくたって! 今持っているのは木の剣だし、気絶させればなんとかなるかも!
うさぎを引っぺがして、気合いを入れる。
「とりゃ!」
振ってみたものの、丁度ウサギが頭に乗っかって尻で目を塞がれてしまう。スカッと剣が空を切る音がした。
「てりゃ!」
沢山いるはずのウサギにかすりもしない。当たり前だが手応えはまったくなかった。
――全然当たんない!
「ヴァントリア! ほら、教えたこと思い出して!」
ウォルズの声援を聞いてから少し冷静になり、ウサギさんを剥がしていざもう一度。飛び掛かってくるウサギさんだけに集中してへ剣を構える。
――見える、見えるぞ! うさちゃんが飛び掛ってくる姿が!
「おりゃ!」
剣はスカッとうさちゃんの下を潜った。視界から姿を消され、頭を踏みつけられる。
「んりゃ!」
遠くからジノの溜息が聞こえる。
イルエラは逃げたウサギもどきを捕まえては結び直し、ウォルズは声援を送り、テイガイアはだんまりだ。
ウォルズの動きを真似しているつもりだけれど、当てようとすればするほど当たらない。どうやら当てようとすると型が崩れて上手くいかないらしい。それに意思の弱さが問題だ。
殴るの可哀想。
――そんなこんなで結局3匹ほど掠るくらいの結果しか得られず。
「実践は無理かもね」
なんてからからとウォルズに笑われてしまった。そんなはっきり言わなくても。
うさぎは後回しになり、同じ構えで、落ちてきた葉っぱに刃先を当てる練習をしたり、体力も付けようとのことでジョギングしたり。
ウォルズとテイガイアの機転を聞かせた指導によって数日打ち込んだ結果。Lv.10からLv.30まであがった。すごい効果である。レベルが20も上がるなんて、なかなか難しいことだぞ。――まあこれはウォルズの分析だから当てにならないけど。
ウサギさんは可哀想で切れなかったけれど。昆虫なら上手くいった。鳴かないからな。後血も出ないし。目も怖くないし。緑色の液体は出て来たけど。
ウサギさんより一回り大きな虫なら倒せるレベルになった。
「相手は倒せなくても、防御はするんだよ」
と、口癖のようにウォルズが言うのでそうすることにする。せめて防御くらいできないと力を付ける以前に足でまといになってしまう。まだ足でまといなことには変わりないけれど。
.。.:✽・゜+.。.:✽・゜+.。.:✽・゜+.。.:✽・゜+.。.:✽・゜+
舞踏会当日――仕立て屋が大型馬車に乗ってやって来て街中で商売を始めていた。
魔法を使ってすぐに服を完成させてしまう、魔法の仕立て屋である。これはストーリーでも流れており、貴族のお嬢様方が食い入るように聞いていたのを覚えている。また、服が作られていく過程も流れて面白い。ゲームではここで装備も作ってもらえるし、このイベントでしか手に入らない期間限定の装備も出るので、前世でも盛り上がっていた。
ウォルズがちゃっかり得意の絵でデザインを考えて店主に注文を出していたらしく、俺達は衣装を受け取ることとなった。
……また変なのじゃないだろうな?
そんな心配はいらなかったようで、衣装は案外普通のデザインだった。
ウォルズ曰く「こういうのは変にいじらない方がいい。王道が一番いいんだ」らしい。
それぞれ用意されたタキシードをウォルズから受け取る。
「こんな服は久しぶりだな」
テイガイアが静かに呟いたので、彼を見てみると。タキシードはピシッと着こなしていたが――いつの間に着替えた――髪ももっさりだし髭も整えられていない。
それを見たウォルズが真顔でスチャッと、くしとハサミとカミソリを構えたのを見て、さっと血の気が引く。
ほ、本気だ……。
テイガイアはウォルズに任せて。俺とジノとイルエラは衣装に着替える為、試着用の大型馬車の中へ入った。
イルエラもジノも俺も着方が分からなかったが。丁度様子を見に来た仕立て屋が着せてくれた。衣装だけでなく仮面も渡される。
そう言えば仮面舞踏会だったな。
みんな顔が割れているし、兵士だって舞踏会に来るだろう。仮面があって良かった。
イルエラにはシルクハットが用意されていた。仮面とくっ付いているようなので、「室内だから帽子を取れ」とかなんとか言われることは無さそうだ。
どんな身分であろうと仮面を外すことはタブーとされている、イルエラの頭のクリスタルは目立つからな、ウォルズはそれを考慮したようだ。
仮面を付けて馬車を出れば、ウォルズも他の馬車で着替えを済ませていたようで。
煌びやかな衣装に身を包むみんなは、いつもと一味違うが、一番はやはりテイガイアだった。
仮面越しではあるが、美しい顔立ちと特徴的な瞳の色が露わになり、さらには髭も髪もセットされてまるで別人だった。
周りの女性もちらちらとテイガイアを気にしている。更にウォルズもイルエラもジノもみんな美形なので注目の的だ。
「むむむ……」
ヴァントリアも容姿はいいものの悪い噂が絶えないし。ほとんどの王族は王宮で過ごす為、住民に顔が知られていることはめったにない。だがヴァントリアの場合、女漁りに町に出向き、やりたい放題やっていた為、顔を覚えられているかもしれない。
俺の居場所が嗅ぎ付けられるのも住民が兵士に情報を与えているからじゃないだろうか。
いや、待てよ。14歳の俺は人目につかないよう心掛けていたな。ゲームでも誰かを襲う時は路地裏や室内がほとんどだった。
ザコだから民衆を敵に回すと厄介だっただろうし、ヴァントリアの場合民衆を敵に回すとオルテイル一族の名が汚れるとシスト様に嫌われると考えてやめていたかもしれない。
それに昨日も普通に街を歩いたけれど特に反応はなかった。
しかしウォルズに万が一とウィッグを被らされる。目立たないこげ茶髪のウィッグだった。ウォルズは「髪さえ隠せれば目はなんとかなるよ」と自分も薄い茶髪を被った。彼の衣装はみんなと一緒で白いタキシードだ。
「あーあ。ウォルズの綺麗な髪と原作通りのタキシード姿が見られないのは残念だな」
ゲームでは青色のタキシードなんだよな。
肩を窄めてしょんぼりしていたらウォルズはひょーと息を吸い込んでフーっと息を吐いた。口元には何かを抑えるように手が添えられている。
「ああガッカリするヴァントリア可愛い……ウォルズのこと好きすぎかよ。これはデキてるわ」
控えなさい。
打ち震えて萌えているウォルズを引きずって、舞踏会の会場へと向かう。
煌びやかな会場の階段を上っていって、俺達は会場の門をくぐった。
10
お気に入りに追加
1,929
あなたにおすすめの小説
《第一幕》テンプレ転移した世界で全裸から目指す騎士ライフ
ぽむぽむ
BL
交通事故死により中世ヨーロッパベースの世界に転移してしまった主人公。
セオリー通りの神のスキル授与がない? 性別が現世では女性だったのに男性に?
しかも転移先の時代は空前の騎士ブーム。
ジャンと名を貰い転移先の体の持ち前の運動神経を役立て、晴れて騎士になれたけど、旅先で知り合った男、リシャールとの出会いが人生を思わぬ方向へと動かしてゆく。
最終的に成り行きで目指すは騎士達の目標、聖地!!
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
【完結】だから俺は主人公じゃない!
美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。
しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!?
でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。
そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。
主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱!
だから、…俺は主人公じゃないんだってば!
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
【完結】魔力至上主義の異世界に転生した魔力なしの俺は、依存系最強魔法使いに溺愛される
秘喰鳥(性癖:両片思い&すれ違いBL)
BL
【概要】
哀れな魔力なし転生少年が可愛くて手中に収めたい、魔法階級社会の頂点に君臨する霊体最強魔法使い(ズレてるが良識持ち) VS 加虐本能を持つ魔法使いに飼われるのが怖いので、さっさと自立したい人間不信魔力なし転生少年
\ファイ!/
■作品傾向:両片思い&ハピエン確約のすれ違い(たまにイチャイチャ)
■性癖:異世界ファンタジー×身分差×魔法契約
力の差に怯えながらも、不器用ながらも優しい攻めに受けが絆されていく異世界BLです。
【詳しいあらすじ】
魔法至上主義の世界で、魔法が使えない転生少年オルディールに価値はない。
優秀な魔法使いである弟に売られかけたオルディールは逃げ出すも、そこは魔法の為に人の姿を捨てた者が徘徊する王国だった。
オルディールは偶然出会った最強魔法使いスヴィーレネスに救われるが、今度は彼に攫われた上に監禁されてしまう。
しかし彼は諦めておらず、スヴィーレネスの元で魔法を覚えて逃走することを決意していた。
光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
聖女召喚!……って俺、男〜しかも兵士なんだけど?
バナナ男さん
BL
主人公の現在暮らす世界は化け物に蹂躙された地獄の様な世界であった。
嘘か誠かむかしむかしのお話、世界中を黒い雲が覆い赤い雨が降って生物を化け物に変えたのだとか。
そんな世界で兵士として暮らす大樹は突然見知らぬ場所に召喚され「 世界を救って下さい、聖女様 」と言われるが、俺男〜しかも兵士なんだけど??
異世界の王子様( 最初結構なクズ、後に溺愛、執着 )✕ 強化された平凡兵士( ノンケ、チート )
途中少々無理やり的な表現ありなので注意して下さいませm(。≧Д≦。)m
名前はどうか気にしないで下さい・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる